多重魔法
ザッザッザッ...
眼前に広がる海。その手前にはどんな魔法を使ってもすくいきれないほどの砂。
そんな光景に目を奪われた私は黒の国からここまで歩いてきたという事実を忘れ、ただただ無心で浜辺を歩いた。
歩みを進めると土や石畳とは違った感触や、靴を伝ってくる熱に思わず気分が高揚してくる。
「...なんでしょう?」
ゆっくりと30分くらい歩いたところで海に水の柱が立ち登った。
ザバァアン!!
驚いた。
そして、ただの水柱では無かった。
獣の出現?
私は急いで水辺へと走った。
―――――
「よし!これを詰めればあいつに攻撃が通るようになるか!?」
「何をしているんです?」
走ってきたところ、浜辺には1人の人間が。
服装を見てみると、この国の兵士とは少し違った特徴のある服を着ている。実際にはこれまで会ってきた兵士たちとは意匠が違うので、メジャーワーカーなのだろうか。
青い髪に真紅の瞳。ボサボサの短い青髪が風にたなびいている。
「おう!魔法の練習をしてたとこだ!」
ここまで言ってようやくこっちに向き直った。
私がしたようにあちらも私の顔や服を見ている。
「お前。ここらの人間じゃねぇな?......その服。 レナのとこじゃねぇか!!!今日あいつは来てるのか!?」
「え?」
唐突な質問にビックリしてしまった。
急に目を子どものようにキラキラと輝かせ始めた。
「レナは来ていないですよ。」
「ええ!?」
とりあえず答えたら目に見えてしょぼくれた。
「そうか...今度こそ勝てると思ったんだがな...」
レナに勝てる?なんか凄いことを言ってる気がする。
「すみません。あなたはここで一体何を?すごい音がして来たのですが」
「ああ、魔法の練習をしてたんだ。まぁ、折角だ。見せてやるよ」
魔法の練習であの規模...
おそらくこの人は相当な使い手だ。
落ち込んでたのも束の間、手を前に突き出し魔法構築を始めた。
見た目や口調から見えるガサツな印象からは似つかないほど丁寧な魔法構築だ。
――多重構築。
魔法を並べている。
―初級水魔法:ウォーターボール
―中級風魔法:ウインドシールド
水球を離れた場所に飛ばすとシールドで圧縮するように押さえつけた。
―初級炎魔法:ファイア
―初級土魔法:ロックバレット
「これは...」
ここまでやって何をしようとしているか分かった。
この場所は、、、危ない!
「気づいたか!あぶねぇから下がってな!」
上級魔法ではなく一般の魔法の重ねがけ。
通常は上級魔法の方が難易度が高いとされる。だが四つの魔法をこの規模で同時に維持して重複させるとなれば、その難度は上級魔法にも劣らない。
ロックバレット、一般的な岩を飛ばす魔法。
その岩を空中に待機させ、ファイアで包み込む。
炙るのではなく包み込む。魔法制御の練度に感嘆する。
ファイアで極限まで熱された岩はドロドロに溶け、真っ赤な状態で空中に固定されている。
「技名決めてなかったな...ロアヴェイパー!!!」
高熱に熱された岩を圧縮した水球に一気に放り込む。
それが意味することとは。
――――ズドォォォォォンッ!!
空気が裂けた。
高密度な水蒸気爆発。
衝撃に備えていたが、衝撃で何メートルか飛ばされてしまった。
周囲に跳ね上げられた海水と、熱された水の雨が遅れて降り注ぐ。
...危険な技を見てしまった。
口をパクパクさせて状況を確認する。
何も景色は変わっていない。少し魚が浮いてきているくらいか。
耳がジンジンする。
「圧縮した水を使った水蒸気爆発、あなたこれ何に使うつもりですか?」
どこで使っても甚大な被害が出そうな技だ。
「あ?レナだが?このくらいしなきゃダメじゃね?」
堂々と人に使うつもりだったと宣言してる。危ない。
...と思ったが、これでもレナはケロッとしてそうだから困る。
「いや、流石に危なすぎですよ」
レナは無事でも周辺は確実に大惨事だ。使用は慎んで欲しい。
それでも、私の発言に対して鬱陶しそうに顔をしかめただけだった。
「お前、こんな程度の攻撃で怯むようじゃレナどころか私にすら勝てんだろ。」
そして、急に挑発してきた。ニヤニヤと煽ってくる。
「勝てん、ですか。私そんな話しましたっけ?」
「したぜ。レナ以外がお前みたいなのばっかなら黒の国も程度が知れるってな」
「ほう。」
表情には出さないが、こんな軽口相手でも苛立ちを覚えた。
どうやら一回分からせてやったほうが良いだろう。
「あなたはレナとどういう関係なんです?」
「ライバルだ!私はレナ程のやつにあったことがねぇ。絶対超えてやる!」
どっかで聞いたことがあるフレーズ。そう、私と同じようなことを言ってる。
「レナに敗けたあと、あしらわれて勝手にそう言ってるだけじゃないですか?」
「うぐ、まぁそうだが...」
図星だ。
それでもなめられたままでは居られない。
「さっき黒の国の程度が知れたと言っていましたね?」
「お、なにか見せてくれるのか?しょうがねぇから面白かったら謝罪してやる」
「言いましたね?」
私は手を海に向ける。
この人は魔力制御に長けている。この口調からは予想もつかないほど、特訓も実戦経験も積んできたんだろう。
だが私にもそれは言える。こと魔力制御に関しては能力を使わなくても負ける気はしない。
スうっと息を吸い込む。
「ロアヴェイパー!!!」
「は?」
技名を言う前に魔法の構築を終わらせておく。
さっきよりも少しだけ威力を高めた。
――――ズドォォォォォンッ!!
また空気が破れた。
「そんな、お前...」
完成したばかりの自分の技を"真似される”とは思っていなかったんだ。
「面白かったですか?」
さっきの発言を撤回するように目を向けた。
「ちっ。ああ。わーったよ!眼の前で即興で自分の技を真似されて、つまんねぇは言えねえよな。黒の国の力は大したもんだ。すまなかった」
ちゃんとまっすぐ謝罪を言われたから満足した。
「あ、おーい。クラウディア様!」
遠くから声が聞こえて振り向くと先程受付にて女王に謁見の許可を貰ってきてくれると言っていた兵士が居た。
思ったよりもずっと早かった。こんな離れたところを探させてしまって申し訳ない。
走ってくる足が、私の隣りにいる人物を見てとまった。
「おう。おつかれ」
「は、はい。お疲れ様です」
たじたじ。兵士が緊張か畏れか。よく分からない態度になっている。
「女王様との謁見許可でしょうか?」
「はい。これからすぐにでも」
「ちょっと待った。」
「「...え?」」
兵士と声が揃ってしまった。
またニヤニヤと続ける。
「なぁに、女王は娯楽に飢えていてな。」
兵士がまた始めたと言う顔になった。
その時点でなんとなく察した。
「クラウディアって言ったな?女王と話したければこの私。青の国メジャーワーカーのレイノラ様を御前試合で倒していきな!」
遅くなってすみません。引き続きお願いします。




