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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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 アイナの機嫌を取るようにエスコートするエディフォールは、東校舎二階のカフェテリアを出て渡り廊下を進む。


 わざとらしくべったりエディフォールにしなだれかかるアイナは、チラチラと後方へ視線を送りルナセイラにクスリと煽るように笑みを浮かべてみせた。


 相手にするのも馬鹿馬鹿しくて、淑女の笑みを維持しながら二人の後に続く。



 王立魔法アカデミー学園の校舎は本校舎も他の校舎も歴史を感じる石造りで、それぞれの校舎は渡り廊下で繋がっている。 渡り廊下は心地よい風が吹き抜け、耳をすませば植えられた木々のさわさわと葉の揺れる音が優しく耳元に響く。 校舎へ足を踏み入れた瞬間のひやりと肌に感じる空気感もルナセイラは好ましいと思っていた。


 ほんのひと時の安らぎを感じながら本校舎の中を進むと、階段を上り三階の講義室が幾つも並ぶ内の一つの空き部屋へと足を踏み入れた。


 エディフォールは愛おし気にアイナを見つめ、「 部屋の外で待っている 」と告げてから一人廊下へ出た。 ――やじ馬たちが部屋の中を覗かないように見張ってくれるのだろう。


 部屋に辿り着くまでの道のりでも生徒たちの視線はこちらに集中し、何人かはルナセイラたちの後をついてくる始末。 ――アイナを溺愛するエディフォールが、そんな見物人たちを放っておくとは思えない。




 ――私がアイナさんと二人きりで話して……また冤罪を吹っ掛けられたりしないかしら……。




 先程のカフェテリアでのエディフォールはルナセイラに真摯な対応であったが、入学した当時の決めつけや暴言が幾度となく頭の中をよぎり、到底安心などできるわけない。 万が一にもアイナが大泣きしてエディフォールへ助けを求めれば、分が悪いのはルナセイラなのだ。


 二人きりになると、アイナは苛立ちを隠さず睨みつけながら話し始めた。




 「 貴女、なんで卒業間近になって容姿を戻したのよ? 」




 「 なんで私がアイナさんに容姿を戻した理由を教えなければならないのかしら? 」




 感情を隠して淑女の微笑みを維持したままルナセイラは返事をする。




 「 貴女がその姿で学園に通われたら迷惑なのよ! 地味令嬢のままでいなさいよ! 」




 「 ……なぜアイナさんの為に私が地味令嬢でいなければならないのです? 」




 「 そんなの貴女が知らなくて良い事よ! 」




 「 でしたらお断りします。 私にも理由があってこの姿でいる必要がありますので。 」




 「 理由ですって?! ……やっぱりエディたちを奪うつもりね⁉ 」




 「 …………仰っている意味がわかりませんが? 」




 先程からアイナはルナセイラに邪魔をするなと言いたいような発言だ。 容姿を元に戻したからといって、何故攻略対象達を奪うという事に繋がるのかわからない。


 王子様に憧れを持つ令嬢は確かに多い。だが、それを自分に当てはめられても困る。




 「 いいえ、私は略奪愛に興味はありません。 」




 「 う、嘘よ! 私から何もかも奪うつもりじゃない! 騙そうったってそうはいかないわよ! 」




 「 騙していませんし、嘘でもありません 。 」




 「 ――嘘よ!! 」




 ――なんなの……この子は。私を何だと思っているのよ……。




 流石に同じ問答を繰り返されればルナセイラも苛出ちが募る。




 「 なぜそう思うのです? 」




 悲し気な表情を作りルナセイラは問う。




 「 しらばっくれるつもり⁉ 貴女はふしだらなルナセイラじゃない! 」




 ――ふしだら? 誰が? ……まさか……私⁉




 耳を疑った。


 今世どころか前世から、ルナセイラは男性と付き合ったことすらない喪女だ。 ――にも拘わらず、目の前のアイナは堂々と大きな声で「 ふしだら 」などと罵っている。

 



