3話 Julien Blanc
とりあえず、先程メイドさんを沢山見かけた電気街の方へと出る。
さて、これからどうしよう。
この感じだといつトラブルを起こしてもおかしくはない。これから2時間、出来るだけ穏便に過ごしたいんだけど…
「フォー!メイドサン!イッパイデース!!」
こいつ、スイッチの切り替えが早いのなんの。
でも、結果オーライだったかも。こんだけうるさければバレるのは時間の問題だったかもしれない。璃音くんと離れて正解だったかな。
「アンソニー、落ち着いて。とりあえずメイド喫茶でも探そうか。客引きしているメイドさんに声をかければ多分お店まで連れていってくれると思うんだ。」
「…。」
ついさっきまでたくさんのメイドさん達に興奮していたアンソニーはシリアスな顔をしながら僕の方を向くだけで、何も反応してくれない。もはやこいつは情緒不安定だ。
「…あぁ、難しい言い方しちゃったのかな?どうしよう。うーん、とね…」
「…ソータ。タイヘンデス。」
アンソニーは目を細めながら、視線をそのまま少し上の方に向け、僕の頭の上を通り過ぎ後方を見つめた。
朝から思ってはいたが、本当にかっこいい顔してるな。徹平や璃音とはまた違うセクシーさがある。男の僕でも惚れ惚れする。これで怖くなかったら完璧だ。
アンソニーの視線につられて振り返り、目を細めるとその先には客引きをしているメイドさんの中で一際目立つ美女が立っていた。
燦々と照りつける太陽のせいか、金色に輝く美しい髪にピンクのインナーカラーが映え。アイドルのようなフリフリの可愛いらしいメイド服にモデルさんのような細くスラッとした体型が生むミスマッチが、周りのメイドさん達と比べて背が高いことも相まって、より一層彼女を目立たせてた。
アンソニー…確かにこれは「タイヘン」だよ!!
ドキドキが止まらない!
僕にとってもドンピシャ、ど真ん中のストライクだよ!
僕はすぐにアンソニーの心の内を察し、そして共感まで一瞬に済ませたが、彼の足は既に彼女の方へと向かっていた。僕の横を通り過ぎ、その女性と結ぶ直線上をまっすぐ進むアンソニー。彼の持つ威圧感と圧迫感のおかげか、目の前の障害物達が面白いようにスッと道を開ける。
正に猪突猛進だ。
てか、気が早すぎる!
もう少し我慢するという事をお母さんから教わらなかったのか!?
落ち着け!!
と声をかけようと思ったものの、日本語で言うべきか、英語で言うべきか迷い、ワンテンポ遅れてしまった。
というのも「落ち着いて」は英語で「calm down!」という事は知っている。どこかで見たことのある僕の豆知識だ。しかし、それは字面として知ってるだけで、なんて読むのかが分からない。
「かるむだうん?」なのだろうか。
でも、「can」は「キャン」って読むしな。「ca」は「キャ」の可能性もある。そうすると「きゃるむだうん?」
…えぇ、なんかそれ変じゃない??
まぁ、どっちにしても英語Lが入ると急に分からなくなったりする。これ、「る」でいいの?いや、Mもそうだ!「ム」と読んだり、「ン」と読んだりする。
英語の法則がイマイチ僕にはピンとこない。
と、そんな事で悩んでいる間にもう既にアンソニーは僕とその女性との中間地点にいた。
今走ればまだ間に合う!
が、あの巨人の暴走を自分一人で止められるのかという不安が僕を躊躇させた。
僕は何も出来ずその場から動くことなく立ち尽くしていた。
動け!僕の足!
恐れるな!被害が出る前に!!
と自分を奮い立たせ、やっと彼に近づくことができた時にはアンソニーはすでに美人メイドさんの前で立ち止まっていた。
どんなにイケメンでも彼は引かれてしまう可能性がかなり高い。よってちょっとイケメンじゃない僕は彼の仲間だと知られた時、もっと引かれる可能性も高いことになる。
そりゃあ、あんな素敵な女性と僕の間に間違っても何も起こらない事は分かってはいるさ。僕は分をわきまえることができる男だ。だが、素敵であろうがなかろうがそもそも女性に引かれる事だけは絶対に回避したいと思うのが世の男の心情だ。
しかも、ここにはたくさんのメイドさんがいる。これだけの人達に取り返しのつかない姿を目撃されたら、メイド喫茶に行くという簡単な目標さえ遠退いてしまう。
お願いだから間違ったことだけは言わないでくれ。
僕にはもう祈ることしかできないっ!
なるようにしかならない!
僕は手を握り締め、目の前の現実から目を背けるように地面を見つめる。
その時だった。
まだ彼らとは距離のある僕の耳に
アンソニーの甘えた声が微かに届いた。
「ピカチュウ〜♪」
「…。」
「ピッカピカ〜♪ピッカチュ〜ウ♪」
おいおい、アンソニー。
君という奴は…よりにもよって。
それはマジでダメなやつだよ。本当のNGワードだ。
日本で問題になったのを知らないのか?
あんなエセナンパ師の言う事なんて信じるなよ。
次回予告
4話 丁度いい




