5話 恥かかせないでよ。
ハハ、こりゃ完璧に嫌われたな。
女の子を泣かしてしまったら果たして周りはどう思うだろう。ただでさえ容姿が釣り合っていない僕達がお茶している事だけでも変なのになぁ。
だけど
元仕事仲間として
職場の先輩として
僕が気付いた事を彼女に残してあげたい。
例え嫌われ…
「…そっかぁ。その通りだと思います!あー!凄いですね!瀬尾さん!私、悟り開いちゃいましたよ!」
おまっ、バカ!!!
自分語りの途中だよ。割り込んで来るんじゃねーよ!
てゆうか君、物分かり良すぎだよ!
いいかい?今、僕は凄く嫌な言い方したんだよ?
だから、君は一旦落ち込むべきなんだ。ここからが僕の見せ場なんだよ。ちゃんとカッコいいセリフを考えて来てるんだからさ。そこまで聞いてから悟り開いてよ。
これだと僕が…本当にただの嫌なやつになっちゃうじゃん。
巻き返し「イケメンチャンス」くらい頂戴よ。
「だから君は夢に挑戦するべきなんだ!」
「自分の夢に責任を持たなきゃダメだ!」
「君の夢を叶えられるは君だけなんだ!」
とかセリフ用意してたんだぞ。
勝手にスッキリした顔しないでよ。
やってられっかよ。
「瀬尾さん、さっきは遠慮しちゃったんですけど、実は私お腹空いてるんです。やっぱ食事してもいいですか?」
「…え。あ、あぁ、いいんじゃない?あ、そのくらいなら出してあげるよ。」
あまりにも想定外の展開に僕の声は裏返ってしまった。
わーい
と控えめに喜んだ美和ちゃんは、テーブルの上にメニューを開き、楽しそうに眺めながらブツブツと何を食べるか自分自身と相談を始めた。
この子、本当に僕の言いたかった事理解してるのか?
「…美和ちゃん、何が分かったの?」
僕は今一度、イケメンチャンスの探りを入れた。
「私、女優さんになりたいと思って色んなプロダクション受けたんですけど、どこも落ちちゃって。何とかハムハムに入れたけど、本当にこれでいいのかな?ってのは心のどこかで思ってました。だけど女優さんになりたいって思ってもどうしたらなれるか方法がわからなくて。だから、事務所の人はこの世界に詳しいんだから、その人達の言う事聞いた方がいいんだって決めつけてたんです。でも、瀬尾さんさっき言ってくれたじゃないですか?どんな女優さんになりたいの?って。私、何も答えられなくて…。で、目的地がわからない人はそこには辿り着けないって言われて閃いちゃったんです。私は自分が何をしたいのか、ハッキリしてないから、どうしたらいいかわからないんだって。だから誰にも頼らず、まずは自分の力でハッキリさせなきゃいけないんだなぁって。それは瀬尾さんにも分からない、自分にしかわからない事だから…。って、あれ…?もしかして、違いますか?」
100点満点だよ。
なんなら100点超えちゃってるよ。
僕が言おうと思ってた以上のことまで答え出ちゃいそうな勢いじゃん。何なのこの子。そんなに物分かりいいなら、なんでそこに気づけなかったの?
逆にバカじゃん。
え?何話せばいいの?
「私、言われた通り自分と向き合ってみようと思います。誰のものでもない。自分だけの夢なんだもん。私がちゃんと大事にしてあげなきゃですよね!」
なにそのかっこいいセリフ。
それ言いたかったな。
美和ちゃんは特製オムライスを注文すると、スマホを取り出し、何かを調べ始めた。
「美和ちゃん…何調べてるの?」
ふむふむと小さく頷きながら夢中になってスマホを眺める彼女に僕は質問をする。
「…女優のなり方を、ググってます。」
「君…最強だね。色んな意味で。」
「エヘヘ♪色んな道があるんですね!」
「…そうだね…。」
浅はかな考えではあるけれど、その行動力だけは褒めてやるよ。彼女には安心と信頼のGoogle先生がついている。どうやら僕が教えてあげられる事はもう無いらしい。
「それはそうと瀬尾さんはこれからどうなさるんですか?」
「え、あぁ…僕は…。」
溶けた氷ですっかり薄まってしまったアイスカフェオレをストローで少しだけ飲み、まだ誰にも話してない僕の出した答えを明かした。
「僕は、もう…芸能界から身を引くことにするよ。」
本当は美和ちゃんと山口さんと3人でリスタートを切りたいと思っていたけど、事務所もなくなり、彼女もいい意味でこの有様だ。
躓くことはあるかもしれないが、彼女の人生だ。彼女が求めてこない以上、僕が彼女の夢に付き添いうのはおかしい。それならば、もう芸能界に固執する意味なんて僕の中に存在しない。
「そうですか…。でも、瀬尾さんならどの業界にいっても大丈夫ですよ!」
「そうかな?でも、ありがとう。」
「はい!大丈夫です!私が保証します!元気出してくださいね!」
「うんうん!ところで!美和ちゃんの大学の夏休みっていつまでなのかなぁ!?僕って大学行ったことないから色々教えて欲しいな!?」
マジなんなのこいつ。仕返し?
このままだと僕が相談乗ってもらってるみたいになっちゃうじゃん。
これ以上恥かかせないでよ。
その後は
大学のことを始め、女優を目指すきっかけ、家族のこと、好きな食べ物、アルバイトのこと、どんな子供だったかなどお互い他愛のない話をして過ごした。
気づくと時間はもう5時を過ぎており、その事を彼女に伝えると
「バイト遅刻しちゃう!」
と言い、僕達は急いで会計を済まして店を出る。
「私のバイト先、すぐそこなんで!今度是非いらして下さい!今日はありがとうございました!あ、あとご馳走様でした!いつでも相談乗るんで連絡してくださいね!」
と僕に大きく手を振り颯爽と街へと消えて行った。
思っていた形とは程遠いというか、釈然としないというか…。まぁ、どうやら一応これで終わりらしい。
さて!
残るはもう一つの問題、徹平達との事だ!
あと数日か。
ハッキリ言って怪しまれないよう過ごすのはとても骨が折れる。単純に普段と変わらずに過ごせば良いというものではない。ちょっとした会話の矛盾点から疑いの目を持たれてしまう。慎重にいかなくてはな!
僕は公園の前を通り、山口さんが帰ったかどうかを確認する。
さすがにもう山口さんは…いる。
さっきと変わらず、下を向いたままベンチに座り続けていた。
頑張れ山口さん!
と心の中で彼を応援し、僕はこのまま無視して家路につくことにした。
7章終わり




