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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 エディフォールとのランチはすぐに調えられた。


 三限目が終わり教材を片付けていると、エディフォールがニコニコと機嫌良さそうにルナセイラの所までやって来た。




 ――な、なんでそんなににこやかなの…………。




 「 ルナセイラ嬢、今からランチを一緒にしよう。 すぐ行けるよね? 」




 ――今からランチに行かないか?の誘いじゃなくて……すぐ行く確定なの?




 ルナセイラはエディフォールの言い方に唖然とした。


 先日彼に声をかけられてから、まさか二日後にランチに誘われるとは思いもしなかった。


 セイフィオスとの『 約束 』を思い出し、ルナセイラの背筋はひやりと悪寒が走る。 彼と話した次の日に、すぐにマリーエルに『 付き添い 』を頼んでおいてよかったとホッとする。 ――とはいえ、エディフォールの行動力の早さに気持ちが追い付かず、笑顔を浮かべたくても微妙に頬が引きつってしまう。




 「 そ……そうですね……。 あの、実は――。 」




 マリーエルの事をエディフォールに話そうと切り出すと、タイミングよく後方から声が掛かった。

 



 「 ルナ~~っ! お待たせ! 二人でランチに行く約束していたわよね? ――あら? 殿下もいらっしゃいましたの? ……でも残念ですわ。 私たち今から二人でランチの約束をしておりましたの。 ――けれど、折角ですもの、よろしければ殿下もご一緒にいかがです? 」




 タイミングよくマリーエルが、自らルナセイラの代わりにエディフォールとの会話にに割り込んでくれた。




 ――マリーエルすごい! ……殿下とのランチを私たちの約束のついでにしてくれたわ!




 ――ふふふっ。


 してやったりな表情で、こそっとこちらへ向かってマリーエルはサムズアップした。 まさにルナセイラの窮地を救う英雄のようだ。



 レイスン伯爵家のマリーエルは、ルナセイラの生家の領地と隣り合っていることで、八歳頃からの幼馴染であり唯一の女友達である。


 背丈はルナセイラより少し高く、ハーフアップに纏めた亜麻色の癖のないストレートヘアーにくっきり二重なヘーゼルの瞳。日に焼ける事を気にしないそばかす肌は、健康的な肌色で快活な印象。

 

 暇さえあれば野山を馬で駆けながら狩りをしているらしく、弓術スキルは非常に高く入学当初からSSランクだった。


 剣術が好きで、昔から周りに「貴族令嬢らしくない」と冷ややかな目で見られていたルナセイラを唯一嫌悪せず『 格好いい 』と褒めてくれた尊い存在だ。


 ランチの『 付き添い 』のお願いをする為に、ルナセイラがなぜ姿を偽っていたのかという理由も、なぜ本来の姿に戻ったのかという理由も彼女には伝えた。


 マリーエルは悲しみを呑み込んだ様な微笑みを浮かべてぎゅうっとルナセイラを抱きしめた。




 「 1人でよく頑張ったね。 」

 



 マリーエルは強くルナセイラを抱きしめながら労った。


 容姿をルナセイラが偽り始めた時、マリーエルは何も追及しなかった。


 『 ルナが話してくれるまで待っていたから。 』


 彼女の気遣いに、なぜもっと早くに相談しなかったのかという申し訳ない想いと、見守ってくれていた彼女の優しさに感謝の想いが溢れ涙を堪えられなかった。




 ――私が前世の記憶もちである事も、ココが乙女ゲームの世界だという事も明かすことはできていないけれど……。




 改めてマリーエルが親友で良かったとは思えたが、自分が前世の記憶を持っていて、この世界が作られた乙女ゲームの世界なのだ。 という衝撃の事実を彼女に告げる勇気はルナセイラにはまだない。




 「 ランチどころか、学園に通う間はなるべくルナセイラと一緒にいるわ!! 」




 ルナセイラがまだ隠し事をしている事も気づいているだろうに、マリーエルはその事には触れず、鼻息を荒くして意気揚々と宣言した。


 学園の中であっても、たとえクラスメイトとしての友人関係であったとしても、貴族令嬢が男子生徒と『 二人きり 』というのは外聞がよろしくない。 ――マリーエルは何も言わなくても察してくれていた。


 もしエディフォールと二人きりになったりしようものなら、セイフィオスの顔をルナセイラはまともに見ることができなくなるだろう。


 約束が果たせなければ、どんな弁明をしても「 約束を守れないなら、私を守るなんて言わないでくれないかい 」と一蹴されてしまう気がしてならなかった。 ――冷めきった表情のセイフィオスを頭に思い浮かべるだけで心が凍り付いてしまいそう。


 セイフィオスの『 信頼 』を失う事だけは絶対に避けたい。




 ――嫌われるのだけは絶対に嫌っ!




