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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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 セイフィオスはまだ何か言いたい様子なのに、話してくれる気配はない。 ずっと見つめられているのも気恥ずかしくて、窓の外へ視線を移し中庭を見下ろした。




 ――今日はラジェス様……か。




 「 さっき私と言い争ったばかりなのに、今日もアイナさんは逢瀬にいらっしゃっていますね。 」




 つい呆れ口調で告げてしまう。


 セイフィオスも気になったのか、ルナセイラの顔のそばまで身体を乗り出し、自分の顔を窓際へ近づけて中庭を見下ろした。


 先程から妙にセイフィオスの距離感が近すぎるのは気のせい……ではない気がする。


 ふわりとすぐ近くから香る森の中のような匂いに、前世を思い出したルナセイラであっても戸惑が隠せない。




 ――わ、私の顔のすぐ横にセイオス先生の――か、顔がっ! 息遣いまで聞こえるわ……近すぎて見れないっ!




 突然顔を近づけられて動揺し胸の鼓動が早鐘を打つ。 どうしたらよいのかわからず混乱して体を縮こまらせてしまう。 少しでも彼に触れてしまわないよう気遣った。




 「――本当だね、あの子は随分四人に依存しているみたいだ。 その内勝手に自滅してくれそうだね。 」




 冷徹な眼差しでセイフィオスはアイナたちを見下ろした。




 「 自滅……ですか? 」




 「 うん。 ――まぁ、時間の問題だと思うよ。 四人を同時に愛することなんてできるわけないんだから。 ……大勢の側室がいる他国の王だって、全員を同じように愛し続けることなど無理なんだよ。 」




 

 自分の席に腰かけなおし、セイフィオスはもうアイナたちの事を気にしたくもないようだ。


 先程までの距離感から解放されて、ルナセイラはほっと安堵した。 ――あんなに近くで長い時間話しかけられたら息が止まってしまう。




 「 ――それは……そうかもしれないですね。 」




 他国の王で例えられるとは思わなかった。 ――けれど、ルナセイラもその通りだと思った。


 たった一人を愛しぬくことだって大変なのに、何人もの恋人をどうやって平等に愛するというのだろうか。 二年半もの間、よく毎日問題も起こさずに彼らと関係を維持できたな。と、ある意味感心してしまう。




 ――でも、アイナさんは殿下以外の事を愛してるとは言わなかったわ……。 だから長続きしたのかしら。




 「 今は燃え上がっているだけで、その内冷めると思うよ。 ただでさえ相手は尻軽なあの子だしね。 」




 飽きるのは三人の方なのだろうか。


 セイフィオスの言葉からは、まるでエディフォール以外はそこまでアイナへの想いがないと思っているような言い方に感じた。


 話している内容が浅すぎて、時間が経てば経つほど本当に馬鹿馬鹿しく思えてくる。




 「 そういえばセイオス先生って、アイナさんのことをあの子って呼びますよね? 名前で呼ばないのですか? 」




 アイナの浮気話など続けるのも嫌になって、ルナセイラはセイフィオスの話題に切り替えた。

 



 「 名前はできる限り呼びたくはないね……。 私だって人だから、どう頑張っても好きになれない人もいるんだよ。 」




 「 ――確かに分かり合えない人っていますよね。 ……私もアイナさんとは仲良くなれないと思います。 ――今更ですけど今日理解しました……。 」




 ため息交じりに告げる。




 「 今頃言うのかい?! ……気づくのが遅すぎるよ。 入学したばかりの頃、散々あの子の事で悩まされていたのに…………。 」




 はあ?っとあり得ないものを見るような目でセイフィオスはルナセイラを見た。




 「 え? ……まさかご存じだったのですか? 」




 セイフィオスの言葉に目を瞠った。




 「 そうだね。 あれには憤りを感じずにはいられなかったよ。 」




 フンっ! と、鼻息を鳴らして憤りを滲ませるセイフィオスは、本気でそう思っているように見える。


 あの頃はなぜか物凄い勢いで『 地味令嬢のルナセイラが聖女候補を虐げた 』などというとんでもない噂が学園中に飛び交っていたから、セイフィオスが知っていてもおかしくなかったかもしれない。




