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97話目 練武円舞

「こいつッ……やりおるッ!」


 歓喜の雄叫びを上げたのはリューテ。

 リューテの右手には先ほどまでの鉈がなく、小ぶりの斧があった。

 対し、女戦士の右手には大剣、そして左手に鉈。


「私はクレア。神に選ばれし、破邪破断の聖戦士」

「ああ、そういえばまだきちんと名乗っていなかったな。私はリューテ。アマゾネスのリューテ。儂の理想は……」

「必要ない」


 クレアの大剣が横に薙ぎ、リューテは跳んで回避する。

 宙に浮いたリューテを左手の鉈で追撃するが、小斧で防ぐ。

 そのまま鍔迫り合いとなって互いに硬直する。


「武錬で儂と対等……貴様、神の僕の癖して理想持ちだな?」

「黙れ」


 リューテが爪を構えて踏み込むと同時に、クレアは後方に跳躍する。

 大剣の面を真横から叩きつけ、リューテは小斧を投げつけながら爪で身を庇う。

 吹き飛ばされるリューテ。しかしクレアも投げつけられた小斧を鉈で防ごうとするが、思いのほか重量のある斧は鉈を弾き飛ばす。


「ぐっ!」

「くかかッ! よくやる!」


 地面に転がりながらもすぐさま体制を立て直し、地面を蹴る。

 一度駆け出した獣は、弾丸を捕えるよりも難しい。


 大剣としてはありえない機敏さで振り下ろすクレア。

 横に跳ね、更に飛びかかるリューテ。

 大剣の刃が横を向いて胴を断とうとするが、リューテは跳ぶ。

 ふわりと浮いたリューテは鉤爪を当てて、その勢いで体を回転させ、流す。


 詰められた間合いを再び離すためにクレアはバックステップするが、それよりも早くリューテが懐に入った。

 左腕の爪がクレアの顔を狙う。


「シッ!」


 クレアはわずかに体を左に傾かせて紙一重でかわし。

 左手でその腕を掴む。

 逃れようとするが、その力はリューテの力でも逃れられない。


「この馬鹿力……」

「終わりだ異教徒」

「気が早いのう!」


 しかしリューテは更に距離を詰め、太腿のホルダーにあるナイフを抜いてクレアの首を狙う。

 その咄嗟の動きですら、クレアは足でリューテの右手を蹴り、ナイフを吹き飛ばす。

 落ちるナイフをクレアが空中で拾う。逆にリューテの首をナイフで、と思った瞬間、リューテの両足がクレアの首を挟み、胡坐でしっかり捕える。


「っ!?」


 そのままリューテが前に勢いをつけると、クレアの体が弓なりに反れる。

 次の瞬間、リューテが後ろに倒れ、クレアの体が浮き上がる。

 互いの位置は目まぐるしい速度で入れ替わり、クレアは頭から地面に落とされた。


「がぁっ……!?」

「天地返し」


 体を震わせるクレアだが、やがて握る剣も地面に落ちた。


「なるほど、どうやら気絶ならば即座に復活することはないようだな。よっこらしょっと」


 年寄り臭い掛け声と共に立ち上がり、リューテは数歩離れ、その場に座り込む。


「さて、まだまだ始まったばかりだ。お前の理想、じっくりと暴いてみよう」




 やがて、目を醒ますクレア。

 頭の痛みに耐えながら、もやのかかった視界のまま立ち上がる。


「ようやく起きたか、寝坊助ねぼすけめ」

「ぐっ……異教徒め、よくも……」

「さあ、続きだ。剣を取れ」

「言われなくとも」


 クレアは傍に落ちている己の大剣を拾い、構える。


「なぁ聖戦士よ、お前は戦うことに高揚を感じたことはあるか?」

「この、世迷言を!」


 クレアは再び剣を振るい、リューテは隙間をすり抜けるように回り込む。


「私はただ神のために戦っている!」

「とはいえ、苦しい戦いの時には苦しさを、激しい戦いの時は恐れを感じたことがあろう」


 完全に背後を取り、小斧を叩き込む。

