力の使い方
数日が過ぎた。
「――もっと集中して!」
トルマの正門から少し歩いた平原、本格的に冬の訪れを感じる冷たい風と、分厚い雲の下、
私はマヤちゃんに魔法の使い方を教えていた。
――あの日、隊長に追い返されて家に帰ると、マヤちゃんがリビングでアルマさんと食事をしていた。
たった一日だったはずなのに、永遠みたいに感じていた私はその光景を見ただけで少しだけ心が和らいだ。
「お姉ちゃん、私、兵士になるよ。だから戦い方を教えて」
マヤちゃんは泣き腫らした顔で、でもはっきりとした声でそう言った。
私は、何も聞かなかった。
ただ「分かった」とだけ答えた。
私が伝えそびれていたということもあり、まだマヤちゃんは兵士として城に連れて行かれるという事実を知らない。
だからこそ、自分で決意をしてくれたという事実が私にもとてもありがたかった。
それから、毎日ここで修行をしている。
マヤちゃんが「ぐぬぬ」と声を上げると手元に松明ほどの火が現れた。
「わわっ!!」
驚いた彼女の声に掻き消えるように出現した火は消えた。
...かわいいなぁ
一生懸命なのは分かるけど、精一杯力を込めて踏ん張るマヤちゃんが健気で抱きしめたくなった。
「今のが初級魔法のファイアだね。これを簡単に出せるようになろうか」
「はぁ、はぁ、はぁ...うん......魔法って疲れるんだね...」
マヤちゃんが肩で息をしながら返事をしてきた。
私も人に魔法なんて教えたこと無いから心配だったのだが、1週間程度でここまでやれるようになったんだ。
新人の兵士たちの実力を思ってみれば成長が早い方なんじゃないだろうか。
「お姉ちゃん?」
「ん?何?」
「お姉ちゃんってどんな魔法を使えるの?」
「あー、私って魔法苦手なんだよね」
「そうなの!?てっきりなんでもできるものだと」
そうなんだよね...
勝手に昔を思い出してうなだれた。
兵士になって魔法を色々見るようになっても、私の魔法技術は一向に上がらなかった。
せいぜいが色々な属性の初級魔法を威力を変えて使えるくらい。
私だって上級の魔法とか撃ってみたいよ!
フレアが「フレアバーストぉ!!」って言いながら大きな獣を焼き払ってるのを見た時はかっこよさと羨ましさに震えたからね。
ネーミングセンスはどうかと思ったけど...
でも、だいたい物理でなんとかしちゃうし、魔法なんて生活で楽するくらいにしか使ってないのも事実なんだよね。
「初級は教えられるから、そこからはできる人に聞こう?」
「そうなんだ。引き続きお願いします」
マヤちゃんがまた魔力を集中する練習を始めた。
...
春までの間でマヤちゃんに教えられるのはなんだろうか。
マヤちゃんの特訓の方針を私なりに考えてみた。
まず、兵士になってからやる体力系の訓練は後回し。どうせ兵士になったらやるから。
マヤちゃんが兵士として優れている点があると証明できないと今後のマヤちゃんがどういう扱いを受けるのかが想像できない。
保護されるだけならともかくレイチェル...じゃなくてレイラのような危ない奴に実験される恐れもあるんだ。想像するだけでぞっとする。
だからマヤちゃんには特殊能力を鍛えてもらうことにしようかと考えた。
マヤちゃんは兵士になっても力がそこまで強くなっているように見えないから、魔力特化なのだろう。
そこを伸ばしつつ能力を使えるようになってもらおうと思っている。
正直練習相手にはなれても、私に教えられることがそこまであるように思えないのが歯がゆい。
「ふんっ、ぐぬぬぬぬぬぬ」
マヤちゃんが力を込めているのを眺めてると遠くから獣の気配がした。
ちょうどいい。練習相手になってもらおうか。
「マヤちゃん」
「ぐぬぬ、、はぁはぁ...なに?....」
「止めてごめんね、近くに獣がいるけど行ってみない?」
「えっ...」
明らかに顔がこわばった。
そうか、つい最近まで一般人だったのに、外壁の外に連れ出されて、そこで獣に合うなんて怖いよね。
トラウマがあるって言う話も前に聞いたし、悪いことしちゃったな。
「大丈夫、今日倒せなんて言わないよ。実際に戦ってるのを見たほうが良いかなって...」
「...」
「...」
しばらく沈黙してからマヤちゃんは口を開いた。
「いく。大丈夫。お姉ちゃんが守ってくれるって分かってるし、私が強くなりたいってお願いしたんだもん」
マヤちゃん...
こんなに頑張ってくれるつもりなら張り切っちゃわないとね。
獣はあっちの草むらかな?
マヤちゃんを引き連れて獣が居るところまで歩いていく。
草むらの中にはマヤちゃんと同じくらいの体高で、ビョルンさんを横にしたようなサイズのかなり大きめなイノシシが居た。
全身を覆うのは毛皮ではなく岩のような甲殻。これは見た目そのままにイワイノシシと呼ばれていたと思う。
隣から「ひっ...」と息をのむような音がした。
大丈夫だよ、怪我はさせないから。
「マヤちゃん、とりあえず魔法で倒すから見ててね」
私はそう言うと、わざわざ音が出るように立ち上がった。
ガサガサガサ!!
イワイノシシがこちらのたてた音に反応した。
「練習の通り、まずは体の中の魔力を意識する」
イワイノシシは咆哮を上げるとこちらに向かって突進をしてきた。
「技を出す部分じゃなくて魔力を変換している身体のことを俯瞰で意識する」
いつも近接戦をしてるから距離感がわからなくなってきた。さっさと撃ってしまおう。
「そして、変換した魔力を集束し。ファイア」
私の手から放たれた魔力が炎の玉として形成され、チリチリと周囲を焼きながらイワイノシシのもとへと飛んでいく。
ドガーン!!
炎に包まれたイワイノシシは断末魔を上げることなく絶命した。
「ね?結構いい感じでしょ?」
「お、おねえちゃん!?」




