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メジャーワーカーのための働き方改革  作者: テラサワ
冬の始まりと終わり
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1章エピローグ

「ママ...」


無意識にこぼれた声に返事など何もない。

ただ少女の泣く声が聞こえるだけだ。小さいながらも大声は出しまいと気を張っていたが、ここに来てついに限界が来てしまった。


「パパ...」


少し前に足をくじいてしまい、少女はまともに歩けないでいた。

ゆっくり足を引きずって身を隠す場所を隠していたら、あっという間に世界が夜の闇に包まれていた。

夜の世界。昼間とは比べ物にならないほど獣たちが活性化する。

木の洞に身を隠してやり過ごそうとしていたが、少女のか細い心はとうとう決壊してしまった。


森の中、少女の咽び泣く声に誘われて、獣たちがゆっくりと押し寄せてくる。

もうじきに一つの命が消え去るだろう。


獣たちの牽制を歯牙にもかけず一頭よりいっそう大きなカマキリのような姿をした獣が木に向かって歩き始めた。


シュザッ


その腕の一振りは容赦なく木を丸太にし、隠れる少女の姿をあらわにしてしまった。


少女はもう声も出せない。逃げようにも動くことはできないだろう。

ただ獣を見つめる少女の目には何が写ったのだろう。


――サクッ


気がつけば獣の腕が少女の腹部を串刺しにしていた。


「たすけて」


声は殆ど出なかった。大粒の涙に泣き腫らした顔からは血の気がなくなっていく。

仕留めた獲物に齧りつこうと獣の顔が近づいてきた。


間近で見るとよりいっそう不気味な顔からどうしても目が離せない。

いや、離せなかった。


―――次の瞬間、なぜか怪物の頭部が目の前から消え果てていたのだ。


少女を吊し上げていた腕も切り落とされ、重力に従って少女の体は地面に横たわった。


「大丈夫」


目も耳ももうろくに働いていない。それでも何か、とても暖かい何かを感じた。


「大丈夫、絶対帰すから」


きっと少女は死を悟っていたのだろう。それでもその言葉にえもいわぬ安心感を覚え、意識を手放した。




――――――

―――



「最後の仕事?」

「はい。イリア教官に例のトルマの少女相手に試験官をとのことで」


女王様が亡くなられ、やけに長く感じた冬がいよいよ終わりを迎えた。

そんな春先に私――。兵士候補生教官イリアに厄介な仕事が入ってきた。


衛兵部隊に長年勤め、ここ数年は兵士候補生の面倒を見てきた。

兵士として選ばれた子どもたちの面倒を訓練校でみてきたが、最近体に限界を感じ始めて、退職願を提出した矢先にこんな大きな仕事をまわされることになるとは。


「ええと、なんで私なんですか?もちろん、いただいた仕事は頑張らせていただきますが」

「それが、詳しい説明はされなかったんですよね。トルマに勤務経験があって教官業務をしている人としか...」


理由がどうであれ、上層部が私のような一般のワーカーを気にかけてくれたことは素直に嬉しかった。

今年は女王様がいらっしゃらないから、新しい兵士候補も入ってこなかったし、仕事納めにはちょうど良いのでは無いかと思うんだ。


「そう。問題なさそうなら受けさせていただきますと伝えてください。それとリッケ。」

「何でしょうか?」

「この仕事が終わったら、私は兵士をやめようと思っています。」


助手をしてくれているリッケは、私がもうすぐに辞めることを知っている。

少し寂しそうに「そうですか」とだけ返ってきた。


「女王様が逝去なさって半年、ここからって時に心苦しいですが...」

「いいえ。教官は長い間大変頑張ってくださいました。私自身も教え子のひとりとして誇らしいです。」

「それでは、残り少ないですが、今日もよろしくお願いします」



―――数日後



「それでは、行ってきます」

「お気をつけて」


数日後、リッケに案内された場所はいつもの訓練校の寂れた教練場ではなく、ブラドの城勤めが使用する大きな演習場だった。

その演習場の中央には少女、そして審判として最強の一角として名高いチカゲ隊長が居た。


ギャラリーはそこそこ。というよりも隊長クラスが何人も来ていて、私のほうが肩身が狭くなってきてしまう。

...そもそもの扱いが違うんだろう。女王様が居ない中兵士になった少女。普通候補生になるような年齢の子供は戦闘の試験なんてしないのだ。


突き刺すような視線に囲まれながら居心地の悪さを感じつつ少女の前にたどり着いた。


「急な召集に感謝する。」

「いいえ、国のために尽くせるなら光栄です」


チカゲ隊長と社交辞令を交わしつつ少女の様子を観察する。

私同様居心地の悪そうな顔をしているが、それを上回る緊張がよく見て取れた。


"おや?"


少女の様子よりも少女が手にしている使い込まれたメイスに目を引かれた。


「あの、そのメイスって」

「え?はいっ。元兵士の母親から貰いました!」


なにか見覚えのあるものをみて聞かずに居られなかったが、快く答えてくれた。


トルマ出身、兵士の母親、メイス使い...

