1話 いやらしいキスとそうじゃないキス
不意を突かれた僕はグーのまま固まってしまい、呆気なく2人の出したパーに負けたのだった。
徹平は戦略通り上手くいったとニンマリと笑っていたが、璃音くんは勿論そんな戦略に気づくことなく、自力で勝ち進み、なんとその後の決勝戦でも徹平の戦略にハマることなく奇跡的にベッドの権利を獲得した。しかし、最終的には徹平は璃音くんが寝静まったのを見計らって、無理矢理ベッドに潜り込んだ上、璃音くんをベッドから突き落としていた。
その一部始終を黙って見てからもう1時間は経っているだろうか、それともまだ30分なのだろうか、どちらにしても僕は寝れないでいる。
イグレシアの中で特にこの二人と仲が良かったのは璃音くんと同い年の流星だ。彼はいわゆるコミュ力の鬼。いつも明るく気さくで棘もなく、メンバー内で一番常識があり、誰よりも純粋に「成功」を目指していたように感じていた。
そして、解散後も芸能界に残り音楽を続けていることを僕は知っている。そういう意味では僕の仲間になるが、彼の性格から察するに、残った根本的な理由が違うことはなんとなくわかっている。
果たして彼もまた、徹平達と同じく昔のように接してくれるのだろうか。
もし違った場合、どう接すればいいのか。
気が楽になったとはいえ、昨日の今日だ。
やっぱりまだ怖い。
なんて事を考え込み、結局寝付けなかった僕を、もしも時間が取り戻せるのであれば殴ってやりたい。
「もう一人」という言葉で流星が来るものだと早とちりをしていた僕の目の前には、全く見覚えのない人間が立っていたのだ。
細い鼻筋がスーッと通り、人の顔が立体的であると気付かされる程に鼻と目頭の高低差がハッキリした顔立ち。美しいブロンドヘアはかっちりと固めて右に流し、サイドは刈り上げている。背はざっと180cm以上はあるだろうか?隣にいる徹平でも敵わないレベルのスタイルの良さだ。
今まで見たこともない程完璧なイケメン
…いや、イケメンという言葉は似合わない気がした。
そう、これはイケメンではなく
「ハンサム」だ。
なぜなら彼は…
「アンソニー、挨拶は?」
「ヘーイ、ジャップボーイ。私ハ?Anthony Burtonデス。日本スゴイネ、好キデスネ。好キダネ?」
日本人ですらない。
てか、この際国籍なんてどうでもいい。
そんなことよりもこいつ、今言っちゃいけないこと言ってなかったか?英語を喋れない僕でもこれはわかるぞ。
日本が好きだと?
本当に日本が好きなら出てくるはずのない言葉だ。
まぁ、実際ジャップって言われてもピンとこないんだけどね。蔑称だってことは知っているけど、その言葉に腹が立つような環境で育ってはいないし。
しかし、その点をスルーしたとしても、今、朝の6時なんだが。こんなに早く訪ねてくるのはどこの国でも常識的にアウトだろ。
「アンソニーは俺と同じストラスバーグでエンジニアの勉強をしてたんだ。日本のサブカルが凄く好きみたいでさ、以前から日本で生活してみたかったんだとよ。」
「…でもさ、今、ジャップって言ったよね?」
「あぁ、こいつ日本のサブカルが大好きなだけで、黄色人種の男は見下してるんだよ。女には優しいからそこは安心していいよ。」
この金髪レイシストが女に優しいとなぜ僕が安心するんだ?お前、マジで頭大丈夫か?
「ハーイ、私日本ノ女ノ子大好キデス。」
「ハハハ、相変わらずだなぁお前は。向こうじゃジャパニーズに全然モテねなかったもんな!」
「ムー!ソレハ言ッチャダメデスヨー!」
「ハハハ、悪りぃ悪りぃ!そういう事だから、そーた!アンソニーも泊めてやってくれないか?」
「そういう事ってどういう事?僕、何が何だかわからないよ。」
「アンソニーも俺達と一緒で家なき子なんだよ。入居できるまでの間だからさ!マジでこの通り!頼む!俺の大事な友達なんだ!」
「この通りってどの通りよ。徹平さ、ただ突っ立ってるだけじゃん。手を合わせたりさ、なにかしらの動作が連動してないから、「この」が何を指してるか僕にはサッパリわからないよ。」
「…そう言われればそうだな…。」
肩を落とす徹平。それを見て、あわあわと不安そうな表情を見せる白巨人。
え、何もしないの?
取り敢えず、土下座とかすればいいじゃん。
大事な友達なんだろ?そこは頑張れよ。
「…テペイ…?」
「悪りぃ、アンソニー。聡太が…見返り求めてきた…。どうしたらいいのか…わかんねぇ。」
「見返リ…デスカ…。私、ナンデモスル!」
そう言って、白巨人は僕の前に立つ。
もの凄い威圧感だ。
アンソニーさんは僕の両脇にスッと手を入れそのまま持ち上げた。
「ちょ!何!?やめてよ!ストップ!ストーップ!」
言葉が通じるのかも怪しい人間に何をされるのか想像も出来ない怖さと言ったら…そりゃあもう、ちびっちゃうんじゃないかと思ってしまうほどの恐怖だ。
僕は必死に足をバタつかせ、脇を支えている手を外そうとするが、半端じゃない身長差と力だ。為すすべがない。
とその時だった。
チュッ
…。
チュッチュ
…やっ…。
チュッチュッチュ
…やめっ、あっちょっ…。
チュッチュッチュチュチュチュッ
…やめてっ…ん!
まぁ、キスはキスなんだが。
例えるならパパが溺愛している赤ちゃんにするといった感じだろうか。ディープキスではなく、唇の柔らかさを確認するかのような軽いリップキスだ。
優しくあやすように何度も何度も…
僕の目に映るアンソニーの顔からいやらしさというものは感じられない。寧ろどこかキスはエッチなものと思い込み、恥ずかしい気持ちになっている自分がバカらしくすら思えてきた。
だけど
やり過ぎだ。
「泊めます!!泊めます!!止まってください!!」
「本当か!?そーた!?やったな!アンソニー!お前の思い届いたみたいだぞ!!」
「ヤッター!!アリガトゴザイマシタ!ヨロシクデスネ!!」
アンソニーは僕を降ろし、背中をバンバンと叩いてきた。
「…ハハハ、痛い…。よ、よろしくねアンソニー。僕はそーたって言います。痛っ。」
「ワー!イイ名前デス!」
「ハハ…ありがとう、アンソニー。」
お前にいい名前かどうかわかんのか?耳へんってだけで、恥太ってあだ名つけられる身にもなってみろってんだ。
てゆうか、ファーストキスもセカンドキスもサードキスも、なんなら一生分のキスを奪いやがって。相手が金髪のアメリカ人って聞こえだけは悪くないが、気分は最悪だ。せめてファーストキスくらい、いやらしいキスであって欲しかったぞ。
次回予告
2話 プピー




