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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
一章 転生垢抜けモブ令嬢な私と憧れの魔法騎士様とふしだらなヒロイン
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 私は「リリマジ」の世界に転生する前、前世は恐らく日本という国に住んでいた平凡なオタクだった。


 三度の飯よりゲーム!恋愛よりパルクールか素振り!という毎日が私のルーティーンだった。


 自分の事で覚えているのはその程度。きっと自分のことはあまり関心がなかったのだろう。


 四十歳以上まで生きた記憶はあるが、仕事はしつつも家に居る時はゲームをするかパルクールで一人遊びするかで、ずっと実家暮らしをしていた記憶しかない。


 ――どうやって死んだかも覚えてないわ・・・


 「リリマジ」に憧れて、「魔法剣を使いたい!」とか、「魔法使いに私はなる!」とか、とんでもない呆れた夢をいい歳した社会人になっても心の中で思い続けていた私は、間違いなく「リリマジ」オタクだ。


 特に異性として好みなキャラがいたわけではなかったが、稀有な魔法剣を創造することができた魔法剣士キャラは好きだった。そのキャラの影響で、毎日木刀で一人素振りをしていたことも覚えている。


 全年齢版「リリマジ」のヒロインのアイカは純粋な乙女で、守ってあげたくなるような庇護欲をそそられるような可愛い少女だ。


 この世界では少し低めの身長、髪はツインテールで結われ、ふわふわ揺れる緩やかなウェーブは燃えるような真紅の色であっても柔らかい印象を与えた。


 性格は穏やかでやさしい。一生懸命なのに、泣き虫なのが玉にキズな前世ならごくごく普通な性格の少女なのだが、この世界の淑女然な貴族令嬢にとっては異質でしかない。


 弱弱しい少女は王立魔法アカデミーではやっていけない。しかし、そんな彼女をサポートしてくれたのが聖女候補のお助け役である攻略対象たちだ。


 「リリマジ」は、女神リリベラによって守られた魔力の溢れる世界である。


 人々は日常的に魔法を使い、魔法スキルが優れた者は王立魔法アカデミーへ入学することができる。研鑽を摘んで国王に認められれば、マジックナイトとなり王国騎士団へ入団や、王宮の文官などの要職に就くことが出来るようになるのだ。


 一つだけ「リリマジ」の世界で危機的問題があるとすると、魔力が溢れる世界だからこそ「魔力溜まり」が発生する。と、いうことだった。


 「魔力溜まり」とは、その名の通り魔力が集まって凝縮された場所のことだ。そこに近づいた生き物が魔獣化して無差別に襲ってしまう。その「魔力溜まり」を浄化できる乙女が聖女なのだ。


 聖女はいきなりなれるものではなく、聖魔法を扱える者がスキルを磨くことで浄化が出来る聖女になる。もしくは、特殊な癒しの力を保有する者が聖女となることがある。


 文献にはこう記されている。


 「魔力溜まりが現れる時、聖女もこの世界に姿を現すだろう」と。


 よって、ヒロインであるアイナは稀有な聖魔法に目覚めた十四歳の時に王宮に保護され、平民でありながら聖女候補として王族・貴族に守られることになった。浄化能力を向上させるために王立魔法アカデミーで研鑽を積み、いずれ魔力溜まりを浄化する任務を与えられる予定なのだ。


 魔法の研鑽を積む中で、様々なハプニングを乗り越えながらプラトニックな愛を育み、魔獣溜まりを浄化したアイナは、戦勝会の夜会で一番親密度の高くなった攻略対象から求婚されるのがハッピーエンディングである!!


 サポートしてくれるヒロインのお助け役でもあり攻略対象者は五名


 ・ブレド王国第二王子エディフォール

 ・現宰相であるエイモンド侯爵の嫡男ラジェス

 ・マジックナイト最有力候補であるバンデントイル伯爵の嫡男アレクシス

 ・妖精と人との間に奇跡的に生まれたマジェスティ伯爵家嫡男サーシェン

 

 そして、エディフォールとは別でヒロインを支え、状況を国王へ報告するブレド王国第一王子であり、王太子であり、稀有な魔法剣を扱う事が出来るマジカルナイト!セイフィオスの五名が攻略対象なのである。


 セイフィオスは対外的には無暗に出歩ける身分ではない為、皇后の分家の一つ「メルフォード」を名乗り、セイオス・メルフォードとしてヒロイン入学当初から王立魔法アカデミーの臨時魔法教諭補佐として赴任している。


 ――そう!まさにセイオス先生もアイナの攻略対象であり、私の憧れの魔法剣士様なのよ!!


