4話 丁度いい
しかし、その美人メイドさんは始めは戸惑っていたものの、僕の予想に反しすぐに笑顔を見せた。
え、マジ?本当に効果あったの!?
すごい!あの人、エセナンパ師じゃなかったんだ!
美人メイドさんは笑いながらアンソニーを快く受け入れ、それから何やら紙を見せながら話し始めた。
お店の場所を教えているんだろうか?
どうしようか?近づいてみるか?いや、近づくと美人メイドさんをがっかりさせてしまう。
僕は自分自身を決してブサイクだとは思っていない。が、それでも彼に比べたら粗悪付属品であることに異論はない。僕が近づいても喜ぶ人はいないだろう。それにこれは彼の戦果だ。我が物顔で横から入り、甘い蜜を吸わしてもらおうなど男としてのプライドが許さない。
すると、アンソニーが僕を指差しながら二人で近づいてきた。
ふふ、どうやら僕の話をしたようだ。
しょうがない奴だなアンソニーは。これは向こうから近づいてきたのだから、男としてのプライドは関係ない。単なるイレギュラーだ。全然良い。大丈夫。これはズルくない。
「こんにちわー♪」
「あっ、こんにちわ。」
何故、こういう時「あっ」と前置きを入れてしまうのだろう。明らかに僕に話しかけてくれているのに…恥ずかしい。
「愛理♪です。よろしくねー。」
凄い!凄いコミュ力!めっちゃいい人じゃないか!しかも可愛すぎる!
「あっ、僕…聡太といいます。」
まただ。
また、「あっ」だ。
何故だ。何故なんだ。
「そーたくんね。うん、よろしくねー♪背、愛理より少し高いね。うん、丁度いいね♪」
と僕の横に並び頭に手を当て背比べを始めた。
マジかよ。
グイグイくるじゃんこの人。
丁度いいってなんだよ。こういうフレーズは本当にズルい。ハッキリと名言せず、男性にポジティブな解釈させてしまう魔法の言葉。興味のない男性には使えないよう規制して欲しい。
「今ねー、アンソニーとぉ、ここで出会えたのも何かの縁だし、私がこの街案内しようかぁ??って話してたの♪そーたくん的に迷惑だったら辞めておくけどぉ♪」
「あっ、良いんですか?仕事中じゃないんですか?」
「いいよいいよ♪気にしなくて♪ 」
「あっ、じゃあお願いしたいです。」
「はーい。よろしくねそーたくん♪ってことで、ミカー、もし店長来たら、そういうことだからって伝えておいて?」
「んー、わかったー。」
と近くにいた同じ制服のメイドさんが応えた。
仕事仲間がいたのか。
僕は「すみません」と口には出さなかったものの、そのミカさんという方に軽く会釈をした。ミカさんも両手を小さく振り笑顔で応えてくれた。
もぉぅ…なんなのぉこの街。
病みつきになっちゃうじゃーん。
優しすぎるぅぅううう!!
「じゃっ、行こ?♪」
愛理さんはその白く細い手をアンソニーの方に伸ばす。アンソニーはそれを見てハニカミながらモジモジし出した。
「…。」
「あれ?手は繋がない??」
「ヨロシクオネガイシマス。」
な、なんだと?
おいおいおい。秋葉原って凄くないか?
どうなってんだこの街は。この街に詳しくない人が来ると綺麗なお姉さんが手を繋いで案内してくれる。
恐れ入ったわ!そりゃ観光客も多いわけだ!
秋葉原の公共サービスは世界に通用すると僕は強く確信した。
ただ…
どうして彼とは手を繋ぐのに僕には手を差し出してくれない?この際、仲良く3人で手を繋いだっていいじゃないか。
そんなに日本人の女性は白人がいいのか?確かにこいつはイケメンだ。対して僕はちょっとカッコよくないだけなんだ。あとちょっとだけなんだ。凄いプラス思考すれば殆どイケメンだ。
「どこか行きたいところあるー?」
「愛理ニャン、行キタイトコ…。」
「えー、愛理の行きたいとこはダメだよぉ。そんな所行っちゃったら大変だよ?♪」
「…ムゥゥウウウ。」
「行きたいとこないのー?♪」
「…フィギュア…欲シイデス。」
「オッケー!じゃあそういうグッズとかフィギュア売ってるお店行こ♪私詳しーんだよっ♪」
愛理さんに連れられて、アニメのフィギュアなどが売られている専門店らしきお店に入った。
まぁ、厳密に言うと連れてこられたというより僕はただ後ろから着いて行っただけだが。
アンソニーのテンションはものすごいことになっているはずだが、愛理さんが横にいるという事もあり、至って落ち着いているように見える。というか無駄に格好つけている。さっきからイケメンスマイルを多用し、見つめながら会話を楽しんでいる。
そして僕はというと、一人でプラモデルやアニメグッズを見ていた。別に欲しいわけではないのに商品を手に取っては「へぇ」という顔をして戻す。
腕時計を見るとまだ二十分しか経っていない。
どうしよう。
もう既につまらないんだけど。
向こうの棚から二人の会話が聞こえてきた。
「このフィギュア、可愛いねー♡」
「愛理ニャン、ノ方ガ…カワイイデス…。」
「わー、ありがとうーアンソニー♪」
なんの罰ゲームだよ。
居ても立っても居られなくなった僕は怪しまれないように近づき二人の会話を盗み聞きし、それをリアルタイムで脳内変換して楽しむ事にした。事にしたというか、もうそれくらいしか楽しむ方法が思いつかないと言うのが正しいだろう。
『このフィギュア、可愛いねー♡ 』
『 愛理の方が可愛いよ。 』
『 わー、ありがとうー聡太♪好き♡ 』
こうして僕はこの退屈で長い時間を乗り切った。
しかし、さすがこの街で働くメイドさんだ。この街の事はなんでも知っていた。アンソニーの求める店へと的確に案内してくれたおかげでこの巨人も満面の笑みを浮かべて子供のようにはしゃいでいた。
僕に目もくれず。
4章終わり




