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2話 ギータ

「うーん…事務所入ってからはレッスン漬けだったよー。スキルアップも出来たし、意味ない時間とは思わなかったけど、いつまで経っても歌のお仕事なんて入らなくてさー。」


おっと!

それは今の僕にとってタイムリーな耳の痛い話だ!

しかも、スキルアップできる程の良質なレッスンすら受けさせてあげられてないっていうね!

なんかチグハグだな。悪気がないのにお互い痛いところを突き過ぎている気がする。


「あー、そういうことってよくありますよねー!」

「そーそー。結局持ってきてくれる仕事は全部歌とは関係ないモデルの仕事ばかりで。挙げ句の果て手には『君はモデルの才能がある!』とか事務所が言い出してきてさー。歌以外興味ないっつーのみたいな。」

「あー、あるある!」


本当に耳が痛い。

ごめんね、美和ちゃん。


「でも、『歌手として成功したいんでしょ?そのためには、こういう事も必要なんだから売れる為だと思ってやりなさい』って丸めこまれちゃって。気づいたら何年も中途半端なモデルやっちゃったよー。でも結局さ、売れないことに我慢は出来ても、音楽がやれない事には我慢できなくてさ。だから辞めちゃった♪」


「…そうですか。」

人と会話を楽しむ術のバリエーションの少ない僕にはもうそう答えるしかできない。


「…あ!ごめん!そうたくんからしたら、ちょっと嫌な言い方だったよね!?そういう意味じゃないよ?」

「いえ!全然構わないですよ!ただ、せっかくなんで、参考までに聞きいてみたいんですけど。」

「んー?なんでも聞いていいよ♪」

「あの、愛理さんは、辞めたプロダクションの事をどう思ってますか?」

「…うーん、とねぇ。」


愛理さんは腕を組み少しの間悩み込んでしまった。

確かに耳の痛い話ではあるが、これは僕にとって大事な話題でもある。


「うん、えーっとね、別にプロダクションの事は恨んだりはしてないかなっ。」

「…え、そうなんですか?」

「意外?」

「あ、はい。意外と言いますか…僕の事務所を辞めて行った人達はポジティブな事を言い残していかなかったので…。」

「あ!私も最初はそうだったよ!プロダクションの人、ブッ殺そうかと思ってた!」

「わ、過激。」

「冗談♪でも、後で考えてみたら都合のいい話なんだよねー。」

「都合が良い?」

「うん。愛理の要望ってさ。歌もうまくない、曲も作れない、ステージに立ったこともない、それを補える程の魅力や才能がある訳でもないくせ、自分のやりたい事に投資してくれーって話でしょ?なんか私、やるべき事すっ飛ばしちゃったなぁって思うよ。」

「…なんか大人ですね。」

「大人だからね♪やれるだけの事をやってない人間には文句言う資格ないって今は思ってるよ。だから、プロダクションに特段感謝もしてなければ恨みもないかな♪」

「…そうですか。それは何というか…良かったです。」

そう思ってくれるなら愛理さんの所属していた事務所も嬉しいだろう。ウチの事務所を辞めていったタレント達も今、そう思ってくれてるのだろうか…。


いや…そこまで望むのは自分勝手だな。


僕の隣でアンソニーは愛理さんを見つめながら一生懸命ウンウンと頷いている。果たして彼女の言っている事を理解できているのだろうか?


「今はね、私バンドやってるの♪毎日楽しいよっ。自分だけの歌が歌えるんだよ?これ以上にない幸せな事だよねっ!」

「そっか、それは凄くいい事ですね!歌を歌うってことはボーカルですよね?」

「うん、ギターボーカル!」

「おぉ!かっこいい!中学の時僕もギターに挑戦したんですけど、コードで挫折しちゃいました。だから素直にギター弾ける人尊敬しちゃいます。」

「あー、あるあるだね!私も最初、コレ本当に弾けるの!?ってなったもん。指痛いし。」


(ソータ、愛理ニャンハ、ギター弾ケルデス?)

アンソニーが僕の肩を人差し指でチョンチョンと突き耳打ちする。

やばい

話の内容がアンソニーの得意分野に変わってしまった!

こうなると一気にイーブンまで持ち込まれる!


そう思った僕はとっさにアンソニーの耳元に手を添えて囁く。


(アンソニー…違うよ、今ギターの話ししてない。)

(今ギタージャナイデスカ…?ギター、聞コエマシタ。)

(違うよ、ギターじゃない、ギータ。野球選手の話。)

(ヤキュウ?ッテナンデス?)

(日本で流行ってる遊びだよ。)

アメリカじゃベースボールはメジャーなスポーツだ。アンソニーが詳しい可能性は非常に高い。だから僕は分かりにくく日本語で「野球」と言った。


ごめんね、アンソニー。

だが、まだ君には黙っててもらうよ。

僕はまだ君が楽しんだ分を取り返せていない。

わざわざ僕に耳打ちで確認しきただけあって、会話についていける自信がなかったようだ。


アンソニーはシュンと黙り込む。


よし、これでペースは保たれる。

ズルくなんてないぞ!君はさっきまで一度も僕のことを見ることなく楽しんでいたんだ!!まだこんなんじゃ君の半分も楽しんでない!!



次回予告

3話 夢

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