メノウ観光3
「なんっムゴッ!」
マヤちゃんが声を上げそうになったので、とっさに口をふさいだ。
モゴモゴと言っているマヤちゃんもしばらく押さえていたら、冷静さを取り戻して黙った。
...いや、フレア。休めって言ってもこれは、、、
「姉ちゃん達、何見てんだ?」
「っうわ!」
背後から声をかけられて、飛び上がりそうなくらいビックリした。
振り返ると、声の主はイェンだった。
私達の前の棚を見て目を輝かせた。
「おお!この国のお守りだな。俺も好きだ!」
「好き、なの?でもこれ全部獣でしょ?危なかったりしないの?」
なんでこんなところに?
とも思ったが、もしも赤の国の兵士がなにかを知っていたらさっきのマヤちゃんのような反応はまずい。
取り繕ってでも情報を収集しないと。
イェンがポリポリとアゴをかいた。
「さあ?兵士含めて殆どの人間が九瑞獣なんて見たことねぇからな。代々陛下が従えるそれらは尊い存在としてそれぞれ縁起物になってるんだぜ?」
「見たこと無いんだ。どこに居るとかそういうのも分からない感じ?」
「そうだな。どこに何匹居るかとか全然知らねぇ」
イェンが淡々と答えた。
手持ち無沙汰に置物をつついているが、嘘をついているようには見えない。
「そう言えば、九瑞獣なんだよね?ここに7体しか居ない気がするけど」
「ああ、彪燼と霄螭だな。大きな虎型の獣と水棲の龍のような獣だ。国を象徴するこの2つは畏れおおいと普通の店では扱われないことが多いんだ。」
「へー。」
質問をすると快く教えてくれた。
単純に異国の知識だから解説してくれるのは嬉しい。
マヤちゃんがおずおずと質問した。
「縁起物って言ってたけど、どんな意味があるの?例えば、これ。」
マヤちゃんがマグナスヴィネアを指さした。
店主のおばちゃんから買い物をする時に聞いてたな。さっきの璇狐は仲間の良縁と和合の象徴だったか。
「おお、螭淵だな。確か繁栄と再生の象徴だったか。」
マヤちゃんの顔が少し曇ったが、「そうなんだ」と会話を止めた。
確かに。マグナスヴィネアの再生速度と地面から広がる根の様な触手を繁栄に例えたんだろうか。
それにしても、あれが縁起物かぁ...
トルマであんなことがあったんだ。とてもじゃないけど、ありがたい存在だとは思えないなぁ。
「なんだ?気になるのか?」
イェンが私達の顔を覗き込んできた。
「いや、ちょっと変わった形だなって思って」
「そうか?俺は結構かっこいいと思うけどな!」
そう言いながら、イェンは螭淵の置物を手に取った。
「ほら、この脚とか!強そうだろ?」
「これは脚...なの...?」
触手だと思ってた。
あ、でも見たこと無い人だと足だと思うよね。
「俺はこいつより鸞翎の方が好きだけどな!」
「そうなんだ、えーっと。」
ごめん、難しい言葉ばっかでほとんど頭に入ってないや。
「ま、めちゃくちゃ強くてかっこいいんだぜ!」
イェンが得意げに胸を張った。
さっき、ほとんどの人間は見たことがないって言ってなかったっけ?
「どんな獣なんですか?」
サラちゃんがイェンに聞いた。
「強い鳥だな!あとは知らん!」
適当すぎる!
なんなんだ?...この子。
誇らしげなその様子から好きなのは伝わってくるが。
とはいえ、マグナスヴィネアと同じ姿の獣が九瑞獣に含まれていることは気になる。
フレアには後で伝えておこう。
「そういえば、お前ら観光してんのか?」
「はい。」
「だったら俺が案内してやろうか?」
...え?
「いいの!?」
真っ先にマヤちゃんが反応した。
その切り替えの速さに舌を巻いてしまう。
「おう!俺はこの街には詳しいからな!」
いやいや、
あー、でも目的もなく放浪するよりは案内人が居たほうが良いんだろうか。
「あの、イェンさん。今日はお仕事とか大丈夫なのでしょうか?」
「ん?ああ、問題ねぇ。どうせ暇だし部下に任せておけばなんとかなるからな!」
ずいぶん自由な兵士だなぁ。
いや、まあ、私も人のことは言えないけど。
サラちゃんと視線を交わした。
マヤちゃんは聞かなくても分かる。
...まぁ、お願いしちゃおうか。
首を縦に振った。
「それなら、お願いしてもいいでしょうか?」
サラちゃんが答えると、イェンが嬉しそうに腕を上げた。
「おう!任せとけ!」
2人とのお出かけはまた今度だね。
「じゃあ、まずどこ行きてぇとかあるか?」
「美味しいものが食べたい!」
マヤちゃん...
あなた、さっきまで食べてたでしょうが。
雑貨屋を1件周っただけでは胃に変化なんてない。
「おっ、いいぜ!美味い店ならいっぱい知ってるからな!」
「ほんと!?」
「おう!」
...まずい。
...これは非常にまずい。
せっかく食べ物から気を逸らしたのに、今度は現地の案内人まで味方に付いてしまった。
「レナさん...私まだお腹空いてないです...」
「だよねぇ?」
サラちゃんが小声で言ってきた。
良かった。私にも味方は居た。
イェンとマヤちゃんが顔を見合わせて笑っている。
昨日国境で睨み合ってたとは思えない仲だ。
「よし!じゃあ決まりだ!」
イェンが意気揚々と店の出口へ向かった。
「ほら、早く来いよ!」
「あ、ちょっと待った!」
店を出ようとした2人を呼び止める。
「なに?レナお姉ちゃん。あ、」
マヤちゃんが手元を見た。
さっき戻し忘れた髪飾りが握られている。
「あ、そうだった!」
忘れてくれていればよかったのに。
「ねぇレナお姉ちゃん、やっぱりこれ付けてみようよ!」
「えー...」
「なんだ?姉ちゃん、そういうの嫌いなのか?」
イェンまで戻ってきた。
...お願いだから話をややこしくしないで!
「へぇ。マヤ、お前結構良いセンスしてるな!」
「でしょ!?」
あー。
二人がまた意気投合してしまった。
...グイグイ。
袖を引っ張られた。
「ん?」
「私も、レナさんにつけてみてほしいです...」
...ああ、そうか。
この3人、揃うと手に負えないやつだ。




