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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 エディフォールとのランチはすぐに調えられた。


 先日声をかけてもらってから二日後に再び誘われるとは思わず、ルナセイラは笑顔を浮かべたくても頬が引きつってしまいそうだった。


 セイオスと約束した次の日にすぐにマリーエルにランチのお願いをしておいて正解だったようだ。



 三限目が終わり、昼食をとろうと教材を片付けているとエディフォールがニコニコ微笑みながらルナセイラの机の側へ寄ってきた。


 ――エディフォール殿下・・・嫌な予感しかしないわね・・・・


 「ルナセイラ嬢、今からランチを一緒にしよう。すぐいけるよね?」


 ――今からランチに行かないか?・・・じゃなくて行く確定なの??・・・・


 ルナセイラは何とか顔には出さないように驚愕した。


 セイオスに、圧の籠った微笑みを向けられたことを思い出し、ルナセイラの背筋はひやりと凍る思いがした。


 「そ・・・・そうですね・・・あの・・実は――」


 「ルナ~~っ!今日は私と一緒にお昼食べに行きましょ!約束していたわよね!

 ・・・あら?殿下もいらっしゃいましたの?よろしければご一緒にいかがです?」


 ルナセイラがマリーエルの事をお願いしようとしたところで、その彼女が自らルナセイラの代わりにエディフォールとの話に割って入ってくれた。


 ――マリーエルすごい!!・・・殿下とのランチを私たちの約束のついでにしてくれたわ!!


 ふふっとしてやったりな表情で、こそっとこちらへサムズアップしてくるマリーエルは私の唯一の親友だ。


 レイスン伯爵家のマリーエルとは、領地が隣り合っていたこともあり幼い頃から交流があった。


 背丈はルナセイラより少し高く、ハーフアップに纏めた亜麻色のロングストレートヘアにくっきり二重なヘーゼルの瞳、日に焼ける事を気にしないそばかす肌は健康的な肌色で快活な印象。


 野山を馬で駆けながら狩りをするのが大好きで、弓術スキルは非常に高くSランク。剣術が好きで、昔から周りに「貴族令嬢らしくない」と冷ややかな目で見られていたルナセイラにも、好意的に接してくれた貴重な友人なのだ。


 ランチのお願いをした時も、ルナセイラが何故姿を偽っていたのか理由を伝えると、ぎゅうっと抱きしめ「1人でよく頑張ったね」と微笑んでくれた。


 容姿を隠していたことは知っていたが、まさか人攫いにあったりすることを防ぐためが目的とは思っていなかったようだ。しかし、今になって自分の本来の姿を晒してでもしたいことができた事を伝え、その弊害になるのがエディフォールや他攻略対象の三人の令息たちなのだと告げた。


 ――流石に私が前世もちの事も、ココが乙女ゲームの世界だっていう事も言えないけれど・・・


 マリーエルは鼻息を荒くして、ランチどころか「学園に通う間はなるべく一緒にいるわ!!」と意気揚々と宣言してくれた。


 たとえ学園の中であっても、たとえクラスメイトとしての交友であっても、男子生徒と二人きりはいただけない。


 特に恋愛に繋がるような事に対してはルナセイラは敏感だ。それに、放課後ルナセイラは無事では済まないと確信する。


 ――二人きりで男子生徒と一緒にいたなんて知られたら、セイオス先生に「嘘つき」呼ばわりされかねないし・・・・最悪「もう守るなどとできない事言わないで!」と一蹴されてしまうわ・・・絶対いやっ!!


 「マリーエルそれは良い考えね!折角殿下もお誘い下さったのだもの!ご一緒いただきたいわ!よろしいですよね?」 


 満面の笑みでエディフォールを見つめると、彼は微妙な表情をして固まったがすぐに微笑み頷いた。

 

 「・・・そうだね、私もそれで構わない。では食堂へ行こうか」


 ――良かった!!二人きりのランチは回避できたわ!!


