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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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4  


 先生を守ると宣言した翌日、ルナセイラはすぐに行動に移した。


 クラスに入ってすぐにクラスメイト達は驚愕の眼差しでこちらを凝視する。


 「――誰?!」


 誰かが声を上げたが、ルナセイラは誰かもわからない人に返事をするつもりはない。華麗に声をスルーして席へ向かう。


 没落寸前であってもルナセイラは貴族令嬢。上品に歩みを進めて自分の席へ腰かけると、周りは更にざわめいた。


 「え?!オレイヌ伯爵令嬢っ?!」


 クラスメイト達が驚くのも無理はないだろう。


 昨日まで「地味令嬢」と呼ばれていたルナセイラは、本来の美しい姿で登校したのだから。


 前髪は両サイドに編み込んでおでこを出した輝く金色のさら艶ロングストレートヘア。血色のよい透き通るような白い肌。ぱっちり二重の紫紺の瞳は星屑が舞うように微かだがキラキラと煌めく。形の良い鼻、ほんのり赤みを帯びた薄い唇。


 昨日までのルナセイラだと誰が信じるだろうか。親友であるマリーエルですらも呆けていたが、しばらくして傍へ寄ってきた。


 「貴女・・・本当にルナセイラなの?」


 「マリーエルおはよう!・・えぇ、私よ!・・今日からは自分を偽らないことにしたの。この姿の私にも慣れてね」


 信じがたい眼差しを向けるマリーエルににっこりと美しい微笑みを向けると、マリーエルの頬がほんのり朱に染まる。


 何故か離れていた席から見守っていたクラスメイトたちまで頬を赤らめた。


 ――私の容姿が変わっただけで態度を変えるのね・・・見る目のない方たちだわ。


 今まで散々冷たい態度をとってきたクラスメイトたちの事など興味はない。


 クラスメイト達の中で絶望の眼差しでアイナがルナセイラの後ろ姿を見つめていたことにも。


 ルナセイラはいつものように授業の準備を始めたのだった。


 ――今日は四限目が魔法授業ね。セイオス先生も教諭補助としてくるはずだわ!


 ルナセイラは自分の本当の姿を見せることが出来る喜びで心の中で舞い踊っていた。


 三限目が終わり、昼食を食べるために食堂へ向かうと、そこでもルナセイラを囲んで見物人が山を成す。


 たった数時間のことなのに、伝わるのが早すぎではないだろうか。私は嘆息した。


 授業が終わる毎の過度な視線、食堂へ向かう途中も食事を受け取って席に着いた後も、生徒たちの向けてくる視線はきりがない。


 ――・・・昼食をとらないなら邪魔だからどこかへいってほしいわね・・・


 食べている間も至る所から見られるルナセイラは、自分が見世物小屋の動物にでもなってしまったような気分だった。


 はぁぁ・・幾度めかわからないため息が漏れる。


 さっさと食べきって図書館にでも行こうと席を立とうとすると、急に頭上が暗くなる。見上げれば緊張して青ざめ、少し苦しげな面持ちのアイナがいた。


 「あ・・・あの・・・ルナセイラさん・・・・ちょっと二人で・・・話さない?」


 ――アイナさん??・・・・突然何なの?


 ルナセイラは入学後にアイナを虐めたと言われてからは自分から声をかけなかった。それはアイナも同じくである。


 二年半たって、今さら話しかけられてもどうしろというのだろうか。


 「ごめんなさい。私たちはただのクラスメイト。二人で話すような関係ではなかったはずですわ」


 礼儀だけは欠かないようにお辞儀をした上で断りを入れる。ルナセイラが立ち上がるとアイナは引き留めようとルナセイラの手首をぎゅうっと物凄い力で掴んだ。


 「・・・っいた――!」


 予想外の痛みに思わず顔を歪め苦し気な声音が零れる。


 「ひどい・・・・私は仲良く・・したいだけなの!・・・なんでそんな・・・冷たいこというの?」


 またしてもアイナは顔を青褪めながら、ルナセイラの手を掴んで涙をぽろぽろ流し始めた。


 ――あぁ・・・またあの時と同じことが始まるの?・・・それにしても・・・馬鹿力なの?・・痛すぎるのよ・・・


 華奢な割にアイナの握力が強すぎるのか・・・・それとも身体強化でもして、敢えて攻撃しているのか。どちらにしても、掴まれた手はぎりぎりと痛くなる一方だ。


 「虐めたとか言われても困るの。・・・・貴女も私とは関わらない方がきっとよいはずよ!」


 手首の痛みを堪えながら、はっきりとした拒否を伝えた。しかし、それだけでまた悪者にされてはたまらない。表情だけは申し訳ない気持ちが伝わるよう眉尻を下げて悲し気な表情を浮かべてみせる。


 すると、周りからは「オレイヌ嬢が遠慮するっていうなら、引き留める必要はないんじゃないのか?」「そこまで話さないとならない程今まで親しくなかったわよね?」「なんだかオレイヌ嬢の方が可哀そうに見えるんだけど?」


 今までのルナセイラに対してであれば、きっと周りの生徒たちは罵声を浴びせていただろう。しかし、今日のルナセイラは外見が全く違う。自分たちを囲む生徒たちから注目を浴び続けている状況なのだ。


 見た目でだけなら今のルナセイラは得をする容姿をしている。更に、先ほどから二人の一挙手一投足を食い入るように周りの生徒たちは見続けている。彼等からすれば、だれか悪いかなどではなく、何故アイナが泣く必要があるのか?という疑問の方が大きいだろう。

 

 ――どちらが悪いかという問題として取り上げられることではないはずよ!


