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3話 これどこで買ったの?

たった1時間強で故郷に帰ってきたのか?と思えてしまうほど、僕がかつて上京した時にイメージしていた大都会東京とはかけ離れた風景が広がりはじめた。


車の窓から見える民家の低い灯の間隔は徐々に長くなり、工事が中断され重機が放置されている空き地、東京では風景の一部として溶け込んでいたコンビニもここでは違和感を放つ灯となっている。

車は大通りから木々が生い茂る脇道へと入り、狭い坂道を登って行く。道路にしっかりと舗装が施されていないのだろうか、車はガタガタと揺れる。

坂を登ると車は停車し、ギアを切り替え、フットペダルを踏み込む音がした。外を覗くと、一軒の民家のシルエットがぼんやりと見えた。


「…ここ?」

「そうだよ!徹平、お疲れ様!そーたくんの荷物はもう運んでおいたからね!一応確認して。」

璃音くんは車から飛び降り、駆け足で家の中へと入って行く。家の窓から明かりが漏れ、璃音くんを追いかけるようにゆっくりと家の中に入る。


内装は少し古いものの、作りはしっかりしているように見える。というか、まず驚くほどに広い。ここまで広い8LDKにたった4人で暮らすのはこの上ない程に贅沢だ。

「こっちー!」

という声の響く方へと僕は進み、リビングを横目に階段を登る。手前から2番目、右側にある扉の前で璃音くんが待っていた。

「ここがそーたくんの部屋だよ。」

早く早くと嬉しそうに扉に指を差す璃音くん。誕生日プレゼントを貰う側よりもあげた側の方がウキウキしてしまう現象と同じように、彼もまた僕よりも待ち遠しそうにウキウキしながら僕を急かす。

部屋の中に入ると綺麗に積み重ねられた段ボールの山があり、安物のローテーブルや机などの家具にも緩衝材が使用されており、3人が丁寧に運んでくれたことがわかる。少し意外だったが、そういった心遣いは素直に嬉しく思えた。


