5話 ハハハ。それなー。
「終わった?飯にしていい?」
キッチンから徹平が顔を覗かせ、僕に向かってそう言った。
「は?終わ?あ…う、うん。終わった?けど…。」
「そっかそっか。おー、璃音!聞いてたぞぉ?よく出来てたじゃねーか!」
と器用に持った3枚のお皿をローテーブルに置くと、璃音くんの頭をワシャワシャと撫で回す。璃音くんはバツの悪そうな顔をしながらも、どこか照れ臭そうにはにかむ。
「よく出来てたって…何言ってんだよ徹平!なんだかこれが仕組まれたような口ぶりじゃーん!他人事かよー!」
僕は冷静さを取り戻し、ワンワンと泣いてしまった事の恥ずかしさから、無理矢理テンションを上げながら徹平に突っ込む。
「ハハハ。それなー。」
「「それなー。」ってなんだよぉ!相変わらずだなぁ。もう!このこのー…」
ん?
「ねぇ…璃音くん。今…何隠したの?」
「え?」
「今、なんか後ろにやったよね?」
「な、何もない…よ?」
「いや、見えたよ。ちょっと見せてよ。」
「や、やめてよ!ちょっと!あっ、ダメっ!」
僕は璃音くんの後ろに回り、腰の後ろに隠したクシャクシャの紙切れを取り上げる。
そこにはこう書かれていた。
『〜そーたと仲直り大作戦!〜
①そーたに電話!多分嘘ついて逃げる。
②こっそりそーた宅へ侵入。色々考えた挙句、バカだからまんまと入ってくる。
③お前もいる事に驚き混乱する。※ここで絶対喋るな!この間が重要!
④沈黙によって必死に考えを張り巡らせる。
⑤お前が謝る。※なんでもいいからテキトーに理由を作れ!
⑥バカだから釣られてそーたも謝る。どうせ、罪悪感に打ちひしがれてるだろうから、ぜってぇ泣く(笑)
⑦そーたお得意の大袈裟モード突入。
⑧晴れて仲直り&俺たちも運良く寝床確保!!』
「なにこれ?」
「ハハハ。それなー。」
「いや、え?何?どうゆうこと?二人とも?」
「徹平がさ」「璃音がさ」
「「へ?」」
へ?じゃねぇよ。どっからどう見ても徹平だろ。漢字書けてるじゃん。
「もしかしてこれ…台本なの?」
「ハハハ。それなー。…よし!食おうぜ!」
「…。」
「そ、そうだね!僕お腹空いちゃったよ!ね!そーたくん!」
「…。」
「…そーたくん?」
「どした?食わねぇのか?」
「ん?あぁ、うん…い、いただきます。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…あのさ。」
「んー?どしたー?」
「んー、隠そうとしない派なんだなぁと思って。」
「は?普通しねぇだろ?」
「いや、普通は台本作らないし。それに台本があってもさ、ミッションはコンプリートされた訳じゃん?種明ししちゃったら、そこから先はもう不快しかないはずだよ?僕からしたら知らない方がよかったに決まってんじゃん?」
「んー…隠してたら隠してたでこっちは忍びないしな。」
「なら、こんな台本作らなきゃいいじゃん。」
「…。」
「黙るなよ!言い返せなくなると黙ってやり過ごそうとするのお前の悪い癖だぞ!」
「悪りぃ…。」
「徹平さ…「辱める」って技まで覚えたの?パワーアップしてんじゃん。」
「やめろよ…俺は…いつまでも俺だよ。」
「なんだそれ。格好良くないし、答えになってないし。」
「悪りぃ…悪ふざけが…過ぎたかもな。」
「まぁ…いいけどさ。」
「…。」
「…。」
「…。」
「いや、良くないよ。…え?君達って寝床を確保する為に来たの?」
「そ、そ、そ、それはちがうよ!そーたくん!」
「何?それもセリフ?」
「そんな!台本はもうないから!」
「じゃあ、何のために来たの?」
「それは…。」
「あっ、黙っちゃうんだ。ホントだ。ここは台本ないんだね。逆だよね。逆にここは絶対に台本が必要なとこだよね。」
「…ごめん。そうだよね…。」
そう言って璃音くんはチラチラと徹平にアイコンタクトを送る。
それに気づいた徹平は舌打ちをしてから
「しゃーねぇなぁ!本当に璃音は甘えん坊さんなんだから!」
とだけ言って、紙とボールペンを取り出した。
そして紙を僕から見えないよう左手で隠しながら何やら書き出す。
う、嘘…だろ?
