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メジャーワーカーのための働き方改革  作者: テラサワ
冬の始まりと終わり
43/47

日記

――4ヶ月後


「うーん...よく寝た」


ベッドから起きると大きく伸びをする。

窓を開け、日が昇るのが早くなったな。なんてことを考えながら朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで部屋と一緒に体の中の空気も換気する。


――朝の目覚めがかなり良くなった。

目覚めと言うか、気温が暖かくなってきたこともあって、睡眠の質が高いのだなと実感している。


「そろそろ終わりなんだよな」


日が昇って明るくなっていく外とは違って、だんだん心が陰鬱なもので満たされていく。


――マヤちゃんの特訓を初めて約4ヶ月。

迫ってきた春の空気。私はマヤちゃんを連れてブラドに戻らなければならない。


やれることはやっただろうか?

マヤちゃんが兵士として成長してないと判断されたら、今後のマヤちゃんに自由は与えられない可能性が高い。

ここまでやれる限りの特訓はしたはずだ。


クラウが来てくれたのもありがたい。

マヤちゃんに兵士の基礎を教えてくれたことで、私がマヤちゃんに教えられることの幅が増えたのだ。


基礎の講義を週1で行い、それの練習がてら別の訓練を並行して行う。

私の基礎よりもクラウの基礎の方がわかりやすかったのだろうか、マヤちゃんはどんどんと成長していった。


それを見たクラウは

「あとは大丈夫そうですね。ブラドで待っていますので、練習に励んでください」

と、言い残して1月ほど前から姿を表さなくなった。


――そして昨日。

マヤちゃんは小型だけどついに獣を1人で討伐することに成功した。


2人で喜びあって、ビョルンさんやアルマさんも家族のように喜んでくれて。


...ああ。

不謹慎なのかも知れないが、この数ヶ月。とても楽しかったんだとしみじみと感じた。


「さて。」


修行も大詰めだ。

部屋から出ると、マヤちゃんの部屋へ行って声を掛ける。


「おはようマヤちゃん、あれ?」


どうやら留守な様子。

昨日相当体力を使ったと思うけど、朝早くから練習に出たようだった。

まぁ、街の外へはひとりで行かないようにと言ってあるから、大丈夫だろう。


それにしても...部屋に入って分かったが、マヤちゃんの部屋は閑散としている。

立つ鳥跡を濁さずとは言うが、記憶よりも私物がかなり少なくなっていた。


胸がキュッとなるのを感じながら、机に置かれた1冊の本の存在に気がついた。


「本?珍しい」


私は暇つぶしによく本を読むが、確か本を初めて持ち込んだ時にビョルンさんがこの家では普段本を読む人は居ないと言っていた。


どんな本だろうと思って開いたら、これはマヤちゃんの日記帳だった。


あ、これは読んじゃいけないだろう。


そう思ったけど、1文目に目が釘付けになってしまい読む手が止まらなかった。


――

――――


マヤはこの前のマグナスヴィネア襲撃で死にました。


私は、これから兵士になります。

みんなが私のことを忘れても、私はみんなのことを忘れないから。

マヤが大好きだったこの街もこの国も、そして家族のことも守れる兵士になるから。

だから今日から兵士になるまで毎日、日記をつけようと思います。



――――


1日目

レナお姉ちゃんに連れられて街の外へ行った。

まだ外は怖くて、あの日ラルグを庇おうとした時に振り切ったと思ったんだけどな。

震える足を我慢してレナお姉ちゃんについて行った。

草原には何もなかった。壁も獣も。

ブラドに向かう馬車ではいつも外の景色を見ないようにしていたから、外ってこんなに綺麗なんだなって思った。

レナお姉ちゃんが魔法の基礎について教えてくれた。試しって言って使ってた魔法は私には出せそうにないけど頑張ってみたいな。


――――


6日目

ようやく魔力の操作が分かってきたと思った矢先、レナお姉ちゃんが獣を倒しに行くって言い出した。

怖かった。怖かったんだけど、レナお姉ちゃんが初級魔法教えるって言って焼き払っちゃったから、なんか呆気にとられちゃったな。

そのあと来た、クラウディアさんの講義がとっても分かりやすかった。

ありがたいことにクラウディアさんがこれから定期的に教えに来てくれるみたいだし、魔法をもっと使えるようになるぞ!

