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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 ――がしゃぁぁあんっ!!


 ルナセイラと話をして数日たったある日、王宮のアイナの為に用意された一室ではけたたましい音が鳴り響いた。 ――アイナがティーカップを床へ投げつけたのだ。

 

 砕けたティーカップの破片が大理石の床に割れ散っている。




 「 ――なんで?! ……なんであの子ばっかり!! ……ずるいっ! ずるいわっ!! 」




 顔をくしゃくしゃに歪ませたアイナは、悲痛な面持ちでやり場のない想いをティーカップにぶつけた。




 「 ――片付けなさいよっ! 」




 部屋の中に響き渡る怒声に待機していた侍女はすくみ上りながらも、必死にアイナに言われた通りに割れたティーカップを片付けようと跪く。


 待機する侍女や護衛は我関せずを通し、アイナの逆鱗に触れないよう努めた。



 これまでのアイナは、順調すぎる程満足できる学園生活を送っていた。 生まれたのは平民だったが、ゲームのヒロインとしてはそれが『 お決まり 』なのだから我慢できた。


 聖魔法の魔力が発現してからは、王宮に部屋を用意してもらい、お姫様のように侍女や護衛がついた。 学園に入学するまでの勉強は大変だったが、入学後は攻略対象たちが甘やかしてくれたので毎日楽しくて堪らなかった。 ――周りの生徒たちが羨望の眼差しでアイナを見つめるのが、当たり前の毎日だったのだ。


 まさか特別編のヒロインがいるとは思わず、入学後声を掛けられた時は愕然として思わず泣いてしまった。しかし、幸いにも彼女は地味な姿だった為誰も興味を示さなかった。



 特別版のヒロインであるルナセイラは美しい容姿が特徴だ。 ――絶世の美少女とは彼女のことだと誰もが頷くだろう。


 ルナセイラの生家であるオレイヌ伯爵家は、王家の庇護下にある為貧乏であっても没落することはまずありえない。


 『 癒しの力の聖女 』は女神の力の一部を行使することができる特別な存在だ。


 能力は癒しの力で周りを癒し、浄化するだけではない。


 自分の従えるマジカルナイツへ加護を与え、能力をアップさせて魔力溜まりの浄化に共に臨むことができるのだ。


 その能力こそがアイナの求めて止まない能力だった。 ――しかしアイナは聖魔法を使う聖女だ。



 ルナセイラと対峙した時は恐怖すら感じたが、偽っていた彼女の見た目ならば誰も加護を授かりたいと近づこうとすらしないだろうと思った。


 案の定周りからは忘れられた存在のようになっていた。――だからアイナは油断してしまったのだ。




 ――……なんでこうなっちゃうのよっ! ヒロインが一人だけなら、私がヒロインに決まってるでしょっ!




 ルナセイラが「 地味令嬢 」を止めた日から、アイナの生活は一変してしまった。 羨望の眼差しは、全てルナセイラが掻っ攫っていく。




 ――たかが没落寸前の貴族令嬢のくせに! ……自分の能力すらわかってもいないくせにぃ!




 ヒロインだと気づかせるべきじゃなかったのに、ルナセイラと会話をした日に嫉妬心に駆られて冷静さを失いうっかりバラしてしまった。



 前世のアイナは平凡な日本の女子大生で、「 リリマジ 」の熱狂的なプレイヤーだった。


 見目麗しい攻略対象者たちにちやほやと大切にされるヒロインのアイナをプレイする度に、自分も彼らに愛されているような感覚を楽しんだ。


 疑似恋愛であっても、本当の恋人のように彼らが大好きで堪らなかった。――その中でも一番の推しはセイフィオスだ。


 普段は地味なセイオスの姿だが、自分にだけ見せる特別な表情は優越感で満たされるし、いざという時はセイフィオスとして守ってくれる完璧な王子様。 エディフォールも素敵だが、彼の完璧さにはどうしても劣る。

 

 転生したとわかってすぐに、攻略対象全員を攻略をしながらセイフィオスを攻略しようと心弾ませた。――しかし、なぜかセイフィオスことセイオス先生を攻略できなかった。


 「 リリマジ 」の中で、セイフィオスはエディフォールとアイナを助ける為、王命で魔法学教諭補佐セイオスとして赴任してくる。 ストーリー通りであれば、エディフォールの親密度を上げていくとセイオスとも自然に仲良くなるきっかけは訪れるはずだった。――しかし、どれだけ待とうともセイオスと個人的に仲良くなることはできなかったのだ。




 ――なんで? ……なんでセイオス先生と仲良くなれないのよ!?




