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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 がしゃぁぁあんっ!!


 ティーカップは床へ投げつけられた瞬間、けたたましい音を立てて割れ散った。


 「なんで?!・・・・・なんであの子ばっかり!!・・・ずるいっ!ずるいわっ!!」


 顔をくしゃくしゃに歪ませたアイナは、悲痛な面持ちでやり場のない想いをティーカップへぶつけた。


 「片付けてっ!!」


 近くで待機していた侍女に怒鳴りつける。


 びくりと肩を震わせた侍女は、慌てて割れたティーカップを片付け部屋を後にした。


 ルナセイラが「地味令嬢」を止めた日から、アイナの生活は急下降だ。


 これまではエディフォールや攻略対象たちがちやほやしてくれたのを、周りの生徒たちが羨望の眼差しで見つめていたのが当たり前の毎日だった。


 ――それなのに・・・それなのに・・・なんでこうなっちゃうのよっ!!私はヒロインよっ!!


 今では羨望の眼差しは全てルナセイラが掻っ攫っていく。


 ――たかが没落寸前の貴族のくせに!!・・・自分の能力すら・・わかってもいないくせにぃ!!


 アイナはルナセイラと会話をした日にうっかり自分が転生者だとバラしてしまった。



 アイナは前世日本人の女子大生で、「リリマジ」の熱狂的なプレーヤーだった。


 見目麗しい攻略対象者たちにちやほやと大切にされるヒロインのアイナをプレイする度に、自分も彼らに愛されているような錯覚を楽しんだ。


 疑似恋愛であっても本当の恋人のように彼らが大好きで堪らなかった。


 その中でも一番素敵だったのはセイフィオスだ。ブレド王国王太子なのに、稀有な魔法剣士で見目麗しい最強の攻略対象キャラ。

 

 転生したとわかってすぐに攻略対象全員を攻略しながらセイフィオスを攻略しようと心弾ませた。しかし、なぜかセイフィオスことセイオス先生を全く攻略できない。


 「リリマジ」の中で、セイオス先生はエディフォールとアイナを助ける為、王命で魔法学教諭補佐として赴任してくる。普通であれば、エディフォールと仲良くしていたらセイオス先生とも自然に仲良くなるきっかけは訪れるはずだった。


 ――なんで?・・・・なんでセイオス先生と仲良くなれないのよ!!


 何度歯がゆい思いをしたかわからない。


 まったくきっかけをものにできないのだ。


 アイナは焦った。もう一人のヒロインであるルナセイラが傍にいる以上、いつ先を越されるかわからない。


 ひとまずエディフォールの攻略を優先させた。


 手しか繋いでいなかった二人であったが、積極的に抱き着きに行ったり、逢瀬の度にエディフォールにキスを何度も強請った。


 彼はあっという間にアイナに夢中になり、二学年に上がるころにはアイナなしの学園生活は考えられないと思わせることに成功した。


 セイオス先生は相変わらずだったが、他の三人の攻略対象にも少しずつ好意を示していくと、あっさりと好意を持たれ、すぐに一線を超えてこようとされた。だが、流石に一線超えるのは最初は本命にしたい。


 アイナが必死でセイオス先生との2人きりの時間を狙ってもことごとく失敗する中、エディフォールはいつも親身になり、いつも甘やかしてくれる。


 一線を越えるのは本命が良かったが、これ以上引き延ばせば攻略対象たちに飽きられてしまうかもしれない。アイナの心は焦りと不安で押しつぶされそうだった。


 アレクシスは脳筋過ぎてワンちゃんみたいな従順さは可愛いけれど、最初の人にするには重すぎる。

 

 サーシェンはアイナより可愛すぎて気持ちが萎えるし、そこまで執着されていないのに初めてを彼に捧げるのは癪だった。


 ラジェスはまじめでやさしいが、生真面目すぎるし几帳面過ぎて一緒に居て疲れるから、万が一執着されたらしんどい想いをしそうで考えたくなかった。


 結局消去法で残ったエディフォールにアイナは初めてを捧げた。


 アイナの決断は間違いではなかったらしい。


 エディフォールは見目麗しい上に、紳士的で優しいのに色気まであっていつもドキドキする。二学年になって公務も少しずつ担い始め、毎日逢瀬できないということもあって浮気もしやすい。


 本命にするのにちょうどよかった。


 エディフォールと一線を越えると、より愛されていると感じるようになった。それに、他の三人もエディフォールの二番目でもよいとあっさり納得したのだ。ただ、自分たちともしてほしいと要求してきたので飽きられない為に応えた。


 セイオス先生だけは全く攻略できないが、それ以外の攻略対象は全て自分のものにできた幸福感で、アイナは幸せの絶頂だった。


 毎日のように恋人たちと逢瀬を愉しんだ為、学力や魔法スキルは全然上がらなかったが、男たちからちやほやされる状況は最高だ。


 それなのに、最終学年の三学年へ進級してあの子が突然本気を出した。


 ルナセイラは地味令嬢だったのが嘘のように美しい容姿を惜しげもなく晒し、毎日のようにクラスメイト達はあの子を羨望の眼差しと熱の籠った視線を向け続ける。あの子を一目見ようと教室へ他のクラスの生徒たちが押し寄せるほど。


 今までひとりぼっちで過ごすのが慣れていたルナセイラは、誰に媚びることもない。


 自然な微笑み、無邪気な笑顔、美人なのに全く驕り高ぶらず親切で優しい。


 「折角攻略対象たちを手名付けたのに・・・あの子の代わりにいちゃいちゃしてやったのに!!なんでなのよ!!」


 はぁぁ・・・・はぁぁ・・・


 荒い息を整えるため深呼吸を繰り返す。怒り過ぎて震えていた身体の震えも、感情が昂るたびに無駄に流れる涙も落ち着いてくる。


 「大丈夫よ・・・・あの子は自分の事をわかっていない・・・気づく前につぶせばいいのよ!!」


 アイナは仄暗いオーラを纏い、瞳にはギラギラと怪しい光が宿っていた。


 ふふふ・・・・


 「待っててね・・・・ルナセイラさん・・・・私が・・・貴女を奈落の底に落としてあげる」


 

 

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