1話 それがあの怪我の原因ってわけだねっ!
パーンパーンパーン!!!!
部屋に入ると同時にクラッカーの音が鳴り、僕の身体に紙テープが掛かった。思いもしなかった展開に驚く僕。
なぜクラッカーを鳴らされた?
今日何の日だ?僕の誕生日は2月だぞ?
3人は混乱している僕を囲いニコニコしながら拍手している。
「退職、おめでとう!!!!」
「おめでとう!」
「Congratulation!」
え?なに?
バレるの早過ぎじゃね?
駅のトイレで表情からリストラ感を徹底的に削ぎ落とし、違和感ない時刻に帰宅したのにも関わらず、なぜこいつらは極秘機密に気づけたんだ?
「なんで知ってるの?」
「アキバに行った日さ、俺、途中で抜けたじゃん?実はあの時、お前の職場に行ってたんだよ。」
そう言うと徹平は腕を振り、足踏みを始めた。
「テクテクテク。」
「は?」
「テクテク。」
おい…その効果音、まさかお前…。
「もしかして、身振り手振りで回想するの?」
徹平は何も口には出さず、大きくゆっくりと首を縦に振った。
…
よし、うまく抜け出せたぞ。そーたの会社なんてちょっと調べりゃすぐわかるぜ。
(え、本当にやるの?ここ玄関だよ?)
(ホラ、ソータ!座ル!)
しっかし、クソあちーな。このスーツ通気性悪すぎだろ。今時こんな安物、就活生でも使わねーよ。革靴もボロボロだし、最悪だわほんと。あいつ昔からケチだからこうゆうところに金かけなさすぎなんだよな。そもそも顔も大して良くないんだから、少しは金かけていいもん着ろよ。だからモテねーんだよ。
(ねぇ、そのディスり必要?僕、君達がリストラの事をなんで知っているかだけ知りたいんだけど。てか、徹平僕のことそう思ってたの?)
(いいから、いいから)
あ、このビルだな。ププッ。
俺はそのビルの余りのオンボロっぷりに笑いが止まらなくなった。ダサいスーツ着てボロボロの靴で通う奴にはお似合いだわ。どんなゲテモノタレントが所属してるんだろう?ワクワクするぜ!
しかし、そんな俺にいきなり大きな難所が現れた。
そう、階段だ。
俺は今にも崩れ出しそうな階段を踏み固めるように登った。一段登る度、生きててよかったと実感したよ。
(そんなボロくないんだけど)
(いいから、いいから)
そーたのオフィスは3階だ。まだまだ道のりは長い。俺は2階に辿り着いた時、振り返ったんだ。ここまで登って来れたが、帰りもここを通らなきゃならない。もし崩れたりなんてしたら、一生皆んなの元には帰れないからな。
(うちのビル、エレベーターあるんだけど)
(いいから、いいから)
なんとか3階まで登りつめる事ができた。正直ここまで生きて来れたことは奇跡に近い。あとは、オフィスに入るだけだ。俺はドアノブに手を掛けた。唾を飲み、勢いよくドアを開けたんだ。
俺はあまりのショックに腰を抜かしたぜ。
難関は階段だけじゃなかったんだ。寧ろあんなの序の口だ。そこには恐怖と絶望が待ち構えていた。
そう、ドアの向こうに
一匹のハゲがいたんだ。
しかも、ハゲている事に全く違和感のないくらいの年齢の。ハゲ適齢期を迎えた丁度いい砂鉄のついたゆでたまごだ。そのハゲはこれでもかっていうくらいにハゲながら俺の事を不思議そうに見ていた。
(そりゃあそうだよ。知らない人がオフィスに入ってきたんだもん。てか、もう良くない?僕以外の人まで傷つけるのやめない?あと、ハゲネタは僕もキツいんだけど。)
(ちょっと!!静かにしなよ!!)
体育座りで真剣に聞いていた璃音くんが僕に向かってシーッと口元に人差し指を当てる。
俺はあまりのショックで一瞬気を失いかけていたよ。いくら俺でも勝てっこない。ここは全力で逃げるか?