 ずっと泣いているのに、誰からも慰めの言葉をかけてもらえないアイナは焦りを感じたのだろうか。目に涙を溜めたままきょろきょろと誰かを探し始める。


 ――何してるのこの子・・・まさか攻略対象を探しているんじゃ・・・


 ルナセイラの勘は当たっていたらしい。


 訝し気にアイナを眺めていると、アイナは安心した眼差しで駆けだし、その勢いのまま後ろから彼を抱擁した。


 「エディっ!!」


 どんっ!!


 アイナは食堂の入り口で談笑していたエディフォールに突然後ろから抱き着いたのだ。


 それを見た学生たちも、急に許可もなく異性の背中に抱き着いたアイナを見て眉をひそめたり悲鳴を上げている。


 ――こんなところで異性に許可もなく抱きつくだなんて・・・貞操観念はもう残っていないようね・・・


 たとえ初心なルナセイラでも、前世で暮らしていた日本という国が異性との触れ合うマナーにそこまで厳しくなかった為、手を握ったり抱擁する程度なら耐性があったことを思い出し苦笑する程度の反応だ。


 もうすでにふしだらな関係を築いているからなのか、アイナは抱きつくことが非難されることとは全く思っていない様子。


 「うわっ!アイナ??・・・急にどうしたんだ?」


 突然アイナに抱き着かれて動揺したエディフォールだったが、アイナが泣いていたことがわかると途端に表情が真剣なものへと変わった。


 「アイナ?どうしたんだ?何故泣いている?誰かに虐められたのか?」


 ――何故アイナが泣いているだけで誰かが虐めたって事になるのよ!!信じられない事言うわね!


 ルナセイラは言葉にできない恨み節を心の中で一人ごちる。


 聖女候補であるアイナが誰かを虐めたり、迷惑をかけるという考えは攻略対象たち四人にはないのだろう。


 真剣な表情で問うエディフォールに抱きついたまま、きゅっと抱く手にほんの少し力を籠めてアイナは震えながら涙を流した。


 「私が・・・いけないんです・・私のせいで彼女が・・・・ルナセイラさんがまた・・・怒ってしまったんだわ・・・」


 ――・・・・私怒ってませんけど?


「オレイヌ嬢か?!また性懲りもなくお前を虐めたのか!!俺がお前の代わりに罰してやる!!」


 ――性懲りもなくって・・・話したこと一度しかないけど?・・・しかも冤罪だったし・・


「駄目よエディ!!・・・も・・もういいの・・エディ・・私が我慢すれば・・・・でも・・もし貴方が力になってくれるなら・・・・私がルナセイラさんとお話しできる・・・お手伝い・・・お願いできない?」


 カッカと怒るエディフォールを必死で宥めたアイナは、上目使いで涙を溜め瞳を潤ませながらおねだりをした。


 ――あぁ・・・やっぱり助けを求めるのね・・・


 状況を飲み込めたルナセイラはため息をついてから歩きだす。


 「無論だ!オレイヌ嬢と二人で話したいなら、俺が取り持つから泣くな!彼女の下へい―――」


 「来ていただかなくて結構ですわ、ブレド第二王子殿下、私はココにおります」


 ――私と何が何でも二人で話したいなら受けて立ってやるわよ!!


 ルナセイラは自らエディフォールの下へたどり着くとにこりと美しい微笑みを浮かべた。


 「???・・・・貴女は誰だろうか・・・・すまないが、私はオレイヌ嬢と今から話をせねばならないのだ・・」


 ルナセイラと対峙したエディフォールは、目の前に立つ本来の美しいルナセイラを目にして動揺を口にしながらも惚けていた。


 「!!!っエディっ!!彼女がルナセイラさんです!!」


 苛ら立ちを含んだ声音でアイナはエディフォールの腕を掴んで揺する。


 ――ふふ・・・なるほど?もしかして・・・彼女は私を恋のライバルとでも思っているのかしら?


