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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 ルナセイラの本来の姿での学園生活は、慣れるまでに想像以上に時間がかかった。 学校中が大騒ぎになる程、ルナセイラの本来の姿は生徒だけでなく教諭たちにまで影響を与えたからだ。


 地味令嬢を止めて以来、毎日のように特進クラスの教室の入り口や廊下には人だかりができている。 飽きもせずに学園の生徒達が、ルナセイラを一目見ようと特進クラスまで訪れ、その光景は日が経っても収まることはない。




 ――私、芸能人にでもなってしまったかのようね……。




 最初は呆れて見ている程度だったが、授業の休憩のたびに入口に生徒たちが集まってきてしまう。 クラスメイトたちに連日迷惑をかけている事に心苦しくなってきていた。



 最初にルナセイラに助け舟を出したのは攻略対象の一人ラジェスだった。


 教室の外に出ようと思っても出られずに困っていると、出入り口の前に(たむろ)する生徒たちの前にラジェスはやって来た。




 「 君たち! 今は休憩時間とは言っても、移動したり用事を済ませる者だっているんだ。 せめて人が通れるスペースくらいの隙間を空けておいてくれないか。 」




 エイモンド侯爵家の嫡男ラジェスの家は代々文官の家系で、父親は現宰相閣下。


 背丈は百八十近くあるが、ひょろっとしたスレンダーな印象。 こげ茶色の短髪は、前髪をシンメトリーに綺麗に分けて几帳面さが滲み出ている。


 常に効率重視を念頭に、いかに綺麗な状態で過ごせるか? いかにスムーズに物事を進められるか? と、考えている表情がわかりやすく顔に出るタイプ。 整った顔立ちということもあり冷たく見えがちだが、新緑の瞳は春の暖かさを感じさせ、調和がとれているようにも思う。 ――学年成績三位以内を争うルナセイラのライバルでもある。


 魔法スキルはSランクで優秀だが、――彼の最も優れているのは知略に長けている所だろう。


 マジカルナイツになる為なのか運動系は全て苦手なようだが、それでも武術レベルはSランクを維持している。




 ――きっと私のせいで、ラディス様はクラスの中が騒がしくて嫌なのよね……。




 「 ラジェス様、お騒がせしてしまって申し訳ございません。 私の代わりに皆さんにお話をしてくださってありがとうございます。 」




 彼らを苦手な気持ちは変わらずとも、感謝の気持ちで淑女の笑みを浮かべお辞儀をすると、ラジェスはなぜか固まった。




 「 ……あの、ラジェス……様? 」




 「 き……気にする必要はない! クラスメイトなのだから当然のことだろう? ……そ、それに容姿で色々言われたり見られるのも、気分が良いものではないはずだ。 君も遠慮せずクラスメイトに頼ったら良い。 」




 突然捲し立てるように早口で告げるラジェスの顔は、ほんのり赤みを帯びているように見えた。




 ――人だかりがそんなに嫌だったのかしら……。




 ルナセイラは余計に申し訳なく思った。


 乙女ゲームの攻略対象の一人なので、正直あまり関わりたくはない。 ――それでも、頼れと言ってくれたラディスの言葉はありがたかった。




 「 ありがとうございます。 そうさせていただきますね。 」




 ルナセイラは社交辞令な淑女の笑みを浮かべ応えるのだった。






 ***






 ラジェスがルナセイラを助けてから、周りのクラスメイトたちの振る舞いは確実に変わっていく。



 教室の外にいる生徒たちへ注意を促す生徒。


 ルナセイラの荷物運びを手伝おうとする生徒。


 授業のわからないところを教えてほしいと寄ってくる生徒。



 当初は男子生徒ばかりだった。 しかし、今は令嬢たちも賑やかに会話に混ざりに来ている。




 ――ここ最近一体どうしちゃったの?




 あまりにも話しかけられることが増えたので、クラスの中でも仲裁に入る者が出始めた。――攻略対象たちだ。


 最初はアイナに遠慮していたのかこちらを様子見る程度だった。 しかし、クラスメイト達が急激に親しくルナセイラと距離をつめようとしてきたことで、遠慮するのをやめたらしい。




 「 君たち! もう放課後だ。 用がない者たちは早く帰宅するように! 」




 エディフォールがルナセイラの机の前に立ち、周りを囲んでいた生徒たちへ帰るよう促した。




 『 ……放課後なんだから別に少しくらいいいだろ。 』と、言いたげな生徒たちの表情。 しかし、王族に反抗できる生徒などいるわけがない。


 皆ササーっとルナセイラの机の周りから離れ、それぞれが素早く帰り支度をして教室を出て行く。


 『 このままでは図書室へ行く時間が遅くなってしまう…… 』と、焦っていたルナセイラにとって、エディフォールのクラスメイトへの呼びかけはありがたいものだった。


 