 が、振りかぶるような動作で大剣が間に入って防がれる。


「ほう」

「神の加護を受けた私に恐れはない!」

「ならば怒りは? わざわざお前が目覚めるまで、のんびり待っていた私をどう思った」

「喧しいッ!」


 怒りに任せ、クレアは大剣を振り回す。


「ほれほれ、怒った怒った」

「鬱陶しいぞお前!」

「クカカ! そも、どうして戦士なんぞになった。神の教えを伝えるなら宣教師、さもなくば勇者でもよかっただろうに」

「黙れッ!」


 大きく振りかぶり、振り下ろす。

 リューテは猫のように軽やかに避ける。


「結局のところ、お前は戦いたかったのだろう。神のためにというのは、敵を作る口実に過ぎん」

「そんなことはないッ!」


 叫ぶクレア。

 しかし大剣は地面に突き刺さり、クレア自身は肩で息をしている。


「叫びながら暴れれば、息も切れるわな」


 リューテはクレアの眼前で腰を下ろした。


「なっ……」

「何を驚くことがある。儂は弱い者虐めの趣味はない」

「わ、私が弱いだとッ!」

「少なくとも、儂よりは弱い。雑魚だ」

「う、うらぁあああ!!」


 叫びながら、クレアは大きく振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。

 だが、それは難なくリューテの鉈に、片手一本で受け止められた。


「軽い軽い。空っぽのお前では軽すぎる」

「どうして……私は正しいのに、正しい神のために振るっているのに……」

「正しかろうと正しくなかろうと、弱いものは勝てん」


 苦虫を噛み潰したような表情のクレアに、リューテは鋭い眼光を向ける。


「常に強い者が勝つとは限らない。が、弱い者が勝つことは決してない。そしてお前は弱い」

「くぅっ!」


 クレアは更に力を込める。

 だが、リューテは逃げようともしない。


「そして弱者は敗北を恐れ臆病者となり、臆病者は正義に縋る」

「私が臆病者だとッ!?」

「そうだ」


 リューテは空いている右手で太腿のナイフを一本抜きながら、嘲笑する。


「お前のような、弱さゆえに自分の理想で勝負できない奴を、臆病者以外になんと呼ぶ?」


 無造作な投擲は、熱くなったクレアの太腿に容易に突き刺さった。

 苦悶の表情と共に、大剣から力が抜ける。

 リューテは剣を振り払う。


「いかにお前が神に縋りつこうとも、お前の弱さはそのままだ」

「知った風な口をきくな!」

「知っているとも。この世界は誰もが己の理想をかけて戦っている。そして弱い者は死ぬ」


 弱者は死ぬ。それは自然も、この世界も同じ。

 どれほどの理想も、弱ければそれまで。

 同じ理想と理想はぶつかり合い、想いの弱い者が脱落する。


「理想の矛が折られたものから死んでいく。だが、奴らはまず悔いることはない」

「どうして、そんな哀しいことを……神様なら、きっと私達を幸せにしてくれるんだぞ」

「私達にとって、理想を叶える以上の幸福など無い。与えられる幸福など、なんの面白みも無いというのだ」

「でも、叶えられずに死んでいく人もいるじゃないか! どうしてそんな残酷なことを続けられる!」


 リューテは立ち上がり、鉈をしまう。

 変わりに小斧を持つ。


「理想が敗北するのは、本人が納得したからに他ならない。そういう奴らは、大抵が己の理想を相手に託す」


 とはいえ、実際理想を相手に託すのは少数だ。

 相手との力量の差を見せられ、自分では到底この高みには辿り着けないと自ら認めてしまう。

 意志を譲ってしまうこと。それこそがこの世界における真の敗北。


「が、大抵の奴は自ら納得する。納得して妥協し、納得して諦めて逝く。そこには後悔も憎悪もありえない。当然だ。死力を尽くし、最善を尽くした。その結果、それを上回る相手を尊く思うのは、至極当然」

