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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 ―――四限目の授業開始のチャイムが鳴る。


 皆訓練の魔法学実技の為、訓練着に着替えて第一訓練場に集合していた。――しかし、ルナセイラは女生徒用更衣室から動けない。




 ――なんで?! ……なんで私の訓練着がないの?




 授業で使う物は更衣室のロッカーに保管している。鍵まではかけていないが、盗む者など今まで一人もいなかった。


 心当たりがなくルナセイラは授業が欠席扱いになる前に、仕方なく制服のまま第一訓練場へと向かう。




 「 ルナ?……いやルナセイラ嬢、その恰好はどうしたんだい? 」




 訓練場へ向かうと、一番にセイオス教諭補佐として授業に来ていたセイフィオスが気付き駆け寄ってきた。




 「 遅刻して申し訳ございません。 ……実は訓練着を紛失してしまって着替えることが出来ず、先ほどまで探していたのです。 しかし、授業の時間が始まってしまったので、見学だけでも参加させていただきたくて制服のまま参りました……。

 見学だけでもさせていただけないでしょうか。 」




 「 訓練着がなくなるなんておかしいでしょう? 誰かに持っていかれたのかもしれない。 私が一緒に探してあげるよ。 」




 悲痛な面持ちのルナセイラをセイフィオスは優しく宥めた。


 心を落ち着かせると、魔法実技のディランテ教諭に状況の報告をしにセイフィオスは向かう。 クラスメイト達は何事があったのかとルナセイラを見つめ、ひそひそと囁く声が聞こえる。しかし、自分はそれどころではない。


 今までどんなことがあっても授業を休まなかったことはルナセイラにとって誇りでもあった。 それなのにも拘わらず、授業に参加できない状況に陥ってしまった。


 胸中は評価点が下がるのではないかという不安と恐れで、バクバクと激しく鼓動がなり冷たい汗が背を伝った。




 「 ルナセイラ嬢安心して良いよ。 今から私が魔法で探してあげるから! 」




 戻ってきたセイフィオスが微笑み告げれば、ルナセイラの強張っていた表情がほんの少し綻ぶ。



 

 「ありがとうございます!……でも魔法で探せるのですか? 」




 「 歩きながら話そうか。 ディランテ先生には席を外すことを伝えてあるから問題ないよ。 」




 「 そうなんですね! ……ありがとうございます。 」




 ルナセイラは心中穏やかではいられない。 それでも、自分の為に動いてくれているセイフィオスを困らせたくはない。


 出来る限りの微笑みでルナセイラは感謝の気持ちをセイフィオスに伝えた。




 「 気にすることはないよ、ルナが授業を欠かさず出席して真面目に取り組んでいたことは、私もディランテ先生もわかっている。――訓練着は、更衣室のロッカーに置いておいたのになくなってしまったのかい? 」




 「 はい……。 今朝登校した時はまだあったハズなのです。 ――でも昼休憩の後戻ってきたらなくなっていて……。 」




 「 なるほど……。 でも心配いらないよ。 ――私は追跡魔法は得意だからね。 」




 「 追跡? そ、そんなことができるんですか?! 凄い! 」




 思わず期待の眼差しを向けてしまう。




 「 まぁね、ただこの魔法は公に出来る魔法ではないんだよね。 ――だから内緒だよ? 」




 「 わかりました! 決して口外しません! 」




 口元に人差し指をあててお願いしてくるセイフィオスに、真剣な表情で頷いた。



 セイフィオスの使おうとしている魔法は、恐らく王家や高位貴族の影が扱うような表では使えない特殊な魔法に違いない。

 

 【失くした物を探す魔法】それは持ち主のプライベートに踏み入る行為になるからだ。 そんな魔法が公的に認められてしまえば、様々な犯罪が横行しかねない。個人情報を保護することは非情に難しくなる。


 軽い口調で話すには重すぎる内容だ。



 女子更衣室に入り、ルナセイラのロッカーの前までやってくると、セイフィオスは小さな声で少し長めの魔術式を唱える。 あたりがぱっと暗くなり、今朝登校する少し前あたりからの過去映像が映し出された。


 ルナセイラが登校してからの映像が目の前に映し出され、休憩時間の度にルナセイラがロッカーで持ち物の整理と教材の出し入れはしている。――だが、三限目までは特に問題はなくロッカーの中に訓練着はあった。


