4話 ぶっ壊す。てか、ぶっ潰す。
「それよりよ、俺も質問していいか?」
「何?」
「ちょいマジな話。」
「…なんだよそれ。今までの話がマジじゃないみたいじゃんか。」
「ハハ、それな。」
「それなって…。リアクションしづらいよ。で、何?」
「お前さ、まだ俺達に気不味いとか思ってんの?」
「へ?なんで?」
「全然やり返してこねーじゃん?」
「やり返す?」
「…おう。ちょっとふざけたら、何処かで仕返ししてきてたし…もっとこう…とにかくだ!つまんねーんだよ!今のお前!」
「…もしかして徹平、僕に気遣ってるの?」
「…悪りぃかよ。流石に弄りっぱなしは申し訳ねぇっていうか…やりづれーんだって。」
「へぇ、珍しい。てゆうか初めてじゃない?徹平がこんな事言うのって。」
「…うるせぇよ。よし!殴れ!」
「…はぁ?」
「じゃなきゃ俺の気がすまねぇ!ほら!」
そう言って徹平は自分のお腹を叩き目を瞑った。
どうやら平手打ちではなく、グーパンを所望らしい。
てゆうか、そんな気にするなら弄らなきゃ良くない?
と思ったのだが…
これは違うな。
徹平はなんら間違った事はしていない。
元々これが僕たちの間では普通だったんだ。
「はぁ…じゃあ、いくよ?」
「…おう。」
「…。」
「…まだ?」
「…。」
「ギャァァァァァアアアアア!!!!!」
まるで通り魔でも出たかのような悲鳴が夕暮れの街路に響き渡る。
それもそのはず、徹平御所望の腹パンではなく、徹平の乳首狙いで胸元を抓り上げたのだ。
「お、おい!お前それは…!」
「徹平!…予想外だったろ?」
「…お、おう。チッ…それでいい。満点だ。しかし…だな…お前…乳首は…ダメだろ…いってぇぇぇ…。」
「ハハ。」
「なぁ…そーた。」
「ん?」
「俺達さ、もう一回音楽で頂点目指すよ。そんでもってさ、芸能界をぶっ壊す。」
「…。」
「…。」
「ぶっ壊すって…。」
「おう。ぶっ壊す。てか、ぶっ潰す。」
「…本当に徹平は物騒だなぁ…ハハ。」
「…無理だって言いてぇのは分かってる。もうイグレシアの名前は2度と使えねぇ。アレは業界では禁止用語クラスだしな。名前だけじゃねぇ…顔もだ。俺らの顔も呪われてる。こんな人間…絶対に芸能界の枠内に入れてくれねぇ。」
「…そこまで分かってるなら…。」
「違う。枠内に入れないなら枠外から壊してやる。だからこそアメリカに渡ったんだ!その力を手に入れる為に…地獄のような生活にも耐え抜いたんだ…。」
「徹平…。」
「俺はあんなクソつまんねぇ結末で終わらせたくねぇ…。あんな形で夢を諦めたくねぇんだ!」
「夢。」
「あぁ…叶えなくちゃならねぇ。死にたくてもこのままじゃ死ねねーよ。」
「…なら叶えちゃダメじゃん。」
「チッ…死なねーよ。」
「でも…僕には何もできないよ。」
「…お前には…俺達の面倒を見てもらいたいんだ。昔の仲間としてじゃない。お前個人の能力を、才能を買ってんだ。」
「…嘘だね。」
「嘘…じゃねぇよ。」
「…嘘だ。」
「嘘じゃねぇ。マジだ。」
徹平の瞳は僕の目から逸らすどころか不自然なまでに微動だにしない。
コレは…。
忘れもしない。嘘をついている時の徹平の目だ。
だが、何かを企んでるのかそれとも僕の読み違いなのか。徹平が嘘じゃないと言っている以上、真相は徹平にしか分からない。
でも
嘘でも嬉しいに決まってる。当然だ。
別に徹平が僕を求めてくれたからじゃない。
秀でた才能もない。
印象にも残らない。
平凡で面白みのない人生しか歩めなかったはずの僕にまた大きな夢を追いかける事が出来るかもしれない。徹平の誘いによって僕の中で、この2年間失っていた懐かしいあの感覚が呼び覚まされた。
まだ僕にそんな熱いものが残っていた。
その事が一番嬉しかった。
だから
だからこそ
「ごめん。一緒には行けない…。」
「…なんでだよ!二度と絶望させねーよ!」
「…絶望が怖いわけじゃない。いや、怖いけどそんなんじゃないよ。」
「絶対に成功してみせる!後悔だってさせねー!」
「…後悔したって構わないさ。」
「気まずいっていうなら、我慢するよ!」
「もう気まずくないよ。乳首を抓った時点で多分僕と君達の間に蟠りはゼロと言っていい。」
「アンソニーだっていい奴だぜ!?」
「うん、分かってる。最初は冷や冷やしたけど、今日一日アンソニーと過ごせて楽しかったよ。君達とこうして笑って過ごせている時間はなんだかんだで最高に楽しかった。」
「じゃあ、なんでだよ!?何がいけねぇんだ!?」
「仕事…があるんだ。正直、徹平達と再会してからあの会社にもう未練はない。でも、ある人と、徹平の夢を聞いて、もう一度今の仕事に向き合いたくなったんだ。僕の会社にも叶えなきゃいけない夢がある。」
「そーた、お前…。」
「このまま放ったらかしにして逃げる事はしたくない。しっかりと向き合って、やるだけの事をやって、社会人として、瀬尾聡太としてのプライドを貫いた上で徹平達について行きたい。その時まで、僕が自分の仕事に納得できるまで、待ってて欲しい。」
正真正銘コレが僕の本音だ。
このままでは終わらせちゃいけない。僕や山口さんの仕事はタレントを成功させる事だ。それに向き合わずに逃げた僕がスタートから最悪の立場に立たされている彼らの力になれる訳がない。彼らともう一度、同じ夢を追いかける為に。
僕は僕の道を進むんだ。
「ごめん。だから…今は一緒には行けない。」
僕はただ真っ直ぐ徹平の目だけを見てそう答えた。
すると徹平は僕から視線を逸らし、濃紺に濁った東京の夜空を見上げ、少し微笑む。
「それがそーたの気持ちなら俺はそれでいい。ごめんな?無理言って。」
やはりこいつはかっこいい。
どんな場面でもまるでドラマの撮影をしているかのように絵になる。もはや性別など関係なくただただ惚れ惚れしてしまう。
「徹平が謝る事じゃない。寧ろ…僕の方が…」
ーーー僕だって徹平達みたいになりたいんだーーー
「いいよ、謝んなって。わかってるよ。でも、たまにはこうやって一緒に過ごすくらいはいいだろ?」
ーーー当たり前だろ?僕達は親友だーーー
「うん。もちろん。徹平…ありがとう。」
6章終わり




