7話 プロって…なんなんだろう
「バ、バババ、バンド!!?」
「おう。向こうでずっと色んな奴とバンド組んでたよ。俺の学校にも図々しく出入りしたりしてさ。」
「マジ!?凄いじゃん!」
「へへへ。」
照れ笑いを浮かべ自慢げに親指を立てる璃音くん。
「バンドってことは…ベース?」
「うん!へたっぴだし、英語も分からなくて本当に苦労したけどさ!でも、向こうじゃ僕達のことを知る人なんて誰一人いなかったから、その分、伸び伸び過ごせたよ。」
「へぇ…。君達って、なんていうか…本当に…。」
本当に凄い行動力だ。
それだけじゃない。徹平はさて置き、璃音くんはいつもあわあわビクビクしていた記憶がある。そんな子が…徹平という心強い保護者がついてたとは言え、実力も無ければ言葉も分からないのに…。成長したんだな…。
それに比べてこの2年間の僕は…
本当に自分が情けなく思えてくるな。
なんだか璃音くんに置いてきぼりを食らったみたいな気分だ。
「やっぱ、アメリカって凄いんでしょ。音楽の本場っていうの?行ったことないから詳しくは分からないけど。」
「凄えってもんじゃねぇ。そこら中化物ばっかだ。」
「しかも、聴く側もね…。」
「…おう。」
「なになに?」
「「容赦ない。」」
「…そうなの?」
「平気で面と向かってボロクソに言ってくんだよ。オーディエンスだけじゃねぇんだぜ?一緒にやってる仲間だって、先生だってそうだ。ありゃ相手がアジアンだから見下してるとかそういうレベルじゃねぇ。多分文化的に物事をハッキリ言う習慣が染み付いてんだ。」
「うん、地獄のような日々だった…。一時は本当に追い詰められてさ…「アメリカでは底辺だけど、日本人にしては凄いんだ!」って思いたくて、日本にいる同い年くらいの音楽やってる子達の動画とか曲とか聴いたりしてさ…。」
「そうそう。絶好の精神安定剤だと思ってな…。俺たちは日本に帰ったらすげぇんだぞ!待ってろ!みたいな。」
「うん…初めはそう思ってた。でも…」
「聞けば聴くほど…日本もレベルが高え。てかアメリカと違ってまた細けぇんだよな…。」
「うん…。単に僕達がセンス無さすぎて、レベルが低いってだけなんだよね…。世界って広いんだなぁって。」
「全部嫌になって2人でマイアミまで逃げたよな…。」
先程まで散々人をコケにしたりふざけたり、揚々としていた2人の表情は次第に曇り、心なしか顔も徐々に俯き気味になってきた。
なんて感情の起伏が激しい奴らなんだ。
「ちょ、ちょっと!二人とも!どうしたんだよ!始めは誰だって上手くいかないものじゃん!それに手ぶらで帰ってきた訳じゃないんでしょ!?」
「「まぁ…。」」
そう言って少し不安げな表情で顔を見合わせる2人。
「行って良かったとは思ってるよ。始めどころか、結局最後までキツい毎日には変わりなかったけど…それでもあんだけ揉まれりゃ多少なりとも上手くなったはずだしな。」
「うん。それに僕達は心が折れたまま帰ってきたわけじゃない。どこにいようが関係ない。世界は広い。アメリカは広い。そして日本も広い。どこの国がレベルが高いだとか、そんなの…僕達如きの分際が考える事じゃない。単に世界にはヤバイ奴らが沢山いて、僕達はその中にいるちっぽけな存在なんだって事を知れた。」
「おう!!俺達には1ミリも才能がない!!」
「そうそう!アメリカに行ってよかった!だって昔より…少しだけ…。」
「「自分を否定できるようになった!」」
まるで2人が前以て決めていた合言葉かのようにシンクロさせながら僕に向かってそう言った。
凄い。
何が凄いのか僕には分からないくらい凄い。
2年前まではオリコンに名を連ねていたプロのアーティスト。
今は…紛れもなくただの…アマチュアだ。
なのだが…
あの時よりもずっとプロのアーティストっぽい。
益々わからなくなる。
プロって…なんなんだろう。
「そーた?」
「ん…あぁ、何?」
「まぁ、そんなこんなで帰ってきてよ。とりあえず2人の貯金で昼間、家を買ってきたんだ。まだ入居できなくてよ、それまではよろしく頼む。」
「は?え、話そんな飛ばすの?え!?家!?」
「おう。俺達、今じゃ落ちこぼれだがそれなりに稼いでたんだぜ?お陰でほぼすっからかんだがな!」
