修行の始まり
久しぶりに獣を倒すのに魔法を使ってみたけど、思ったよりも楽しいな。
プスプスと煙を上げるイワイノシシを見る。
この獣、外殻が岩に覆われてるだけあって中の肉柔らかくて美味しいんだよね。
表面を焼いたことにより、少しだけ食欲をそそる匂いが出ていた。
おっと、マヤちゃんのお手本にちゃんとなれただろうか?
少し驚かせてしまっただろうか、目を見開いて体を震わせてるマヤちゃんに声をかけた。
「どう?初級でも基礎を固めればちゃんと戦えるんだよ」
「え、ええと...」
マヤちゃんは微妙な顔をしている。さっき火の玉が出せるようになった段階だから急に今のを見せられても同じ魔法だって実感できないってことかな?
「そんな初級魔法参考になるわけ無いでしょう?」
え?
なんか違う方向から声をかけられたから驚いて目を向ける。
「あ、クラウ!」「クラウディアさん!」
「おはようございます。レナ、マヤさん」
「なんでここに?」
思わぬ人物の登場にびっくりした。
あれから1週間弱。てっきり、もうこの街にはブラドの兵士は居ないと思っていた。
というか、マヤちゃんはクラウのこと知ってたの?そっちのほうが驚きだった。
「養生してたんですよ、衛生部隊にはもっと重症の患者を治療していただきたかったので。」
そうなんだ。確かにマグナスヴィネアのときはボロボロだったもんね。逆によくこの短期間でそこまで回復したよ。
「積もる話はまた今度しましょう。近い内に本部からの兵士のテントが解体される事になりました。その前に挨拶をと思って来たのですが。」
そこまで前置きしてから、イワイノシシを見てため息をついた。
「マヤさん。レナの魔法はおかしいので...コレが普通って思わないほうが良いですよ。」
「やっぱりそうですよね?」
マヤちゃん!?
「レナ...初級魔法と上級魔法の違いは分かりますか?」
「え?...うーん。威力と、、、見た目??」
クラウはもう一度大きく「ハァー」っとため息を吐いた。
(クラウってこんなキャラだったっけ?)
「もちろん違いますが、大きく違うのは変換効率です。魔力を変換して魔法を使うと言うのは分かりますよね?」
「うん。もちろん」
「初級魔法は簡単かつ少ない魔力で使える代わりに変換効率がとても悪いんです。逆に上級魔法は高度な構築を行うことにより高効率に魔法を放つ事が可能になります。実のところ初級、上級魔法は実は同じ魔力で扱えるんですよ。違うのは魔力を扱える器の大きさなんです。」
頭に"?"が浮かび始めた私にクラウが分かりやすいように実演してみてくれた。
魔力をためると、平原に向かって打ち付ける。
「今のが中級魔法ファイアアローです。やってみてくれますか?」
「中級魔法?できないって...」
渋る私を促すようにしてなんとかやらせようとする。
今言ってた構築とやらが、いまいちわからないから使えないんだけどな...
まぁ、とりあえずやってみるか
「ファイア」
集束させた火の魔法を槍状にすると、クラウが放ったのと同じ位置に飛ばしてみる。
クラウはそれを見て、ポカンとしてるマヤちゃんに向き直った。
「マヤさん。なにか分かりましたか?」
「ええっと、レナお姉ちゃんってもしかして凄く...器用にゴリ押ししてる?」
え?マヤちゃん?
「ええ、そんな感じでしょう。普通は非効率な初級魔法を槍状にするなど指向性を持たせたり、威力を中、上級クラスに底上げして使うことなどしません。非常に効率が悪く、並な魔力量では攻撃を撃つことすらままならないでしょう。構築をちゃんと行った魔法は、魔力量を上げても相応の火力を出す事ができ、指向性を調節しなくても済みます」
「クラウ、待って。と言うことは、私は?」
「バカみたいな魔力量で初級魔法を上級並の火力に押し上げてることになります。松明が無いからって蝋燭束ねてるような物ですね。一般の兵士の参考にはなりません」
「そんな、、、マヤちゃん?私そんなだったの?」
私、そんなに魔法に鈍感だったの?
これじゃマヤちゃんに教えられないじゃないの!
「...お姉ちゃん。ごめん。基礎は分かりやすかったけど、それ以上はあんまり参考にならなかったかも...」
そ、そんな。あんな意気揚々とイワイノシシ焼いてた私が馬鹿みたいじゃないか!
「う、うぅ。クラウぅ」
「ちょ、くっつかないでください」
「クラウぅ、クラウぅ!」
「フレア先輩に似てきましたね」
それはなんかやだ。クラウから離れる。
「師匠と呼ばせてください。マヤちゃんもきっと私よりクラウから魔法を教えて貰った方が良いと思うんです」
「師匠はやめてください」
遠慮がちに顔をしかめたクラウは少し考えると口を開いた。
「私としてもマヤさんには育っていただきたいですからね。週1で良ければ来ますよ?」
「それはとてもありがたい!マヤちゃんも良いよね?」
「うん!クラウディアさん、ありがとうございます!これからよろしくお願いします!!」
そうして、クラウは今日は帰るが、その前にマヤちゃんの実力を確かめたいと言った。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
マヤちゃんをクラウと2人で見守る。私が教えたファイアをとりあえずやってもらうことにした。
「レナ、ありがとうございました」
「どうしたの?」
クラウが急に神妙な顔をしてお礼を言ってきた。
私は視線をマヤちゃんに向けたまま返事をした。
「いえ、今日は挨拶に来たって言ったでしょう?マグナスヴィネアの件、本当にありがとうございました。」
「良いって、私だってやりたくてやったことだし。それに、救えなかったものが大きすぎたから...」
「マヤさんの件ですか?力については隊長から聞きましたが」
隊長。
私を追い返したのに、ちゃんと話を覚えてくれてたんだ。
「結果的にマヤちゃんと家族を引き裂く事になっちゃった。弱いよ私は。」
「あんな怪物倒しておいてなに言ってるんですか...」
「そう言うことじゃなくてね」
「ちゃんと考えてるじゃないですか。マヤさんのことも、その家族のことも。そして、自分のことも。」
「え?」
自分のこと?最近の私は全部受け身だったと思うけど。
「マヤさんのために兵士に戻る事を承知した。ニグル山に行った皆さん。本当に楽しそうにあなたの事を教えてくれましたよ?あなたはちゃんと自分が居たい場所を作れるようになったんです。始めてあった時より今の方が余程生き生きして見えます」
「そうなんだ...」
クラウから教えられた自分では気付かないこと。
まだまだ、悩みは尽きないけど、なにかすっと腹に落ちた気がする。
やっぱりクラウにはつい深いところまで話してしまう。
私がクラウのありがたさを噛み締めていると、向こうからマヤちゃんがとことこと歩いてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。み、見てくれた?」
「「あ」」
「もう!」
冬の始まり、マヤちゃんの本格的な修行がスタートした。




