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1話 道

僕達はすぐに準備を済ませ、この浮かれた巨人と裾丈が合わず靴下が丸見えになっている変態サングラス野郎と単なるバカを連れて駅へと向かった。

僕の足が短いと言われているようで凄く嫌な気分なのだが、そのコンプレックスの対象がここまでダサいと尚更、嫌な気持ちになってくる。




行きの電車の中で、アンソニーは何かを喋らずにはようで大声で覚えたての日本語を披露する。


なんとも微笑ましい光景なのだが



そのどれもが下ネタだ。



周囲の視線が痛い。そのどれもがアンソニーではなく、保護者である僕に向けられている。


なぜ僕一人なのかと


というのも、徹平はアンソニーの下ネタ講座を「うんうん」と聞いている。しかもスーツにサングラスと、格好もヤバイやつだ。周囲の人からしたらアンソニーだけではなく、徹平も含めて「ヤバイ奴ら」なんだ。


そして、璃音くんは終始テンションが高いアンソニー達から距離を置き、他人のように振る舞っていた。



僕一人が嫌な思いをするメカニズムは分かる。

だが、心底、納得いかない。




駅に着き、電車から降りたアンソニーは額にシワを寄せ目を見開き、首を小さく横に振りながら「Amazing....」と僕達に訴えてくる。


まだホームだというのに。


とにかくオーバーリアクション過ぎる。

それはオーロラなど感動的な自然現象を初めて見た時くらいのリアクションだと思うのだが、彼にとってはそういうレベルの感動ということだろう。ここまで喜んでもらえると、態々来た甲斐を感じられる。

何を見てもAmazingを繰り返しその言葉の通り信じられないという表情を続けるアンソニーを連れ、電気街口へと出た



その時だった。



アンソニーが壊れた。



「So fuck'in jap Megacity!AKIHABARA!Yeah!」

「おう。でも実際は結構チャイニーズもいるけどな。Yellow Megacityの方がいいんじゃねぇか?」


最悪だよ。

日本の中心街で日本人に向けたスラングを叫んでるなんて。実際発音が良すぎて周りもあまり聞き取れてないとは思うが。ほらほら、明らかに君と同じ白人様が軽蔑の目で見てるぞ?ここは君のお仲間もたくさんいるんだ。軽率な行動は避けるべきだよ。


興奮しているアンソニーは、近くにいた男性二人組に駆け寄る。


「ダメだってアンソニー、いくらそのキャラが好きだからって人が着てるTシャツ引っ張っちゃ。その人困ってるから。」

珍しく徹平が悪ノリをしない。そういうとこは成長したんだなと素直に感心する。

「oh...Shit!!!スミマセンデス。仲直リデス」

と両手を広げるアンソニー。

「すみません、連れが常識なくて。」

「…あ、いえ…」

とだけ言って、その二人組は逃げるように小走りで消えて行った。

「日本人はシャイだからさ。ハグはしないよ。そこは気をつけろよアンソニー。」

「ハァイ…」

徹平、それは今じゃない。

それはアンソニーが僕にキスした時に言うべきだ。

「まぁ、とにかく俺がいなくても、ちゃんと2人の言う事聞くんだぞ?」



「…ん?」

と僕と璃音くんは顔を合わせた。

「OK、ワカリマシタ。」

「じゃあ後は任せた。」

徹平は僕達に近づき僕の手を両手で力強く握るとそう言った。


冗談じゃない。

こんなやばい光景を見せた後によく人任せな事言えるな。10分毎にアンソニーに対する印象は大きく変わってるんだぞ。

今は悪い方のアンソニーだ。


「何言っちゃってるの?」

「ごめんごめん。俺、どうしても今日中に行っておきたい所があるんだ。出来るだけ早く戻るよ。」


これ以上先のことは聞かないでくれと言わんばかりに真剣な顔で僕にそう言う徹平。

常識的に考えたら、連れてこられた身である僕達にアンソニーを任せるのは筋違いなのだが、ここまで真剣な顔をされると、何か意図があるのかと勘ぐってしまう。サイズの合わないスーツを着てまで回らなきゃいけないところってどこなんだ?


まぁ、僕一人じゃない。璃音くんもいる。徹平が居なくても然程大きな問題はないか。

「わかったよ。ちゃんと戻って来いよ?」

「おうよ、可能な限り急いで戻ってくる。」

大きく手を振り駅に戻っていく徹平を僕達は無言で見送った。



さて、どうしようか。

とりあえずここは璃音くんに仕切ってもらうか。

「璃音くん、どうするの?僕全然この街詳しくないんだけど。」

「僕も。てか、とりあえずお腹空いたんだけど。」

明らかに御機嫌斜めな璃音くんが不貞腐れてそう言った。


あぁ、そうか!

