58話 ナポレオンが飛びます
ロキは肉体的に精神的にも疲労しているノワールになるべく優しく声を掛けた。ノワールの心情は部下に裏切られ大勢の部下が殺され、仇である副隊長のロドリゲスも目の前で殺され自身の不甲斐なさに落ち込んでいた。
ノワールは目の前の少年の顔を見る――思い出した。西の街道でムラカミ盗賊団の忠告した時に話した少年だと背が高く黒い髪が印象で覚えている..確か名前は――。
「ロキ君か?」
ロキはノワールは目を見ながら頷く。
「はい、ノワール様」
「ロキ君一人で来たのか? 他に人はいるのか?」
「後一人..ドレインがいます」
「ドレイン..魔物の巣で声を掛けた少年か..だけど、どこにいるんだ?」
ノワールはロキと話しながら心配そうな表情でドレインを探してたようだ。
ロキはドレインと脱出口を探すため辺りを見渡す。
下席を見ると手下達が武器を携帯していなかったため、素手の物やテーブルを壊して即席の武器にしている。ロキ達を逃がさないように、出入り口に待機している者や上席に登る為の階段に集結している。直ぐにも手下達が襲いっかかて来るだろう、余り時間残っていない。
ドレインを探すが下席に見当たらなかった。もしかしたら認識妨害で認識が出来なかったかもしれない気持ちを切り替えてロキは下席から次に視線を変える。
ノワールが入って来たドアを見るとノワールを連れて来た男達が、ロキ達を睨みながらドアを守っていた。
ロキは他にも脱出口は無いか辺りを探し――脱出の算段を決めて一か八かの賭けに出る。
ロキは即座にノワールの方の振り向いて、しゃがみ込み――。
「ノワール様急いでいるので、いきなりですけど失礼します」
「えっ? きゃっ」
――戸惑っているノワールを抱え込む、お姫様抱っこをする。
ノワールは女性としては身長が高くモデルのような体型だ。女性の膨らみも大きく山になっている。抱きかかえると予想より軽く感じた、鎧を着てないからか軽いにかと思った。
突然お姫様抱っこされたノワールは戸惑いながら睨みつける。
「無礼ですよ離しなさい!」
「ノワール様一人で移動出来るんですか?」
「い、いや」
「今は我慢して下さい。ここから逃げます」
「逃げる? ドレイン君はどうするんだ!」
ロキは考え込み真っ直ぐ覚悟を決めた目をする。
「ドレインなら大丈夫です」
「何を言ってる。こんな場所で一人にしたら危険だ」
「俺もドレインもノワール様を助けると覚悟を決めた時に危険は承知です」
「くっ、済まない私のせいで――」
「――勝手にドレインを殺さないで下さい。ドレインなら無事脱出出来るはずです。」
「そうか信頼してるんだな」
「それよりも今は俺達です、行きますよ掴まって下さい」
「わかった頼む」
ノワールは落ちないようにロキの肩に手を置く。ノワールの顔が近づき女性特有の甘い香りがしてきて、戸惑うが直ぐに我に返ったが――エイラ少佐のいつも以上の厳しい冷たい声が響く。
⦅任務中だぞロキ二等兵! 現を抜かすな二等兵!!⦆
ロキはいつも以上に厳しい発言に反論出来ない――反論したら絶対大変だと思い。
⦅すいませんエイラ少佐⦆
⦅さっさと任務に移行しろ⦆
⦅はい⦆
ロキは手下達が見張る出入り口ではなく、ナポレオンが吹き飛び壊した壁に向かう。建物が古いため土埃が多く、いまだ宙を土埃は舞っていた。
「ノワール様口を閉ざして下さい。口に入りますよ」
「......ん」
ノワールはロキが向かう場所を察知し、即座に口と目を閉じる。
ロキは口を閉じ目に土埃が入らないように目を細めようとするが――エイラ少佐の声が響く。
⦅ロキ二等兵の目に土埃が侵入することはない。自動でコーティングされるから心配するな⦆
⦅聞きたいことがありますけど、今は急いでいるので質問は無しで行きます⦆
ロキの瞳は有機物ではない、完全な無機物でもないが生きた鋼で出来ている特別な身体だ。ロキは気付かなかったが、何度も生活の中や戦闘中で土埃が入らないように瞳に自動コーティングされていた。