「そんなの、そんなのおかしい……」

「お前には分からんさ。だが、理解する術ならある」

「分かりたくなんか……」


 クレアの言葉で、リューテは興味を失ったように呆れ笑う。


「なら、借り物の力で、偽りの幸福に興じていろ。何度も復活し、何度も倒されるのだ。ほれ、さっさとかかって来い。偽りの戦士よ」

「こ、このぉッ!」


 クレアが駆け出す。

 リューテは十分に引きつけ、ナイフを連続で投擲する。

 だが、それは難なく弾かれる。


「っ!?」


 リューテは既に間合いに入った。


「くらぁっ!」


 咄嗟に剣を振るうが、リューテはそれよりも早くすれ違う。

 すれ違いざまに、左脇腹を斬られ、呻く。


「うぐっ……」

「どうやら痛覚はそのままか。さてどうする。いかにお前が神に縋ろうと、お前は決して……」

「でも、私達の神は勝利する」

「だが、お前自身は私には勝てない」

「うるさい!黙れ!」


 クカカとリューテは笑う。

 クレアには、リューテの一挙手一投足が自分を嘲笑しているように見え始めていた。


「クソ、クソッ!」

「その傷だらけの体で、まともに戦えるのか? いっそ自害してリセットしたらどうだ」

「……」

「出来まい。戦士だからか、神のルールに反するかは知らないが、出来ま……おい」


 クレアは左手で目頭を擦っている。

 もしや、とリューテは笑いを堪えながら問う。


「くく、お前まさか、泣いてるのか?」

「泣いてないっ!」


 クレアは涙声で叫ぶ。見て分かる強がりに、リューテは堪えきれずに笑う。


「カッカッカ! 情け無い戦士よのぅ」

「殺す! お前は絶対殺すッ!」

「おう、殺せ殺せ。神に縋り、神に頼り続ける弱々しいお前がどこまでやれるか、見せてみぃよ」

「弱いって言うなぁ!」


 挑発と怒声が飛び交いながら、クレアはリューテに挑みかかる。

 しかし殺されることもなく、感情のままに剣を振るい、じわじわと傷を負わせられるクレアは、そう長いこと戦い続けられるわけもなく、膝を着いた。

 痛みが動きを鈍らせ、鈍さが更なる疲労を蓄積させる。

 クレアは完全に遊ばれていた。


 やがて、クレアは完全に跪いた。


「もうお終いか、負け犬」

「うぅ……ぐすっ……」


 もはや、ただのいじめとなり果てていた。


「仮にお前の神が勝利したところで、お前自身が儂に勝つことはない。むしろこのままでは、お前は儂に勝つ手段を永久に失うことになる」

「…………」

「それでも、お前が幸福になれれば、負け犬でも構わないというなら、儂は負けたくないので、動けないお前を置いて逃げる」

「…………」


 沈黙を続けるクレア。

 息が整うまでの時間を稼いでいるのか。しかしそれでも、今のリューテならばクレアの両膝を折ってそそくさと逃げ延びることが出来る。


「儂も長いことこの世界にいるが、お前のような負け犬は見たことが無い。アマゾネスは猟犬と組んで狩猟を行う者もいるが、となるとお前は犬以下だな。負け犬どころかゴミ虫か何かだろう。弱い戦士というなら尚更……」

「…………」


 顔を上げるクレアの両目を、リューテは見て笑う。


「ならば、最後の選択をさせてやろう」


 リューテはクレアに歩み寄る。

 クレアは微動だにせず、跪いたままだ。

 それを見下ろしながら、鉈を大きく振り上げ、振り下ろした。


「さて、どうなるか」


 ぼとり、と落ちるクレアの首と、崩れ落ちる体。

 ウェーブのかかった金髪が、湧き出す血に染まっていく。


 しかし、それも神々しい光が宿り、血を戻し、体を接合させていく。

 全ての傷が無かったことになり、疲労も完全に癒される。

 やがて傷一つ無い状態となって、クレアは立ち上がる。


「殺す……」


 リューテは既に間合いを取っている。

 クレアの眼は憎悪の烈火を滾らせていた。


「お前は絶対殺すッ!!」


 活き活きとした姿にリューテは肉食獣のように笑む。


「が、しかし、所詮は神に縋る弱小戦士だ。これで最後……」

「私の理想は、人を幸せにする戦士になること……だけどお前は絶対殺す!」


 其は人に幸福をもたらさんとするために、技巧極めた女戦士。

 しかし、大いなる幸福をもたらさんがために神を信奉した戦乙女。

 