 「 先生が気にしてくれただけで嬉しいです。 」




 彼の言葉がじんわりと心に温かく広がっていく。 味方でいてくれたことがこんなに嬉しいだなんてルナセイラは思わなかった。


 自然に零れた言葉は更に自分の胸に響き染み渡る。




 「 ……国の護り手である聖女候補が、クラスメイトを陥れるなんてあってはならないことなんだよ。 ――彼女は聖女として不適正だ。」




 「 ――不適正……言い過ぎでは? 」




 彼のアイナへの評価は想像以上に低かった。 ――むしろ聖女候補の資格を剥奪したいようにすら聞こえる。


 ――だが、アイナは仮にも国を代表する聖女候補。


 不敬な発言ではないかと心配になる。 ……だって彼は今セイフィオスではなくセイオスなのだから。




 「 いいや、言い過ぎなどではないよ。 本当の事なのだから。……補助すべき者の責任も否めないが……。 」




 「 ――え? 」




 「 いや、……兎に角、私は君があの子の悪意に陥れられないか心配なんだよ。 」




 ――そんなに私を心配してくれるのね……。





 「 !! ――わ、私もです! 誰にもわかってもらえなくても、先生が私の仲間でいてくれたから学園生活が楽しめているんです! ――だから私も守りますから! 」




 ふふふ……。


 嬉しさが溢れてルナセイラは顔を綻ばせた。 頬が緩み、ほっぺたが落ちてしまいそうな気がしてしまう。


 思わずルナセイラは自分の両手で頬を挟み込んだ。




 「 ~~~~ルナセイラ嬢…………ルナって呼んでも……いい? 」




 何かを堪えるように声を詰まらせながらも、愛称を呼びたいと乞うセイフィオス。


 急に甘く切なげな眼差しを向けられて、いつもと明らかに違う空気に目を瞠った。 眼鏡越しなのに、全身で求められているような彼の眼差しに呑み込まれてしまいそう。




 「 愛称……ですか? ――勿論! 好きに呼んで下さい! 」




 甘い空気感に耐えきれず、これ以上動揺する自分を見られたくなくてルナセイラは懸命に笑みを作って同意した。




 「 ~~~~!! ――っくぅっ! ルナ…………そんな可愛い事言わないで……我慢できなくなってしまうよ。 」




 「 え? ……我慢? 」




 顔を近づけルナセイラを覗き込む瞳は、眼鏡越しでもギラリと妖しく光っているように感じた。 それが余計に胸の鼓動を狂わせるようでふるりと身震いしてしまう。


 小動物のような怯えを見せたルナセイラの頬を彼が宥めるように優しく撫でると、いつの間にか甘い雰囲気は消えていた。




 「 ごめんね、ルナの前だと感情が抑えられなくて。 ……だけど、純粋すぎるルナがオオカミだらけの学園で襲われてしまわないか心配なんだよ。 ――だから、ちゃんと私の側にいて…………ね? 」





 「 はい、傍に……います。 」




 真剣な面持ちで心配しているのだと彼は言う。 その言葉がルナセイラにはとても重く感じた。 ――けれど、その重さが不思議と心地よい。


 撫でられた頬も、近すぎる距離感も、いつの間にかセイフィオスにだけは許していた。




 ――このまま時が止まったらいいのに……。




 ずっと高鳴る胸の鼓動を無視しながら、ルナセイラは心の中で無意識に呟いた。


 言い表せない程の多幸感。 その意味に気付かずに、しばらく時間を忘れて見つめ合う。




 たとえ自分がもう一人のヒロインだとしても、このまま平和な学園生活をセイフィオスと送れるのではないか。


 夢の中にいるような幸せな心地に酔いすぎて、ルナセイラは安易に考えていた。 ――ヒロインならば、これから先もトラブルなど避けられるハズもないというのに。



 本来の姿のルナセイラの影響力を、翌日以降自分自身が思い知ることになる。そして、そんなルナセイラをアイナや攻略対象たちが放っておいてくれるはずもなかった。



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