1話 マニアック
「まだ時間あるけど、どうするぅ?何処かでお茶する?」
ひと通り店を周り、駅の近くまで戻ると、愛理さんが僕達にそう言った。腕時計を見てみると確かに璃音くんとの待ち合わせている時間まで30分以上はある。
アンソニーも充分楽しんだと思うし、璃音くんに連絡して予定を前倒ししてもいいとは思うのだが…
正直、僕は満足していない。
「いいですね!じゃあ、あのお店にしましょう!」
僕の独断で僕達はちょうど近くにあった指差し、二人の了承を得る事なく率先してカフェに入る。
勿論、男として当然の様に愛理さんとアンソニーの分も支払った。決して嫌々だとか強迫観念ではない。
単純に今まで女性に奢るという経験をする機会が少なかった僕は、少しでも甲斐性のある男になった気分を味わいたかったのだ。
アンソニーの分は…
単なる自己満足とささやかな抵抗だ。
「ありがとう♪」
と愛理さんは肘で僕の腕をつつく。彼女の可愛いらしい笑顔と動作というオプションを頂けただけで、合計1000円ちょっとのコーヒー代など安いものだ。
「そういえばさ、そーたくんってなんのお仕事してるのー?」
四人がけのテーブル席に着くと正面に座った愛理さんが僕に質問をしてきた。
「芸能プロダクションで働いてますよ。事務的な仕事がメインなんですけどね。」
「へぇー!そうなんだ!」
目をパチクリさせながら、机から乗り出し、下から僕の顔を覗きこんできた。
そ、そんな角度で見られたらっ!
ダメ!
お、おっぱいが…見え…
…
…
なーに。
女性はおっぱいが全てではない。
おっぱいなんて単なる項目の一つに過ぎない。それに経験自体ない僕にとっておっぱいの大きさなんて問題ではないのだ。
僕は目線を上にあげる。
愛理さんは余りにも可愛過ぎて、目線を合わせられたのは1秒ももたず、すぐに目を逸らす。
「実はねー、愛理も以前までプロダクションに入ってたんだよっ♪」
「そ、そうなんですか!?」
ほぉ、これは願ってもない共通点だ!
なんとしてでもこれを皮切りに巻き返しを図りたい!
しかもここは日本で相手も日本人だ。会話部門では完全に僕に分がある。
アンソニー、君には申し訳ないが今まで愛理さんを独り占めした罰だ。少なくともあと30分はくらいは1秒足りとも君の出番を作ってやる気はないぞ。
「うん!ずっと歌がやりたくて、芸能界に憧れてたんだ。19歳の時かな?表参道をぷら〜っと歩いていたらスカウトされてねっ♪」
な、なに!?しかも彼女は歌手志望なのか!
これに関しては僕のテリトリーだ!
心なしか僕は少し前のめりになる!
「実は僕も以前は音楽部門でして。へへ///」
「え!?ぐぅ〜ぜんっ!じゃあ仲間だね♪って仲間ではない…か。私音楽活動させて貰えなかったし…。」
「…あ、すみません。」
少し表情が暗くなった愛理さんに謝る僕。
なんでだよ!
共通点かと思ったら地雷かよ!
いや…まだまだ序盤!巻き返せる余地はあるぞ!
聡太、落ち着くんだ!
「ううん、気にしないで?単に私にはその力がなかったってだけの事だからさっ。」
「…割り切れてるんですね。」
「入った時の私が子供だったってだけの事だよ。私も数年後には歌姫かぁ!って勝手に浮かれてさ。バカだったよ。」
「そんな!始めは誰でもそうですよ!」
「そうなのかなぁ。優しいね。」
そう言ってニコッと笑顔を見せてくれる僕の愛理。
よし、ナイスフォローだぞ聡太!
今のはポイントかなり高い!
「いえ、そんな…。」
「そーたくんは…マネージャーさん?」
「はい。そうですね。」
「どんなアーティストのマネージメントしてたの?気になる!」
「…いえ、それは…。」
「それはー?」
イグレシアというアイドルグループの…
いや、これは言うべきじゃないな。
間違いなく愛理さんに気を遣わせてしまうだろう。
「誰とは言えないですけど。まぁ、強いて言うならアイドルグループですね。」
「えー誰だろぉ。」
ヤバイこの人。勝手にクイズ形式だと思ってる。
「ハハハ、誰でしょうね。」
「え、意外な人!?」
「知らないと思いますよ。」
嘘はついていないが、これでイグレシアは候補から外れただろう。だって、あれだけ世間を騒がせたんだ。若者で知らない人なんて…
「マニアックなとこか…イグレシアとか!?」
いきなり正解を出された事は良しとしよう。
そんな事よりだ。
イグレシアって世間的にはマニアックなの?
凄いショックなんですけど。
「ハハハ!そうだったらヤバイですね!」
「だよねー!ないよねー!もし、イグレシアだったら悪いもん!ヤバっ、気まずっみたいな!」
「ですよねー!そんな事より!愛理さんは事務所に入って、どんな事なさってたんですか?」
次回予告
2話 ギータ




