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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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 学年次席の私と、聖女候補を助ける攻略対象四名は入学当初から全員特進クラスだった。


 特進クラスの対象は、学年成績十位以内と決まっている。

 しかし、それ以外に魔法・剣術スキルがAランク以上の生徒も対象となった。

 学年成績が中の下だった脳筋アレクシスが特進クラスに入れた理由はまさにコレである。

 王命で聖女候補であるアイナをサポートしなければならない攻略対象四名は、アイナと同じクラスでなければならなかった。

 学年主席で入学したエディフォール殿下のサポートがあれば、学年成績二十位以下のアイナであってもなんとかなると判断したのだろう。

 アイナは学年成績関係なく特進クラスとなった。



 初めて教室に入った時私は前世の記憶はなかったが、聖女候補であるアイナのことは興味津々だった。


 しかし、彼女は私が名乗った瞬間、突然顔面蒼白で泣き出したのだ。

 

 私は何もしていないのに「聖女候補を虐めた非道な地味令嬢」という汚名をきせられてしまった。


 「君は聖女候補であるアイナを虐めて泣かせて何がしたいんだ!最低だな!!」


 彼女のサポートをしていた四名は明らかに私を敵視して、こちらの話など一切聞かずに口々に非難する。


 それ以降、勝手に悪者にされた私は恐怖で彼等と関わるのが怖くなった。


 アイナも私に近寄らないが、いつも目が合うと顔を歪めて嫌そうな表情を隠さない。


 ――私が何をしたっていうのよ!!


 彼女へ抱いた興味は、好意ではなく何を考えているかわからないから気になる程度に変わっていく。


 数日たたずに攻略対象の彼等だけでなく、他の生徒たちまでいつの間にか広がったあらぬ噂を信じて私を非難してきた。


 軽く人間不信になりかけた私は、同じクラスの唯一の幼馴染であり親友の、レイスン伯爵家の長女マリーエルとしか極力話さないよう決めたのだ。



 ***



 数日も過ぎればひとりぼっちな私の生活は当たり前。しかし、入学してから一か月経たずに「ある人」との交流で私の状況は一変する。


 毎日放課後、私は三階の図書室の窓際の長テーブルに腰かけ本を読んだり勉強していた。


 ふと窓の外の中庭を見下ろして目を瞠る。


 人気の少ない中庭のベンチに、アイナとエディフォール殿下が腰かけていたのだ。


 ――密会?!


 イケナイコトを目撃してしまった気持ちになった私は、普段から自分に嫌な態度しか見せないアイナの「秘密」に罪悪感どころか心を高揚せてしまう。


 見てはいけないと思いつつも、だからこそわくわくしてしまった。


 私は放課後、毎日図書室の窓から中庭を見下ろし、二人が「逢瀬」をしているのを眺めるのが日課になっていく。


 二人の態度は明らかによそよそしく、ベンチに腰かけていても互いの距離は人一人分開いている。


 その初々しい雰囲気は、恋を知らない私には乙女心をくすぐる甘い刺激となった。


 何を話しているかまでは聞こえないが、明らかに慕い合っている二人の雰囲気は微かな甘さを含んでいた。





 ***





 一週間近く毎日同じベンチで「逢瀬」を繰り返す二人の親密度は少しずつ変わっていく。


 徐々に二人の距離は近づき、とうとう今日は二人の距離感は無くなりぴったり肩と肩が触れ合っている。


 ――きゃーーーーっ!!ふしだらだわ!!


 ブレド王国の紳士淑女は、相手に触れるのすらタブーに近い。


 触れることを許されるのはダンスに誘われた時や、エスコートを男性が願い出て女性が許可した時だけだ。


 肩と肩を触れ合わせるなどふしだらでしかない。


 しかし頭の中できゃーきゃー盛り上がっていた私はとんでもないものを見てしまった。


 彼らはきゅっと素肌で手を握り合ったのだ。


 ――!!!!




 ダンスにしても、エスコートにしても、基本紳士淑女は手袋をしているので素肌が触れることはない。

 その当たり前のブレド王国では、未婚の男女が「手を繋ぐ」という行為は信じがたい行為だ。


 流石に手を繋ぐのはまずいのではとルナセイラは少しだけ動揺する。


 チッ!!


 二人の手が握られた瞬間、小さいが確かに自分の席の前方から舌打ち音が聞こえてきた。


 音の方へ視線を向けると、窓際の他の長テーブルで本を持って腰かけていたのは、魔法教諭補佐のセイオス先生。


 視線の先を追うと中庭ベンチに座るアイナたちを見ているのだと気づく。


 彼は大きな黒縁眼鏡越しに彼等を睨んでいるようにも見えた。


 ――何故・・・先生は睨んでいるの?




 図書室には私と先生以外は数名本を読んでいる生徒がいるだけ。


 静かな図書室の中で、授業中ニコニコ笑みを絶やさないセイオス先生の意外な姿に目が離せない。


 私の視線に気づいたのか、先生はこちらに視線を向けた。


 私は慌てて何事もなかったかのように持っていた本に視線を移す。


 見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と、イケナイコトをしてしまった自分に言いようのない高揚感を不謹慎にも感じてしまい、胸の鼓動は激しくバクバクと高鳴った。


 それから一週間経ってもセイオスはいつもと同じ窓際に座って飽きずに中庭を眺めている。


 これまでは「アイナの逢瀬の観察」に夢中だったので、私は先生の存在に気付いていなかっただけなのかもしれない。


 アイナたちを眺める先生の表情は突然呆れたような表情をしたかと思えば、苛立ちを隠せない表情をしたり、くっくっと笑いを堪えるときもある。


 学生たちのようにコロコロと変わる表情に、「可愛いな」などとつい思ってしまう。


 ――今日も先生来るのかな・・・


 気づけば「アイナの逢瀬の観察」の合間にセイオスを見つめるのも毎日の日課になっていた。




 

 ***





 四限の授業が終わりルナセイラは図書館に向かう。


 窓際のいつもの席に腰かけて、私は本を読む姿勢を維持したまま中庭を見下ろした。


 カタンっ・・


 目の前から椅子を引く音。


 ――誰?