ロキはエイラ少佐の言葉を信じて土埃の中に入る。視界を奪う程土埃は舞っていないので迷う事なくなぽナポレオンが壊した穴を潜る。
穴を出た際にナポレオンがいるかと思い探すが見つからなかったが――ロキ達がいた場所の別の壁が壊れ穴があった。<閃光跳弾蹴>の威力が高くナポレオンは壁を貫通して吹き飛んでいたようだ。
ロキは破壊力に驚き声を上げる。
「まさか向こう側の壁も壊すとは思わなかった」
ノワールはロキの声に反応する。
「ん、もう大丈夫なのか?」
ノワールはずっと口と目を閉じてたようだ。耳で何となく移動したことは分かっていたが確証はなかった。そのためロキの声を聞いて反応した。
ノワールは閉じた口と目を開け辺りを見渡し安堵する。
「..ナポレオンはいないな..良かった」
「ノワール様はナポレオンを知ってるんですか?」
ノワールは嫌そうな表情して答える。
「あぁ、知ってるよ。ナポレオンが冒険者をやってる時にな。グレーテル城塞都市を見回りをしてた時に何度も声を掛けられ強引に腕を掴んできたことがあったよ」
「大丈夫だったんですか?」
「私か? 今は薬のせいで弱体化してるが普段の私なら軽く捻ってやるさ。当然、強引に腕を掴んできた時は思いっきり投げ飛ばしやった」
「ノワール様は弱体化の影響で動けないんですか?」
「そうだ。ロドリゲスがナポレオンから【弱体化の薬】を貰ったと言っていた。これ程の効果があるということはダンジョン産だろ。とても高価な物で簡単には手に入らないはずだが」
ロキとノワールが話し込んでいると、ロキ達がいた部屋から咳き込む声が多数聞こえる。手下達がロキ達を追いかけて来たようだ。
ノワールは不安な顔してロキに視線を向ける。
「ロキ君出口は分かるのか?」
ロキは頷いて視線を変える。
「はい、来た道は覚えてます。あっち側から入って来たから..こっちに行けば戻れる。ノワール様..窓から外に出てもいいですか?」
「そこから辺の淑女と一緒にするな。わたくしは女扱いされる方が嫌いだ」
ロキはノワールの同意を得られたので、来た場所に戻る。他の出入り口を探さなかったのは道に迷う恐れと敵の配置、それと罠だ。この建物に罠の有無は分からないが一度通った場所に罠はなかった。敵も隠れている様子もなかった。
それにドレインと共有している道順であるからだ。ドレインと合流出来る確率が上がるだろうと考えた。
手下達の怒号を聞きながらロキはノワールを抱え走り去る。
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ロキ達が目的地に走り去ったと同時刻。
ナポレオンはロキの攻撃を受け仰向けに倒れていた。気絶することなく起きていった、顔や口から出血しているが大した怪我ではないが起き上がることが出来ないでいた。
身体が風船のように肥大化していて、自分の力だけ起き上がることだ出来ず両足をジタバタと動かして――。
「俺様の大統領の美顔を蹴りやがって許さんぞ! 同じ目に合わせてやるあいつーー! くそ! 何で起きれないんだ。このこの....」
――まるで亀がうつ伏せになって暴れている姿だった。
しばらく暴れていると息を切らす。
「はぁはぁはぁはぁ、疲れた少し休憩しよう。......背中のぜい肉が邪魔で寝づらいな、よっと....」
仰向けが寝づらかったため横向きにしようと、振り子の反動を利用して一箇所に体重を掛けると――転がり一回転半する。
風船のような身体がボールのように転がり床にキスするようにうつ伏せになる。
「ふんがふんがふんがふんが....」
腕だけの力で何とか立ち上がることが出来たナポレオンは、顔を真っ赤にして鼻息荒く、身体中から脂ぎった汗を滝のように流す――。
「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った。まさか動けなくなるは..少し太ったかな..ダイエットしようかな、明日から..」
