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第13話 国際列車内(ヴェネツィア→インスブルック)

 順調にヴェネツィアまでやって来たが後が大変。当てにしていたホテルはどこも満室。ユースホステルも満室だったので、駅に戻り観光案内所で安いホテルを紹介して貰ったが、11万リラ(約1万500円)もする。2泊の予定を1泊だけにして1日早くアルプス入りする事にした。

 ヴァボレット(水上バス)は結構時間がかかった。駅名は全てイタリア語なので分かりにくく、乗り間違えたり降り間違えたり大変だった。水は濁ってはいたが、アムステルダムよりはましな気がする。


 ホテルに到着して、またビックリ。高い分、きれいなホテルだと思っていたらとんでもなかった。素泊りで1万円以上もしてこの部屋か! 4千円ぐらいが妥当と思われる。建物の割には部屋はまだマシだが、バス・トイレは共同である。窓を開けると隣の建物の壁が迫っている。視界はゼロに等しい。安い民宿みたいだ。ヴェネツィアはイタリア一物価が高いと聞いていたが、本当のようだ。


 ホテル近くのサン・マルコ広場はなかなかに美しい空間と言える。どっしりとした建物群に囲まれ、大勢の観光客で溢れていた。夜にはディナーショウのような事を3カ所でやっていた。路上ギター弾きが良い音色を奏でている。ギターケースには十分な量のコインが入れられていた。


 翌朝、ヴェネツィアに別れを告げて、いよいよ自分のヨーロッパ一好きな地アルプスへ出発する。今日は7月7日、日本では七夕だ。段々と、夢の本場アルプスでの山岳マラソンに向けて気持ちが高揚してくる。


 イタリア最後の地・ヴェネツィア駅~オーストリア最初の地・インスブルック駅の列車内で、又しても大トラブルに見舞われた。途中一度乗り換えてインスブルックに向かう途中で、乗務員が乗車券チェックにやって来た。

 ティケットを見せると、暫くティケットを凝視した後、恐ろしい顔で食ってかかってきた。イタリア語なので何を言ってるのかさっぱり理解できない。暫く擦った揉んだしているうちに段々と分かってきた。

 どうやらこれは予約席(指定席券)のみであり、乗車券ではないと言っているようだ。よく見ると確かに料金らしい数値は5800と少額である。では昨夜、VISAで購入したティケットは……?


 VISAで乗車券+指定席券2枚を11万リラで買ったと思っていたのは2列車分の指定席券11600リラだけのようだ。考えてみれば、今朝か昨夜かVISAのレシートを見た時、桁数が一つ少なかったように思う。イタリア語でよく分からなかったので手抜きをして、十分確認をしなかったのが良くなかったようだ。レシートも保存しておくべきだった。ソレント・青の洞窟での教訓が全然生かされていない。脳内で自分の頭を少し強めに叩いておいた。まだすっきりとはしてないが、どうやら謎は解けたようだ。


 車内精算をすれば解決と思ったが、イタリア・リラは既に1500リラしか残ってないのでVISAではどうかと訊いてみたが、ダメだと言う。ドキュメントが見たいと言うのでパスポートを見せると、暫く凝視した後日本人かと訊いてきた。そうだと答えたら、何と急に笑顔になって黙って去って行った。

 えっ、どういう事???


 4人掛けの前席に60歳ぐらいの白髪の大柄な貫禄のある白人紳士が座っていた。以前、17年ほど前の「アメリカ一人旅」で、深夜の長距離バスで私に傍若無人に話しかけてくる若い日本人を、眼だけで威嚇していた白人紳士を思いだす。白髪紳士に見せて、これはティケットか? と訊いてみたら、暫く真剣に見ていたがやがて首を捻りながら無言で返してきた。彼も又、イタリア語は分からないとみえる。分からなくても、ティケットぐらいはまともに買えるんだろう、私と違って。


 乗務員は準備をして又やってくるだろうと思っていたら、今度は別の若い兄ちゃんがやって来た。先ほどの事情を話すと、"Innsbruck?” と訊いてきたので、"Yes." と答えると彼もまた、黙って静かに去って行った。その後、誰も来なかった。

 列車を降りた後、駅員を探してみた。誰もいない。そして、改札出口はドイツのフランクフルト中央駅同様、フリーパスだった。

 このまま下車すれば、不正乗車になってしまう。それはまずい。日本人の恥だ。日本人の人格を示す為にもきっちり払いたい。そう思った。しかし、一つの懸念が沸いてきた。車内精算もせず下車駅で精算するとなると、どうなんだろう? 日本のように、スムーズに事が運ぶのか? もしや、罰金精算のようにならないか? それに、乗車駅と降車駅で国が違う。ややこしい事にならないか?


 歩く速度を少し緩めながら考えた。きちんと精算するのが望ましい。だが、必要以上に払うぐらいなら、過少払いの方が良い。


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