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モブだと勘違いした転生地味令嬢は身勝手ヒロインから推しを守りたい  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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 セイフィオスを守ると宣言した日、ルナセイラは寮へ戻ると「 くすみ薬 」の効果を消し、今まで放置してきた自分自身を念入りに手入れした。 ――自分を偽ることを止めたのだ。


 長く伸びた前髪と腰まで伸びたボサボサ髪は、くすみ液を洗い流して香油を馴染ませ、念入りにブラシで梳かしたことで艶々サラサラに。 肌も唇もくすみ液を洗い流し香油でマッサージしただけで肌は透き通り、唇も真っ赤に色づき瑞々しい。 瞳を隠さないように前髪を両サイドで分ければ、化粧など施さずとも美しいビスクドールのよう。






 ***






 翌朝、学園の生徒達は登校するルナセイラを驚愕の眼差しで凝視した。




 「 ――誰⁉ 」




 クラスメイトの誰かが思わず不躾な声を上げた。 しかし、ルナセイラは華麗にスルーして自分の席へと向かう。


 大して話したこともない生徒に返事をする義理はない。 没落寸前であってもルナセイラは紛れもなく貴族令嬢なのだから。


 上品に歩みを進めて自分の席へ腰かけると、更に周りは騒めいた。




 「 ――オレイヌ伯爵令嬢っ⁉ 」




 クラスメイト達が驚くのも無理はない。 昨日まで「 地味令嬢 」と呼ばれていたルナセイラは、本来の美しさを惜しげもなく晒していたのだから。


 前髪は両サイドへ分けておでこを出した輝く白金のさら艶な髪。 形の良い鼻とほんのり赤みを帯びた薄い唇に、血色のよい透き通るような白い肌。星屑が舞うように煌めく紫紺の瞳。


 昨日までのルナセイラだと気づく者がいるだろうか。


 親友であるマリーエルですらも、本来のルナセイラを見たのは七年以上ぶり。 誰もわからなくて当然だ。


 それでも微かに面影は覚えてくれていたのだろうか。 マリーエルは喜色を浮かべてルナセイラの下へ歩み寄る。




 「 貴女……本当にルナセイラなの? 」




 「 マリーエルおはよう。 えぇ、私よ。 この姿の私にも慣れてね! 」




 僅かに瞳を揺らして動揺を滲ませるマリーエルに、にっこりと美しい微笑みを向ければ彼女の頬がほんのり朱に染まる。


 何故か離れていた席から見守っていたクラスメイトたちまで頬が赤らんでいるのは、見なかったことにしよう。


 今まで散々冷たい態度をとってきたクラスメイトたちの事など、ルナセイラは興味はない。 ――だから気づかなかった。 絶望の眼差しで、アイナがこちらを見つめていたことに。


 四限目の魔法座学の授業には 、セイフィオスがセイオス魔法教諭補佐として特進クラスに来る。 自分の本当の姿を彼に見せることが出来る緊張と喜びで、ルナセイラの頭の中は彼の事でいっぱいだった。






 ***






 三限目後の昼休憩、食堂へ向かうとそこでもルナセイラを一目見ようと見物人が山を成す。


 数時間たらずで伝わるのが早すぎではないだろうか。


 授業が終わる毎の過度な視線、食堂へ向かう途中も食事を受け取って席に着いた後も、生徒たちの向けてくる視線はきりがない。 食べている間も不躾な視線は耐えることがなく、ルナセイラは自分が見世物小屋の動物になった気分である。


 幾度めかわからないため息が漏れた。


 さっさと食事を食べ終えて席を立とうとすると急に頭上が暗くなる。 見上げれば緊張した面持ちで少し青褪めたアイナの姿。




 「 あ、あの……ルナセイラさん。 ちょっと二人で……話さない? 」




 「 ……アイナさん? 」




 突然不躾に声を掛けてきたアイナを、ルナセイラは訝し気に見つめた。


 入学以降、アイナを虐めたと言われてからはルナセイラから彼女に声をかけることはなくなった。 ――それは彼女も同じである。


 二年半たって、今さら話しかけられてもどうしろというのだろうか。 クラスメイトの喜色の眼差しも鬱陶しいと思えたが、アイナの振る舞いは嫌な予感しかしない。 厄介ごとに巻き込まれる前に逃げた方がいい。 ――ルナセイラの直感がそう告げている。