――汗を手で拭うと両手に赤い血が付いてるのが分かる。
ワナワナと身体を揺らし両手を力強く上げる。
「潰してやるーー!?」
顔を真っ赤にして部屋を出る。
部屋を出て直ぐに鼻で息を大きく吸う――鼻の中に甘い匂いがした、ノワールの匂いだ。ノワール本人がこのことを知れば鳥肌が立つ以上に毛嫌いするだろ。
「すうーーーーー!? ノワールの匂いだ! ノワールと一緒にいるのか! クソ野郎! ノワールは俺様のだーー!!」
ナポレオンはノワールの匂いを吸い込むながら走る。怒りで我を忘れ尋常ない速さで走っている。肥大化した身体の体積を考えれば異常である、それ程早い足で走りロキ達を追いかける。
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ロキ達は目的地の近くまで来ていた。だが、途中で手下達に見つかり追いかけられていた。ロキはノワールを抱きかかえているため戦うことが出来ない。ノワールをどこかに座らせて戦うと思ったが、戦っている時にノワールが連れ去られる恐れがあるので断念した。
ノワールはロキの肩越しから追いかけて来る手下達を見る。
「ロキ君、また数が増えた。急がないとこれ以上は危険だ」
「あと少しで..目的地が見えます。....見えた! ノワール様、舌噛まないで下さい」
「ん....」
ロキが目的地に視線を向けると、出入り口の近くに人型が見える。
人型が手を振り声を上げる。声を聞くと信頼できる奴で安堵する、ドレインだ。
ロキはドレインに応えるように声を上げる。
「ドレイン! ロキだノワール様もいる」
ロキはドレインがいる場所に向かいながら廊下の端に移動する。
ドレインはロキの返事を聞いて弓を構える――ロキが端に移動したを見て、追いかけて来る手下の顔を見る。尊敬と好意を持つノワールに対して酷い事をした奴等を敵意を剥き出しに睨み矢を放つ。
矢は手下の足を貫き――。
「うぎゃ! .......ぶへ、ごへ、踏むは!」
――痛みで倒れた手下は床に転がり、後ろから走って来た仲間に踏まれて前を遮る。
「邪魔だお前どけ!」
「ノワールが逃げちまうだろうがどけよ」
「ぎゃぁ、俺の肩に矢が痛い誰か抜いてくれ..」
「足に矢が..助けてくれ」
ドレインは動きを止めた手下達に慈悲など与えず次々と矢を放ち続ける。廊下には遮蔽物などがない為、矢を避ける事が出来ない。だが部屋はあるので、そこに移動すれば矢を避けられるんだが、冷静さを失った奴等は矢が当たり負傷するか、床に伏せて震えるいるかのどっちかである。
ロキはドレインの近くまで笑顔で走り寄る。
「ドレイン無事だったか良かった。はぐれた時は心配したよ。それと助かったありがとう」
ドレインは手下を警戒して弓を構えながら返事をする。
「ロキも無事だったか..それで..どうしてノワール様を抱いてるんだ」
ドレインは恨めしそうにロキを見る。
「えっ..」
ロキが返事に困っていると、ノワールが困ったような表情して話す。
「ドレイン君、ロキ君を責めないでくれ。わたくしの不注意で【弱体化の薬】を飲んで身体能力が低下して身体に力が入らないんだ」
ドレインはノワールの困った顔を見て焦る。
「ノワール様のせいでは決してないですよ。あと逃げる途中にノワール様の装備を見つけて持ってきました。鎧は無理でしたが、武器やアクセサリーは全部持って来ました」
「それは本当かいドレイン君」
ノワールは満面の笑みでドレインを見る――ドレインは恥ずかしくなり視線を逸らしながら話す。
「部屋の中にある、窓際の机の上に置いてあります」
「ありがとう。ロキ君済まないが装備が置いてある場所まで頼む」
「装備を着けてもまだ、戦えないですよ」
「武器やアクセサリーはダンジョン産だ。身体能力が向上する付与が付いてるから動けるようになるはずだ」
「わかりました」