それにしても、レナお姉ちゃんってばおもしろいんだね。クラウディアさんに叱られるレナお姉ちゃんは見たこと無いような顔をしていて、少しだけ羨ましくなった。


――――


30日目

今日は休みらしいから、部屋で編みかけだったマフラーを編んだ。

久しぶりだけど、ママに聞くわけにもいかない。確かめるように編む。

パパと、ママと、それから赤ちゃん。去年から進めてるから、きっと行く前には終わると思う。

夜に暖炉に当たってママと話していた。思い出してくれなくても、ママはママだなって。

赤ちゃんも順調に大きくなってるし、生まれるのが楽しみだな。

ちょっとだけ、赤ちゃんは私と違ってパパとママに忘れられることは無いんだなって悔しい気持ちになった。そんな事考えないようにしないと。


――――


41日目

昨日の大雪の影響で外は真っ白。朝からパパは雪を下ろすって言って走り回っていた。

今日はクラウディアさんは来ないかなって思ったんだけど、こんなに雪が積もった中でもブラドからトルマまで来てくれた。

魔力の操作にちょうど良いってことで雪玉を大量に作って、それを氷の魔法で操作する練習をした。

レナお姉ちゃんが、投げた雪玉がすごい勢いでクラウディアさんをかすめた時はヒヤッとしたな。

結晶?を纏わせた雪玉をお姉ちゃんに向かって連射しててすごかったな。大人の雪合戦ってあんな感じなのかな?私は参加したくないな。


――――


57日目

お姉ちゃんが特殊能力について教えてくれた。

使い方は人それぞれだから教えることはできないって言われたけど、とりあえず練習してみてとのことだ。

ママとパパに忘れられちゃったことを思い出して、涙が止まらなくなったけど、お姉ちゃんが抱きしめてくれた。

レナお姉ちゃんは私の事を絶対に忘れることは無いって言ってたけど、どういうことなんだろう?


――――


72日目

色々な魔術を使えるようになった。

レナお姉ちゃんがしきりにすごいすごいって言ってきて、くすぐったいような。

パパの仕事を手伝って雪を下ろしている時に、怪我をした人が居たから回復魔法を試させてもらった。

なにか違う魔力の使い方を思いついた気がするけど、これが特殊能力なのかな?


――――


76日目

クラウディアさんにこの前感じた事を話したら、試してみないとわからないって言われた。

幸い、回復用の能力だから実験をしても害は出ないだろうということで、レナお姉ちゃんがパパの職場の人を連れてきた。

マルクスさんっていう人らしいけど、お互いほとんど知らない関係。そして、私が能力を使うとマルクスさんは今日私と話した記憶を無くしたらしい。

もっと実験しないとわからないらしいけど、私の能力の効果が目に見えて分かってしまってとっても辛かった。


――――


100日目

100日経った。100日だよ?これまで大変だったな。でもみんなのために強くなるんだ。

やり残したことは、多分ないよね?あとはもっと強くなるだけ!頑張るぞ!!


――――


116日目

今日はお姉ちゃんが捕まえてきた獣をひとりで倒した。

兎の形をした獣だけど、とっても強かった。

私は魔力が高いかわりに身体能力が他の兵士みたいに高くないみたい。

魔力で身体能力を強化して、攻撃を捌きながら初級魔法で攻撃をした。

結構長い時間戦ったと思うけど、問題なく倒すことができた。

獣でも初めて命を奪った時の感覚は忘れることはできなさそう。

でも、兎を連れて帰ってママが作ってくれたお肉の料理は美味しかったな。


――――

――


マヤちゃん...

稚拙でも毎日色々な感情が綴られている日記を見て涙が出そうになった。

大丈夫、マヤちゃん。私が絶対に強い兵士にしてみせるから。


冬の終わり、私の休日も間もなく終わるのだ。

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