 「 ごめんなさい。 私たちは二人で話すような関係ではないでしょう? ご遠慮いたしますわ。 」




 礼儀だけは欠かないように、お辞儀をした上で断りを入れる。 しかし、慌てて立ち上がったアイナは引き留めようとルナセイラの手首をぎゅうっと物凄い力で掴んだ。




 「 ――っいっ!」




 予想外の痛みに、ルナセイラは思わず顔を歪め苦し気な声音が零れる。




 「 ひどい……私は仲良くしたいだけなのに! ……なんでそんな冷たいこと言うの? 」




 顔を青褪めルナセイラの手を掴みながらアイナは涙をぽろぽろ流す。 嫌な予感が的中し、ルナセイラは項垂れたくなった。




 ――あぁ。 ……またあの時と同じ? 勘弁してよ。 …………それにしても馬鹿力なの⁉ 痛いんだけど!




 華奢な割にアイナの握力が強すぎるのか。 それとも身体強化をして敢えて攻撃しているのか。


 恐らく後者だろう。 掴まれた手はぎりぎりと痛くなる一方だ。




 「 虐めたとか言われても困るの。 ……貴女も私とは関わらない方がきっとよいはずよ。 」




 手首の痛みを堪えながらはっきりとした拒否を伝えた。 しかし、それだけでまた悪者にされてはたまらない。


  表情だけは申し訳ない気持ちが伝わるよう眉尻を下げて悲し気な表情を浮かべてみせた。




 「 オレイヌ嬢が遠慮するっていうなら、引き留める必要はないんじゃないのか? 」


 「 そこまで話さないとならない程今まで親しくなかったわよね? 」


 「 なんだかオレイヌ嬢の方が可哀そうに見えるんだけど? 」



 ルナセイラの周りに山を成していた衆人環視は口々に憶測を口にする。 ――ただいつもと違うのは、否定的な意見がないということ。


 今日のルナセイラは「 地味令嬢 」ではない。 美しい容姿に戻った自分に対して、わかりやすく生徒たちは羨望の眼差しを向け、食い入るようにこちらを見続けているのだ。

 



 ――この状況なら、私だけが悪いなんて話にはならないわよ……ね?




 ルナセイラは願うようにアイナを見つめ返した。



 ずっと泣いているのに、誰からも慰めの言葉をかけてもらえないアイナは、焦りを感じたのだろうか。 目に涙を溜めたまま、きょろきょろと誰かを探し始めた。




 ――何してるのこの子……。 まさか攻略対象を探しているんじゃ――。




 ルナセイラの勘は当たっていたらしい。


 訝し気にアイナを眺めていると、何かを見つけたのか安心した眼差しで駆けだし、勢いよく後ろから男子生徒に抱き着いた。




 「 エディっ! 」




 ――どんっ!


 食堂の入り口で談笑していたエディフォールに、アイナは突然後ろから抱き着いたのだ。


 それを見た周りの学生たちは、急に許可もなく異性の背中に抱き着いたアイナを見て眉をひそめたり悲鳴を上げている。




 ――こんなところで人目も憚らず異性に抱きつくだなんて……貞操観念はもう欠片も残っていないようね……。




 非常識なアイナを見つめながらルナセイラは心の中で毒づいた。


 初心なルナセイラだが、前世暮らしていた日本が異性との触れ合うマナーに厳しくなかったことを思い出し、手を握ったり抱擁する程度を見るくらいなら今は問題ない。


 ルナセイラは卒倒した初心過ぎた過去の自分を思い出し苦笑した。




 「 うわっ! アイナ⁉ ……急にどうしたんだ? 」




 突然アイナに抱き着かれて動揺したエディフォールだったが、羞恥心はないのだろうか。


 後ろから抱き着かれてもアイナの腕を振りほどこうとはしていない。 アイナの涙に気付くと、そちらの方が気になったのか途端に表情が険しくなった。




 「 アイナ⁉ どうしたんだ。 なぜ泣いている? 誰かに(、、、)虐められたのか? 」




 ――は? なんでアイナさんが泣くだけで、誰かが虐めたって事になるの? 信じられない……。




 ルナセイラは言葉にできない恨み節を心の中で一人ごちる。


 聖女候補であるアイナが誰かを虐めたり、迷惑をかけるという考えは攻略対象たちにはないのだろうか。


 真剣な表情のエディフォールに抱きついたままのアイナは、きゅっと抱く手にほんの少し力を籠めて震えながら涙を流している。




 「 私が……いけないんです。 私のせいで……ルナセイラさんがまた怒ってしまったんだわ……。 」




 ――私、怒ってませんけど?