 「リリマジ」の世界に転生した私、没落寸前のオレイヌ伯爵の一人娘ルナセイラは、持参金すら用意できない貧乏貴族であった。


 輝くような母親譲りのロングストレートの金髪、両親どちらにも似ることのなかったぱっちり二重な紫紺の瞳、透き通るような色白込め細やかな肌、身体の凹凸は少ないが、スレンダーな見た目のわりに程よく筋肉のついたバランスの良い身体。


 控えめに言っても没落寸前の貴族というレッテルさえなければ、いずれ将来社交界一の美女と謳われていただろうと思える程の容姿だ。


 両親は、貧乏ながらも一人娘にはしっかりと教育を身に付けさせてあげたい。と、王立魔法アカデミー入学の為のお金をかき集めてくれた。


 優しい両親に恩を返す為、アカデミーを卒業後は王宮文官になるべくとにかく必死で何でも学んだ。


 容姿のせいで昔からいらぬ注目を浴びていたので、身を護るために薬師である知人に貰った「くすみ薬」を使った。


 登校前にくすみ薬を薄めたスプレーを髪の毛に吹きかけて馴染ませ、目の下まで伸ばした前髪とロングストレートの髪は梳かさず、唇にもほんの少しの「くすみ薬」を混ぜた薄紅をうっすらと塗った。


 艶を失ったくすんだ金髪に、目元が良く見えず血色の悪そうな唇の陰気な「地味令嬢」の出来上がりである。


 ――どこから見てもモブ要素しかないわね・・・・


 魔法スキルは下から二番目のぎりぎりCランクではあるが、粉骨砕身!とにかくルナセイラは努力を惜しまなかった。


 勉強は学年三位以内を維持し、運動スキルは前世ハマったパルクールの影響か運動神経は良くSランク!


 剣術の授業で基礎を修得すると、ひたすら鍛錬に打ち込んだ。おかげで剣術スキルも最終学年の今年Sランクを突破している!アカデミーで剣術スキルS は片手で数える程度。


 マジカルナイトになることも夢ではないかもしれない!と、一瞬期待してしまったが、魔法スキルがCランクしかなかったことを思い出し項垂れた。


 国王陛下からマジカルナイトに選ばれるのは、魔法スキル剣術スキル共にAランク以上が必須だからだ。

 

 ――マジカルナイトは無理だけど、容姿端麗な姿のままなら間違いなく私はモテていたわね!

 しかぁしっ!!私は「地味令嬢」!!たとえ文武両道でもモテたい訳じゃないし、誰からも注目など浴びないわ!


 ふふふ・・・


 ルナセイラは状況を整理しながらも、思い描いた完璧すぎるアカデミーを送ることができた生活を思い出し、つい口元を緩めてしまう


 「ルナセイラ嬢?どうかした?」


 ――おっと!!セイオス先生とのお話し中だったのを忘れていたわ!!


 「いいえ、先生ったらご自分の事を過剰に謙遜なさるものだから、先生の格好良さを知っているのが私だけなのかしらと嬉しく思ってしまったのですわ」


 ふふっとルナセイラは笑って胡麻化した。


 今目の前に座っているセイオス先生は、まさに前世から私が憧れていた魔法剣士様。知らなかったとはいえ、二年半も放課後を共に過ごしていたのかと思うと感無量である。


 貴重な王立魔法アカデミーでの学生生活も残り半年ほど。少し寂しくもあるが、残りもセイオスと「覗き見仲間」でいられるのだとしたら幸せでしかない。


 ――!!!


 ルナセイラは、ハッととんでもない事態に気付いてしまった。


 今も中庭でいちゃこらしているアイナは、全年齢版「リリマジ」のヒロインであるにも拘わらず、なんと攻略対象五人中セイオス以外の全員とすでにふしだらな関係を築いていたことを。


 ――これって・・・これってもしかしてセイオス先生ピンチなのでは?!




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