そこまで考えて少女の顔をみていたら合点がいった。


「そうか!あの時の!!」


私の急な態度にチカゲ隊長が少し驚いた様子を見せるが、そのまま少女にに声をかけた


「大きくなって...良かった。きっと私のこと覚えてないでしょうね」


この少女、アルマさんの子供だ。

昔トルマ外の森で行方不明になったところを助けたんだ。

あの時は獣に重症を負わされていて助かるかどうか分からなかったんだけど、今無事が分かって本当に良かった。


少女の困惑を他所に、ひとりキャッキャとはしゃいでしまった。


「お母さんは元気ですか?」

「この前、妹が生まれました」

「あら!良かったですね。」

「そろそろ準備をしてもらえないだろうか」


ここまで話したところで、そろそろ始めなさいとチカゲ隊長からストップがかかった。


「終わったら話を聞かせてくださいね。...さて、あの人の娘さんなら尚の事手加減はできませんよ。名前はマヤさんでしたっけ?」

「はいっ!!よろしくお願いします」


「それでは。特殊能力の使用は禁止だ。はじめ!!」


――――――


飛んできた攻撃を躱す。


――多少の修練は積んでくると聞いていたが、まさか本気を出すことになるとは思わなかった。


初級魔術を軸に中級魔術を使ってくるのだが、その扱いがずば抜けてうまい。

魔力特化の兵士と聞いていたが、魔法だけに甘えずに身体強化を使用した物理攻撃も同様に行ってくるのが非常に厄介なのだ。


そして、直剣を使ってメイスをいなすと、即座に攻撃魔法が飛んでくる。

この構築の早さも厄介極まりない。


「思ったよりもずっと強いですね、師匠は誰ですか?」

「戦闘はレナさん。魔法はクラウディアさんです」


レナさんにクラウディアさん?

それぞれ遊撃部隊所属の時期最強候補と噂されてる人たちだ。

あのマグナスヴィネアを一撃で仕留めるような化け物の弟子が弱いわけがない。


この立ち回りを見る感じ、獣とはほとんど戦ってこなかったんじゃないだろうか。

獣相手ではなく対人特化の戦闘だ。


半年の短期間の成長で伸ばせる場所を伸ばしてこの試験を想定している動きだった。

おそらくマヤさんはそれに気づいていない。何なら自分が兵士相手にここまで戦えると思ってなかったのでは無いだろうか。



そして、決着がやってきた。


マヤさんが氷と火の魔法を展開。

私が合わせて土の魔法で防御姿勢をとった瞬間、腹にメイスが突きつけられていた。


「...参りました。あなたの勝ちです」

「勝負あり。勝者はマヤ」


「はぁ、はぁ、...ありがとうございました!!!」


マヤさんは肩で息をしていて、しかし子供らしく感激の様子もしっかりと滲み出していた。



――――――


「これで終わり」


私は今日の試合が終わり次第この職場を発とうと準備を進めていた。

そして、閑散とした部屋を眺めると静かに部屋を出た。


「早かったな」


何年間勤めただろうか。

10歳で親元を離れて、40手前。

普段と同じで目に映る建物の景色はそれでもことごとくが懐かしく映った。


――ワーカーは長命なものも多いが、私は常人とさほど変わらない。

だましだましでもよくやってきた方だと自分を褒めたくなった。


衛兵から変わってここ7年くらいは教官をやった。


色々な感情を持って入ってくる子どもたちを見る仕事はとてもやりがいを感じるものだった。


「みんな元気しているでしょうか...」


仕事柄送り出した教え子達が命を落とすことも多々あった。

しょうがないとは割り切ろうとしたけど、それが悲しくて、そうならないように本気で訓練をやってきた。


「......」


女王様も最後はこんな気持だったのだろうか。


...

......


ガチャッ


城を出たら外に―――


「イリア教官に敬礼!!」


っ!?


「びっくりした、、、リッケと、それから...」


多くはないが、城の出口には数名の兵士がいて、その全員に見覚えがあった。

その教え子達から別れを惜しむ声が飛んできた。


「酷いじゃないですか、いきなり去るなんて」

「いや、些細ですが送別会はやってもらいましたよ?」

「そういうことじゃなくて!」


教え子達は私たちが静かに去ろうとしたことが気に入らなかったようだ。

それにしても、口々にこんなに声をかけてくれる子達がこんなに居るなんて、予想していなかった。


「イリア教官、お疲れ様でした」

「ありがとうございます、リッケ」

「これで、本当に終わりですね」

「そうですね...とても充実してました。」


リッケは少し寂しそうに笑った。


「教官のおかげで、私も兵士になれました」

「いえいえ、あなたは優秀でしたから」

「いいえ。教官が諦めなかったからです」


――そうだったかもしれない。


私は、教え子たちを諦めなかった。こんな私でも足しになればと。


...それもそうだけど多分違うな。すくすくと成長してく子どもたちが可愛かったからだ。

みんないい子たちばかりで、私よりずっと優秀になってく子たちを見るのは誇らしかった。


だから、今日まで続けてこられた。


そこから、みんなから一言貰って、私からも一言づつ添えて。

そして解散した。



「――さてと。」


"今度こそ終わり"


そう思って城を出ていく。


ふと今日戦ったマヤさんとの会話を思い出した。


――――


「妹さん、無事に生まれて良かったですね」

「はい。本当に。」

「そういえばどんな名前なんですか?」

「私の尊敬する人の名前を参考につけさせてもらいました。今何してるんでしょうね」

「それってどんな人ですか?」

「ええと、8年くらい前にトルマの森の中で命を助けてくれた人って母から...」


そこまで言って私は言葉を飲み込んだ。

この子に私は名乗り出て良いのだろうか。


「その人の名前を参考にさせてもらって、妹の名前は"ミリア"です。」


――――


世の中って、狭いな。

結局私はマヤさんには名前を名乗らなかったけれど、マヤさんは私のことを多少なりとも覚えてくれていたんだな。


「――ありがとう」


まだ春先だと言うのに頬を撫でるやけに温かい風がとても心地よかった。

駄文、走り気味で申し訳ないです。

とりあえず一区切りです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

今後ともゆっくりにはなると思いますがよろしくお願いします。

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