3話 夢
「…あの!組むきっかけって何だったんですか!?」
不思議そうな顔で僕達を見ていた愛理さんに勢いよく質問する。
二人で何話してるの?なんて聞かれたら僕の嘘がバレ兼ねない。
「お友達のモデルが主催したイベントがあってね、私もそこに呼ばれて、カバー曲を歌わせてもらったの。その時出てたバンドに一緒にやらない?って誘われたの。」
(ソータ、ソータ、今、バンドッテ…)
(上海にある観光名所だよ。)
(シャンハイ…。)
「それで今に至るって事ですか。」
「ううん、至らなかったよ。難しいんだよねぇ、バンドって。」
愛理さんは少し寂しそうな顔をしながら遠くを見つめる。
「おんがっ…価値観の違いとかありますもんね。」
「うーん。それもあるとは思うけど。私の場合、そういうレベルの高い話ってよりも、やっぱりやる気の違いが大きいなぁ。」
「…あぁ。そうか。自分達を縛るものがないからこそのデメリット!みたいな?」
「そうそう!プロダクションやレコード会社と契約していれば、少なくとも強引に辞める事はできないけど、アマチュアは縛りが何もないからねー。」
「そう考えると存続が難しいのはプロのバンドよりもプロ志向のアマチュアバンドの方なんですかね。」
「実際そうだと思うよー?明るみに出てないだけでさー。」
「すみません、バンドとか詳しくなくて。こんなの愛理さんからしたら当たり前の事ですよね…。」
「いーのいーの!楽しいよ!」
「なら良かったです。でも、かっこいいです。なんか自由って感じで。」
「フッフッフッ♪それにね、今のバンド結構お客さん集めてるんだよー。こないだ、渋谷のWIFFでもライブやったんだよ?凄いでしょ?」
「え!?WIFF!?あの渋谷の!?それ、ほんと凄いじゃないですか!?」
自慢げに話す僕の愛理。
でも、このリアクションは機嫌取りなんかではない。本物だ。WIFFはバンドマンの聖地と呼ばれているステージだということくらいは僕でも知ってるくらいの事だからだ。軽く1500人は入るでかいイベントホールだ。
まさかそんなところでライブを行っていたとは…。
もしかして僕が知らないだけで、この人、有名人なのか?
「そんな凄いならデビューとか声かかりません?」
「なくはないけど…。」
「なくはないけど?」
「んー、やれる事をやった上で声がかかるならそれはとても素敵な事だと思うけど、演奏もファンも含めてまだまだそういうレベルには達してないし。第一、そこを目標にするのも違うかなーって。現に一度、他力本願で失敗したしねー♪どっちかと言うと頼るより頼られたいよね!」
(ソータ!今、演奏ッテ…。)
(エンソ。エンソ・ペレスだよ。SoccerPlayerの。)
アメリカではサッカーは超メジャースポーツではない。だから僕は分かりやすく英語を使って教えてあげた。
(Soccer…Player…)
案の定アンソニーはサッカーを詳しく知らなかったようだ。
残念だったね。
よし!まだ僕のターンだ!
「それに今、愛理たちは大型フェスの出演を目指してるんだ!」
「おぉ!」
「フェスに出て、メインステージで演奏するの。何万人もの人に愛理たちの音楽を聴いて楽しんでもらうの。今年はオーディション落ちちゃったけど、いいとこまではいけたし!あー、なんか話ししてたらやる気出てきたぁ!明日も夢に向かって頑張ろー!!」
…なるほど。
この人は芸能界に失望した訳ではなく、現状をしっかり捉え、ポジティブに前へと進み続ける事に価値を見出している。そして何よりも「頼らない」という自分の考え方を一貫している。
勿論、頼らない事だけが正義ではないはずだ。よりたくさんの人に知ってもらい、多くの支持を得る為には力の強いものに頼らなきゃいけないのも事実である。それは決して芸能界に限ったことではなく、どの世界でも共通している社会そのものの仕組みだ。ただ、そこにあるのは相互利益が成立する協力関係であり、一方的な依存関係であってはならない。
『個人の力では限界がある』
という当たり前が一人歩きし、自分の力で出来ることすらせず、何をするにもはじめから全て頼る事が大前提になってしまっている人が多い。
それに例え、運良く芸能プロダクションに入れたとしても、契約した以上制限がかかり必ず義務が生じる。ライブをやりたいと思い自ら企画しても、方針が違えばそれすら制限されてしまう事だってある。
業界に入ってからの努力は意外と凄く難しいのだ。
だからなのだろうか。
そういった狭っ苦しい枠から外れた自由気ままなこの人は、僕が見てきた芸能界に憧れて門を叩いたどの人よりも眩しく輝いているように見えた。
そしてこの話を通して、ここ最近僕の中でモヤモヤしていたものが少しずつ浮き彫りになっている。
僕の事務所も今、1人の大きな"夢"を抱えている。
でも、その夢は…
愛理さんのいうそれとは似て非なるものだ。
多分このままじゃダメだ。
本当に彼女が夢を叶えたいなら、例え棚上げになっても、誰かが彼女を挫折させる思いで話さなきゃいけないのかもしれないな…。
(ソータ、ソータ、今、音楽ッテ…。)
(うん。そうだよ。今さっき音楽の話に変わったんだ。アンソニーも会話に入れるように僕がそう仕向けたんだ。)
(アリガトウゴザイマス!!)
どうやらここが潮時のようだ。
アンソニーにも少しは話をさせてやろう。
ターンエンドだ。
「愛理ニャン!!!ワタシモ、音楽ヤッ…」
やっときた!
と言わんばかりにアンソニーが自己PRをしようと口を開いた時
ピピピッという音が愛理さんの方から聞こえた。
次回予告
4話 カモ




