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令嬢、アリアナ・ロッソの婚約

 私を助けてくださったのが、帝国の第二皇子殿下だったのは、非常に驚いた。


 何故、あんなところに皇族が一人でいたのか。


 驚きはそれだけではなく、男爵家を訪ねてきてくださったと思えば、思いもよらぬ縁談を持ちかけられていた。


 一目惚れしたと、わざわざそんなお世辞まで用意してくれて。


 急な話だからまだ考える時間はあるのだけど……


「最終的な決定はおじ様に委ねることになりますが、私としては国の発展の礎となれるのなら、本望です。この結婚をお受けする所存です」


 帝国とは今まで婚姻関係を結んだ者はいない。


 国王であるおじ様は反対するかもしれないけど、この国の発展の為なら、悪い話ではないし、大帝国からの縁談の話を、簡単に断れるものでもないはずだ。


 でも、提示された条件は、とてもいいものばかりだった。


 まるで私に最大限の配慮をしてくれたかのように。


 別れてからまだ数日しか経っていないのに、大急ぎでこれだけのものを用意してくれたのかと思うと、その行動力に感心する。


 そして何よりも、この国に留まれることが私には嬉しい事だった。


 家族と離れなくていい。


 この国でまだまだ物づくりに携われる。


 だから自分の生まれ持った役割を受け入れるつもりで返事をすれば、焦った様子だったのは、皇子殿下のほうだった。


「待って待って、別に国同士の犠牲になれって話じゃなくて、俺、本当に君のこと大切にするよ。多分俺って、信用ないよね?婚前契約で、俺が不貞を犯した時のペナルティーをさらに追加しておくよ。これで安心してくれる?不貞なんて絶対にしないけど。あと、俺、君のやりたい事を邪魔したいわけじゃなくて、誰かと結婚するのだとしたら、君しかいないと、そう思ったんだ。正直に言えば、君と結婚することで、俺自身が守られることもあるし。それでも、俺だったら君の役に立てることもたくさんありそうだから」


 私を気遣っていろいろ言ってくれるのも、あの時危険を顧みず助けてくれたように、悪い方ではないのかもしれない。


 それに、皇子殿下が守られるという話もわかる。


 現皇帝陛下が床に臥し、第一皇子、第三皇子、第四皇子の帝位の座を巡る覇権争いは、血が流れ、熾烈を極めていると聞く。


 それに巻き込まれないように、国外で過ごすことが多かった第二皇子であるヨショア様は、この国に根を下ろすことで、余計な血を流さないようにするつもりなのだろう。


 特に第二皇子殿下は第三皇子とは双子で、絶対に争いたくないはずだ。


 理由があっての縁談だ。


 私も、正直に言えば、帝国の精製技術があれば、あの鉱石の新しい加工方法を編み出せて、新たなものが生み出せるかもしれない。


 エリュドランに存在する、稀少鉱石クリスタル・アイ。


 ローエンシュタイン王家の思念でその形を変えることができる。


 王家と国民をつなぐ為の象徴的な役割を担っている鉱石だけど、あれはもっと大きな力を秘めている。


 それに、皇子殿下が持ち込んだ、クインタイト。


 クリスタル・アイと同じで、自国から滅多に出さない稀少鉱石だ。


 あれも持参金として国内に持ち込んでくれると仰っている。


「やっぱり、君のその職人気質っぽいところ、好きだよ。俺のことなんかよりも、やりたい事で頭がいっぱいって顔してる」


 その声に我に返って顔を上げたけど、皇子殿下の顔は随分と穏やかなものだった。


 まるで、見守られているように。


「あ、申し訳ありません。決して貴方を蔑ろにしたつもりは」


「うん。いいよ。君のそんな横顔を眺めているのも悪くはないから。理想はここに滞在中に返事がもらえたら嬉しいけど、一度帝国に帰って待つのもいいしね」


「いえ、今からおじ様の元へ行ってきます。皇子殿下は、こちらで御寛ぎください」


「ヨシュアって、呼んでもらえた方が嬉しいかな」


「それは、今後次第ということでお願いします」


「えー。うん、じゃあ、ここで待たせてもらうことにするよ」


「では、少々お待ち下さい」


 おじ様に会う約束を取り次いでもらうと、“今からそちらに行く”と、男爵家の家に国王であるおじ様が押しかけてくるという、珍騒動が起きたのはほんの数分後だった。


 もう、話を聞いてその辺で待機していたとしか思えない。


 父親代わりのおじ様は、訪ねてくるなり、皇子殿下と二人っきりで長い長い話し合いに入った。


 私は自分の家なのに、一室を占拠されたまま、それが終わるのを待たなければならなかった。


 そして、部屋から出てきたおじ様は男泣きしながら、


「アリアナ、幸せになるんだぞ」


 そう告げていた。









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