 「 ……それは貴女のことでは? 」




 「 私はふしだらじゃないわ!エディとは愛し合っているのだもの! 」




 ついイライラして売り言葉を買ってしまうが、理解しがたいアイナの堂々とした発言にはルナセイラの思考がおかしくなりそうだった。




 ――神経を疑うわね……。




 「 誰でもいいのはアイナさんでは? 殿下以外の方とも性交されてますよね? バンデントイル伯爵家のアレクシス様、 エイモンド侯爵家のラジェス様、マジェスティ伯爵家のサーシェン様との関係をどうご説明なさるのです? 」




 「 な、何を言っているの! いい加減なこと言わないで! 」




 ルナセイラにバレていると思わなかったのだろう。わかりやすくアイナは慌てふためく。


 これまでほぼ接点のなかったルナセイラが、アイナの男関係を知っているというのは笑い事では済ませない。 ――恐らく他の生徒にもバレていないかアイナの心中は穏やかではないはずだ。




 「 でしたらお三方に確認してみましょうか? 」




 しらっとした顔で、不思議そうに首を傾げながら眉尻を下げてルナセイラは問う。




 「 か、勝手なことしないで! …ルナセイラさんってひどい人ね! 」




 ぽろぽろと悔し涙を零し、アイナは何がなんでもルナセイラのせいにしたいようだ。




 ――なんでこんな人がヒロインなのか疑問でならないわね……。




 「 ――まぁ、私にとってはアイナさんたちの事はどうでもよいことです。 そちらが私を貶めようとしてこなければ―― ですが。」




 「 ――それはあんたが容姿を戻すからでしょ! 奪おうとしてたら止めるのが当り前よ! 」




 ――また振り出し? しかも『 あんた 』呼び? ――大分性格に難がありそうね……。




 ルナセイラは嘆息した。

 


 昼休みは生徒の交流の時間も含まれており、二時間用意されている。 食堂での騒動からすでに半刻程は経っているだろう。


 ルナセイラはセイオスに少しでも早く会うために教室に戻りたくて仕方ない。




 「 アイナさんは私が容姿を戻したことが気に入らないのですね? ですが私は地味令嬢に戻るつもりはありません。 ――ということで、もうお話は終わりでよろしいですか? 」




 「 ~~~だ、駄目に決まってるじゃない! 話は終わってないわ! 」




 「 ……そう仰いましても殿下と愛し合っているのであれば、私が容姿を変えようと気にされる必要はないと思いますが? 」




 「 ~~~~もう五月蠅いわね! もうすぐエンディングなのよ! 邪魔しないでって言ってるでしょ! 」




 ――エンディング? ま、まさか――!!




 「 エンディングとは ……何の事ですか? 」




 「 え?! ち、ちがっ……これは……あんたには関係ないことよ! 」




 アイナは失言したことに気付いたのか、動揺の仕方がわかりやすい。 二年以上も学園に通っているというのに、未だに淑女らしさが感じられないのはいかがなものだろうか。




 「 私が余計なことをすると、エンディングがどうとかおっしゃいましたよね? それは何なのです? 」




 「 黙って! あ、あんたは狡いんだもの! 私は王道ヒロインなのに、特別版ヒロインのあんたがいたら、私が不利に決まってるじゃない! 私があんたなら絶対奪っているもの!! 」




 ――特別版ヒロイン? ……奪う?




 色々と訳の分からない事を言われたが、動揺したアイナは相当口が軽くなっているようだ。




 「 アイナさん、貴女ゲームをプレイしたのですね? 」




 「 ――は⁉ 」




 アイナの顔はみるみる青ざめたかと思うと、ルナセイラも転生者という事に気付いたのか怒りを露にした。




 「 ~~~~や、やっぱり転生者だったのね⁉ 知らない振りなんてして! 許せないっ! 」




 「 私が転生者だったら何だというんです。 ――それよりもゲームの内容を知っているのなら、ハーレムルートなんてシナリオから外れすぎでは? 」




 「 外れる?あんたがいるんだからしょうがないじゃない!! やっぱり全員攻略を目指して正解だったわね! 特別版のあんたには絶対渡さないんだから! 私がヒロインよ! 」




 ――私がいるからしょうがない??特別版?