 「君がオレイヌ嬢なのか?!・・・・別人じゃないか・・・・」


 エディフォールは驚愕の眼差しでルナセイラを凝視した。


 「殿下・・・・私が自分磨きをしてはならなかったのでしょうか?」


 困惑するエディフォールへ悲し気な眼差しで問うルナセイラ。


 頬を染めているあたり、エディフォールが即決でルナセイラを悪者扱いをする気はなさそうだ。


 目に見えるものだけで判断するなど愚の骨頂。きっと「地味令嬢」であったなら、即決で冤罪をなすりつけただろうとルナセイラは容易に想像できた。


 ――たとえ王子様であろうとも、見た目だけで判断するような人はお断りね!


 「申し訳ない!!・・・自分磨きは素晴らしいことだ!とても良いことだと思う!」


 「――まぁ、お怒りだったわけではないのですね?・・それなら良かったです・・・殿下に嫌われるのは・・とても悲しいので・・・」


 先ほどまでアイナと話していた時の怒りの炎は消え失せ、エディフォールはルナセイラに謝罪までした。更にはルナセイラの嫌われたくないと好意を示す言葉に、明らかな喜色を滲ませている。


 横にいるアイナの顔は、涙など流れておらず焦りと不安で顔面蒼白。周りの生徒たちは謝罪などしない王族が、あっさりとルナセイラに謝ったことで驚いて目を見開いていた。


 「――・・・それで、私はどうしたら良いのでしょうか?」


 首をこてんと傾げ、敢えて不安そうに瞳を揺らしながら親切にエディフォールが話を戻せるきっかけを作ってあげた。


 「・・・どうする・・とは?」


 すでにアイナからの頼みが頭から抜け落ちたのか、それともルナセイラの激変ぶりに驚きすぎて頭の中からかき消えてしまったのか。


 ルナセイラはどちらでもよかったが、くだらないことで貴重な昼休憩を無駄にしたくはない。


 「・・・アイナさんから何か頼まれたのでは?」


 ルナセイラの言葉に、わかりやすいほどハッと我に返ったエディフォールは、恐る恐る腕に縋りついているアイナへ視線を向けた。


 「・・・・殿下・・・私の事は・・・どうでもよかったのでしょうか・・・」


 先ほどまでは涙がすっかり止まっていたのに、自分に視線が戻った瞬間面白いほど再びアイナの瞳からは涙が流れた。


 ――・・・泣くのが特技なの?・・それとも前世は女優?・・すごい速さでなくじゃない・・・


 様子を伺うルナセイラはアイナの涙を流す速さに敵ながらに感嘆した。


 「い・・いや違うんだ・・・泣かないでくれ!・・・きちんと俺が取り持つから!」


 アイナの言葉に振り回されているブレド王国第二王子であるエディフォールは、ルナセイラと同じクラスで学年成績のトップ争いをするライバルでもある。

 セイフィオス王太子殿下の弟である彼は、襟足長めの紫紺色の短髪、精悍な顔立ちに切れ長なルビー色の瞳、右の唇下の黒子は彼の男らしさと色香を引き立たせていた。


 背丈はセイフィオス殿下より少し低めで、能力値も魔術・剣術スキル両方ともSSな神童レベルなセイフィオスには多少劣るものの、魔術・剣術スキル両方ともSランクの有能さ。


 優秀な兄を追う弟だからこその尊敬と劣等感が彼を苦しめる。その感情を乗り越えるべく日々勉強も鍛錬も手を抜かない努力家でもある。


 だがセイフィオス慕い、正義感の異様に強いエディフォールは過ちには容赦がなかった。


 エディフォールはアイナを守ることが正義だと強く信じているのだろう。


 ――アイナが正義みたいに思っているから地味令嬢な私を敵視したのよ・・・でも自分が浮気されていると知っても彼はアイナを正義と思い続けられるのかしら・・・


 本来のヒロインであるアイナであれば、二股など言語道断だったはずだ。だが、今のアイナは何故が浮気上等な逆ハーレムを築いている。


 ――こんな状況で半年後・・・本当にハッピーエンドを迎えられるの?


 ルナセイラは一抹の不安を覚えた。


 コホンっ!!


 咳ばらいをして気持ちを切り替えたエディフォールは、再び話を再開した。


 「実はアイナが君と二人で話をしたいそうなんだ。これまで長い間話をしてこなかったようだし抵抗はあるかもしれないが、一度時間を取ってもらえないだろうか?頼む!」


 エディフォールはしっかりと頭をさげる。


 二人きりにされることは避けられないだろうから仕方ない。と、ルナセイラは諦めていた。しかし、まさかエディフォールが頭をさげてお願いしてくるなんて流石に思わなかった。


 ルナセイラだけでなくアイナも周りの者たちも瞠目する。


 周りの生徒たちは殿下に頭をさげさせたルナセイラへ羨望の眼差しを向けていたが、アイナだけは悲壮感を漂わせ、ぶつぶつと何か呟いていた。


 「承知いたしました。殿下からのお願いですもの、アイナさんと二人きりでお話しさせていただきますわ!」


 ルナセイラは流石に王族の頼みを拒むことはできなかった。


 ――・・・ただのお話で済めば良いけれど・・・・・




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