すると予想外の事が起きた。
「もしかして、オーナーの関係者の方ですか?(ハゲハゲ)」
何のことかサッパリだが、俺を誰かと勘違いしてくれていたんだ。これは願っても無いチャンスじゃないか!一気に畳み掛けるしかない!
「はい!美波てっ…美波哲也と申します!」
「あぁ、コレはどうもどうも。わざわざお越し頂いてありがとうございます。(ハゲハゲ)」
(一々立ち位置変えながら一人二役やらなくていいよ。そのハゲハゲって効果音なくてもわかるから。可哀想だろ。)
(ちょっとは静かにしっ)
(うるせぇーよ!チビ!調子乗んなよ!!)
僕は璃音くんに怒鳴った。正直この茶番劇は面白い。最後まで観てみたい気はしてきている。だが、面白いのは徹平だ。隣でただ便乗して調子乗られるのだけは許せない。
(…ごめんなさい。)
シュンとして膝を抱え込む璃音くん。
(…続きいいか?)
(別によくはないよ?)
…
どうぞどうぞと中に入れられ、奥にある小汚いソファに座らされ、クソまずいコーヒーを出された。散々よくわからない世間話を聞かされた後、ハゲは唐突に話を切り出してきた。
「今日の要件って倒産の事ですよね?」
倒産?何のことだ?取り敢えず適当に返しておくか。
「はい、そうです。そちらではどのような具合になっておりますか?」
「はい、えーっとですね、一応オーナーから言われた通り今月いっぱいで手続きと社員への解雇勧告をしようと思っています。」
「なるほど、解雇勧告…え?」
「どうかなさいました?」
「あ、いえ…続きを…。」
「はい、給料の三ヶ月分と退職金は用意出来ております。とは言っても社員自体は二名ですので然程大変な事ではないですけどもね。」
ハハハと笑うハゲ社長。俺には何が面白いのかサッパリわからなかった。どうやらハゲると笑いのツボもおかしくなるらしい。
「勧告についてですが、もう今週中にするというのはどうでしょう?」
「今週中ですか?」
「はい、どちらにしろ今月倒産することが決まっているのであれば、わざわざそれまで仕事をさせる必要もないでしょう。」
「まぁ、出来なくはないですが…。」
「これはオーナーからの意向です。具体的には可能ならば木曜日とおっしゃってました。」
「左様ですか。承知しました。その方向で調整させて頂きます。」
よし!なんとかバレずにやり過ごせた!
これで終わりだ。と帰ろうとした時、「あ、すみません!バーの件は如何しましょう?オーナーの方で引き継ぐとはお伺いしておりましたが、もし店舗運営の責任者が決まっていないのであれば、うちの瀬尾に任せたいと思うんですが。」
「んー!それはマジでマズイ!全力回避で!」
「左様ですか…。」
俺はそれでは失礼しますとしっかりと挨拶をして、お辞儀までした。こんな時でも礼儀は忘れない。なんせもう23だからな。もう階段は怖くない。木曜日まで楽しい時間が過ごせそうだ。俺はルンルンで階段を降りた。
その時…
「それがあの怪我の原因ってわけだねっ!」
僕は徹平を指で差しドヤ顔を決めた。
「正解!さすがそーたさんっす!まぁ、そういうわけよ。」
かなりオーバーな演技をしていたこともあってか、少し息を切らしながら徹平はゆっくりと腰を下ろす。
「違うよ徹平。僕はあの怪我の理由を聞きたかったわけじゃない。」
「でも、なんで知ってるかはわかったでしょ?」
璃音くんが立ち上がり僕に手を差し伸べ、僕もその手を掴み立ち上がる。
「それはわかったけど、そもそもなんで徹平、僕の会社行ったんだよ。」
「ワンチャンお願いしたら、クビにしてくれるかなと思って。」
「なんのために?」
「そりゃあ一緒に来てもらうためだよ。」
そう言いながら徹平は口を尖らせる。
「…恐ろしいわ。」
もし倒産の話がなかったら何しようとしたんだよ。
次回予告
2話 1452




