メノウ観光2
「むふー!」
マヤちゃんが口に食べ物を入れたままなにか言ってる。出会った時と同じだ...
「あ、美味しい...」
サラちゃんも満足そうに食べている。
そうだよね、この国に入ってから食べたもの全部見たこと無いのに全部おいしい。
先ほど目についた露店で買った食べ物は大きな饅頭だった。
しかし、餡が甘いものではなく、肉を使った主食級のボリュームがある食べ物。
かじると中から、じゅわっと肉汁が溢れてくる。
火傷しそうなほどの熱さのそれをはふはふと冷ましながら飲み下す。
味わいが複雑で説明が難しいのに、間違いなくおいしいのだ。
「そういえば...」
「どうしたの?」
サラちゃんが少し考え込んだ。
「他国に入ったのに同じお金使えるんですね」
「あー。私も昔不思議だったな...」
確か、
「母体と女王というシステムに管理されるようになった人々のルーツは同じで、母体の管理下では全ての通貨が同じ。」
という説明を青の国に行った際、隊長から聞かされた。
「なんか、ワーカーが居る国は全て同じ通貨らしいよ」
「そうなんですか?...と言うかどこへ行ってもメイゼが使えるって不思議な感じです。」
難しいことを考えるね、サラちゃん。
確かに全ての国で通貨が同じ、私もメイゼ以外の通貨を知らない。
今食べている饅頭もポケットから適当に大小の数字が振られた硬貨で180メイゼ払った。
リーズナブルだなぁという感想しか私は抱かなかったのだが、よくよく考えると黒の国と文化が全く違うここで同じものを使えるのは変な感じだ...
「税理関係のワーカーさんはもっと細かく知ってるのかもね」
私が回答に困った様子を示したらサラちゃんが察して「あ、いえいえ。今度帰ったら調べますね」、と話を終わらせてくれた。
「ねぇ!次何食べよ!?」
「まだ食べるの?マヤちゃん」
いよいよ本調子と言う様子のマヤちゃんがまだ手に饅頭を持ちながら周囲の露店を見渡す。
...困ったな。私は朝まで宴会の席に居たわけだし、正直これ以上油っぽいものは入れる気にならない。
「あ、マヤちゃん。あっちに雑貨屋あるよ?」
「え、どこどこ?」
至る所にある露店とは別で、ちゃんとした店もたくさん見かける。
店の前に雑多に道具が散らかしてある感じ、あれは雑貨屋だろう。
「入ってみよっか」
「うん!」
食べ物から興味を逸らすことには成功したらしい。
マヤちゃんが急いで残りを口に放り込むと店へ走っていった。
「わぁ...!」
店内は外から見た以上に物で溢れていた。
棚には見たことのない形の食器や小さな置物、色鮮やかな布。
壁には何に使うのか分からない紐や飾りが所狭しと吊るされている。
...なんだろう、本当になんでもありそうだ。ブラドでよく行く雑貨屋を初めて見つけたとき以上のワクワクを感じている。
「レナお姉ちゃん、これ何?」
マヤちゃんがよく分からない置物を手に走ってくる。
紐がついた、いや、これは何の動物?
「知らない」
「即答!?」
だって知らないものは知らない。
サラちゃんが横から覗き込む。
「ここに文字が彫ってありますよ?」
「え、読めるの?」
サラちゃん、そんな特技が...
「全然」
「えー!期待しちゃったじゃん!」
マヤちゃんが私の思った通りの事を言うと、サラちゃんが困ったように笑った。
「お嬢ちゃん達、ここらの人間じゃないね?」
店の奥から店主らしき女性が声をかけてきた。
そうなんだが、なんて言えば良いのだろう...?
「ええと、」
「ああ、別に良いさ。聞いても分からんからね。赤の国は広いんだ、遠くから来てたら全然風土も違う。あんたらがどこの街、どこの国の出身だろうがあたしの店で買い物してくれるならお客さんさね」
おばちゃん...
いきなり人の良さそうな町民に出会えてよかった。
「おばちゃん!この置物の動物は何?」
マヤちゃんが置物を差し出すようにして聞いた。
「それは九瑞獣の璇狐だね。」
「くずいじゅう?」
「そう、九瑞獣。歴代の陛下の御力で従えている獣のうちでも、より秀でている9種はとてもありがたいものとされているのさ。それで、嬢ちゃんが持ってきたのはそのうちの璇狐の置物で家族や仲間の良縁と和合の象徴としたお守りさ」
マヤちゃんが説明を聞いて「へぇー」と素直に感動している。
「じゃあこれ欲しい!」
「ああ、まいど。800だ」
マヤちゃんがゴソゴソと懐を漁っている。
私も本が読みたいんだった。
なにか良いのは無いかな...
店を物色しながらゆっくりと歩き回る。
サラちゃんが小さな冊子のような物を手に取っている。
「サラちゃんは何見てるの?」
「これ、紙が綺麗なんです。黒の国で使ってる物と少し違ってて...」
...マヤちゃんとは見る場所が全然違う。
方や食べ物、方やきれいな紙。
性格出るなぁ。
「レナさんは何か買わないんですか?」
「私は本が欲しいんだけど...」
そう言おうとした時、マヤちゃんが何かを見つけて目を輝かせた。
嫌な予感がする。
「レナお姉ちゃん!これ!」
「え?嫌、なんか嫌な気がする」
「まだ何も言ってないよ!?」
マヤちゃんの手には、赤と金の装飾が付いた髪飾りが握られていた。
「絶対似合うよ!」
「いや、私そういうの分からないから...」
「付けるだけ付けてみましょうよ、レナさん!」
「サラちゃん!?」
サラちゃんまで乗ってきた。
さっきまで大人しかったのに。
「ちょっとだけですから」
「そうそう!ちょっとだけ!」
二人がじりじりと近付いてくる。
...なんで雑貨屋に入っただけで追い詰められてるんだ、私は。
「「あ、」」
後ろを向いたら、ちょうどサラちゃんと同じ場所を目にしていた。
マヤちゃんが持ってきた置物がある場所だ。
「九瑞獣?だっけ。他にも8種の置物があるのかな?」
これ以上いじられないように話題をそらすことにした。
見たことのない獣の置物が並んでいる。
数は7種しか無かった。
鳥のようなもの、蛇、亀、猿、兎、先ほどマヤちゃんが買っていた狐。
そして、視線を這わせているうちに私達3人は固まった。
7個の置物のうちひとつ、その姿に見覚えがあった。
「これ、」
特にマヤちゃんは青ざめていた。
「そうだね...」
緑色の大きな蛸。
この置物のモチーフになったのは明らかにマグナスヴィネアだった。