 マリーエルと私は微笑み「やったね!」と視線を送り合った。



 ***



 カフェテリア方式の食堂では、すでに学生たちが並んでわいわいと会話を弾ませながらトレーに乗せたプレートへ料理をよそっていた。


 ルナセイラもさくっと料理をよそっていく。


 ――本当、自分の好みの量に調整できるのは助かるわ!


 ルナセイラは卒業後文官になる為にも、授業はどんな科目であっても手を抜くことはない。


 ずっと気を張っている為には、食事の管理も大切な事。食べ過ぎて集中力が欠けたり眠くなってしまわないように食事は軽めにしている。


 プレートには五品の料理がプレートにおおよそ二口分くらいずつ盛っている。「少なすぎじゃない?」と、マリーエルに心配されたがこれくらいがちょうどよい。


 満足気にトレーを持って空いている席を探すと、すでにエディフォールが席に座ってこちらに手を振って待っていた。


 ――はやいっ!!いつのまに?!手をふらないでぇえ!


 三人一緒に来たのに、いつの間にかエディフォールは席を確保して優雅に座って待っている。そして案の定私たちの一挙手一投足を見逃すまいと、周りには軽く人だかりができていた。


 ――みんな興味津々みたいね・・・ただのランチなのに・・・


 三人を囲むように周りは少しずつ席が空いた状態だが、しっかりと視線に移り込む近さに生徒たちが円を描くように席に座りながらこちらを見つめていたり、立ち見している生徒も多い。


 「わ~っ!っ殿下早かったですね!席取りまでありがとうございますっ!!」


 わざとらしい笑顔でお礼を言うとささっとエディフォールの向かいの席に座り、「ここいらっしゃいよ!」と、マリーエルは自分の隣をルナセイラに勧めた。


 ぴくりとエディフォールのこめかみが密かに動く。


 ――ま・・・まさか殿下は横の席を私に勧めようとしてる??


 明らかにルナセイラを自分の隣に座らせたいらしいエディフォールは、未練がましそうに隣の席をちらりと見やる。


 ルナセイラは気づかないふりをして即座にマリーエルに同調して隣へ腰かけた。


 「殿下、早速お誘い下さってありがとうございます!」


 不満を言われる前に、胡麻化すようにお礼を告げるとエディフォールはにこりと甘い微笑みを向けてくる。


 ――うわ~~~・・・・その顔やめてーーっ!周りに誤解されるから!!


 たかがランチで普通のクラスメイトに対して、恋人に向けるような笑顔を浮かべるものではない。


 ちらっと視線を横に座るマリーエルに向けると、彼女は顔を引きつらせながら微笑んでいた。


 「早く一緒に過ごしたかったからね!ルナセイラ嬢はそれだけしか食べなくて良いのか?」


 「えぇ、私はランチはお腹いっぱい食べると眠くなってしまうので、昼は少なめにして夜多めに食べているんです。でも今日は好きなベーコンが入っていたのでつい多めにとってしまいました」


 五口分くらいはあるであろう料理を指さすとマリーエルは唖然とした。


 「え?ルナそれで多いの?!」


 吃驚した面持ちのマリーエルは、プレートにどの料理も少し多めによそっている。


 ――マリーエルと比べたらどの令嬢のプレートも少なめに見えるでしょうね・・・


 マリーエルはよく食べるが太らないのが素晴らしい。


 ルナセイラは食べるのを我慢しているわけではない。しかし、美味しそうに沢山食べる彼女の姿はとても魅力的に感じた。――・・とはいっても一緒に食事をするのはこれまで滅多になかったのだが。


