5話 怖い怖い病
「今の子凄く可愛かったね。でも、まさか2人がお金払ってまでデートして貰らうような人間だとは思わなかったよ。」
後ろの席から声が聞こえ、振り返るとそこには
あのチビがいた。
「え。ここ、璃音くんの入ったお店と違くない?」
「これ三件目。どこに居ても落ち着かなくてさ。」
「もしかして…見てたの?」
「見てたも何も…全部聞いてたよ。」
「ぇ、あぁ…恥ずかしいところ見せちゃったね。」
「僕、はじめからずっとそこの席にいたんだよ?2人とも全然気づかないんだもん。凄く嬉しそうな顔しながらキレイなお姉さんと入ってきて…正直、引いた。」
やめてー!!
それは言わないでー!!
意識なんてしてなかったけどやっぱ僕も顔に出てたのか!?
僕は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆う。
「ハハ、別に僕が声かけたわけじゃないよ?ついて行っただけ。まぁアンソニーが喜んでくれてたみたいで嬉しいよ。良かったじゃん。な!アンソニー!」
僕は必死に言い訳を並べながらアンソニーの方を見た。アンソニーは顔をほんのりと赤らめ天井を見つめながら母国語でボソボソ喋り続けていた。
完全に自分の世界に入っていらっしゃる。
有料の、なんなら高額の出会いごときで、ここまでオーバーなリアクションできるのは素直に凄いと思う。多分こいつは僕が思ってた以上に純粋なのだろう。
「まぁ、そうたくんが稼いだ金だからさ、何に使ってもいいと思うよ?だけどねぇ。いくらブサイクだからって、ちょっとこういう使い方は見過ごせないな。親友としてね?」
あ?
何様だこいつ。
そもそもお前のせいだろ。
少し調子に乗りすぎだ。
てゆうか、さっさとメガネ返せよチビ。
「まぁそうだね。気をつけるよ。でも璃音くんはさ、どちらにしても僕達とは一緒に来れなかったよね。」
「…なんでさ?」
「だってププッ…」
「な、なんだよ。」
「だって君…女の人苦手だもんねー!!見た目は女の子みたいなのに…クスっ。」
「…るさいっ」
「ん〜?なーにー??」
「うるさいっ!」
顔を真っ赤にさせながら子供みたいにムキになる。
ほーら、見ろ。
人様をバカにしているから痛い目見るんだ。
「大きな声出しちゃうと目立っちゃうよ?いいの?さっきみたいに怖い怖い病出ちゃうよ?」
「あれは…怖い怖い病じゃない!」
「おー、怖っ。」
「…。」
「別にさー、悪い事じゃないんだから。怒るような事じゃないってー。大丈夫ぅ、大丈夫ぅ〜。まだ20歳じゃーん?これから女性に慣れていくよ?あ、でも、まずはその怖い怖い病治さないとね!」
「…。」
ふふふ、20歳といえまだ子供だ。大人を舐めてるとこうなるって事を覚えておくんだな。
「…童貞。」
「おい、それは…言っちゃダメだろ。」
「…。」
このクズはぷいっと横を向き僕と全く目を合わせようとしない。ハゲはまだなんとか許せる。だが、童貞だけはダメだ。それは親に申し訳なくなってしまう言葉だ。「お前の母ちゃんブス」に匹敵する威力といっていい。
「…き、ききき君だって、同じじゃないか!!」
「僕は、まだ20歳だもーん。23歳とはねぇ、一緒にされたくないなぁ。」
「っ!年齢なんて関係ない!!!」
男の世界では"やらずの二十歳"の仲間入りした時点でもう年齢は関係ないんだ!
「あー!ごーめーんーねー??僕、怖い怖い病だからぁぁ?静かにしてもらって良いぃぃ?一応、僕の下僕…じゃない、マネージャーだったんだからさぁ?少しは気を遣ってもいいんじゃなぁーい??」
「…。」
「僕の方が先に静かにしたよ?なのに…なんで騒ごうとするのぉー?何ー?怖い怖い病発症させたいの?最低じゃーん。」
「…いやそういう訳じゃないけど。」
「じゃー、いいじゃーん?童貞くん、もう黙ろ?」
「…。」
イグレシアは非常に個性豊かなメンバーだったこともあり、本当のケンカに発展してしまう事が多かった。そこで、そうなる前に少しでも言い返せなくなった方が「参りました。」と言わなくてはならないというルールを誰でもない僕が設けていた。
だから…
「…参りました。」
「うん、いいよ!仲直りしよっ!」
と璃音くんが手を差し伸べてきた。今すぐにでも引っ叩いてやりたかったが、今回は僕の負けでいい。
「璃音くん、この事、徹平には…。」
「いいよ?黙っておいてあげるっ。」
このチビはイグレシアの中で最弱であり、今日の負け二つを数えても、通算では僕の方が大きく勝ち越している。だからこそ二連勝できた事が余程嬉しかったのだろう。すごく得意げだった。
「…ありがとう。」
「Airi....」
僕の横では相変わらずアンソニーが天井を仰ぎ、愛理さんの名を口に出していた。
さっさと戻ってこいアンソニー。
それと勘違いするな。
22000円支払ったのは僕だ。
まだ君は1円も払ってないんだ。
だから
あの子は僕の女だ。
5章終わり