 「マリーエル素敵ね! 折角殿下からお誘いいただいたのだもの! 三人でランチいたしませんか? 」 




 満面の笑みでエディフォールを見つめると、彼は微妙な表情をして固まったがすぐに微笑み頷いた。



 

 「 …………そうだね。……俺もそれで構わない。 では食堂へ行こうか。 」




 苦笑しつつもエディフォールは了承した。




 ――良かった! 二人きりのランチは回避できたわ!




 マリーエルとルナセイラは微笑み「 やったね! 」と視線を送り合った。





 ***





 カフェテリアでは、すでに学生たちが並んでいた。 わいわいと会話を弾ませながら、トレーに乗せたプレートへ料理を盛っていく。 ルナセイラもその列にマリーエルと共に並んだ。




 ――自分の好みの量に調整できるのは助かるわ!




 ルナセイラは卒業後文官になる為にも、授業はどんな科目であっても手を抜くことはしない。 一日中ずっと気を張っている為にも、食事の管理は重要だ。


 食べ過ぎて集中力が欠けたり、眠くなってしまわないようにランチは常に軽めにしているのだ。




 「 ねぇ?…………ちょっと少なすぎじゃない? 」




 「 そう? そんなことないよ? 」




 マリーエルはルナセイラのプレートを見て驚愕した。


 プレートには五品の料理が、おおよそ二口分くらいずつしか盛られていなかったのだ。


 心配されたが、ルナセイラにはこれくらいが丁度良い。 満足げにトレーを持って空いている席を探すと、すでにエディフォールが席に座ってこちらに手を振っていた。




 ――いつのまに?! 目立ちたくないから手をふらないでぇ!!




 三人一緒に来たというのに、エディフォールはすでに席を確保して優雅に座って待っていた。


 ふと周りへ視線を移すと、ルナセイラたちの一挙手一投足を見逃すまいと、軽く生徒たちの人だかりができているのが見える。




 ――みんな興味津々みたいね……。 ただのランチなのに……。




 エディフォールの席の周りは少しずつ席が空いた状態であったが、しっかりと視線に移り込む近さに生徒たちが円を描くように囲み、こちらをちらちら伺っている。 うろうろ歩きながら立ち見している生徒もまでいる。




 「 わ~っ! 殿下早いですね! 席取りまでありがとうございますっ!! 」




 わざとらしい張り付けたような笑顔を振りまきながら、マリーエルはお礼を言ってサッサとエディフォールの向かいの席に座った。




 「 ルナ! ここへいらっしゃいよ! 」



 マリーエルはわざとらしく大きな声で自分の隣に座るように声を掛ける。

 

 エディフォールがわかりやすく彼女の言葉にビクッと身体を反応させのが視界に入り、ルナセイラを隣に座らせたかった思惑が透けて見えた気がした。


 未練がましそうに隣の席へチラリと視線を向けていたが、ルナセイラは気づかないフリをして笑顔でマリーエルの隣へ腰かけた。




 「 殿下、今日はお誘い下さってありがとうございます! 」




 「 俺が共にランチをしたいと思ったのだから気にしないでくれ。 」



 胡麻化すようにルナセイラはお礼を告げると、エディフォールは不満を隠して借りてきた猫のように笑顔を返してきた。――キラキラの王子様スマイルである。


 たかがランチで、ただのクラスメイトにそんな笑顔を浮かべるものではない。 ちらりと視線を横に座るマリーエルに向けると、砂糖を吐き出しそうな勢いの渋い顔をしていた。




 「 光栄ですわ、それにこんなに早くお声を掛けていただけるとは思いませんでした。 」




 「 早く一緒に過ごしたかったからね! ルナセイラ嬢はそれだけしか食べなくて良いのか? 」




 「 えぇ、私はランチはお腹いっぱい食べると眠くなってしまうので、昼はいつも少なめにしているんです。

 その分夜は多めに食べているのです。ですが、今日は好きなベーコンが入っていたので、つい多めに盛ってしまいました。 」




 五口分くらいはあるであろう料理を指さし、ルナセイラは淑女の笑みを張り付けたまま答えた。マリーエルはプレートを見て再び唖然とした。




 「 え? ルナはそれで多いの?! 」




 驚きの表情を隠さないマリーエルは、プレートにどの料理も少し多めに盛っているつもりだ。




 ――マリーエルのプレートと比べたら、どのご令嬢のプレートも少なめに見えるでしょうね……。



 驚き方が可愛らしくて、くすりと思わず微笑んでしまう。


 マリーエルはよく食べるが太らないのが素晴らしい。


 貴族令嬢は体型維持を幼い頃から躾けられる。奔放なマリーエルが自由に振舞えるのは、太りにくい体質だからなのだ。


 ルナセイラも太りやすい体質なわけではない。――しかし、自分の夢の為の努力は貫きたいのだ。


 食事が原因で満腹で授業に身が入らないなど絶対にあってはならない。 美味しそうに沢山食べるマリーエルの姿は、自分を戒めるルナセイラの瞳にはとても魅力的に映っていた。




