4話 やめて!!水かけないで!
徹平とアンソニーが交互にシャワーを浴びた後、僕達は寝ている璃音くんを放っておいて、徹平の作ってくれた朝食を頂いた。
目玉焼きとベーコンに焼いたパンが一枚。
そして、ベビーリーフがメインのサラダ。
非常に在り来たりな朝食だが、この在り来たりな朝食ですら僕にとっては懐かしい理想の朝食だ。
たかがパンでも、僕が焼いたものとは比にならない程美味い。そのことを徹平に聞いてみると、どうやらたった一手間、少し水分を含ませるだけで焼き立てに近く、焼きたてのパンにはない熟成された芳醇な香りを引き立たせる事ができるらしい。
食事の最中だったが、先ほどのサプライズプレゼントについて詳しく聞いてみた。
「あのさ、さっきの押入れのやつさ。」
「あぁ、マッピングのことか?」
「あ、うん、そう言うの?あれさ、凄かったんだけどどうしたの?徹平が作ったの?」
「いや、アレはアンソニーが作ったんだよ。俺はバックで流れてる曲を作っただけ。で、アンソニーにミックスと同期をして貰ってさ。」
「え、曲も映像もあそこで作ったの!?」
「おう、あれくらいならどこでも作れるぞ?細かい編集はしてないし。」
なるほど!
途中からサッパリわからんが、まぁ、詳しく聞いたところで多分理解できないだろう。
「アンソニー、凄いね!あの映像凄く楽しかった!」
「サンキューデスネ。ウレシイネ。」
さっきまで少し気持ち悪いと思ってたが、今となっては僕のヒーロー的存在だ。こういう人は凄くかっこいいと思う。
既に僕はアンソニーに興味津々だ。
ファーストキスがこの人で良かったとすら思えている。
「さっきさ、アンソニーはレコーディングエンジニアの勉強してたって紹介したけど、実はこっちが本職なんだ。こいつはマジで何でもできるぶっ飛んでるクリエイターなんだぜ。」
「へぇ、ああいうプロジェクションマッピングをする人をなんていうの?職種っていうか。」
「あぁ、VJじぇね?」
「VJかぁ。なんか、DJみたいだね。」
「まぁ、似たようなもんだしな。」
「そうなんだ!また一つ勉強になったよ!」
「でも、日本じゃまだまだマッピングやるVJ少ないらしいな。」
「そうなの?プロジェクションマッピングはよく見るけど?」
「日本の場合、殆ど企業が請け負ってるんだよ。実際個人として食っていけてる奴は少ないんじゃないか?」
「へぇ。そういうものなんだ。」
「いい意味でも悪い意味でも、飛び抜けた個が中々明るみに出ないのが日本の社会だからな。本当の意味でのクリエイターを生み出すには、適してない社会だと思うよ。ほら、日本って企業に入ってなんぼなとこあるだろ?」
「うん、確かに。でも、企業に入らないとお金貰えなくない?」
「それが日本と向こうの大きな違いなんだわ。向こうでは社会自体が飛び抜けた個をかなり重要視してるから。才能のある奴は企業から直接依頼がくるってわけよ。だから、個人で生きていける。皆んなその成功を目指して努力するんだよ。逆に、日本は個人技よりも組織力がデフォルトの社会なわけだからチームとして作品を作るのが基本なんだわ。」
言われてみればそうかもしれない。
高いレベルは求められるけど、飛び抜けたもまでは求めてない。
一人だけ飛び抜けていたって結局そこに皆んながついて行けなきゃ意味がないし、それが組織を乱すケースもある。だからこそ、日本のクオリティはどこでも安定していて全体の質のバランスは凄く良いという特徴もある。
「明るみに出て来づらい社会ではあるよ。まぁ、良くも悪くも日本は安定した世界ってことだよ。あくまでもVJの世界についての見解だけどな。」
「そういうものなんだね。」
「おう、日本とアメリカどちらがいいって訳じゃないさ。それにアンソニーが言うには、プロジェクションマッピングってあんまり難しい物じゃないらしいぜ。今じゃソフトウェアの技術もどんどん進んでて、勉強すれば結構誰にでも出来るらしい。」
「え、じゃあ僕でも出来るのかな?」
「出来るんじゃん?やる気と根気さえあれば。」
おっと、徹平とばかり話し込んでしまった。
アンソニーに少し悪い事をしてしまったな。
「アンソニーはさ、レコーディングエンジニアの他にそういう映像の仕事をするつもりなの?」
「ハイ。」
「そっか。いい仕事見つかるといいね!」
「ハイ。」
ハイとだけ応えるアンソニーは、なんだか上の空というか、ソワソワしているように見えた。
「どうしたの?何かあった?トイレならあっちだよ?」
僕の問いにアンソニーはモジモジしながら口を開く。
「テペィ、ソータ、アキハバライキマス?」
あぁ、そういうことか。
よくテレビでもやってるけどやはり外人さんにとって秋葉原というのは魅力的な街なのか。
「そうか、日本に来たら連れて行くって約束してたな。よし!今から行くか!?」
「フゥー!!!!フゥー!!!!I 」
コミュニケーションに多少不安はあるが、これは僕にもわかる。
アンソニーはどうやら喜んでるらしい。
こうやってみるとデカくても可愛いものだ。
「おい、璃音!起きろ!何ふざけた顔してんだ。今日は遠足だぞ。」
徹平の足元で気持ちよさそうに寝ている璃音くんを足蹴にし起こし始めた。一向に目を覚ます気配のない璃音くん。
「…。」
「おーい璃音?」
今度は足の裏で璃音くんの顔を踏みながら捏ねくりまわす。こうやって見るとなかなか凄い光景だ。
顔を踏まれるってだけでもこんなにショッキングな絵になるのに、顔が酷いから尚更だ。哀れそのものと言える。
「…。」
彼の寝起きの悪さには僕も苦労したことがある。こんなに寝起きの悪いのはもはや漫画の世界くらいだと思うほどに何をやっても起きない。
「おい。」
「…。ゴフッえ?!あ、やめて!ゴフッ!!な、何?!これ、え!あっ!顔に水かけないで!!」
痺れを切らした徹平水攻め攻撃が功を奏したようで、璃音くんは慌てて目を覚ました。本当に容赦ない。
「ほら、そーたも行こうぜ?」
「あっ、僕は…。」
僕はおかげさまで徹夜明けだ。
先ほどの押入れマッピングによる興奮のおかげで目が完全に冴えてるとは言え、少し寝ないと流石にヤバい。一緒に行ってあげたいのは山々なんだが。
「予定ないんだろ?バレバレだぞ!ほら、行くぞ。」
「わかった、わかったから!やめて!!水かけないで!」
もう床と布団がビショビショだ。
「あ、そーた。」
ん?今度はなんだ?
「スーツ貸してくれ。」
3章終わり