 何度歯がゆい思いをしたかわからない。 自分から話しかけに行ってもすげなく躱されてしまい、きっかけを全くものにできないのだ。


 アイナは焦った。 もう一人のヒロインであるルナセイラが傍にいる以上、いつ攻略対象たちを奪われるかわからない。


 地味な容姿で偽っていようと、本来の姿に戻ってしまえば彼女に全員奪われてしまうかもしれない。 不確かな未来に焦ったアイナは、ひとまずエディフォールの攻略を優先させた。


 一学年の間は手を繋ぐくらいしかできなかったが、二学年に進級してから積極的に抱きついたり、逢瀬の度にエディフォールにキスを何度も強請った。 アイナなしの学園生活は考えられない。と、エディフォールに思わせる程攻略は成功していた。――しかし、セイオスのそっけなさは変わらない。


 エディフォール以外の三人の攻略対象は、二学年に進級してから少しずつ好意を示していくとあっさりとこちらになびいた。 三人はすぐに一線を超えてこようとしてきたが、流石に一線超えるのはアイナであっても最初は本命にしたかった。


 必死でセイオスの親密度を上げるべく、二人きりの時間を狙ってもことごとく失敗してしまう。 攻略できず落ち込んでいたアイナを、エディフォールは寄り添い甘やかした。


 一線を越えるのは本命が良かったが、これ以上引き延ばせば攻略対象たちに飽きられてしまうかもしれない。


 アイナの心は本命が良いと思いつつも、奪われたくない焦りと不安の葛藤で押しつぶされそうだった。



 アレクシスは脳筋過ぎてワンちゃんみたいな従順さは可愛いけれど、最初の人にするには重すぎる。

 サーシェンはアイナより可愛すぎて気持ちが萎えるし、そこまで執着されていないのに初めてを彼に捧げるのは癪だった。

 ラジェスはまじめでやさしいが、生真面目すぎるし几帳面過ぎて一緒に居て疲れるから、万が一執着されたらしんどい想いをしそうで考えたくない。


 結局消去法で残ったエディフォールにアイナは初めてを捧げた。


 エディフォールを選んだアイナの選択は間違ってはいなかったらしい。



 彼は見目麗しい上に、紳士的で優しいのに色気まであっていつもアイナをドキドキさせた。 二学年に進級してから公務も少しずつ担い始めていたエディフォールとは、毎日逢瀬できないということもしばしば。――浮気してもバレない環境を手に入れることができた。


 本命にするのにエディフォールは丁度良かった。


アイナを信用しているエディフォールは未だに疑う事すらない。


 彼と一線を越えると、より愛されていると感じられるようになった。――それに、他の三人もエディフォールの二番目でもよいとあっさり納得していた。

 

 自分たちともしてほしいと要求してきたので、飽きられない為に要求を飲んだ。 しかし、最終学年の三学年に進級しても、セイオスだけは全く攻略できないままだった。


 じれったい気持ちを感じつつも、それ以外の攻略対象は全て自分の男にできた幸福感で、アイナは幸せの絶頂だった。


 毎日のように代わる代わる恋人たちと逢瀬を楽しんだ為、学力や魔法スキルは全く向上していない。それでも、男たちがちやほや甘やかしてくれる状況は最高だ。――それなのに、ルナセイラは本来の姿に戻してしまった。



 ルナセイラは地味令嬢だったのが嘘のように美しい容姿を惜しげもなく晒した。 毎日のようにクラスメイト達は彼女を羨望の眼差しや熱の籠った視線を向け続ける。


 一目見ようと教室へ他のクラスの生徒たちが押し寄せるほどだ。


 今までひとりぼっちで過ごすのが慣れていたルナセイラは、誰に媚びることもない。自然な微笑み、誰に対しても適切な距離で節度のある振る舞い、美人なのに全く驕り高ぶらない心根の優しさ。 ――最強無敵な美少女。



 恐れていたことは現実になりつつある。


 エディフォールもサーシェンもラジェスもルナセイラを気にしているのがわかる。 ――だが何よりも許せないのは最推しのセイフィオスの様子がおかしいことだ。


 普段からにこにこしている雰囲気のセイオスだが、ここ最近ルナセイラにだけ優しく微笑んでいるように感じる。 自分の勘が間違っていなければ、彼はルナセイラに好意を抱いているに違いない。

 



 「 折角攻略対象たちを手懐けたのに……あいつの代わりにイチャイチャしてやったのに……なんでなのよ! 」




 たかが見た目を替えたアだけで注目され、アイナの好きな人から好意を持たれるルナセイラが憎くて堪らない。



 はぁ……はぁぁ……


 感情のコントロールが出来ず、荒い息を整えるため深呼吸を繰り返す。


 数時間、怒り過ぎて震えていた身体も、アイナの感情が昂るたびに無駄に流れる涙も、次第に落ち着きを取り戻していく。




 「 大丈夫よ……あいつは自分の力をまるでわかっていない…… 気づく前に潰せばいいのよ……。 」




 アイナは仄暗いオーラを纏い、瞳にはギラリと怪しい光が宿っていた。



 ふふふ…………。


 「 待っててね…… 。 私が、あんたを奈落の底に落としてあげる。 」


 

 

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