入国
全員が振り向いた。
「...その、ええと。シャオイェンさん?は、ここで何をしているの?」
素直に理解できなかった。
青の国のレイノラ然り、他国のメジャーワーカーは人に殴りかかる習性でもあるのだろうか?
シャオイェンに困惑する私を見て、他のみんなもきょとんとしている。
「何ってあんたらを待っていたんだが?他に何があるってんだ?」
「......」
待ってたなら攻撃するなよ、と口をついて出そうになったがとりあえず飲み込んだ。
口は災いの元と、最近の私は痛感している。
「シャオイェン様がこの関所の責任者ということでよろしいでしょうか?」
外交モードのフレアが質問をした。
まぁ、絶対違うと思う。この感じは絶対興味本位とかそういうやつ。
「いや?ただ単に他国の兵士に興味があったから来た。メノウに向かうあんたらを迎えに兵士たちを寄こしたが、待ちくたびれて置いてきちまった。そろそろ到着すると思うが。」
ほらでた。
目のギラつきが外交のそれじゃなかったもん。
なんでいけしゃあしゃあと喋ってるんだ?なんかムカついてきた。
「あ、言い忘れてたな。ようこそ、歓迎しよう。さっき名乗ったが俺はシャオイェン。あんたらは?」
拳を反対の掌に当て、歓迎の姿勢を取ったシャオイェンが聞いてきた。
「こちらは、メジャーワーカーのレナ。私は同じくメジャーワーカーのフレア。こちらの2人が候補生のマヤ、サラです。歓迎に感謝します。」
フレアが全員を紹介したので、頭をペコリと下げた。
まだ納得いかない。
「おう、よろしくな!それと堅苦しいのは嫌いでいけない!俺のことはイェンで良い。あんたらも好きに話してくれ。」
「そう、じゃあ心置きなく...」
「そうか!ははっ!...っ!?」
私はイェンの肩に手をおいた。
地面に沈み込みそうなくらい深く強く押さえつける。でもびくともしない。何なんだ?この子供。
「...さっきのは何?痛かったんだけど?」
「え、いや。挨拶がてら腕試しを...」
「いきなり殴りかかるのが挨拶の礼儀なの?そう教えられてるの?」
グググググ...
シャオイェンの足元の地面が陥没してきた。
「レナちゃん!やめ!」
フレアが私の腕をはたいた。
「フレア、でも...」
「でもじゃない!私達もこの子も外交で来てるの!」
「...」
私がきょとんとして力を緩めた隙に腕をほどかれた。
フレアがイェンを抱きかかえる。
「怖かったね~イェンちゃん、大人げないお姉さんでごめんね~」
「おお、良いぞ!潰されるかと思ったが...フレアの姉ちゃんもガキみたいな体して強ぇのな!」
「は?潰すぞ♪?」
「フレア...」
もうなんかいいや。毒気が抜かれた...
きっとイェンはこういうタイプの子供なんだ。
「そう言えば、お前らが候補生か?」
フレアとじゃれ合っていたイェンがマヤちゃんとサラちゃんに視線を向けた。
「私マヤ、よろしくね!」
「おう!...お前、チビだな。本当に戦えるのか?」
またイェンが率直な感想を口にしている。
「そっちのほうがちっちゃいじゃん!歳もそんな変わらないでしょ?」
「そうか?まぁ、俺は強えから。」
何だその返し。見ていて飽きないよ、この子。
でも確かに、説得力はある。
先程の不意打ち、私とフレアならともかくマヤちゃんとサラちゃんが食い止められるビジョンが見えない。
マヤちゃんは「何をお!ぐぬぬぬ...」と抗議しているが、私から見ても明らかな力量差がある。
「私はレナお姉ちゃんの弟子だもん!」
サラちゃんが「マヤちゃん、やめなよ...」とそれをなだめている。
「へぇ、あの姉ちゃんの。そうだ、俺も合同訓練に参加してやろう。マヤ、お前と手合わせできるのを楽しみにしておく。」
「望むところだ!レナお姉ちゃんも見ててね!」
マヤちゃん。健気だ。
にこやかに闘志を燃やすマヤちゃんに心の中で声援を送る。
私は任務が始まったら演習を見れるか分からないのだ。
「シャオイェン様ー!」
ん?
みんなで何事かと関門の方へ視線を向けた。
「ああ、あいつら。やっと来たのか。」
遠くから声が聞こえ、集団でイェンと同じ様な意匠の服を着込んだ兵士たちが近づいてきた。
「シャオイェン様、困ります。急に走られては。」
「お前らが鈍臭いだけだ。」
「その様な事を言われましても...」
明らかに苦労人の様子。
短く切り揃えられた黒髪からは、凛とした印象を受ける。
イェンとのやり取りをそこそこにこちらに歩いてきた。
「ブラドから遥々お疲れ様でした。赤の国、兵士一同心よりお迎えいたします。」
「歓迎、感謝します。」
フレアが兵士とここからの話を始めた。
私達は先行隊であり、しばらくして青と黒の国の候補生を連れたクラウが遅れてやってくる。
とりあえず兵士を数人残してメノウへ戻るとのことだった。
「さて、じゃあ戻るとするか。」
イェンがそう言うと兵士たちが整列をした。
メジャーワーカーでもイェンは隊長クラスということかな?明らかに先程の兵士とイェンの2人だけ格が違う。
イェンがこちらを向いた。
「馬車で半日かからないくらいだ、ゆったりしててくれ。」
手綱を赤の国の兵士に任せ、私達の馬車も関門をくぐった。
「お前ら!客人の前でだらしない動きをするなよ!今日は宴だ!」
「「「おおー!」」」
馬車が赤の国王都メノウへ向けて進み始める。