「ああ、そういえばきちんと名乗らせてもらっていなかったな。儂はリューテ。アマゾネスのリューテ」


 くるくると鉈を回して、一振り。


「理想は、女性(特にアマゾネス)中心の社会を作り、男のハーレムを作る。が、今はクロードと夫婦となることだ」


 お互いに名乗りあい、そして武器を構える。

 理想を口にしたクレアからは、もはや神の加護は失せていた。


「ぶっ殺す!」

「良いぞ、来い!」


 羅刹の憤怒と修羅の笑み、そして互いの刃が重なる。

 横薙ぎの大剣を、鉈が受け止めた。


「おぅッ!?」


 弾かれ、リューテの体は大きく浮いた。

 瞬間、クレアは身を捻り、回転して逆側から切り込む。

 十分の勢いと体重の乗った一撃、リューテは覚悟して爪と鉈を重ねて防ぐ。


「ぐっ……」


 そして大きく吹き飛ぶ。

 体勢を立て直そうとしても何度か転げ、折れた爪で地面を抉り、なんとか勢いを殺す。


「こりゃあ、まずいのう」


 地面から引き抜いた爪は完全に千切られ、鉈も刃が欠けている。


「人を幸せにする戦士、か。面白い」


 ふと気付けば、既にクレアはアマゾネスの眼前で振りかぶっていた。


「死ねぇッ!」

「カッ!」


 袈裟懸けに振るわれる剣を紙一重で回避、リューテはがら空きの左脇腹を狙おうと踏み出すが……

 斬撃の衝撃と砕けた地面の飛礫がリューテの側面から襲った。


「ぬぅッ! 小癪な真似を!」


 なんとか飛び込み、二太刀目をかわす。

 すれ違いざまに攻撃する暇などない。すぐさま振り返り、距離を取る。


「くかか! 久々の殺意、久々の殺死合ころしあい、滾る! が、しかしな」


 まともに喰らえば即戦闘不能は免れない。

 武器で防げば武器を折られ、一太刀だけで目眩ましと石飛礫のオマケつき。

 足運びも太刀筋も、あらゆるキレが先ほどまでと段違い。


 早い話、リューテは敵に塩を送りすぎた。


「ちぃとまずいか、だが面白い。理想の比べあいというのは、そうでなくてはな」


 リューテは這うような前傾姿勢……どころか、両手を地面について、四つん這いになっている。

 その口に、黒い刃のナイフを咥え、その様はまさに猟犬すら越えて黒狼。


「Gallu……」


 次の瞬間、地面を抉り、土埃を残して突進する。

 獣の如く駆けるリューテはそれでも片手で太腿のナイフを抜いて投げつける。

 だが四つん這いからの投擲では速度も落ち、クレアは容易に弾き落とす。


「ぬぐっ!?」


 それで終わりかと思ったクレアは、咄嗟に鉈の投擲から身を守る。

 予想外の攻撃に、大剣で自らの視界を塞いでしまった愚行。

 クレアが気付いた時には、横に回りこんだリューテが小斧を横薙ぎに振るう寸前だった。


「シッ!」

「ガァッ!」


 左腕に斧の刃が食い込む瞬間、クレアは片足を軸に回転する。

 切り裂かれた左腕の代わりに、クレアの回転斬りが炸裂する。

 が、リューテは更に身を屈め、大剣は頭上を掠める。


 右手に握られた小斧が振り下ろされるも、クレアは左手で小斧を握る手首を打つ。

 痛みに緩んだ手から、小斧を巧みに奪い取り、同時に大剣を叩き込む。

 リューテは左手でクレアの右手首を掴み、口に咥えたブラックナイフで首を掻き切ろうとするも、奪った斧の柄でナイフを受け止められる。


「器用な奴よ!」

「ッ!」


 超至近距離の攻防は、互いの胸が擦れあうほどに近く、白熱する。

 このまま鍔迫り合いの硬直状態が続くかと思われた。


 リューテが蹴りを放つより先に、クレアは掴まれた右手首をくるりと捻り、リューテはねじれる痛みにたまらず手を離す。


「ぐぅっ!」


 しかしリューテも負けじと空いた右手でクレアの左脇腹に抜き手を……抉りこませる寸前、クレアの頭突きがリューテの鼻を潰す。


「ぐっ、あぁ!」


 さすがのリューテも顔を押さえ後ずさる。

 百戦錬磨のアマゾネス、痛恨の隙を見せてしまった。

 それを殺意の化身となったクレアが見逃すはずも無い。


「ッ!」


 恨み言で時間を取ることもない。

 技に必要な構えを取る。次の瞬間には、リューテの胴は一刀両断されるだろう。


(なるほど、これが……こやつの理想か)


 前世にて英雄に殺され、再びアマゾネスとして生を受け、長い時間を経た。

 女性中心の社会を築き、酒池肉林を築き上げようと、獣を狩り、天狗を墜落おとし、エルフまでをも降そうと羅刹のごとく戦い続けた。

 クロードと出会い、この世界で初めて人間に敗北した。

 それからも何かと縁があり、理想戦争を共に駆け抜けた。


 その後は憎きエルフにクロードを取られまいと……ぬるま湯のような日々に、己の理想を曇らせたか。

 だが、それでも、クレアの理想は、殺意は、アマゾネスの女王が認めるに足るものであった。


(理想は、より想いの強い者が残る。ならば……)