 「私はマリーエルが気持ちよく食事を食べている姿を見つめているだけで気持ちが満たされるのよ!」


 「・・・・それって貶してる?」


 ジト目で見てくるマリーエルへ「そんな訳ないわ!」と、微笑んで返した。


 「・・・・そういえば午後は魔法学の実技だね。攻撃と防御の二人ペアでの実技は久々だから楽しみなんじゃないかい?」


 まるでルナセイラが楽しみにしているように思っているようだがそんなわけがない。


 「・・・私は苦手なので失敗しないか不安です・・・・殿下は魔法スキルも優秀でいらっしゃいますもの・・・羨ましいですわ!・・・・」


 苦笑して気まずげに視線をそらすと、エディフォールはキョトンとしてから目を瞬かせた。


 「そうなのか?・・・・君は学年成績が優秀だから、てっきり魔法スキルも当然ランクが高いのかと思っていたよ」


 ――私の事興味あるって態度をとる癖に・・・私の魔法スキルの低さに気付かないなんて笑えるわね・・・・


 「お恥ずかしい話ですが、私は入学当初からずっと魔法スキルはCランクで全然上達しておりません。皆さんご存じだと思っておりましたわ・・・・」


 俯きがちに告げると、すぐにルナセイラの左手をぎゅっと握りながらマリーエルは話に入った。


 「大丈夫よ!!ルナは学年成績も、体力も、剣術スキルも優秀じゃない!!剣術スキルが令嬢どころか全生徒の中でもSランクは両手で数えるほどなんだから!

 魔法スキルが上がらなくても、いつも努力していることを私は知っているわ!気にしちゃだめよ?」


 「マリーエル・・・・ありがとう!!貴女はいつも私を見ていてくれるものね!嬉しいわ!!・・・そうよね・・・私に出来るのは最善を尽くすことだわ!」


 「そ・・・そうさ!・・・努力をすることこそが素晴らしいからね!」


 慌てるようにエディフォールは同調したが、もうルナセイラの事を今まで気にしていなかったことはしっかりバレバレである。


 「あ・・・ありがとうございます・・」


 明らかに苦笑しながら取って付けたような礼を返すルナセイラに、エディフォールは気まずそうに少しだけ顔を歪ませた。


 ルナセイラもヒロインだとアイラの言葉でわかったものの、今一つ自分がヒロインだと確信が持てない理由はまさに魔法スキルの低さが原因だ。


 ルナセイラは生まれてからずっと魔法すらまともに扱えない落ちこぼれなのだ。魔法スキルは万年C!・・・しかもぎりぎりなので、気を抜けばあっという間にDランクへ落ちてしまうだろう。


 ――魔法もまともに扱えない・・・聖魔法だって覚醒してない・・・そんな私がどうしてヒロインなのよ・・・


 その理由を知りたかったが、あれ以来アイナはとことんわかりやすいほどにルナセイラを避けている。だから攻略対象たちがルナセイラのそばに来ても、彼女は何も言ってこない。


 ――アイナさんならきっと私がどんなヒロインなのか知っているはずなのに・・・


 ルナセイラから攻略対象を奪われせないと宣言しているのだから避けられるのは当然だと理解はできるが、可能なら話を聞きたかった。


 「・・・パートナーって誰と組むのかしら?自由に決められるってことはないわよね?」


 マリーエルは話をしばらくして少しだけ話題を逸らした。


 「そういえばまだ開示されてないわね!授業の開始後に開示されるのかしら?」


 「実技授業も残りわずかだから先生方も何か考えがあるのかな?」


 エディフォールもどうやら知らないらしい。


 「どうでしょう?私はどなたがお相手でも、迷惑かけないように気を付けないとですわ!」


 エディフォールは二年半の間セイオスが自分の兄だと気づいていないらしく、先生方がどういう考えなのかも全く知らないようだ。


 乙女ゲームのストーリー通りなら、入学して三カ月せずにエディフォールとアイナが交流を深めていけば自然とセイオスも仲良くなるきっかけが生まれるはずだった。それなのに、二年半の間セイオスはアイナだけでなくエディフォールとすら仲良くしている様子がない。


 ――そういえば・・・なぜセイオス先生は殿下に正体を明かさないのかしら?


 

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