表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/121

93話目 パラダイス・ロスト

 トップエースと呼ばれた騎手が駆る飛竜は、ユートピアの鉄の鳥……最新鋭の戦闘機にさえ匹敵する飛行速度で空を舞っている。

 しかし天使の飛行速度もまたそれに匹敵している。

 蝙蝠の翼と純白の翼が交差する。


「死ね」

「チッ!」


 三体の天使のうち、先頭の天使の手が飛竜の尾を掴む寸前、飛竜は急降下した。

 天使も即座に急降下して追う。


 より加速する飛竜と天使。

 突如、飛竜は大きく翼を広げて空気を受け、急減速し、捻るようにして身を翻す。

 すると天使の進行方向上には、別の飛竜が正面から向かっていた。

 天使は応戦するために剣や槍を構える。

 天使達の技量は、この高速飛行の中でも戦闘機の装甲を両断し、その気になれば複雑に飛ぶ飛竜を駆る騎手の首を正確に跳ねるほどだ。


 対し、騎手の背に乗る魔法少女がステッキをかざす。

 手袋から靴までほとんどピンクの服で彩り、先端がハート型のステッキ。

 見るからに魔法少女感を醸し出さんとしている姿の少女。


 彼女も強い理想ゆえに、アトランティスで最後まで立っていた魔法使いの一人であった。


「マジックミサイル!」


 魔法少女の周囲に色とりどりの結晶が三つ。

 赤、青、緑は光の尾を引いて天使へ向かう。


「クッ!」


 天使は散開して回避しようとするが、空気抵抗をある程度無視できる魔法のミサイルは見事に天使を穿った。


「やった! スリーキルだヨ!」


 嬉しさのあまり、騎手に抱きつく。白い薄布ごしの柔肉の感触が背に拡がる。


「そ、そっすね!」

「フフフ……この戦争で一旗あげて、永遠の魔法少女は名を轟かせるのヨ!」

「その独特な口調も魔法少女っていう設定から来てるんっすか?」

「設定じゃないヨ!」


 騎手の後頭部にステッキが直撃する。


「痛いっす!」

「まったく。もうちょっとデリカシーをもってほしいネ」

「……すいませんっす」


 空の上では二人きり。騎手はこんな相手でも少女と二人きりでいられることに幸せを感じていた。

 そしてその気の緩みが命取りであった。


「狙われてるぞッ!」

「えっ?」


 魔法の通信から聞こえた声とほぼ同時、真上で妙な音がし、何かが横切った音がした。

 まず上を見て、続いて左を見ると、そこには竜人が駆る飛竜。

 その口には天使が咥えられていた。


「ったく、俺は安全無欠じゃないって言ったろ! 自分の身は自分で守れ!」

「す、すいませんっす!」

「あれはセレナの!? くぅ~! ちょっと何やってるでス? さっさと次の天使を落としに行くヨ!」

「は、はいっす!」


 魔法少女を乗せた飛竜が羽ばたき、次に近い天使へと向かっていく。

 それを見届けた竜人は溜息をこぼしながらも、次の獲物へと向かう。


「まったく世話の焼ける……」

「竜人さん。チャージ完了です!」

「よし。ウィン、上がれ!」


 飛竜のウィンが高く羽ばたくと、多くの天使がそれに気付き、追って行く。


「閃く光は全てを焼き尽くす。暗雲の闇と対を為し、破滅の光を瞬かせ、大気の精の戯れは、威光の極みを轟かす……お願いします、エアリエル・オーバーライトぉっ!!」


 真白ましろの極光が奔り、追いかける天使を飲みこみ、地面に並ぶ聖騎士さえも包み込んだ。



 それはあまりにも苛烈にして強烈な一閃だった。

 神の加護を強く受けた4枚羽の天使でさえ、その神聖なる護りを打ち破った。

 だが、それで終わりではない。一度集まった精霊はそこに留まる。消耗品ではない。


 セレナの元に集った精霊、種族はエアリエル。大気の精霊である。

 大気の精霊は大気を司る。

 それ即ち、大気が関連するあらゆる現象を引き起こすことが出来る。


「こんにちはー、セレナちゃん、ひさしぶりー」


