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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
三章 認められる聖女と認めない聖女
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 「なんで!なんでなのよ!!」


 激昂したアイナは全力疾走しながら少しでも階段から遠くへと向かい喚いていた。


 可憐で可愛らしい表情は見る影もない。


 「アレクたちが失敗ばかりで頼りないから、自分でアイツを階段から突き落とそうとしたのに・・・なんでエディが助けるのよ!!」


 先日学園長室に呼ばれて、アイナはとんでもない事実を告げられた。


 攻略対象であり本命だったセイオス先生は、実は入学当初からアイナを二十四時間ずっと監視していたらしい・・・しかも魔力を視る力で、アイナの悪事を全て知っていた。


 聞かされた瞬間絶望を感じたというのに、挙げ句の果てには「生きるか死ぬか」のような選択を迫られたのだ。


 聖女として必死に努力しなければ、牢屋に入れられる。


 憔悴しきったアイナを慰めてくれたのはアレクことアレクシス・バンデントイルだけだった。


 彼はバンデントイル伯爵家嫡男で、エディフォールの乳兄弟。百九十近い体躯はがっしりしていて男らしい。


 騎士らしい短髪はくすんではいても陽に当たると綺麗な金髪にも見える。アンバーの瞳も髪色に似合っていてつい見惚れてしまう。顔の輪郭もシュッとしていて精悍さが麗しい。


 入学した時から既に魔法・剣術スキルはSに到達していて、苦手な学問で学年成績は三百人弱中百二十番台でも、特進クラスに入ることができた奇跡の生まれながらのマジカルナイトなのだ。

 

 頭は良くなくても、騎士道精神は凄くて、守るべきアイナをいつもお姫様のように大切に護ってくれる。


 そんなアレクが、私のことを妹に相談してくれていたらしい。


 『助けになりたい!!』と、アレクの妹は願い出てくれたそうだ。


 すぐに会えるようにランチをセッティングしてもらって、カフェテリアではないもうひとつの高位貴族がよく利用するレストランへアイナは案内された。


 レストランでアレクに紹介してもらった妹のレイディアさんは「是非任せてほしい!」と率先して協力の意思を示してくれた。


 確かにこの一週間以上、令嬢たちを使って嫌がらせは続いていた。


 手を貸した令嬢たちは以前からアイナのことを敬愛していたようで、最近サポート役たちにまでチヤホヤされているルナセイラが身の程を弁えていない!と、煮え切らない想いを抱えていたらしい。


 「任せてください!」と言うから任せてあげたのに、その虐めはとっても可愛らしいものばかりだった。


 彼女たちはやりきった感を感じているようだが、内容が甘すぎる。


 ーー貴族って毒を盛ったり、人を雇って拉致したりするくらいはお手のものなんじゃないの??


 アイナは前世で確かに「リリマジ」の熱狂的なプレイヤーではあったが、他にも異世界風の乙女ゲームはプレイしていた。


 内容は、どれも悪役令嬢が存在し、必ず毒を盛ったり、物を切り裂いたり、拉致して娼館へ送ったりとやりたい放題だったのだ。


 過激な内容だったからこそ断罪も激しくて、どれも処刑とか、陵辱エンド。


 それらに対して「リリマジ」は本当に平和な乙女ゲームだったと言える。


 エディフォールに婚約者候補は数名いるものの、どの令嬢もそこまで熱心にアイナを恨む気配はなく、


 悪役令嬢自体存在しない。


 あくまでみんなで協力して世界を平和に導きながら恋を育てよう!という生優しい乙女ゲームなのだ。


 実際恋が叶っても、最後の戦勝会の夜会で告白されて唇にキスされるのが最高の絡みだった。


 ーーだからこその全年齢版だったのはわかるけど・・・・


 実際相手を貶める手口を知っているアイナからしてみれば、とっととルナセイラを殺してしまいたいところなのだ。


 しかし、ルナセイラにはセイオスが付いている。魔力を使えばすぐにアイナの仕業だとバレる


 ここ一週間は放課後ナイトのように、毎日セイオス先生がルナセイラと一緒に歩いている姿を目にする。


 ーーもしかしたら・・・もうルナセイラの治癒の力に気づいちゃった?


 アイナの心臓が痛いほど激しく鼓動する。


 実際のところ、ルナセイラの力は異常なほどのチートスキルだ。


 何を学ばずとも、触れるだけで治癒できてしまうのだから。


 ーー攻略対象の中で一番親密度の高い相手とキス以上のことをすれば、その攻略対象も自分のスキルが強化される特別特典付きなんて・・・・ぜっったいに教えない!!


 そう、なぜルナセイラが年齢制限版のヒロインだったのか。それがこの理由なのだ。


 攻略対象たちは、ルナセイラに気に入られたいだけではないのだ。


 自分の能力の底上げも狙い、王国の平和の為という名目の元、美人をだきたい放題なのだ。


 ルナセイラが気づかなくても、きっと周りが勝手に能力に気づいてしまう・・・


 ーー・・・ルナセイラの浄化の仕方だって知っているけれど・・・そんなこと教えたら・・・・私はもうおしまいだわっ!!・・・お払い箱よ!


