第20話 ハイジーの作者「ヨハンナ・シュプリ」
アルプ小屋からは殆どの旅行者は同じルートを引き返す。しかし、”殆どの旅行者” に該当しない私は同じルートを引き返しません。マイエンフェルトの隣町イェニンス(Jenins) に下るルートを選びます。
このイェニンスは「地球の歩き方」によれば、作者ヨハンナ・シュピリが滞在した村で、ここで「アルプスの少女ハイジ」の物語を思いついたそうである。実際にこの村で執筆したのか、思いついたが執筆は別の町なのかは明らかではないようだ。
私はてっきり、舞台の中心になったマイエンフェルト滞在中に執筆したものだと思っていたが、そうではなかった。
アルプ小屋をもう少しだけ登って右に続くルートを下って行く。誰にも遇わない。まさに幽谷という言葉がピッタリの谷をゆっくり下る。細い一本道で迷うことはない。一時間ぐらい下った辺りで小さな村に辿り着いた。そこでタイミング良く地元の方と思われるご老人に遇った。
"Wo ist ...?"
そう言って、人差し指で地面を指した。即座に、返事が返った。
"Jenins."
良かった。間違いないとは思っていても誰にも遇わない、道標のない一本道だと多少の不安はあるものだ。安心した。ここは Jenins だった。
以前にアメリカを旅した時以後、
「ここはどこですか?」
と英語で訊ねる場合、つい
"Where is here?"
と訊きたくなるが、文法的に大間違いである事は認識している。
"Where am I?" もしくは、
"Where are We?"
と訊かねばならない。
田舎の村人相手に英語は通じにくいと踏んで、
"Where am I?
をドイツ語に直訳して、
”Wo bin Ich?"
が正しい訊き方であろうと思ったが、不慣れなドイツ語で何かピーンと来ない。
つい、
"Wo ist hier?"
と言いそうになるが、予定通り
"hier" をジェスチャーに替えて、事なきを得た。
ここからは平坦で静かな散歩道がマイエンフェルトまで2kmほど続く。夕暮れの散歩には最高である。ここでハイジの物語の構想を練ったようである。
ホテルに戻ってからライン川を渡った辺りまで散歩してみた。道路沿いには樹木が多く、自然環境は素晴らしい。ジョギングコースはふんだんにある。バイクの練習をしている人は大勢見かけるが、ジョガーは少ない。
ホテルに併設のレストランでの夕食時、日本人女性を見かけたので同席させてもらった。今夕到着したばかり、日本を発ってまだ16時間だそうだ。高校3年生、18歳。高校の夏休みに海外旅行とは、何とも羨ましい。
私は、スイスと言えば何を置いても「アルプス」だが、彼女は「ハイジー」だそうだ。女子高生は「ハイジー」のようだ。私の部屋が見たいというので見せたが、小ぢんまりしてて良いそうだ。たぶん本音ではないであろう。それにしても、女子高生より小さな部屋とは。
翌日は久しぶりに素晴らしい天気に恵まれた。正に一点の曇りもない。ゆっくり走る予定だったが勿体ないので、昨日と同じコースをハイキングする事にした。「ハイジーの家」まで女子高生と一緒に。英和辞典持参で、途中のポイントでの説明版は全て目を通した。女子高生とはそこで別れて、同じ道を引き返した。レースが近づいてきているので、あまりのんびりしてはいられない。
昼食後、昨日見つけておいた川沿いを走ってみた。どちら側も砂利道なので、少々足裏が痛い。無理をせず、10kmにとどめた。
女子高生は、「アルプ小屋」まで行ったのかと思っていたら、「ハイジーの家」で知り合った白人男性に車で送ってもらい引き返したそうだ。何と勿体ない事をする。「アルプ小屋」まで登らないと。
もう一泊する予定だったが、明日は現地に行く事にしよう。待ってろよ、ダヴォス!




