青の女王謁見
「勝負あり!勝者は黒の国のクラウディア!」
「ふぅ...」
あれよあれよと城に通されたと思ったら、女王が鎮座しており有無を言わせずに御前試合が始まった。
激闘の末、メジャーワーカー、レイノラを撃破した私はようやく青の国の女王へ謁見が許される。
玉座の前に歩み寄ると膝を折って女王の言葉を待つ。
「うむ。そなたの戦い、なかなか面白かったぞ」
「はい、お眼鏡にかなったのでしたら」
女王が私を上から下までじっくりと見渡す。
黒の国の女王様とは違う、それでも明らかに兵士とは違う圧倒的な重圧を視線、所作のひとつひとつから感じて戦闘で熱くなった体が芯から冷まされるような感覚に陥る。
顔を上げると眼に入ってくる女王がこれでもかと生物としての格の違いを突きつけてきた。
立てば床まで届きそうなほぼ黒と言っても差し支えないほどの紺色の髪は汚れ、傷ひとつなく毛先まで整えられており、視線を奪われる。しかし、その中央から覗く黒の女王様と同じ色の薄い虹色のような瞳が視線を逸らすことを許してくれない。
「なにか不服そうだな?」
「いえ、そんなことは...」
「お前のとこのレナはすぐに文句を言ったぞ?いきなり喧嘩を売られた挙げ句、御前試合させられて不愉快だっての」
レナぁ...!
どこに居ても無礼の塊のような態度のレナに内心叫ぶ。
「妾は暇潰しに飢えておる」
「承知しております」
女王様の近衛部隊に居ると、様々な情報が入ってくる。
もちろん青の国の女王が無類の遊び好きで、海が近く他都市との交易が盛んな王都を好きに改造した結果、夜になると巨大な色街と化すことまではなんとなく知っている。
黒の国との交易が円満に続いているのも、おそらく我々の武力に期待をしているとの考えだ。
「まぁ、わかっているとは思うがメジャーワーカー共には強そうな者を見つけ次第、因縁を付けてここに連れてくるよう命じておるんじゃ。」
「...」
だろうとは思った。
意味もなく戦闘を仕掛ける。その為に好戦的な兵士をたくさん用意しているんだろう。
「レイノラは妾の側近でも指折りの実力者の筈だが...レナに次いでまた負けるとはの」
レイノラが私の横で膝をついていた。
「女王。この女...クラウディアは強かった...です。それこそ黒の国の隊長格と同等クラスかと...」
「ほぉ、そんなにか。レイノラ、もう黙っておれ。お前は口が軽いからな。不用意に喋られても面倒だ。」
「はい...」
レイノラが黙った。
敬語を喋り慣れていなさそうな様子から、普段は女王にも変わらない口調で接しているのだろうか。
「前回レナが来て以降兵士たちも感化されてかなり鍛えておっての。あやつ、レイノラどころか妾の攻撃を受けてもびくともしなかった」
レナ、何をやったの?
女王に攻撃されるなんて。
私はそんなことをされたらひとたまりもないのできっぱりと線は引かせて貰う。
「私は彼女程強くはありません。先程のレイノラ殿とも戦況が違えば負けていたかもしれません。ですが最近特訓に付き合って貰うことで私自身、上達を感じています。」
「ほぅ、一応我々はそなたらとは別の国の者だからの。隣国が力を付けておるならと警戒はしたが、レナ程の実力者は居ないと言うことだな?」
「はい。私共もあれほどの力があれば良いのですが...」
友好国であるならばリーゼルの不在は知っているだろう。
しっかりとレナを立てる。
女王が目を細めるがそれ以上は何も言わなかった。
「...そういえば、そなたらは何か目的があって来たのであろう?」
「はい。間者を使って何度かやりとりはさせていただいているかと存じますが」
そして、ようやく本題に入れる。
「ああ、その件か。赤の国に我が国の候補生を派遣して合同演習だったか?」
「はい。我が国も候補生と私含めた3人のメジャーワーカーを派遣させていただきます。」
「ふむ。」と、女王が何かを考えた。
少し待つと、口を開く。
「それは、妾も楽しめるのか?」
「と、言いますと?」
「妾はこの国を離れることができぬ。赤の国に誰が集まって何の催しを行おうが正直どうでも良いのじゃ。違うか?」
言い返せない。
そう、赤の国を表立って調査するわけにはいかず、こうして他国を巻き込んでいるのだ。意図は違えど同行させる青の国に提供できる物が無さすぎるのだ。
娯楽主義の青の国女王にリアルタイムで情報を届けられればと思ったが、どう考えても厳しい。
「かあちゃん、」
レイノラが口を開く。
かあちゃん?
...かあちゃん!?
「客人の前だ。その呼び方をやめよ、レイノラ。」
「すみません」
「なんじゃ?」
「私が同行したいです。」
「ほう、それで妾に何の得がある?」
「私達の戦力が増強できます。他国の兵士と手合わせできる機会なんてそう無いから。黒の国の要請に応えれば多少なりとも恩を売れる。それに、レナに再戦を申し込める。」
そう言うレイノラの顔は野心に満ちていた。
おおよそ私に聞かせる話でも無い気がするが、この際聞かなかったことにしよう。
女王が再び黙り込んだ。
「クラウディア、そなたらは何を目的としておるのじゃ?今更このような催しを決めた意味はなんじゃ?」
目的、そのまま話しても仕方ない。
「我々の国にマグナスヴィネアが確認されました」
「なんじゃと?」
「幸い討伐されましたが、本件により国の軍事力を強化する必要が出ました。」
間違いじゃない。
そして、マグナスヴィネアが青の国にとっても脅威であることは変わらない筈だ。
「我が国にもその獣が出ると?」
「それは、わかりません。しかし、我々はどんな不測の事態にも対処出来るようにと考えました。黒の国が一方的に軍事力を強化することで不都合が生じないように隣国の青の国の皆さん。そして赤の国へ連絡をさせていただいた次第です。そして、赤の国からは許可が下りました。したがって今回は赤の国にて合同演習を行わせていただきます。」
「我々が参加しなくとも2国で軍事力を上げると...それは確かに面白くない」
女王はもう一度考え込む素振りを見せて口を開いた。
「今回は、と言ったな? では、次回を必ず開くこと。その際には我が国にて行うこと。それと、そのバカ娘を連れていけ。その条件を飲み込めるならば許可しよう。」
次回の予定など無い。
それでも、こう言うほか無かった。
今回の件、赤の国が黒なら次回開催は怪しい。
取り消しになった場合は何が起こるか分からないのだ。
平和に開催されると分かっているから条件を提示した女王。こちらはその真逆。
どちらにしても何とかして私は次回開催を取り付けなければいけない。その仕事が増えた。
「承知しました。私、クラウディアが開催を約束します。」
「守れなければ分かっておるな?」
「はい。」
女王は頷いた。
「分かった。それじゃあ最後に」
女王は不敵な笑みを浮かべると、手を突き出した。
「...っ!?」
視界が黒に染まった。
「ふむ、本人の言ったとおり。この程度で気絶するならばレナほどの実力はないようじゃな。おい、客間に運んで寝かせろ。そなたらは候補生を見繕って旅の支度を。」
そこで私の意識は途絶えた。