 焦ったアイナは放課後いつものように図書室へ向かうルナセイラを待機し、階段を上ってくる彼女の足元に魔法で小さな氷の欠片を放ったのだ。


 ――このくらいなら練習していたとか不意に魔法を使ってしまったで胡麻化せるハズ!それでも階段で足を踏み外せば・・・・ふふふ・・・


 予想通りルナセイラは氷の欠片で滑って綺麗に宙を舞い後ろへと飛んだ。


 ――やった!!これで死ぬ!!


 「――危ない!!」


 ――エディ?!なんでここに?!


 期待していた着地はエディフォールのおかげで見事に失敗し、密着する二人を見せつけられる結果になってしまった。


 ――な・・なんで!!・・・なんでなのよ!!


 これ以上階段にいるわけにはいかなかった。アイナは慌てて苦虫を噛み潰したように顔を歪ませながら、全力疾走して逃げたのだ。



 ***



 王城の自室に戻ってからもずっとアイナは頭を悩ませていた。


 『自分が殺そうとしたことがバレないか?』『どうしたらルナセイラを殺せるのか?』


 ――何としてでも殺さなきゃならない!・・・・そうしなければ自分がいずれ処刑されるに違いないわ!!


 アイナはかなり追い詰められていた。だから扉をノックする音にも気づかなかったし、エディフォールが部屋の中にいた事にも気づかなかった。

 

 「ーー・・・どうしたら・・・・殺せるのかしらーー」


 「ーーアイナ?」


 ーーエディ!!・・・・っ聞かれた?!


 直ぐに声の主がエディフォールだとアイナは気づき、ばっ!と勢いよく振り返る。


 王城の一室に住んでいるのだから、ここへ来るのはエディフォールしかいない。


 『殺す』というワードを聞かれなかったかハラハラするが、エディフォールは特に気にした素振りもなく、「少し話せる?」と言い微笑みかけてきた。

 

 「勿論!・・・どうぞ!座って?」


 嬉しそうに見えるように微笑みながらエディの手を握ってソファへ誘った。


 「ありがとう。実はアイナに王命として伝えないとならないことがあるから来たんだ」


 ーー!!!!


 アイナは『王命』と言う言葉でセイフィオスを思い出し、心臓が握り潰されるかのように苦しくなった。


 「ーー・・・アイナ?大丈夫か?」


 エディフォールは、普段と変わらずアイナを気遣う。


 「大丈夫よ。王命だなんて久しぶりだから緊張しただけ!」


 ーー私はちょっと魔法の練習をしていたら氷の欠片がルナセイラの足元に飛んでしまっただけよ!殺そうとしたなんて思われないはずよ!!


 足の震えを抑え込むように、膝の上に乗せた両手をぎゅうっと握り締め、アイナは爪を肌に食い込ませた。


 「実は、入学当初から医療院を廻って治癒の特訓をするように言われていたのだけど、アイナは学園になれるのも大変だったし行けていなかっただろう?

 流石に卒業までには聖魔法のランクをもっと上げるべきだと陛下が命じられたんだ。」


 「ーー・・・治癒?」


 捕まるのかと思っていたアイナは、想定外の王命に安心して思わず気の抜けた声を漏らした。


 「どうしたの?アイナ・・・まさか行きたくないの?」


 「そんなことないわ!・・・確かに今まで聖魔法のスキルを上げる努力が私も足りなかったと思っていたの。

 是非医療院を廻って特訓したいわ!」


 アイナはやる気が十分に伝わるように、両手を胸の前に掲げてきゅっと握り締めてやる気なアピールを演出してみせた。


 ーーふふっ!!ここまですればエディは私を甘やかすだけ甘やかしたいと思ってくれるわよね!!


 ここ最近は心中穏やかではなかったので、アレクとばかり一緒にいてエディフォールとは放課後ほとんど会っていなかった。


 きっとこれでまた以前のようにイチャイチャできるとアイナは期待した。


 「そうかい?それならよかった!俺や他のサポート役たちも可能な限り付き添うから一緒に頑張ろう!」


 明るい声音で賛同したエディフォールは、「それじゃ明日からよろしくな!」と告げるとあっさり退室してしまった。


 「ーー・・・・は?」


 あまりにもスムーズな一連の流れに、アイナは隙をつく暇すらなかった。


 ーーいつものこの話の流れなら、二人抱き合ってキスしてベッドインでしょ?!


 「〜〜〜〜っ一体なんなのよぉぉ!!」


 ぷんぷんと怒ったアイナはソファで地団駄を踏んだ。





 「ーー・・・・殺す・・・だと?・・・まさか本当に?・・・」


 怯えるような低い声音は明らかに震えていた。


 扉を閉めたドアの前、顔を青褪めたエディフォールは、誰もいない廊下で一人呆然と立ち尽くした。



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