 少女のような容姿は純白のワンピースを纏い、青空のように澄んだ青眼。

 羽ばたき帯空する飛竜の上で、談笑するような気軽さでエアリエルは挨拶する。



「こんにちはエアリエルちゃん。力を借りていいかな?」

「いいよー。ビリビリすればいいの?」


 のんびりと会話しているうちに、天使が竜人たちを取り囲む。


「セレナ?」

「大丈夫です。エアリエルちゃん、お願い!」

「うん! いっくよー!」


 エアリエルの全身が明滅した瞬間、強烈な音をも凌駕する速さで、取り囲む天使を全員、一瞬にして炭化させた。


「行くぞ、サンダーバード!」

「はいはーい!」


 竜人の声にもエアリエルは従う。

 ウィンの翼に雷光が纏う。


「さぁて、まだまだこれからだ」





 飛竜のトップエースが1匹の天使を釣るが、牙の部隊の誰もが、別の天使のケツを追っていた。

 そのため、背後からの攻撃を器用に避けながら、なんとか振り払おうと飛んでいた。


「クッソ、誰かコイツ落とせよ!」


 トップエースの中で最も若い男は悪態吐くものの、何も起こることはない。

 と思われた。

 よく見ると、向こうから真っ直ぐこちらに向かってくる物があった。


 それはどうやら天使ではない。

 というより天使に追われている鉄の鳥だった。


「もしかして、あれが噂に聞く鉄の鳥って奴か?」


 トップエースは理想戦争に参加していなかったため、鉄の鳥のことは話で聞いたことくらいしかない。

 実際に目の当たりにすると、なるほど確かに頑丈そうで飛竜と竜騎士だけではどうにも出来なさそうだ。


「だが、今回の敵は天使……やってみるか」


 トップエースは速度を最大限にまで上げる。

 と共に、魔法使いの代わりに積んである鉄の杭。

 やることはシンプルだ。

 すれ違いざまにこの鉄杭をぶち込む。ジョストのフィールドが空中になっただけのこと。


 見る見るうちに近づく鉄の鳥。

 すれ違うまであと3、2、1……

 鉄の鳥がわずかに傾いたのを見逃さなかった。

 飛竜は即座に右に回転、紙一重ですれ違う。


「ったく、よくやる。アレくらいな奴らが居るなら、久々に山を降りるのも悪くないか……なぁッ!」


 左手に手綱を握り、右手に持つ杭を持って天使とすれ違う。

 天使の剣よりも長い杭は見事に、その胸の中央を刺し貫いた。


「ハハッ、まだまだ俺もやってけるな。そう簡単にトップエースを名乗られてたまるかよ!」


 遥か後方から銃撃と爆発の音がする。

 先ほどすれ違った鉄の鳥が何かしたのだろう。

 落としたか、落とされたか。それを確認している暇はない。


 彼は急上昇、後に続く天使を空へ招く。

 翼の大きさも、推力もトップエースのこちらが勝る。

 だから彼は強引に飛竜を反転させる。

 そして下方、追ってくる天使達に向かって急降下。

 十分な速度を得てから積んでいる鉄杭の束をほどき、飛竜を回転させる。


 さながら散弾のように天使達に降り注ぐ鉄杭の雨は、彼らを串刺しにして地面へと送り落とす。

 滑空し、周囲を見回せばそこは鉄の鳥と天使が交差する戦場だった。

 トップエースはいつの間にか、自軍から大きくはぐれてしまったらしかった。




 最新鋭戦闘機、ADシリーズ。アポカリプスデビル。全5機。

 黒い上面ボディと赤い底面ボディが特徴的な戦闘機。

 蝙蝠を模した翼は折りたたむことで 秒速24kmにも達し、ミサイルよりも早い戦闘機を実現させた。

 そのため武装はただのミサイルでは意味が無い。

 アポカリプスデビルには専用の3つの特殊兵装がある。

 放射線照射、マイクロ波照射、レーザー照射。どれも機体ではなく人間を対象にした兵装である。

 パイロットは電子化した人格データを採用、機体性能を極限まで引き出せる環境を整える。


 しかし、それほどの性能でさえも上級天使を相手にするには力不足であった。

 どれほどの速度で飛ぼうと、雷を凌駕するということはない。

 