 己の理想を尽くし、なお勝る相手の理想。その思いの強さに敬意を表し、リューテは覚悟を決めた。

 ただ、一つの未練だけが心の奥底に残った。


(クロード……)


 人間という種族の、唯一の希望の光。

 少なくとも、前世で出会うことのない人種だった。

 あの光を絶やさせるわけにはいかない。

 あの軟弱なエルフに、あの情け無い天狗に、子供だましの魔女では頼りない。


(諦めたく、ないな……)


 それだけが、アマゾネスの心に残った、最後の譲れぬ理想だった。





「リューテッ!」


 その呼び声に、リューテは目を見開く。

 その目に映るのは即死級の一太刀、それを白銀の盾で防ぐ、一人の青年の後姿。


「カッ!」


 思考するよりも早く、体が動いた。

 青年の横をすり抜け、大きく小斧を振り上げるクレア。

 しかし、アマゾネスの使う小斧は、見た目より重く、扱いは難しい。


「っ!?」


 鋭い刃が肉を裂くように、すんなりと懐に踏み込む。

 リューテの右手はクレアの額に添えられる。


「!?」

「シッ……」


 思わず下がるクレアの足に、リューテの足が絡んだ。


「ダァルゥアァァッッ!!」


 崩れる体、視界に映るその景色は全てが色に。

 褐色の腕と、真っ青な空を最後に、意識は暗幕に覆われた。





 大の字に転がるクレア。

 その隣に、リューテは座り込んでいた。


「ぬああッ! 負けた負けた! 大負けじゃのう!」

「リューテ、怪我は?」

「応、クロード。助かった。が、大怪我ものだぞこれは」


 頭を抱えるリューテ。

 無理も無い。横槍に助けられるなど、アマゾネスにとっては最も屈辱。

 しかし、揺るぐことのない敗北という事実。


「敗北は、お前以来だ、クロード」

「リューテ……」


 クロードはリューテの隣で膝を着く。


「まったく、どうして神なんぞに縋ったのやら。これほどの理想を持っていながら」

「どんな理想だったの?」

「人の幸福のために戦う者になりたいんだそうだ。恐らく、そういう在り方に憧憬があるのだろう」


 完全に気絶しているクレア。神の加護も放棄したので、もうそう簡単に起き上がることは無い。


「リューテ、ありがとう」

「なんのことだ?」

「生き残ってくれたから」


 安全無欠。その名が今日限りになるところだった。

 しかし、リューテは自らの誇りをも捨てて、クロードのことを想ったのだ。

 クロードの能力、主人公補正を最大限に発揮させる要素の一つは、仲間が主人公を想うこと。

 だからこそリューテは生き残り、クロードはリューテを失わずに済んだ。


「……なるほど、儂はお前に生かされたというわけか。男に救われるとは癪な話だ」

「ご、ごめん……」

「儂が勝手に苛ついているだけだ。いつも言っているが謝るな。それでも儂の旦那か?」


 ちなみに、まだクロードとリューテは結婚していない。


「まあ良い。ところで、あっちの勇者はどうした」

「ああ、あの人なら……」





 二つの決着を見た結城。

 特にリューテの方はかなり白熱したバトルを見れた。


「あのリューテが力負けするなんてな」

「はい、クレアという者は、よほど強い想いを持っているのでしょう。途中から明らかに動きが変わりました」


 レイランも最初はリューテが圧勝すると思っていた。

 しかし、リューテがやたらとクレアを煽り、クレアの理想を蘇らせた。

 一度失った理想が蘇る。これはユートピアでも同じ現象が起きている。

 ユートピア、オーバーヒート、ガイアモンド、アクアマリン……

 そして今回のクレア。


「異能者は理想を犠牲に異能を手に入れたけど、理想が蘇っても異能は失ってないよな」


 ふと疑問を口にする。

 どうしてクレアは再生能力を失ったのか。

 それにはゾーイが私見を述べる。


「予測ですが、神の加護は神由来の能力であり、加護を受けている本人の能力ではないから、と思われます」

「なるほど。じゃああれは、何の変哲も無い、ただの理想家の戦士ってわけだ」


 安全無欠の一人にして、アマゾネスの女王リューテ。その実力は語るまでも無く。

 それを圧倒したクレアという理想家。


「あれ? リューテって敵を生かすようなやつだっけ?」

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