 昼休憩に入り、マリーエルとロッカーを離れてから動きはあった。




 「 !! ――アイナさん?! ど、どうして?! 」




 ルナセイラは自分の目が信じられず驚愕した。



 アイナは辺りを窺いながらルナセイラのロッカーを開けたのだ。 そして、訓練着を手に取るとその後は平然とした面持ちで更衣室を出て行く。




 「 後を追いかけてみよう。 」




 セイフィオスの言葉にルナセイラもコクリと頷き、映像のアイナについて行く。


 彼女は外まで歩くと、普段アイナが逢瀬の為に使っている中庭のベンチの下に隠した。




 「 なんでこのようなことを…………。 」




 アイナに嫌われていることは理解していた。 しかし、なぜここまでされたのか理解できない。


 セイフィオスが魔法を解除すると、辺りは明るくなり彼はベンチの下から訓練着を手に取りルナセイラへ手渡した。




 「 ――どうやらあの子越えてはいけない一線を越えてしまったようだね。 」




 セイフィオスの声音は熱を感じられず、隣に並び立つルナセイラが感じ取れるほどの冷気を放っていた。だが、その憤りはルナセイラも同じだった

 



 「 この王国を救う清廉潔白でなければならない聖女候補が、このようなことをするなんて……。 」




 「 ――そうだね、このような事態に遺憾に思う。……ルナはどうしたい? 」




 ルナセイラにはどう返事を返すべきかわからなかった。 実際のアイナの犯行を見てしまった以上、見て見ぬふりはしたくないし、悔しい気持ちもこのままにしたくはなかった。――だが、アイナに罪を公で問うて良いものか答えが導きだせない。


 彼女は王国が待ち望んだ『聖女候補』なのだから。


 聖女候補を罪に問えば、王国民は先のない不安に襲われることだろう。王国を救うはずの聖女候補が罪を犯したなど、国中が混乱に陥る可能性もある。 だが、見過ごせば彼女は更なる罪を犯しかねないだろう。


 いくら逡巡しても答えが出せない。




 「 先生……情けない話ですが、私には彼女をどう裁くべきか答えを出すことはできません。 セイオス先生にお任せしてもよろしいですか? 」




 「 構わないよ。これはあの子と君だけの問題という訳にもいかないからね……。 それならまずは授業の後にでも彼女を呼び出して話を聞いてみよう。 」





 セイフィオスは慈愛の籠った微笑みを浮かべると、ルナセイラの頭を優しく撫でた。




 ――セイオス先生が味方で本当に良かった…………。




 とんでもない目にあったが、セイフィオスのおかげでルナセイラは事なきを得た。 彼がいなければ訓練着を見つけ出すことも、犯人を見つけることもできなかっただろう。 ――味方でいて貰えていることが嬉しくて心強い。






 ***






 更衣室に戻ったものの、なぜかセイフィオスまで一緒に更衣室に入って来た。 部屋の中で背を向けくれているものの、居心地が悪くて仕方ない。




 ――き、緊張して上手く着替えられないわ……。




 最初は更衣室の外で待っていて欲しいと懇願した。 ――しかし、「 事件が起きたばかりなんだよ!危険だから私も部屋の中でルナを護衛する! 」と、言い切られてしまった。


 そして今、本当に更衣室の中でセイフィオスは待機しているのだ。




 「 ――そ、そういえば、今日殿下と約束していたランチをしましたが、マリーエルのおかげで二人きりにはならずに済みました。 」




 二人きりの密室で着替えるという非現実的な状況に、動揺がかくせない。 ルナセイラは気まずい空気を何とかしたいがあまり、約束を守ってランチではエディフォールと二人きりにはならず、マリーエルに同席してもらった事をセイフィオスに報告した。




 「 …………なぜ今他の男の名前を口にするんだい? 」




 安心してもらう為に伝えたのだが、セイフィオスの反応はルナセイラが想像していたものとは全く違った。


 急激にあたりの空気が凍り付き、低い声音のセイフィオスの返事にルナセイラの背に嫌な汗が伝う。


 シャツを脱ぐためにボタンを外していた手はビクッと強張り固まった。




 ――ま、まさか……怒ってる?




 「 セイオス……先生? ……私何かまずい事を――」




 声をわずかに震わせながらも、彼の機嫌を損なってしまったのか不安になり窺おうとした。



 ――バンっ!


 しかし、言葉は大きな衝撃音でかき消される。



 突如、セイフィオスはルナセイラを両腕で囲うようにロッカーに手をついたのだ。 ルナセイラはロッカーとセイオスの身体で閉じ込められていた。




 「 ……ルナの事が心配で気が気じゃないのに……こんな場所でエディの話をしなくても良いのではないかい? 」




 セイフィオスの瞳には、ギラギラと怒りの炎がゆらりと揺らめく。


 エディフォールを愛称で呼んだことにすら気づいていないセイフィオスに、ルナセイラも動揺が隠せない。




 ――そんなに殿下と仲良くなってほしくなかったの? ――だからって……そんなに怒らなくてもいいのに……。




 「 も、申し訳ございません。 ……ですが、せんせ―― 」




 「 ――セイ。 」




 「 え? 」




 被せるように告げるセイオスの言葉に思考が追い付かず、気の抜けた声を上げてしまう。

 