 どう考えてもアイナの言っていることが、ルナセイラのゲームの記憶と食い違う。




 「 私のせいでハーレムは仕方ないなどと、言い訳するの止めてくれませんか? 」




 「 なに純粋なフリしてるのよ!ハーレム作るあんたがいるから、私はこうしなきゃならなかったの! 私の世界を壊さないで! 」




 ――私がハーレムを作る⁉ 特別版ヒロインって……どんなキャラなの⁉




 ルナセイラは驚愕しじっとアイナを見つめてた。




 「 な、なによ! しらばっくれるつもり⁉ 私は、特別版をプレイして知っているんだから騙そうったってそうはいかないわよ! 」




  ――一体特別版とは何の事なの?




 ルナセイラは前世で「 リリマジ 」を散々プレイしたが、特別版なるものはプレイしていない。 年齢制限版が別で作られたという話ならば、宣伝でチラリと見たことはあった気はする。 ――まさかそのことだろうか。 しかし、ルナセイラは記憶が朧気で確信が持てない。


 とはいえ、年齢制限されるほどのヒロインに自分がなるつもりは一切ないのだが。




 「 ……アイナさんが何と仰ろうと、私がどんなキャラであろうと、ハーレムなんて作る気はないですよ。 」



 「 騙されないわよ! 誰にも責められずキスやエッチも攻略対象者全員と出来る特別版ヒロインが、しないなんて選択肢あり得ないでしょ! あんた頭おかしいんじゃないの⁉ 」

 



 ――な……なんですって?!攻略対象全員と⁉ それこそあり得ないわ!!




 「 彼らが貴女の毒牙に引っかからないように、全員誘惑したのに! 後はセイフィオスだけなの! 今更邪魔しないでっ! 」




 ――やっぱり!! セイオス先生狙われていたのね⁉ でも、ルナセイラ(特別版ヒロイン)に攻略対象を取られないようにするためだけに、四人と交際して性交したというの?




 アイナの言っていることがあまりにも常軌を逸していて頭が追い付かない。




 「 アイナさんは……私から彼らを奪わせない為だけに、彼等と性交したというのですか? 」




 会話でアイナが正常な思考を持ち合わせていないことはわかったが、それでも違うと言ってほしい。 同時に複数人を愛することは難しい。それでも、ヒロインは彼等が好きだから体の関係を持ったのだと思いたかった。




 「 ――しょうがないじゃない! エディとしたら、他の三人もしたいって言うんだもの! しなかったらあんたに取られちゃうじゃない! 」




 アイナの口振りからすると、恐らくエディフォール以外の三人は、エディフォールがアイナの恋人と知っていて行為を迫ったのだろう。 ――そしてアイナはそれに応えたのだ。


 ルナセイラというもう一人のヒロインに、他の三人を奪われない為だけに。




 ――クズじゃない! ――なんでこんな子が、ヒロインなのよ!




 「 ……アイナさんが他の三人もしていることを殿下が知ったらどうなるんでしょう? ――バレたら私の事など関係なく、軽蔑されると思いますが? 」




 「 そ、そんなことないわ! 私は絶対エディに捨てられたりしない! 他の三人だってあんたにはあげない! 私の攻略対象たちは全員私のモノよっ! 」




 言いたいことだけを言い切ると、アイナは走って講義室を出ていってしまった。 彼女を追うエディフォールの声が廊下に響いている。


 しかし、ルナセイラには二人の事などどうでもよかった。 ――問題はセイフィオスだ。



 自分の預かり知らぬところで、勝手にアイナに敵視されていたことにショックが隠せない。 まさか本当にセイフィオスが狙われているとは思わなかった。 ――想定以上に酷い事実に、怒りが込み上げる。


 わなわなと怒りで震えていた身体は、呼吸を整えたことで次第に落ち着きを取り戻した。 けれど、気が緩みどっと疲れがルナセイラに押し寄せる。




 「 私……モブじゃなかったのね……。 」



 誰もいなくなった講義室で、ルナセイラは呟いたのだった。




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