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メジャーワーカーのための働き方改革  作者: テラサワ
冬の始まりと終わり
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兵士の誕生

...のどが渇いた。


今は何時だろう?

締め切った窓からは日差しも外界の情報も入ってこない。


ただ、恐ろしいほど喉が渇いて仕方がない。


「いっ...ツ――」


立ち上がろうとして、体があちこち痛むことに遅れて気がつく。

さらに、視界が悪い。

ジンジンとする目元を確かめるように触ると見なくても腫れていることがよく分かった。



まだ昨日のことだろうか?

ラルグの意識が戻ったと聞いた私は勢いよく家を飛び出した。


ラルグの家族に招かれて入った家の中でみた彼は拍子抜けしたような顔をしていた。

そして、駆け寄って喜ぶ私の顔を見てこう言ったのだ。

「あなたが助けてくれた兵隊さんですか?ありがとうございます」...と


意味が理解できなかった、したくなかった。

私はラルグを捲し立てるように質問した。

涙をこぼしながら何回も、何回も同じ質問を投げかけた。


それでも彼から返ってきた言葉は

「レナの姉ちゃん以外の兵士の知り合いなんて他に居ないぞ」

なんて冷めたものだけだった。


そんな会話をしていたら、パパとママについても不安になってきてしまい、大急ぎで家に帰ったのだ。

そうして、出迎えてくれた2人はラルグと同じような反応をしていて...


「......」


頭の中で出来事を繰り返しただけなのに、また涙が溢れて来そうになる。


そうして、昨日はそのまま部屋に戻って、ずっと泣いて、気がついたら寝てしまったみたい。

まだ現実に何が起こったのか、信じられないし、信じたくない気持ちでいっぱいなんだ。

もう生きるのだって辛い。

食事なんて喉も通らない。そう思っていたのだが、体は心よりずっと単純で正直だったよう。


よく思えば、一昨日の獣が街に入ってきた日の朝以降から、何も口にしていない。

これ以上涙が出ないほど泣いたから、喉も乾いて当然。

今は、水が飲みたい。



部屋から出ることにした。


手に力が入らず、腰が引けてしまう。


――リビングにはママとパパが居るだろう。

いつもやっている行動なのに、それだけなのにとてつもない恐怖を感じてしまう。



...レナお姉ちゃん


私の中の英雄が頭をよぎった。

昨日も声をかけてくれた。

今日もどこかに出かける前に声をかけていってくれた。

ずっと自分だけ塞ぎ込んで、こっちのことを気にしてくれているのが分かっているのにそっけない態度をとってしまった。


あんなに強いのに、私のことをよく見てくれている。

本当にいつもありがとう。帰ってきたら謝るんだ。




部屋を出てリビングへ向かうと、ママが1人で居て、リビングに来た私とすぐに目があった。


「あら、マヤさん?昨日は大丈夫だったかしら?」


一晩経って少しでも状況が良くなってるかと期待していた自分がバカみたいだ。それでもママは優しく私のことをねぎらってくれた。

きっと今、私はひどい顔をしているだろう。それなのに何も聞かずに居てくれる。


「うん...大丈夫。のどが渇いたんだけど、水をもらっても良い...ですか?」

「そう、許可なんて取らなくても好きにしてくれていいのよ?」


他人行儀に敬語が口をついて出てしまった。

でも、ママはそんなことは気にせずにこちらに水を持ってきてくれた。


目の前でボロボロだったのが嘘のように軽やかな動きをしている。

私が見ていたのは只の悪夢なんじゃないか、そんな気さえしてしまう。


「ありがと...」


差し出された水を受け取ると、噛むようにゆっくりと飲んだ。


冬直前の絶妙に冷えた水がひりついた喉を冷ますかのように通過していく。

身体全体を覆う気怠さのような重さが少しだけ軽くなったように感じた。


――おいしい


単純にそう感じた。

ゴクゴクと、カップの中の水を飲み干す。


そして、喉から腹へ流れ込んだ心地の良い冷たさがじんわりと広がったころに、


"グゥ~~"


っと気の抜けたような音がお腹から響いた。


ちゃんとお腹が空いていたみたい。

それを聞いてママも口角を上げた。


「ビョルンもレナちゃんもまだ帰ってこないけど、ごはんにしましょうか。」


そう言うとママはテキパキと食事を準備した。

というよりも、すでに用意してあったかのような準備の良さだった。



目の前に出された食事はいつもより少しだけ豪華なものだった。

パンにスープに、そして大きめの鶏肉がグリルされて出てきた。


見た目で一気に頬張ったらやけどをしそうって分かるほど熱を放っているスープから出ている湯気が私の鼻の中に残って、

否が応でも空腹を加速させてくる。


体は水よりもコレを欲しているのだと、よく分かった。


ママの料理はいつも最高なんだ。

だからこそ、料理を食べて決意が揺らぐ前に言っておかなければいけないと思った。


「あのね」


ママはこちらへ向き直ると私の言葉に耳を傾けてくれた。


「私、立派な兵士になれるかな?」

「ええ、なれますとも。私が保証します。」


ママ、即答。

顔には満面の笑みを浮かべて、「私たちを助けた兵士が今更何を言ってるんだ?」って様子で頷いている。


「昔兵士に助けてもらった事があって、私はそんな兵士になりたい。レナお姉ちゃんみたいにはなれなくても、ついて行けるくらいに...みんなを笑顔にできるような兵士になりたい。だから、だからね...」


私がここまで言ったところで、ママに抱きしめられた。

いつものママの匂い。あったかい。


「大丈夫。きっとあなたにはできる。良いじゃない、人と違う道を歩いたって。きっとね、無理をすることだってある。でも、無駄にはならないわ」

「......うん。うん!!」


枯れてたと思った涙がとめどなく溢れてくる。

私は成長しなきゃならない、だから区切りをつけなきゃいけないんだ。


――そっか。本当に私、忘れられちゃったんだな...


ママは涙をこぼす私を抱きしめ続けた。


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