3話 ご褒美
「お、お待たせ…。」
バカだろお前ら。
押入れから出てきた2人は汗だくでハァハァと息を切らしていた。まさに2人の関係を怪しんでも決して僕が間違ってないと断言できるような絵面だ。
超気持ち悪い。流石にドン引きだ。
アンソニーは僕の横に仰向けで倒れこみ、その顔は「やってやったぜ!」と言わんばかりの満足げな表情をしていた。
「…二人共、押入れで何してたの?」
「秘密♡」
僕とテレビの間で仁王立ちする徹平が笑顔で応える。
キモいよほんと。
てゆうか邪魔だよ。
「ちょっと空気を入れ替えよう!」
と徹平が押入れを開けるとムワッとした空気が流れてきた。
ただただ不快でしかない。
僕にプレゼントってまさかこのムワッとした空気って事じゃないよな?僕はそれをご褒美だと思うほどの特殊な人間じゃないぞ。そう思われるような行動をとった記憶はない。
それから少しばかり時間が経ち、呼吸を整えた徹平が
「よし、そーた!これが俺た達からの感謝の気持ちだ」と押入れを指差す。
「え、どうゆうこと?」
「ん?中に入ってみ?」
「え、ヤダよ!!」
大の男2人が長時間篭って、汗だくで出てきた押入れだぞ?絶対嫌に決まってるだろ。
しかし、そんな僕の気持ちを察しようともせず、徹平とアンソニーは僕の両腕を持ちニコニコしながら無理矢理押入れに連れ込もうとする。
「やめ、やっ、やめて!お願い!え、何?強い!何その強い力!?ガチじゃん!!ほんと勘弁して!」
僕の懇願と必死の抵抗は報われる事なく押入れの中に入れられてしまった。
中は意外にもさっき感じたムワッとした空気は既に無くなっていた。空気の入れ替えは完了したということだろう。
すると、徹平が
「このヘッドホンをして、中央に仰向けになって。あ、向きはこっちを頭ね。足元にある機材は絶対に蹴らないでくれよ?あと、コンセントなんかも左側にあるから触らないように。」
といくつか僕に細かく指示をする。
何だ?何だ?と思いながらも、取り敢えず言うことを聞く。
「じゃあごゆっくり」
と完全に締め切られてしまった。
何が何だか分からず、ただ天井を見つめる僕。
すると
何やらどんよりとしたノイズのような音が聞こえ、次第に小さくピアノの細い音が鳴り始める。
暗くどこか悲壮感が漂う平坦なフレーズが繰り返される。
それ以降大した展開もなく
僕は正直、退屈な音楽だと感じた。
しかも
その音楽は次第に音数も減り、トーンがフェードアウトしていく
終わりか
まぁ、真っ暗な中で聴く曲ではあったのかな
と僕が気を緩ませたその瞬間だった。
鋭く耳を壊しにくるようなフレーズとともに重く太いベース音が喧嘩をするように鳴り出す。
大爆音の音楽と共に天井一面に映像が映し出され、その映像が音と連動しながらいきなりこちらに迫ってくる。
僕は
うわっと声を上げ
両手で顔を覆い隠してしまった。
凄い!
ここ僕の家の押入れだよな?!!
これ、知ってるぞ!
これはプロジェクションマッピングって奴だ!!
こんなとこでも出来ちゃうのか!?
嘘だとわかっていても、体が反応してしまう。
ガラスのように天井が割れ、その破片が飛んでくる。
なんて…
なんて楽しいんだ!
まるで某テーマパークの人気アトラクションような感覚で、いや、もはやそれ以上の刺激的な時間に僕は心の底から酔いしれた。
あまりの迫力ある映像と痺れるようなサウンドの余韻に浸っていた。
気づくと押入れの戸は開いていて、二人が僕の顔を嬉しそうに眺めていた。
感無量とはまさにこの事だ。
まさかこんなものを見せてくれるとは。
二人は僕の為に物凄く暑い中黙々とこの準備をしていたのか。全然キモくなんてなかった。
むしろ、カッコ良すぎだよ。
どうだと言わんばかりにドヤ顔を披露してくる2人。そんな顔見せられても腹は立たない。いや、そりゃ誰だってこんなもの作ったらドヤ顔するのも当然だ。
「どうだった?」
「ヤバイ。あのさ、もう一回いい?」
「どーぞどーぞ。」
何回繰り返しただろうか。
僕はその後飽きるまで彼らの作品を堪能し続けた。
次回予告
4話 やめて!!水かけないで!