「AD-3、被弾! 右翼損傷!」


 そして一度絡みついた業火は、その機体を焼き尽くすまで止む事はなく、振り払うこともかなわない。


「AD-4、機体温度上昇、このままでは……」


 最後まで言葉を発することなく、二機の戦闘機が爆発、撃墜される。

 魔法使いを乗せた飛竜ならば防御手段があるものの、回避しかできない戦闘機は、神秘を相手するには分が悪い。


「各機、編隊を組みなおす」

「AD-1、飛竜が一匹紛れ込んでいるようだ。確認してくれ」

「……うわほんとだ。イカれてんじゃねえのか?」

「おい、よく見たらこいつ魔法使い乗せてないぞ。どうなってる」


 混乱するAD三機だが、騎手が天使の背後をとって鉄杭で刺し貫く様を見て口笛を鳴らした。


「HAHAHA! なんだありゃ!」


 無理もない。こちらが最新鋭の技術を用いた戦闘機で、音速を遥かに凌駕した速度で奮闘している影で、あんなにも静かにに天使を殺していく姿。もはやギャグだ。

 どうやら天使は飛竜相手だと電撃や炎を使おうとはしないらしい。生身だからだろうか。


「そんなことは一先ず置いておけ。あいつを援護する。放射線照射は使うなよ? レーザーで相手の視界を奪え!」





「我が名はアルカ。全知万能の王」


 アルカディア城の頂点。戦場を眺める一人の王。

 すぐ目の前には、天空の城へ続く白い階段がある。


「我が理想、全知全能の帝王となること」


 眼前にある階段を見据えている。その一段目を。


「どうした万能の王よ。全能になるのではなかったのか?」


 一人の王は、たった一人、そう呟く。


「お前の理想が叶う機会がようやっと巡って来た。それをみすみす見過ごしているつもりか」


 神を討つとすれば、誰がそれをなすだろうか。

 最も長く、輝き続けていた安全無欠か。

 神を討つために闇黒を極めた徒たちか。

 それとも、神に匹敵せし我が旧友か。


「いや、あるいは……奴が選んだ、あの妄想症患者パラノイドか」


 いずれにせよ、このままでは己の理想は遥か遠くに過ぎ去ってしまう。

 ふと見ると、小さな影が飛び跳ねるように空中を駆け上がっているのが見えた。

 あのデタラメな移動方法をする人物に、アルカは一人だけ覚えがあった。

 そのあまりの無茶苦茶さに、アルカは思わず笑みをこぼす。


「怖気づいた? 我が理想がその程度なわけはない。我が名はアルカ。全知全能たる帝王」


 そしてアルカは眼前の階段を、神域へと上り始めた。





 一方、ユートピアでもアルカディアに劣らぬ理想家たちが奮闘していた。


「民間人はこれで最後か!」


 通信機に怒鳴るように問うのは、オーバーヒート。

 響いてくる声の主は、セカンだ。


「はい。民間人はすべて地下理想郷都市アガルタへと移送完了。」


「よし、ユートピアを現時点で放棄! 俺たちは目標へと突入する!」


 彼らには向かうべき場所がある。

 あの宙浮く城塞へと。神の庭園へと。


 水をペットボトルに治めるアクアマリンが、ふと誰にとも無く問う。


「ドクはどうするんですか?」


 それに答えるのはガイアモンド。


「さぁ。アレなら適当になんとかするでしょ。というか、もう安全圏よ」


 ありえる。というよりは、確実にそうだろうと全員が確信していた。

 ドクというマッドサイエンティストは、このユートピアで最も頭がよく、そして狡猾な博士だ。

 ユートピア・ブレイン。誰も使う機会がない、彼女の異名である。


 と、噂をすれば、通信回線に割り込んだ彼女。


「ああ、それなら迷子に送ってもらうといいよ。今そっちの誘導させるから」

「迷子?」

「適当に高いビルに集結してくれ。アルカディアからの迷子が君達の羽になってくれるだろう。あとは自由にやってくれ。それじゃあ」


 一方的に新しい任務を言い渡されて、一方的に通信を切られた異能者たちは苦笑した。


「まったく、最後の最期まで相変わらずだな。俺達の大将は」


 珍しくもそんな愚痴を漏らすは、すでに高いビルの頂上にいるエア。