 「 殿下! お手数をおかけ致しました。 ありがとうございます。 」




 淑女の笑みで礼を告げれば、なんとも恋人に向けるような甘い微笑みを返された。




 ――殿下の微笑みって危険だわ……色気が凄い……。




 きっとアイナは毎日のように甘い笑顔を見ているのだろう。 けれど、見慣れていないルナセイラからしたら、魅了されそうな色気を振り撒かれて見惚れてしまいそうだ。 しかし、ルナセイラはエディフォールと恋愛したいわけではない。


 ぐっと耐えきると、『別に関係ないわね。』と、呼吸を整えて席を立ちさっさと帰る支度を始めた。




 「 その……ルナセイラ嬢、 君は今日は用事があるようだが、放課後空いている日などないだろうか? 」




 「 え? 」




 突然のエディフォールからの誘いに、ルナセイラは意味が分からず気の抜けた声を上げてしまう。




 「 今までルナセイラ嬢とは交流してこなかっただろう? 卒業まで残り僅かだ。 俺はできれば君ともクラスメイトとしてもっと親しくなりたい。 」




 ――私今……誘われている⁉ ……嫌ですが?!




 「 ありがとうございます。 ですが、放課後は毎日仲間と用事があるのです。

 昼休憩など殿下のお時間ある時にでも、クラスメイトとして仲良くさせていただければ嬉しいですわ。 」




 ただ断るということは、流石に王族に対して出来るわけがない。 用事の相手も王族なのだから本当であれば問題はない。しかし、セイフィオスは自分がセイオスである事を隠しているので理由にできないのだ。




 「 それは残念だ……だが昼休憩なら確かに話す時間もとれそうだな! 今度一緒にランチをしよう! 」




 心底残念そうに顔をしかめたが、妥協策を提案すればエディフォールは喜んでくいついてきた。




 「 私は構いませんが、お付き合いされている方や婚約者候補の方々はよろしいのですか? 」




 エディフォールを気遣う表情を見せながらも、『 アイナさんや婚約者候補はどうするのよ! 』とさりげなくの指摘をしてみせる。




 「 クラスメイトとの交流ぐらいで、目くじらをたてる者たちではない。 ルナセイラ嬢は気にすることはないからな。 」




 しかし、ルナセイラのさりげない指摘などあっさり笑顔で躱されてしまった。




 ――いえいえ……私は気にしますけど⁉




 ルナセイラは心の中で喚き散らしたが、口に出すことはできなかった。




 「 ――ではまた今度! ごきげんよう。 」




 ささっと挨拶をしてルナセイラは教室を後にした。


 



 ***





 はぁぁ……


 深い溜息を吐くルナセイラの頭をセイフィオスは優しく撫でる。




 「 今日もまたルナの周りは騒がしかったようだね……お疲れ様。 」





 「 ……せんせぇぇ、全然周りが放っておいてくれないんですよぉぉ……。 」




 撫でる手に頭を委ね合がら涙を滲ませて泣き言を言う。 彼は苦笑しながらも慈愛の籠った眼差しでルナセイラを見つめていた。



 生徒たちの状況が全く落ち着かずにすでに一カ月が経っている。 ――セイフィオスのルナセイラへの態度もだいぶ変わってきた。



 最初の頃は他愛もない話を向かい合って座った距離でただ言葉を交わす仲だった。しかし、自分の容姿を隠さなくなった日から、セイフィオスは積極的にルナセイラに触れ、でろでろに甘やかすようになってきたのだ。


 手を繋ぐことから始まり、隣に座りあった時に肩が触れ合ったり、指を絡ませてきたり、頭を撫でてきたり……。



 セイフィオスの変化に気付いていないわけではなかったが、彼を推していた前世のルナセイラがその振る舞いを拒むことはなかった。




 ――手を繋ぐくらい……大丈夫よね?




 少しくらい大丈夫だと自分に言い聞かせてしまったのだ。 ――前世の記憶を取り戻すまでは卒倒する程拒否反応を露にしていたというのに……。

 


 セイフィオスはルナセイラの変化を見逃すことはなかった。 徐々にルナセイラへの肌への接触は増えていく。



 最初に抵抗を見せなかった事もあり、明らかに恋人同士のような振る舞いに戸惑いが隠せない事があっても、ルナセイラからは拒みにくくなってしまった。――これは推し愛でるゆえの自分の弱さなのだろうか。


 最近は精神面で弱り切ったルナセイラの頭を、セイフィオスが優しく撫でるのが毎日のルーティーンになっている。 撫でて貰えないと心が癒されない気持ちにすらなってしまう程飼い慣らされてしまった。




 ――慣れってすごいなぁ……。




 「 それにしても今日は随分項垂れているね? ……もしかして、あの四人と何かあった? 」




 ――ぎくっ!!