「…いくらしたの?」
「「2000万円!」」
…まぁ、そんなことか。馬鹿げた買い物だとは思うが、確かに2人の稼ぎならそれくらいは…無理をすれば無理ではないか。
立地と築年数に目を瞑れば東京と言えど見つかるのかもしれない。
「2DKとか?」
「ううん。8LDKで離れ付き。」
「…はぁ?ちょっとその書類見せて。」
璃音くんが自慢げにヒラヒラと見せつけてきた物件資料を奪い取り、詳細に目をやる。
案の定、築年数も立地も悪い。住所は八王子。いや、八王子だがこれは殆ど神奈川県の相模原と言っていい。
だがそれでも都内で8LDK+離れ付き物件がこんな金額で買える訳がない。
絶対に事故物件か何かだろ。
「あのさ、幽霊出たりしないよね?」
と僕は率直な質問を投げつける。
「え?」
璃音くんは僕の問いかけに焦りの色を隠せず、僕達の顔を交互にキョロキョロ見ながらどちらかが口を開くのを待っているようだった。
「ここまで安いと曰く付きとか事故物件とか。そうじゃなくても何かしら欠陥があるとか、そういう可能性もあるんじゃない?」
「ハハ、そーた…それは漫画の読みすぎだわ。ないない!信用に足るコーディネーターだったしな!」
「不動産会社はどこ?」
「ポヨヨン不動産ってとこだよ!」
「…ほら、聞いたことないもん。怪しいと思わなかったの?」
「全然。凄く良い感じのおばちゃんだったよな?」
「う、うん!僕達がアメリカ帰りって話したら、おばちゃんも昔ハリウッドで女優やってたって教えてくれて意気投合!」
「向こうではオードリーと友達だったって聞いてビックリしたよな!」
「オードリーってまさか…オードリー・ヘップバーン?」
「そうそう。最近飲みに行ったって言ってたよな!」
「このおばちゃん凄い人なんだと思って、サイン貰っちゃったよ!」
いや、随分前に亡くなってるよ…その人…。今となっちゃ伝説の域に入ってる歴史に残る女優さんだよ。
「あのね!その離れを自分達のスタジオにしようと思ってるんだ!」
「おう!頑張ろうな!璃音!」
「うん!」
「…はぁ。」
「なんだ?羨ましいか?住んでもいいんだぜ?部屋ならいくらでも余ってんだ。」
「全然。絶対ヤバそうだし。でも、なんでこんな立地の物件買ったの?近くに駅ないし。都心部出るの大変だよ?2人で住むならもっ」
その時
バンッ!!
と璃音くんが自分の掌を力一杯にローテーブルを叩きつけた。
理解不能な行動に驚き、僕の肩がビクッと上がる。
「べべべべべっ、別にいいだろ!!!???」
「…落ち着けチビ。何ムキになってんだよ。隣のおっちゃん怖ぇんだから。」
「あっ…ごめんなさい。そーたくん…。」
「いやいや、気にしなくていいけどさ…。ううん、なんかこっちこそごめんね?癇に障…ん?」
「徹平。」
「…。」
「徹平?」
「何?」
「隣のおっちゃんが怖いって何?まさか、僕のいない間に…いや、いない間どころか認知すらしてない間に、早速ご近所トラブル起こしたの?」
「悪りぃ…。」
「まぁ、いいけどさ…。」
「…。」
「…ほら、2人とも!そろそろ寝ようか!」
僕と徹平のやりとりを聞いて、僕達の仲を危惧したのだろうか。も
う1人の加害者が第三者面してこの場を有耶無耶にする。て
ゆうか、まだ8時過ぎじゃん。
「おっ、おう!それもそうだな!明日も早いしな!」
「え、僕、明日休みなんだけど。」
「いーから、いーから!」
璃音くんはそう言って、家主に断りなくローテーブルをキッチンの方へと持っていく。徹平も家主に断りなく、勝手に押入れを開け、客人用の敷布団を引っ張り出す。
そして家主に断りなく…
「ベッド争奪じゃんけーん!!よっしゃあ!!ぜってぇ負けねーぞ!?」
「僕も負けないぞー!」
と勝手にじゃんけん大会を催す。
家主を差し置いて、ベッドを頂こうとはどういう了見だ?
何故泊めてもらう君達が僕と対等扱いなれると思ったんだ?
この場は僕の為の空間だ。治外法権で多数決なんてルールは適応外だ。
「「最初はグー!」」
僕の承認を得ようとすらしないまま始まったじゃんけんの合図に僕は釣られてグーと出す。
「「「じゃんけんっ!…」」」
その時だった
「あ!そーた!明日もう1人くるから!」
は?
「「ぽん!!」」
2章終わり