 勝手に怒っていると決めつけられてルナセイラは呆気にとられた。




 「 オレイヌ嬢が⁉ また性懲りもなくお前を虐めたのか! 俺がお前の代わりに罰してやる! 」




 ――性懲りもなく? 話したこと一度しかないけれど? ――しかも冤罪ですけど⁉




 「 駄目よエディ! もういいの……エディ。 私が我慢すれば……。 でも、もし貴方が力になってくれるなら……私がルナセイラさんとお話しできるように……お願いしてもらえない? 」




 わかりやすいほどのネコ撫で声で涙を流しながら言うアイナを、エディフォールは向き合い直してぎゅうっと抱きしめた。


 カッカと怒っていたエディフォールを宥めたアイナは、上目使いで泣きながら瞳を潤ませお強請りをする。




 ――あぁ。 ……やっぱり助けを求めるのね……。




 状況を飲み込めたルナセイラは、呆れてため息しかでてこない。




 「 無論だ! オレイヌ嬢と二人で話したいなら、俺が取り持つから泣くな! 彼女の許へ行―――」




 「――来ていただかなくて結構です。 ブレド第二王子殿下、私はココにおります。 」




 学園は生徒間の自然な交流を円滑にする為、畏まった呼び方をすることは滅多にない。 それでもあえて嫌味のようにルナセイラは敬称を使う。


 細やかな「 権力などに屈しない! 」という対抗心からくるものだった。




 ――私と二人で話したいなら受けて立つわ!




 ルナセイラは自らエディフォールの許へたどり着くと、不敬を承知で被せ気味に声をかけて貴族令嬢然とした笑みを浮かべてみせた。 以前彼等から向けられた侮蔑の眼差しを思い出し指先が震えようと、おくびにも出したくなどない。


 感情的な振る舞いは貴族令嬢としての矜持が許さない。 『 余裕の淑女として対峙したい。 』 と、ルナセイラは思った。


 



 「 ――貴女は誰だろうか? ……すまないが、私はオレイヌ嬢と今から話をせねばならないのだ。 美しいご令嬢には申し訳ないが……話すのはまた今度に――」




 対峙したエディフォールは、目の前に立つ本来の美しいルナセイラを目にして動揺を口にしながら惚けた。


 先程学園に登校したばかりの彼は、どうやらルナセイラの外見の変化にまだ気づいていないようだ。




 「 ~~エディっ! 彼女がルナセイラさんです! 」




 苛立ちを含んだ声音で、抜けた発言をするエディフォールの言葉に被せるようにアイナは訴え、彼の腕をぎゅっと掴んで揺すった。




 ――ふふ……なるほど? もしかして彼女は私を恋のライバルと思っているのかしら?




 「 き、君がオレイヌ嬢なのか⁉ ――別人じゃないか! 」




 エディフォールは驚愕の眼差しでルナセイラを凝視した。




 「 殿下、私が自分磨きをしては……ならなかったのでしょうか? 」




 困惑するエディフォールへ悲し気な眼差しで問う。 しかし、頬を染めているあたりエディフォールが即座にルナセイラを悪者扱いするという事はなさそうだ。



 ――目に見えるものだけで判断するなど愚の骨頂よ……。



 「 地味令嬢 」のままであったなら、即座に冤罪をなすりつけたのだろうと容易に想像できた。




 ――たとえ王子様だろうと、見た目だけで判断するような人はお断りよ!