 なんという察しの良さだろうか。 ルナセイラが何も言っていないのに察する事が出来てしまうセイフィオス。



 ぶわっと溢れそうな涙を目に溜めて、ルナセイラは悲し気に今日の事を報告した。




 「 実は……今日、殿下に今度放課後一緒に過ごそうって誘われたんです……。」




 ルナセイラの言葉にセイフィオスの手はぴたりと止まる。




 「 …………ルナは、誘いに乗ったの? 」




 ルナセイラに問うセイフィオスの表情は微笑んでいるのに、眼鏡越しの瞳は全く笑っていないように感じる。


 ぴりつく空気に動揺し、言葉を詰まらせながら否定する。

 



 「 の、乗ったりなんてしてません! ……放課後は毎日仲間と用事があるので、無理です! と、ちゃんとお断りしました! 」




 セイフィオスは安心したように「 なら良かった 」と笑みを零した。




 「 ……ただ、その埋め合わせに今度昼休憩を一緒に過ごす約束をしたんです。 ……それが嫌で。 」




 「 ――は? ……なんで? 」




 ドスの効いた低い声が頭上から注がれて、びくりとルナセイラは身体を揺らす。




 「 え? ……だって、王族からのお誘いですよ⁉……断ることなんてできませんよね? ――不敬になります。 」




 ルナセイラはおろおろしながらも弁解した。




 「 そんなこと言ってたら、それこそあの子が言ってた通りじゃないか! 誘われたら結局仲良くするわけでしょう? 」




 「 ――それは……仕方ないですよね? 不敬罪になんて問われたら――。 」




 アイナの事は気になっても、ルナセイラには王族からの誘いを断ることの方が問題のように思えてならない。 流石に処刑などということはなくとも、何かしらの罰を受けてもおかしくないのだから。


 折角両親がお金をかき集めて学園に通わせてくれているのだ。迷惑など掛けられるわけがない。




 「 ――エディには恋人がいるし、婚約者候補だっているんだ。 そんな誘い断ったって罪になんて問われないよ! ~~アイツは何を考えているんだ! 」




 声を荒げるセイフィオスからは怒りが空気を伝う。 言葉使いまでいつもと違うことにルナセイラは困惑した。




 「 ――あ、アイツ?! 」




 「 あっ……いや、それはつい、あまりにも男の風上にもおけないなと思って……ね。 」




 セイフィオスは怯えるルナセイラを宥めるように声を上ずらせながら言い訳を言う。




 「 そんなに気安く殿下を呼んでいいのですか? ――不敬罪で捕まってしまいますよ? 」




 いつもと違う怒気を露にしたセイフィオスは怖かったが、慌てる姿が可愛らしくてクスリと微笑み呆れるような口調で告げた。




 ――しょげたセイフィオスも可愛いわ。




 「 …………。 」




 明らかに不服そうではあったが、彼は反論しなかった。




 ――ふふ、セイオス先生はお兄ちゃんとして、仲良しの弟の不貞行為が許せないのね。




 乙女ゲームでもアイナとエディフォールが結ばれる時に、兄としてセイフィオスが弟を心配するシーンがあった。


 貴重な表情を見ることが出来たような気がして、億劫な気持ちはだいぶ癒された。




 「 ――あのさ、ルナが殿下と一緒に居たら、あの子は私の所へ来てしまうでしょう? 」




 「 ……そうかもしれない、ですね? 」




 「 ルナはそれでもいいの? 傍に居なくて私を守れるのかい? 」




 拗ねるように言う彼の言葉は、グサリとルナセイラの心に突き刺さった。




 ――アイナさんが先生の傍に? ――ダメ! 絶対許せない!




 「 ――だ、駄目に決まってます! 」




 「 ふふ……。 それなら二人きりでエディと会っちゃダメだよ。 それくらいなら出来るでしょう? 」




 「 そうですね! 友達のマリーエルを誘ってみます! 」




 「 そうして。あの子から執着されるのは嫌だからね。 ――私を守ってくれるなら、絶対二人きりは駄目だよ? 」




 「 はい! 任せて下さい! 」




 自分から言い出したことだったけれど、本当は最強魔法剣士のセイフィオスに勝てる人なんているはずない。 それでも「 守って 」とお願いされるのは信頼されている気がして嬉しくて堪らない。




 見つめてくるセイフィオスの瞳は、眼鏡越しでも甘く切なげに潤んで見える。そんな彼の眼差しに捕まってしまうルナセイラは彼から目を離せなかった。



 

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