 気が緩んでいたルナセイラは中庭から視線を自分の席の前に向け驚愕する。


 ――!!!!!


 さも当然とばかりに目の前の席に腰かけ、私を見てにっこり笑みを浮かべたセイオスの姿があった。


 突然のでき事にカチンコチンに固まったルナセイラを見つめながら彼は話し始める。


 「やあ、ルナセイラ嬢ものぞき見してるのかい?」


 ――バレてる!!?


 ルナセイラがアイナを観察していたセイオスのことに気付いていたように、セイオスもまたアイナを観察するルナセイラに気付いていた。


 「わ・・・私はのぞき見などしていません!!気分転換に外を眺めていただけですわ!

 たまたま外にいた人間観察をしていただけです!!」


 「人間観察?・・・ははっ・・覗きと同じじゃないかい?」


 「違います!!覗き見ではまるでイケナイコトをしているみたいではありませんか!!」


 面白そうに言葉を返すセイオスに、ルナセイラはムキになって大声で言い返してしまう。


 しー・・・


 セイオスは人差し指を自分の唇にあてて静かにするようジェスチャーを送った。


 指に視線が向いてしまい、セイオスの薄い唇が目に入る。


 唇から覗く犬歯がチラリと見えて妙に色っぽい。


 動揺した私の頬はほんの少し熱を持ったように熱くなる。


 「ごめんごめん!ちょっと揶揄いすぎてしまったね。

 私たちはもしかして同じ趣味を持っているお仲間なんじゃないかと思ったら嬉しくて、声をかけずにいられなかったんだよ!」


 両手を顔の前で合わせてかわいく首を傾げ、お茶目な素振りをしつつ謝罪した。


 「同じ趣味・・・とは?」


 「え?――・・・の・ぞ・き・み!」


 「!!!!~~~~っ違いますっ!」


 ――覗き見が趣味って何よ!!しかも仲間だなんてっ!!失礼な人!!


 再び大きい声で言い返してしまい、図書室の生徒たちの視線がルナセイラに一斉に突き刺さる。


 またもややらかしてしまったことに気付き、しゅんっと肩をすくめた。


 「別によくない?・・観察だって、覗き見だって、バレなきゃ同じだから!」


 「・・・・・」


 ルナセイラは同意できず唇を引き結ぶ。


 「それじゃ覗き見仲間じゃなくても良いよ!

 ルナセイラ嬢は毎日図書室に来ていること知ってたから、ずっと話しかけたかったんだ!

 良ければこれからはこの席で一緒に過ごさない?私も毎日放課後覗き見に来るから、気が向いた時にでも話し相手になってよ」


 とても先生らしからぬ口調ではあったし、覗き見仲間扱いされるのは不服だった。


 しかし、セイオスの事が気になっていたのはルナセイラも同じ。


 「たまにで良ければ・・お付き合いしますわ!」


 「ありがとう!これからよろしく!」




 こうして私とセイオス先生の「人間観察のついでに話をする。」という「仲間」としての毎日が入学してから一カ月もせずに始まったのである。 


 セイオスは魔法授業の際、他の外せない用がある時以外は常に魔法教諭と共に補佐として授業へやってきた。


 わからないところや、上手くできない事も、軽い口調でフレンドリーに何とかしてくれる姿は友人のように心強く頼もしい。


 普段から自分に無頓着なのか、ぼさぼさな癖っ毛が跳ねる髪と大きな黒縁眼鏡のせいで、生徒からの印象は三割増しで悪い。


 外見のせいでセイオスはいつも一人。


 授業では私は積極的に彼に質問し、放課後は他愛もない話やアイナの観察を話のネタにする。


 そんなセイオス先生との毎日は、孤独が当たり前になりつつあった私の癒しにもなっていた。


 お互い他人と関わりたくないからか、二人はいつも気兼ねなく話せる環境にいたのだ。


 しかし、アイナだけは違う。攻略対象四人の隙を見計らい、セイオスの側へ寄ろうとしているのを見かけたことが幾度もある。


 しかし、セイオスは何故か微笑みながら明らかな潮対応でアイナとの話を終わらせていた。


 セイオス先生のアイナを華麗に笑顔で躱す場面を見る度に、ほんの少しだけ私は気分が軽くなる。


 ――今まではたまにあるセイオス先生とアイナさんの絡みを何気なく眺めるだけだったわ。・・・だけどこれからは違う!!


 前世を思い出した今、セイオス先生は憧れの魔法剣士様だったし、アイナさんが不健全な関係をセイオス先生に求めているかもしれないことに気付いてしまった。


 乙女ゲームの世界なら、たかがモブの私が勝手なことをしない方が良いのかもしれない。でも、


 健全なお付き合いをしなければいけないハズのヒロイン自身が、ストーリーにそぐわないことをしている。


 ――ヒロインが好き勝手するなら、モブの私だってセイオス先生を守るために好き勝手してやるわ!!


 「先生!・・・私新たに目標が出来ましたの!」


 「目標??・・・突然どうしたんだい?」


 「卒業までの残り半年の間、私が先生をアイナさんからお守りしますわ!!」


 「・・・・はぁ?!」


 ルナセイラの宣言に、セイオスは素っ頓狂な声を上げた。

 


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