 「 申し訳ない! ……自分磨きは素晴らしいことだ。 とても良いことだと思う。 」




 「 お怒りだったわけではないのですね? それなら良かったです。 ……殿下に嫌われるのは、とても悲しいので……。」




 敢えてルナセイラが仄かに嬉しそうな眼差しで流し目を送れば、エディフォールは両耳を赤く染め上げる。


 先程までアイナと話していた時の怒りの炎など消え失せ、ルナセイラに見惚れているのは周りの目から見ても明らかだった。


 横にいるアイナは肩を震わせているが、彼女の瞳から涙など流れていない。 怒りに震え、不安で顔面蒼白になっているのだろう。


 周りの生徒たちは謝罪などしない王族が、あっさりとルナセイラに謝ったことで驚き目を見開いていた。




 「 ――それで、私はどうしたら良いのでしょうか? 」




 首をこてんと傾げ敢えて不安そうに瞳を揺らしながら、ルナセイラは敢えて話を戻した。




 「 どうする……とは何だ? 」




 すでにアイナからの頼みが頭から抜け落ちたのか、それともルナセイラの激変ぶりに驚きすぎて頭の中からかき消えてしまったのか。


 エディフォールはルナセイラの言っている事が本気でわからずニコリと微笑んだ。




 ――なんで私に笑いかけているの? さっきまでのアイナへの振る舞いはどうしたのよ……。




 ルナセイラはもうどうでも良かったが、くだらないことでこれ以上貴重な昼休憩を無駄にはされたくはない。




 「 ――アイナさんから何か頼まれたのではないですか? 」




 ルナセイラの言葉に、エディフォールはわかりやすいほどハッと我に返った。 恐る恐る腕に縋りついているアイナへ視線を向けて、びくっと肩を震わせる。




 「 ――エディ……私の事はもう……どうでもよいの? 」




 先ほどまでは涙がすっかり止まっていたのに、自分へ視線が向いた瞬間面白いほどにアイナの瞳からは涙が流れだした。




 ――泣くのが趣味なの? ……それとも前世は女優? ……すごい速さで泣くのね……。




 様子を伺うルナセイラは、アイナの涙を流す速さに敵ながらに思わず感嘆してしまう。




 「 い……いや違うんだ。 泣かないでくれ。 ……きちんと俺が取り持つから! 」




 アイナの言葉に振り回されているブレド王国第二王子であるエディフォールは、ルナセイラと同じクラスメイト。 ――学年成績のトップ争いをするライバルでもある。


 セイフィオス王太子殿下の弟である彼は、前髪はサイドで分けた紫紺色の短髪、切れ長な垂れ目のルビー色の瞳。 右の唇下の黒子は彼の男らしさと色香を引き立たせている。 背丈はセイフィオス殿下より少し低めだが、魔術・剣術スキル両方ともSランクの有能さだ。 だが、同じ王子であっても能力値も、魔術・剣術スキルも、両方ともSSランクで神童のようなセイフィオスには劣る。


 優秀な兄を追う弟だからこその尊敬と劣等感が、彼を苦しめているの。 その感情を乗り越えるべく、日々勉強も鍛錬も手を抜かず努力する姿勢は彼の一番の長所だろう。 だが、セイフィオスに強い憧れを抱き、正義感が異様に強い彼は過ちに容赦はない。


 エディフォールは聖女候補であるアイナを、「 アイナ=正義 」だと強く信じている。――それがどれだけ歪な正義か気づかずに。




 ――アイナが正義みたいに思っているから地味令嬢な私を敵視したのよ! ……でも、自分が浮気されていると知っても、彼はアイナを正義と思い続けられるのかしら?




 「 リリマジ 」のヒロインであれば、二股など絶対にしなかったはずだ。 しかし、目の前にいるアイナは何故か浮気上等な逆ハーレムを築いている。


 なぜここまで正反対のアイナが誕生してしまったのか理解できない。 純真無垢とは真逆な存在としか言いようがないのだ。




 ――こんなヒロインで、半年後……本当にハッピーエンドを迎えられるの?




 ルナセイラは一抹の不安を覚えた。





 ――コホンっ!


 咳ばらいをして気持ちを切り替えたエディフォールは再び話を再開した。




 「 実はアイナが君とオレイヌ嬢と二人で話をしたいそうなんだ。 これまで長い間話をしてこなかったようだし、抵抗はあるかもしれないが一度時間を取ってもらえないだろうか? ――頼む! 」




 エディフォールは丁寧に言葉を紡ぐと、深々と頭を垂れてルナセイラに乞う。


  ルナセイラだけでなくアイナも周りの者たちも皆エディフォールの立ち振る舞いに瞠目した。


 本当ならルナセイラは断りたかった。 しかし、二人きりにされることは、遅かれ早かれ避けられないだろう。 それに、まさかエディフォールが頭をさげて頼んでくるとは露ほども思わなかった。 ――ここまで下手に出られては断るのは難しい。


 周りの生徒たちは殿下に頭をさげさせたルナセイラへ羨望の眼差しを向けていたが、アイナだけは悲壮感を漂わせぶつぶつと何か呟いていた。




 「 ――承知いたしました。 殿下からのお願いですから、アイナさんと二人きりでお話しさせていただきます! 」




 ルナセイラは心の中で嘆息しながらも、エディフォールの願いに応えることにした。




 ――ただのお話で済めば良いけれど……。




 僅か数分後、早速フラグ回収することになるとはルナセイラは知る由もなかった。




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