「ここまでやってくれたんだ。運ぶの大変だったでしょ?ありがとね。」

「いいってことよ!」

エッヘンと自慢げな顔を見せてくれる璃音くん。

彼も本当に表情が豊かだ。


「それに、そーたくんの部屋、きちんと整理整頓されてたから運ぶの楽だったんだよ。ほんとそーたくんってマメなんだね。」


「…なんか、地味に嬉しいね、そう言われるの。」

「あ、僕は隣の部屋だから!重いものを配置する時は気にせず声かけてね。ちゃんと手伝うからさっ。」

「ありがとう、あ、じゃあ早速だけどベッドだけ動かしたいから、今手伝ってくれる?」

「えぇ…。」

早速の依頼にあからさまに嫌な表情を見せ期待通りの手のひら返しを披露してくれる。本当に口だけの男だ。中身はスッカスカだ。逆から読んだらカスだ。

ベッドを窓際に配置し、僕は気になっていた事を聞いてみる。

「あのさ、家賃ってどうすればいいの?これって一応、シェアハウス?って事になるじゃない?」

「あー、これは勝手に僕達が買ったものだからなぁ。家賃取るつもりなんてないよ?多分徹平も同じ考えだと思う。」

璃音くんは僕のベッドに勢いよく腰をかける。初めての修学旅行かのようなはしゃぎっぷりだ。ま、そんな事を言っている僕も心の中では彼と同じ気持ちなのだが。

「いや、でもさ、流石に2人が買った家に住むってなると流石に…申し訳ないというか…」

「うーん、そうだなぁ。じゃあ3万くらいは払ってもらおうかな?」

「えぇ…。」


僕はあからさまに嫌な顔をしてやった。

仕返しだ。


「「フフっ」」


僕達はお互いの顔を見合いながら我慢出来ず笑ってしまった。ヤバい、なんだかどんどん楽しくなってきた。ずっと一人ぼっちで暮らしてたんだ。楽しくもなる。

「とにかく!家賃はいらないよ!」

璃音くんはキッパリそう言い切ったがやはりどこか後ろめたさを感じる。多少なりともこうゆうものはしっかりと払いたいのが僕の性格だ。

そんな事を考えている僕を尻目に璃音くんは僕のベッドに仰向けになり足をバタつかせながら顔を布団に埋める。

「うー、そうたくんの家にあったシャンプーの匂いだぁ。この匂い好きだなー。」

なんだその可愛い仕草は。君が女だったらなぁ…僕は一瞬で恋に落ちていたんだが。


「そうだ、ここって女子禁制なの?」

「認めません!」

とにかく女性が苦手な童貞くんは枕に埋めていた顔を勢いよく上げ、僕の方を向くと鋭い目つきで睨んできた。

「それは誰が決めたルール?」

「今僕が決めました!絶対ダメ!」

今度は腕を交差させ、声を張り上げた。

「僕は連れ込めないけど、そのうちアンソニーが連れてきたりするんじゃない?ほら!彼、凄い女好きじゃん?」

「認めません!」

璃音くんは僕に枕を投げつけてきた。どうやらここだけは絶対に譲れないらしい。とは言え彼は紛いなりにもここの家主にあたる。僕とアンソニーには彼の言うことを聞く義務がある。

「そーたくん、アンソニーの部屋に行こう!」

突然璃音くんはタタタッと小走りで部屋から出ていった。階段を降りる音がしたのでアンソニーの部屋は多分一階にあるのだろう。僕は電気を消し、彼の後を追い軋む階段をゆっくりと降りていった。



階段を降りると微かに声が聞こえ、僕はその方向へと向かう。一番奥の部屋の前に着くと璃音くんとアンソニーの声がした。


「ダメー!!!!」

「Why!?!?」

どうやら早速揉め事らしい。


僕が慌てて中に入ると二人は掴み合いの喧嘩をしていた。というか、一応、璃音くんもアンソニーの胸ぐらを掴んではいるが、どちらかと言うと璃音くんが胸ぐらを掴まれ空中に浮いてる状態という方が正しいだろう。

「ちょっと二人共、落ち着いて。」

僕は仲裁に入り二人を宥めた。アンソニーは僕の顔を見るとすぐに手を離し璃音くんを降ろした。


アンソニーって意外と聞き分けいいな。

それに対してこのチビは、まだアンソニーの胸ぐらを離さない。身長差が凄いのでアンソニーの胸ぐらの位置が高く、もうなんていうか、つり革掴んでるみたい。


「ちょっと見てよコレ!」

僕は璃音くんが指をさした方を見る。



…こりゃたまげた。



この部屋は和室で約6.5畳ほどあるのだが、真ん中にどデカイキングサイズのハート型ベッドが置かれており、これまた大きいピンク色のハート形サイズの枕がアクセントになっていた。


実際に入ったことはないが…

これはきっと…


「嘘…これラブホのベッドじゃん。てか、こんなの売ってるもんなの?」

「…でしょ!?アンソニー、女連れ込むつもりでいたんだよ?!」

「ソータ、ナンデ、コノ家ニ女ノ子入レチャダメデス!?私、コノベッド買イマシタ!凄イ、凄イ高カッタデス!!!ココデ愛理ニャント、ニャンニャンニャンシタイデス!!」

興奮し足で床をドンドン叩くアンソニー。

「ダメー!!そーたくん、ダメだよね?!」

「いや、僕に聞かれても。そんなことよりさ、アンソニー、これどこで買ったの?」

「ソータ!!愛理ニャン嫌イデス?!」

「そういう訳じゃないけど…。二人共とにかく落ち着いてよ。ほら、璃音くんもアンソニーの胸ぐら離しなさい。アンソニーはもう離したでしょ?かっこ悪いよ?」


璃音くんは不貞腐れながら掴んでいたアンソニーの襟元を放した。


「こうゆう事は徹平も交えてちゃんと話さな…」

そう僕が言いかけたところで、璃音くんがアンソニーの左脚にローキックをかます。外道の極み、不意打ちである。それだけでも男として最低で惨めで哀れな行為なのにも関わらず、キックしたと同時に部屋から飛び出して逃げ出していった。

「ウォー!!!!!」

悲鳴をあげ、左脚を抑えながら悶えるアンソニー。


「大丈夫!?アンソニー!あと!このベッドどこで買ったのかな!?」

「コロス、コロス、コロス、コロスデス!!」

アンソニーは鬼の形相で僕をラブホベッドに突き飛ばし、部屋の外へと駆け出していった。


しかし、悉く無視のされてしまったな。

…本当にどこで買ったんだこのベッド。




次回予告

4話 おう、バンドだ

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