彼はまだ朝食を食べてなかったな。僕はまだお腹空いてはいないものの、食べられないと言うわけでもないので、付き合う事は吝かではないのだが、果たして、アンソニーはどうだろうか。

「まぁ、僕は別にご飯でもいいよ。どうせ何処かで昼ごはん食べるんだし、今の内っていうのもアリだと思う。」

「そっか。アンソニー、僕お腹空いたんだけどラーメン食べに行かない?」

「Holy shit…。」

と言いながら目をパチクリさせるアンソニー。どうやらもっと上のリアクションがあったらしい。凄いなラーメンの力って。

「そしたら、何処か良いところ調べようか?」

「じゃあ、僕何処かいいお店あるか調べるよ。別に豚骨でも醤油でもなんでもいいよね?」


おぉ、璃音くんが自ら率先してくれている。これもまた成長を感じさせてくれる一面だ。以前よりも頼もしくなっている。


数分待つと璃音くんが「こっち」と案内を始めてくれた。僕はウキウキで付いて行くアンソニーの少し後ろを歩く。


やばい、今になって睡魔が襲って来やがった。

これ、ラーメンなんて食べちゃったら100%眠っちゃうな。僕は眠い目を擦り一生懸命付いて行った。途中で様々な人が目につく。アンソニーと同じ観光目的であろう外国の人達、メイドさんの格好や女子高生の格好をしている女性、そこに群がる男性、秋葉原を練り歩くベテランのような感じの人、かと思えば今度は普通のOLさんやサラリーマンの人達。やはりあの秋葉原といっても、オフィス街である事には変わりない。

たくさんのビルがどこまで続くのかと思ってしまう程並び立っている。これぞまさにオフィス街!というような風景はもう何年も見ていない気がする。僕の職場は都心部から少しだけ郊外の所にある。充分都会なのだが、やはりこういった場所を見ると違いを感じる。

しかし、本当に暑い。僕が住んでいた田舎も暑かったけど、こういう蒸し暑さではなかった気がする。




うん、ていうか




「ねぇ、いつまで歩かせるの?」

「…。」


「ここどこ?」

僕が問いかけると立ち止まる璃音くん。こちらを振り向く事なくただ無言のまま空を見上げた。


「おーい。」

「…ごめんなさい。」

「何がごめんなさいなの?」

「…ここどこだかわからない。」


二度と先導するな。

君は仕切っちゃダメなポンコツキャラなんだよ。なぜナビを使わない?前言撤回だ。全然頼もしくなんてないぞ。

てか、寝顔変なんだよお前。


「はぁ。ちょっとそれ見せて。」

璃音くんからスマホを奪って地図を確認する。


うーん、ちょっと待てよ、えーっとここが今いるところだから…ん?マジかよ…この子ナビ使ってんじゃん。目的地に近づきすら出来ないってどうゆうこと?


この青い矢印が何か理解してないってことか?


「アンソニー…戻るよ。」

「Why!?ソータ!ナンデデスカ!?」

「璃音くんが道を間違えたんだよ。バカだからね。僕が案内する。」

「リオン!!!!!バカ!!チビ!!ヘタレ!!オカマ!!クズ!!カス!!…チビ!!!オカマ!!!…」

とアンソニーが真っ赤にした自分の顔を璃音くんの顔に近づけ、立てた中指を突きつけながら責め立てる。

挙げ句の果てには

カーッ!!ペッ!!

唾を璃音くんの足元に吐いた。



えぇ…。

そこまでする??

暑い上に眠いし、僕もそのせいで相当フラストレーション溜まってるし、怒る気持ちは痛いほど分かるが、それでもそこまで言う?

それでも涙を流さず、無言でついてくる璃音くんをたまに振り返っては確認し、僕は先頭に立ち今来た道を戻る。その間、アンソニーは何度もブツブツと璃音くんに向かって英語で文句を垂れていた。

それを黙ったまま耐え続けているそのメンタルだけは認めよう。確かに君は強くなったと思う。今はただ彼を讃えてやりたい。




あれー?おかしいな

ここら辺なんだけどな。

僕は目的地付近で立ち止まり、璃音くんのスマホを横にしたり縦にしたりを繰り返す。




「おい…メガネ、まだ??」

「は?」

「は?じゃないよ。まだ?」

「いや、もう近くだから。待ってよ。」

「は?そんなの関係ないよ。僕達が今立ってるところはラーメン屋じゃないじゃん。道じゃん。ねぇまだ?メガネ!」

「カーナビだって目的地付近で案内を終わらせるんだぞ?案内なんてそんなもんじゃないか!ちょっと待ってよ!」

「僕だって…目的地周辺だった…。それをそーたくんは…。」

「嘘つけよ!正反対だったよ!あのまま進んでたら、東京超えて、横浜突き抜けて海だよ!」

「まだぁ?」



ダメだこいつ。

このチビは言い返せなくなると聞く耳を持たない。僕の言葉を受け入れすらしない。徹平よりタチが悪い。

クソ…立場が逆転してしまった。


いや、違うぞ!

本当はされていない!

少なくとも僕は近くまで案内出来ている。全く関係のない場所まで歩かせたこいつとは貢献度が違うんだ!彼に責める資格などないはずだ。


そんな自分の事を棚に上げた璃音くんは

「まだー?ハゲ。」

とおでこが広い僕のコンプレックスを煽ってくる。


ヤバい。

ほんと…泣きそう。

昨日もう泣かないって決めたばっかなのに。

あ、それはやめて。

アンソニーと英語で話さないで。


「待て!待って!もう近くだから!ほんと目と鼻の先のハズだから!」

璃音くんにコクリと頷き、アンソニーが中指を立てながら僕に近づいて来る。

「…近くだから!ニア!ニア!ニアリー!」



その日食べたラーメンの味を僕は覚えていない。

美味かったのか、それともそういった味ではなかったのか全く思い出せない。

ただハッキリと記憶にあるのは、アンソニーが満足そうにラーメンを食べていた微笑ましい姿と、璃音くんが満足そうに僕を蔑んでいた憎らしい姿



そして…2日連続で泣かされた事だ。


次回予告

2話 有名税

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