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国境

"ガキィイン"


金属音が木霊した。


音と言うよりも圧力。暴力的なそれは静寂を呼んだ。 その静寂は怒声に満ちた戦場を駆け巡り、やがては音の発生源へ視線を向かわせる。


"間に合わなかった"


そう思ってしまった私の目は固く閉じられていて、開かれることを拒否しているようだ。


...それでもおかしい


戦場で目を閉じている敵が居たら攻撃するのが普通。私はもう10秒近く目をつぶっている。


おかしいと思った私は思いきり良く目を開いた。


「ちっ、手を煩わせやがって」


視線の先には親友の亡骸ではなく、刃を受け止めた一人の男の姿があった。


「誰だてめえ?」


険悪な雰囲気を纏った敵将が声をあげる。


「そうだったな。名乗り遅れた。俺は五目並べ七人衆第六席、名をボノンパと言う。"斬殺のボノンパ"とは俺の事よ」


なんだこいつ?

敵じゃないのか?


でも分かったことがある。


「たわけが!」

「俺の力、試してみるかい?」


この男は、"恐ろしく強い"。


――――――


「いや誰!?」

「え?」

「......」

「......」

「いやさ、フレア...」

「ん?何?」

「何?じゃなくてさ、、、これ何!?」


ほんと、私はいま何を聞かされてたんだ?


「レナちゃんが言ったんだよ?面白い話無いかって」

「いや、だからボノンパって誰なの!?」

「五目並べ七人衆の第六席"斬殺のボノンパ"をご存じでない?」

「知らないよ!なんなの!?」


――確かにそうだ。


今朝方、私とフレア。そしてマヤちゃんとサラちゃんの4人で王都を出発した。


候補生を連れた大所帯を覚悟していたのだが、

クラウが「私が青の国の候補生を連れてくるまで遊ばせておくわけにもいきません。私が連れていきますから少人数で行動していいですよ」

と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


気の知れた同僚と、可愛い友達とその友達。

楽しくないわけがないのだが、1つだけ気になっていることがある。


――ガタガタと回る車輪を見て溜息がこぼれた。


そう。今は馬車に揺られている。...移動が遅いのだ。

ビョルンさん達とニグル山へ行ったときもそうだが、私たち兵士が早足で行軍するよりも、ずっと馬車での移動は遅いものとなっている。


候補生を連れた外交の一環であるため、それが分かるような格好をする必要があるとのこと。

黒の国から外交で来たことが分かるような質の良い装飾が施された黒色の馬車で私たちは移動をしている。


移動は約1週間。トルマからニグル山へ行くよりも距離がある。

殆ど使われていないような街道を通過し、国境の関門へと向かっている。


そんな長い旅だ。今は敵が近くにいる様子もないし、暇を持て余した私は馬を駆るフレアに面白い話が無いかと無茶振りをした。

そうしたら、詩人のようなそれっぽい口調で話し始めるものだから楽しく聞いていた結果がこれだ。


...いや、ボノンパって誰だよ。


話について行けなくなった私が終わりを切り出すと、フレアが寂しそうな顔をした。


「こっからがおもしろくて第4席の策略で球場に突き刺さるのに...」

「もういいって、やめて。」


いや、だからなんなんだって...

まったく知らない単語をとことんまで並べられると困惑から恐怖が生まれてくると言うことが分かった。


なんか夢に出そうだ。ボノンパ...


そんなくだらないやり取りをしていたら、サラちゃんが小さくフフッと笑った。


「どうしたの?」

「ううん。遊撃部隊の方たちなんて話でしか聞いたこと無かったから」


マヤちゃんがサラちゃんに反応した。


「レナお姉ちゃんの周りはいつもこんな感じだよ?...まぁ、私もフレアさんと話したこと殆ど無かったからびっくりしてるけど」


あ、そうか。フレアとマヤちゃんは面識ほとんど無かったっけか。

それを聞いて馬車の手綱を握っているフレアが嬉しそうに振り返った。


「私もずっとマヤちゃんと話したかったんだ~。ま、私もレナちゃんから嫌というほど聞いてるんだけど」

「そうなの?お姉ちゃん?」

「え?ちょっと待ってフレア!」


フレアが私のあること無いことを暴露し始める前にとめないと。

というか私そんなにマヤちゃんの話ばっかしてる!?


