6話 がく!
「それで?この2年間何してたの?」
食器を片付けた後、僕達はローテーブルを囲ってまったり過ごしていた。蟠りも緩和されたので、僕は気になっていた質問をぶつけてみた。
「ん?あぁ、留学だよ。」
「本当に?なんだかなぁ…。」
「はぁ!?本当だって!!信じろよ!!」
信用出来る訳無いだろ。
ついさっきまであんなにコケにされたんだぞ?人間不信になって当然だ。
「璃音くんは?」
「僕も留学だよ!信じろよ!」
「いや、まだ疑問投げ掛けてないし。「信じろよ!」までワンテンポ早いよ。」
「…ごめん。」
「留学って何?どこの学校?」
「ストラスバーグ音楽院だよ。」
「…はぁ?…え!?あのアメリカの名門の!?」
「お、おう。一応これはガチだぜ?」
そうなのか。確かに徹平なら不可能じゃないかもな。
徹底した英才教育を受けて来たお坊ちゃんだしな。言われてみれば英語も堪能だったような…。
「音楽…続けてたんだね。僕はてっきりもう…。」
「まぁな。どうせあのまま日本に残っても、社会は俺達を受け付けないだろ?」
「そうだけど…。」
「まぁ、そんで、璃音を誘ってアメリカに渡る事にしたんだ。しっかりと歌の勉強もしたかったしさ。」
「それ嘘でしょ?」
「は、はぁ!?マジだって言ってんだろ!?」
「だっておかしいじゃん。徹平だけならわかるよ?でもさ、そこに璃音くんが絡んじゃったらもう…現実味がないよ。」
「…そーたくん…。」
「お、おい!泣かすつもりか!?こいつだって向こうで頑張ってたんだぞ!?」
「だって!!ストラスバーグだよ!?璃音くんって確かデビュー前に、趣味でベースやってた程度じゃん!?そんな子が専門的な音楽の知識も技術も語学力もなくても行けるようなとこじゃないでしょ!」
「僕は…ストラスバーグに通ってた訳じゃない…。」
「え?あ、そうなの?」
「…うん。」
「あ、そうか。ごめん。てっきり璃音くんもストラスバーグに通ってたとばかり思っちゃった。」
「ううん。いいんだ…。」
「じゃあ、語学スクールに行ってた感じなのかな?」
「ううん。」
「…ん?」
「学校には行ってない。」
「それ…留学じゃないじゃん。いや、留学は留学だけど、でも所謂留学じゃないというか…」
「はい?」
「え、そもそも留学の意味分かる?」
「分かるよ。」
「本当に?漢字書ける?ちょっと書いてみ?」
僕は丁度そこにあった小学生並みの下ネタ文がびっしり書かれている紙を裏にして、ボールペンと一緒に璃音くんの前に置く。
「…。」
「あっ、「りゅう」か。ごめんね、「留」はこういう字。あとは「がく」」
「…がく?」
「うん。多分、璃音くんの知ってる漢字の中で「がく」って字は一つ二つくらいしかないと思うよ?それを書けばいいんだよ。」
「がく…がく…。」
「それ平仮名だね。…うん。それはカタカナ。」
「あ!これだ!」
「そうそう!書けたじゃん!じゃあ、これなんて読む?」
「がく!」
「…まぁ、そうなんだけど。訓読みの話。」
「訓読み…。」
「…この字はね、「まなぶ」って読むんだよ。だから、留学は勉強しに行くって意味じゃないのかな?要は向こうの学校に入らないと留学とは中々言いにくいと思うんだよね。一概には言えないかもしれないけどさ!」
「え…じゃあ僕の2年間って何なの?」
「渡米じゃない?」
「渡米か…なんかかっこいいね。」
「ハハ、そうだね。ねぇ?徹平。」
「ん?」
「このバカはさ、向こうで何やってたの?」
「このバカはバンドやってたぞ。」
…はい?
次回予告
7話 プロって…なんなんだろう