 「 私はマリーエルが気持ちよく食事を食べている姿を見つめているだけで満たされるわ! 」



 「 …………それって、褒めてる? 」




 ジト目で見てくるマリーエルへ「 勿論よ! 」と、微笑んで返した。




 「 ――そういえば午後は魔法学の実技だね。 攻撃と防御の二人ペアでの実技は久々だから楽しみなんじゃないかい? 」




 まるでルナセイラが楽しみにしているかのような言いぶりだ。――そんなわけがないのだが。




 「 ―――私は苦手なので失敗しないか不安です。 …………殿下は魔法スキルも優秀でいらっしゃいますもの……羨ましいですわ。 」




 苦笑して気まずげにルナセイラが視線をそらすと、エディフォールには謙遜にしか聞こえなかった。




 「 そうなのか? ……君は学年成績が優秀だから、てっきり魔法スキルも当然ランクが高いのではないのか? 」




 ――私の事興味あるって態度をとる癖に、私の魔法スキルの低さを知らなかったのね……クラスメイトの誰もが知っている事なのに。




 「 お恥ずかしい話ですが、私は入学当初からずっと魔法スキルはCランク以上になれないのです。 ――皆さんご存じだと思っておりましたわ。 」




 悲し気に告げると、すぐにルナセイラの左手をぎゅっと握りながらマリーエルは話に割り込んだ。




 「 ――大丈夫よ! ルナは学年成績も、体力も、武術スキルも優秀じゃない! 剣術スキルが全生徒の中でもSSランクは両手で数えるほどなんだから!

 魔法スキルが上がらなくても、いつも努力していることを私は知っているわ!気にしてはだめよ? 」




 「 マリーエル……ありがとう! 貴女はいつも私を見ていてくれるものね! 嬉しいわ!

 ……そうよね……私に出来るのは最善を尽くすことだわ! 」




 マリーエルの励ましに感極まりルナセイラの心はフワフワ温かくなる。 しかし、向かいに腰かけていたエディフォールは自分の失言に気付いたのか、慌ててフォローし始めた。




 「 そ……そうさ! ……努力をすることこそが素晴らしいからね。 」




 これまでルナセイラの事を気にしていなかったことがバレバレである。




 「 あ~…… ありがとうございます……。 」




 明らかに取って付けたような礼を返され、 エディフォールは気まずげに顔を一瞬歪ませた。



 ルナセイラは自分もヒロインだとアイラの言葉で知ったものの、今一つ自分がヒロインだと確信が持てない理由は、まさにコレだ。


 生まれてからどれだけ努力しようとも、ずっと魔法スキルだけはC以上になったことがない。 ……しかもぎりぎりなので、気を抜けばあっという間にDランクへ落ちてしまう。




 ――まともに魔法も使えない……聖魔法だって覚醒していない……そんな私がどうしてヒロインなの? 本当に私もヒロインなの?




 自分もヒロインであるという確信を持てる理由をルナセイラは知りたかった。 ――しかし、あれ以来アイナはわかりやすくこちらを避けている。


 攻略対象たちがルナセイラのそばに来ても、彼女は何も言ってこないし近づかない。




 ――アイナさんならきっと私がどんなヒロインなのか知っているはずなのだけれど……。




 ルナセイラから攻略対象を奪わせないと宣言しているのだから、避けられるのは当然だと理解はできる。 たとえ話せたとしても、『 奪うな! 』と言われるのだろう。――しかし、可能なら特別版ヒロインの話を聞いてみたかった。




 「 ……実技のパートナーって誰と組むのかしら?自由に決められるってことはないわよね? 」




 マリーエルは黙り込んだルナセイラに気を使い、少しだけ話題を逸らした。




 「……そういえばまだ開示されてないわね。授業の開始後に開示されるのかしら? 」




 「 実技授業も残りわずかだから先生方も何か考えがあるのかな!ルナセイラ嬢はどう思う? 」




 エディフォールもどうやら知らないらしい。




 「 どうでしょう。――私はどなたがお相手でも迷惑かけないように気を付けるだけですわ……。 」




 魔法に関しては、いかに少しでも迷惑をかけずに実技が出来るか。という事がルナセイラにとって重要な事である。


 エディフォールは二年半の間、実技のパートナー分けを担当しているセイオス魔法教諭補佐が自分の実の兄だと気づいていない。 彼がどういう考えで実技パートナーを決めているのかも全く知らないだろう。




 乙女ゲームのストーリー通りなら、入学して三カ月せずにエディフォールの親密度によって、ヒロインは自然とセイフィオスとも仲良くなるきっかけが生まれるはずだった。 それなのに、二年半の間セイフィオスはアイナだけでなく、エディフォールとすら仲良くしている様子がない。




 ――そういえば……なぜセイオス先生は殿下に正体を明かさないのかしら?




 ふとルナセイラの脳裏に疑問がよぎったのだった。 


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