「そりゃそうだよ。レナちゃんはマヤちゃんが大好きだからね。この前なんて...」

「えっ、ちょっ、やめて!フレア!!!」


私の静止を待つ前に暴露大会が始まってる。

手綱を握ってる人間に暴力を振るうわけにもいかず、私の気恥ずかしい話ばかり続いた。


2人の会話を傍から聞いてるサラちゃんに慰めてもらうことしかできなかった。


―――

――――――


「あ、そろそろ国境に着くと思うんだけど、それぞれの動きだけ確認しておこうか。」


出発から6日目の昼下がり。

フレア曰く、馬車は予定より早く進んでいるらしく、今日の夕方から夜くらいには国境の関門に到着できるそうだった。


マヤちゃんとサラちゃんは2人揃って真剣な顔つきになった。


...関所を超えたら赤の国の外交官を務める兵士が迎えに来ているはずで、そのまま王都に招かれると考えられるから表立った行動は制限されてしまう。


動きと言っても私とフレアはうまく情報を集めろとしか言われてないから、きっとマヤちゃんとサラちゃんを含めた、現地での立ち回りのことだろう。


「まずは、レナちゃんは王都メノウに着いたらしばらく遊んでていいよ。2人もね」

「「「え?」」」


3人揃って素っ頓狂な声を上げてしまった。


「行動が見張られると思うからね~。私はこういうの得意だからまずは1人で調査するよ。だから合同演習まではレナちゃんもおやすみ」


あ、そういうことか。


「分かった。どのくらい自由にしてて良い?」

「クラウちゃんが来るまでは2週間はありそうだもんね...とりあえず私は急いで見張りを剥がすからそこから1週間は”遊んでて”ほしいかも」

「わかった。よろしく。」


私とフレアの会話について来れなくなったマヤちゃんとサラちゃんがキョトンとしている。

かいつまんで説明しておくか。


「監視がつくのに、来た兵士2人が行方を眩ます訳にはいかないからね。最初は全員監視されるらしいけど、まぁ、フレアなら問題ないでしょ。逆に私たちが注目された上で監視されてればしばらくフレアは自由に行動できるってこと」

「へぇ!なんか難しいけど、姉ちゃんが兵士っぽい会話してるの初めて聞いた!」

「マヤちゃん、失礼だよ...!」

「ゴメンナサイ」


2人とも内容を理解してくれたようだから良かった。

まぁ、フレアの実力に頼ってるだけなんだけど、遊んできていいよって気遣いもあるだろうからありがたく時間は使わせてもらう。


じゃあ何しようか考えておこう。

食べ歩きもしたいし、他国の物語も漁ってみたい。本屋とかあるのかな?


とか考えてたらフレアが続けた。


「あと、とりあえず関所は大丈夫かな。とりあえず私が会話してみるよ」


適材適所って言葉はあるけど、馬車の操作から作戦の概要まで。フレアが万能過ぎてありがたいやらなんやら。


「お、見えてきたね」


街道沿い、黒の国側から続く山で道が一部狭まっている箇所があり、そこの中央に門が見えた。

ガタンゴトンと進み続けた馬車がここに来てようやく止まる。


フレアが馬車から降りるのを確認すると私も2人を連れてフレアの横に並んだ。


...あれが赤の国の兵士?


見慣れない鎧を着込んだ兵士が5人やってきた。

私たち同様武器を帯刀していて、顔には深い警戒の色が浮かんでいる。


「長距離の移動、ご苦労さまでした。」

「いえ、この度は黒の国の要請に応えていただきありがとうございました。」


フレアが社交辞令を続ける。

穏やかだが、緊張の糸が張り詰めている感覚を残しつつ、相手が話を進めた。


「この場所は赤の国の領土となります。こちらの制度に則って入国の手続きを進めさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「もちろん」


国境の関門と言いつつも、こんな国の外れを開拓しようと考えた人間は居なかった。

そのため黒の国は国境にこれと言った検問を敷いていない。

それとは対照的に赤の国は国境と王都メノウが近いということもあってかちゃんと関所を配置している。

だから国境とか言いつつ、この場所は赤の国の中なのだ。


兵士たちの命令に従って入国の手続きが始まった。

荷物の調査や個人への軽い質問。入念なチェックが入っていく。


お互いの国は長年国交が無かったのだ。慎重に確認を進めても安心などできないだろう。事実私とフレアは国の調査を勝手に進めようとしているのだから。

それでも、私たちはほぼこの身一つで来たのだ。怪しいところなんて無いはず。


「問題ございませんでした、それでは...」


兵士がそこまで言ったところで、門の影で人影が...


「あんたらが黒の国の兵士か?」

「っ!?」


背後から聞こえた声に反応できたのは私だけだった。

追ってフレア、そして2人がようやく反応した。


「へぇ、姉ちゃんがいちばん強ぇって事か。」


華奢な体。歳はマヤちゃんと同じくらいだろうか、子供らしくはつらつとした赤い瞳に銀糸の混じった赤褐色の髪。

それでもオーラは子どもの、いや、一般の兵士のそれでは無かった。


子供はニヤッと笑うと私に向かって一気に距離を詰める。


――シュッ。


滑り込むように繰り出された拳を二の腕を盾にして受け止めた。


ドゴッ、と言う鈍い音と衝撃が周囲に広がった。


「...ってて、これがこの国の挨拶?」

「マジかよ、寸止めするつもりだったが、並の兵士なら気絶するレベルだぞ...」


いや、結構痛いけど?というか、こんな攻撃普通の兵士なら気絶どころじゃなくて死ぬよ?

なんなんだこの子。普通だったら一発殴り返すところだけど、他国の兵士に手を出して良いか分からない。


「ハハッ、楽しめそうだ!いきなり殴りかかって失礼した。俺はシャオイェン。この国のメジャーワーカーだ!」


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