まさか…
これから璃音くんが僕に言うセリフを?
誰でもない僕の目の前で?
璃音くんでもない徹平が?
堂々と書き出すというのか…?
てゆうか、そもそもこのチビ助は僕の言葉を本当にそのまま真に受けたというのか…?
この2年でバカさ加減に拍車がかかってるぞ。
「ん」
と、徹平は堂々と悪びれる様子もなく、璃音くんにその紙を渡す。
「「「…。」」」
「…プッ!ちょっとー!こんな下ネタ言えないよー!」
「へへへ!」
そう言って二人は食事もそっちのけで、キャッキャと楽しそうに戯れ合う。
キレていい。
キレていいはずだ。
キレていい…
はずなのだが…
何だこれは?
こんだけコケにされてるのに、結局のところ何はともあれ僕はこうして昔のように2人と絡めている。さっきまであれだけ怖かったこの2人とだ。
この雰囲気を作ってくれた二人に感謝しなくてはならない立場でもある。
キレようにもキレられない。
「2人とも。僕は真剣に話してるんだ。もう一度聞く。君達は寝床を求めてここに来たのかい?」
「…それは…そうなんだけど…でも違うんだ!アメリカから帰って来て、2人で僕の実家に転がり込んだんだけど、僕、ぉ…母さんと喧嘩しちゃって…。でも、本当にそーたくんには誰よりも先に会いに行くって決め…」
「璃音!!!!!」
璃音くんがそう言いかけたところで徹平が豹変して璃音くんを怒鳴りつける。
「…。」
「…。」
「…璃音、それは見苦しいぞ?」
「…だよね。ごめん…。」
誰目線だよお前。
なにしれっと外野にフェードアウトしてんだよ。
客観的な意見に腹が立つなんて中々ないよ。
「はぁ…。」
僕のついたため息にすぐ様璃音くんが反応する。
「あ、でも…本当だよ?聡太くんに話した事も、メモにはテキトーにって書いてあったけど…ちゃんと僕の気持ちを話したんだよ?」
「はぁ…もういいって。分かったから。うん、信じるよ。」
「そーた。美味いか?」
「お前、編集点おかしいんだよ。本当に何しに来たんだよ。」
「そりゃあアレだよアレアレ。」
「アレって何さ。」
「アレアレ…んーっと、そう和解、和解だ!」
「ダメだよ。時間稼ぎ見え見えだよ。」
「通らず?」
「通らずだよ。全くもう。」
「そーた、怒ったか?」
「怒ってるよ。」
「えぇ!?そーたくん!怒ってるの!?」
「…。」
ヤバイ…
この2人を同時に相手するのはブランクのある僕には難しすぎる。
「いーじゃん!いーじゃん!泊めてよー!」
徹平が突然駄々をこね出す。
本当にこう…変わったなこいつ。
僕の記憶ではふざけても、ここまで子供っぽくはなかった気がする。
「いーや。嫌です。」
僕は2人に向かってハッキリと断りを入れた。
「「…え?」」
「嫌だ。不愉快だね。帰ってくれ。」
「…分かった。おい、璃音!さっさと食え!帰るぞ。」
「…うん、そうだね。分かった。」
2人はお皿を持つと残りのパスタを一気にかっ込む。そして飲み込み終わるのも待たずに立ち上がって、帰り支度を始めた。
「…。」
「「お邪魔しました。」」
準備を終えた2人は僕に向かって丁寧にお辞儀をする。
「…え?」
「お土産冷蔵庫に入ってるから。良かったらあとで食ってくれ。」
「え?え?」
「それじゃあね、そーたくん。また機会があれば。」
「え、本気で帰るの?物分かり良すぎじゃない?」
「だって…なぁ?」
「…うん。嫌がられてるのに居座っちゃ悪いもん。」
「え、本当に?」
「おう。」
「それじゃ。」
「…。」
「…。」
「…ぃゃ…ぃぃょ。」
「ん?」
「…いいよ!居ても!でも、きょきょきょっ今日一日だけなんだからね!」
次回予告
6話 がく!