 「 二人だけの時は……セイって呼んで。 」




 「 目上の方を愛称で呼ぶなんて……そのような事、できません……。 」




 セイフィオスは推しである。


 ルナセイラが彼を愛称で呼ぶだなんておこがましい。




 「 ――けれど、殿下に愛称でエディって呼んでと言われたら……呼ぶでしょう? 」




 先程からセイフィオスの様子がおかしい。


 自分の大事な弟と仲良くしたことを許せなかったのではないのだろうか。 ――なぜ突然愛称呼びを求めてくるのか。 彼の考えがルナセイラにはわからない。




 「 出来る限り断りますよ。 」




 「 出来る限り? ……それじゃ、何度もしつこく呼べって命令されたら? 」




 セイフィオスの追及は終わらない。




 「 命令なら―― 」




 「はい駄目ーーーーっ! なんで私の事はセイって呼べなくて、エディの事は呼べるの? 私たちはその程度の関係だったのかい? 」




 セイフィオスは噛みつくような眼差しと、怒りの籠った静かな声音で被せるようにルナセイラを責めたてる。


 視線を逸らすことすら許さない。




 「 わ、私たちは仲間ですよね? 大切な仲間です! セイって呼びます! ……呼びますから離れてください! 」




 セイオスの身体も顔も近すぎて、あと数センチで鼻と鼻がくっついてしまいそう。


 顔が近すぎてセイオスの顔がぼやけて良く見えなくても、彼から香る仄かな香りと雰囲気にドキドキし過ぎていつの間にか懇願してしまう。




 「 わかってくれてよかった。 これからはセイって呼ぶんだよ? 」




 「 わ、わかりました! 」




 「 ……でもこれだけじゃ気が済まないな……ルナのおかげで私の心は不安に押しつぶされそうだ……ちょっとくらいお仕置きしてもよいよね? 」




 「 …………おしおき? 」




 セイオスの瞳は仄暗く光を失い、まるで何かに囚われているかのようにすら見える。



 ここ最近、異様にルナセイラに執着しているかのような眼差しをセイオスは眼鏡越しに頻繁に向けてきた。 気のせいかと思っていたが、どうやら気のせいではなかったらしい。




 ――まさか……まさかセイは……や、ヤンデレ?!



 

 「 お仕置き 」という言葉に嫌な予感しかしない。




 ――でもなんで私??




 頭の中が困惑してどうしたら良いのかわからない。 動揺する間も明らかにセイフィオスの顔が近づいている。




 ――う、うそでしょう?! ……まさかキス?!




 仄暗い瞳から目が離せない。


 一度離れた彼の顔面が再び近づいていく。 あと数センチ。 堪えきれない程の胸の鼓動がバクバクと激しく響く。



 唇と唇が触れあう寸前、咄嗟にセイフィオスと自分の唇の前に掌を差し込んでいた。



 ぷにっと柔らかい感触が手のひら越しに伝わる。男性の唇がこんなに柔らかいのかと思考が掌に集中してしまう。


 惚けつつもとんでもない事にならずに済んだ状況に安堵の吐息を吐くが、セイフィオスの猛攻は終わらなかった。


 


 「 その程度で私が怯むとでも? 」




 ほっとしたのも束の間、ギラリと熱を持った怪しい光が眼鏡の奥で光ったかと思うと、セイフィオスは口角を上げて薄く笑う。



 ちゅっ……。


 生暖かく柔らかい感触が手の平から再び伝う。――しかも唇をなかなか離そうとしない。


 彼はわざとらしくペロリとゆっくりルナセイラの手のひらを舐めた。




 「 ~~~~っ?! 」




 ぞくぞくっと背を甘い刺激が走る。言葉にならない悲鳴がルナセイラの脳内でこだました。




 「 しょうがないから、今日はこれで許してあげる。 気を失わなかったのは偉いね。 慣らした甲斐があったみたいで良かったよ。 」




 満足気にセイフィオスは薄い笑みを浮かべ、ペロリと舌なめずりをしてから固まって身動きできないルナセイラの頭をヨシヨシと優しく撫でた。



 セイフィオスの言っていることが何一つ理解できない。


 

 しょうがないから今日はこれで許してあげる?

 気を失わなかったのは偉いね??

 慣らした甲斐があったみたいで良かったよ???




 ――ど、どういう事?!




 困惑の眼差しでセイフィオスを見つめた。眼鏡越しの彼の瞳が何を語っているのか読み取ることも叶わない。




 「 そんなのんびりしてると授業欠席になってしまうよ? 外で待ってるから急いで着替えておいで。 」




 言い終えるとセイフィオスはあっさり更衣室を出ていった。




 「 …………は? 」




 ――まさか、私はセイの掌の上で転がされているの? ……なぜ?




 数十秒固まったまま微動だにできなかったルナセイラは、『 授業欠席になるよ? 』とセイフィオスに言われたことを思い出し、慌てて訓練着に着替え彼と共に第一訓練場へと足早に向かうのだった。 



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