 横にはしっかりとしがみつくマクスウェルもいた。


「総員、俺の場所に集結。その迷子とやらも、もう見えている」


 了解、と各員が返す。

 アクアマリンはマンホールの上に立ち、次の瞬間には噴出する水に天高く打ち出される。

 ペットボトルの水を変形させ、翼の形で空気を掴み、エアの元まで滑空する。


 ガイアモンドはアスファルトの上に立ったまま。

 しかし石の破片や鉄が複雑に絡み合い、ビルの屋上までのエスカレーターが出来上がる。

 ガイアモンドしか搭乗員の居ないエスカレーターはするするとエアの元へ向かう。


 オーバーヒートは走った。

 持ち前の体力は難なくエアの元へと辿り着かせた。

 屋上の扉が勢いよく開け放たれる。


「よし。あれだな」


 エアが見る方向を全員が見る。

 三機の黒と赤の戦闘機。それに囲まれた、場違いな飛竜が一匹。


 三機は急に進路を変えてどこかへと飛び去り、飛竜だけがビルに降り立つ。


「あー、あんたらをあそこまで乗せていけばいいんだな?」

「よろしく頼む」


 必要最小限の会話で済ませ、異能者たちは飛竜に乗る。


「こうして見ると綺麗な恰好ね。こっちの化物とは全然違うわ」

「それじゃあいくぞ。振り落とされないようにしっかり掴まれよ」


 羽ばたく飛竜はまもなく離陸した。

 が、それを一人の乙女が叫んで止める。


「ちょぉうっと待ったぁああああああ!!」


 その声に、全員が下を見た。

 そして、目を疑う。

 そこには、誰かを背負ってビルを垂直に駆け上がる銀髪の乙女。

 調停姿勢でニンジャのごとく駆け上がったかと思うと、こちらに向かって跳躍した。


 が、いくらなんでも、もはや届かない。

 とはいえ異能者たちも、まだここに人が残っているなどとは思っていなかった。

 おそらくはアルカディアの人間が逃げ遅れたか。

 ともかく助けなければとアクアマリンが身を投げ出そうとするが、それよりも先に銀髪の乙女が更に何かをする。


「ふっ!」


 乙女の足元が一瞬輝いたかと思うと、それは空中で一気に加速した。

 何かを踏み台にしたように見えたが、空中に足場など存在していなかったはずだ。

 異能者たちが考えるよりも早く、銀風は飛竜の尾に跨ることに成功した。


「お前たち、あそこに行くのか!?」

「銀風、怖い! 高すぎて怖いよぉ!」

「あそこっていうか、あの空中城塞だが」


 と律儀にオーバーヒートが答える。


「私はへんた……アルカディアの救世主・結城の友で、名を<彩の銀風>という。あそこに結城がいるはずなんだ。私も同伴させてくれ」

「それは、別に構わないが」

「助かる!」


 こうして異能者たちは、銀風とその連れと共にイェルサレムに乗り込むこととなった。





「行ったか」


 彼女はそこにいた。いつもと変わらない。

 いつもどおりの暗がり。いつもどおりの光源と、いつもどおりの白衣、いつもどおりの……

 なんら変わることは無い。

 唯一変わっているのは、ディスプレイに映し出されているユートピアの惨状だけだ。


 誰も彼もが戦場を巨大な実験場にし、各部門の研究員はアガルタから興奮しながらもデータを取っていることだろう。

 彼らはユートピアを防衛しよう、などとは微塵も考えていない。

 いっそこのディストピアをぶっ壊して、いちど無法地帯にでもしたほうがより良い研究が出来るとさえ思っている。


「さてさて、十分に引きつけたか」


 ゆえに、撃ち漏らした敵は遥かに多い。

 天使やら神獣がぞろぞろとなだれ込んでくる。


「再建には時間がかかるだろうが……まあ本体も移送したし、彼ならなんとかなるだろう。ではではラストショーだよ。演目はそうさなぁ……」


 ドクは立ち上がり、部屋の扉を開けた。


「コード:パラダイスロスト」

「コード認証、パラダイスロストを実行します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