ロキは部屋に入り窓際の近くの机を探す。探した場所は直ぐに分かり、高価な装備類が綺麗に並べて机の上に置かれていた。当然、綺麗に並べたのはノワールのファンであるドレインだ。
ロキは机の近くにノワールを名残惜しそうに降ろす。
ノワールは自身の装備を真っ直ぐ見つめ――。
「これで動けるはずだ。部下達の仇は討つ」
――即座にアクセサリーを着け、武器のレイピアを持ち上げ、覚悟を決めた目でレイピアを見つめる。
ノワールの着替えが終わり、ドレインを呼ぼうとロキ達は近づく。
「ドレイン敵の様子はどうだ」
「床に伏せてるだけで何も動きをがない。この程度の奴等が..ブラックリストに乗るぐらいの危険な奴等なのか」
「手下は他にもいるかもしれない油断しないように、それと改めて感謝する。わたくしの装備を持ってきてくれてありがとうドレイン君」
ドレインは顔を真っ赤にして、口元を緩めて返事をして――。
「感謝なんて当たり前のことをしただけですよ、気にしないで下さい。..油断するなよロキ」
――ロキに視線を変えて少し怒った表情で見る。
ロキは呆れるように呟く。
「俺じゃないお前が言ったんだ」
⦅ロキ二等兵の顔も先程まで、この有機生命体と一緒だったぞ⦆
⦅えっ、マジで....⦆
ロキはエイラ少佐の言葉に頬をヒクヒクしながら話す。
「と、とにかくここから逃げよう」
ノワールは心配そうにロキの顔を見る。
「大丈夫かロキ君何かあったのか?」
「大丈夫ですよ」
「そうか何かあったら言ってくれ。装備の付与のおかげで動けるまでにはなった。撤退するなら急いだ方が良いだろう。わたくしの馬がいればいいんだが」
ドレインが返事をする。
「馬なら馬舎で見ました。もしかしたらそこにノワール様の馬と騎士の馬がいるかもしれない」
「どうしてノワール様の馬達がいると分かるんだ」
「ん? ロキは知らないのか馬をとても高価なんだぞ。そんな高く売れる馬を盗賊達がほっとくわけがない」
ノワールが同意の相槌をする。
「ドレイン君の言う通りだ案内してくれ。それと二人は馬に乗れるのか?」
「はい、大丈夫ですよ。村で馬に乗って狩りをしたことがあります」
ドレインは即座に乗れる答えた。
「俺は乗れ――」
「見つけたぞーノワール!!」
ロキの話しを遮る大きな声が聞こえてきた。
三人は声が聞こえた先に視線を向ける。ロキとドレインは敵意を持って睨み。ノワールだけは殺意を持って睨んでいた。
三人が睨んだ先には肥大化した身体を動かしているナポレオンである。
ナポレオンはノワールと、自身の美顔に蹴りを加えたロキを目を血走りながら睨む。獲物を逃がさんとばかりにスピードを上げる。
ナポレオンの目の前には床に伏せていた手下達がいた。手下達は走り寄ってくるナポレオンを見て騒ぎ出す。
「ナ、ナポレオン様待ってくれ!」
「大統領止まってくれ」
「大統領来ないで..」
手下達は悲痛な表情で必死にナポレオンに懇願する。
ナポレオンは床に伏せている手下達を見て怒りを込めて声を上げる。
「邪魔だーー! 俺様の大頭領の道を邪魔するなーー!! どけーー!!」
ナポレオンは邪魔をする手下を見て憤怒する。このままではノワール達に逃げられると焦り決断する。
ナポレオンは走りながら気合いを入れるため、左右の頬を叩き、次に肥大化した前腹を太鼓を叩くように叩いた。
手下達はナポレオンの動作を見て顔を青褪めて悲痛な声で叫ぶ。
「ま、まさか<闘技>を使うのか辞めてくれ、大統領」
「し、死にたくねぇ」
「潰れて死にたくねぇ」
「逃がさんぞノワールお前は俺様だーー!!」
ナポレオンは気合を入れた声と同時に飛び掛かる――。
ーー<闘技>”どどどどっどすこいプレス”ーー
――前腹が更に丸く肥大化して光出す、肥大化した腹が床に落ちるとボールが弾むようにバウンドする。衝撃で床は壊れるがバウンドは止まることはなかった。
バウンドした腹は床に伏せていた手下達を潰して行く。
「ぎゃぁぁぁぁぁ..ぱっ!」
「こんな最後は嫌だーーぐちゃぺ」
弾みは衰えることもなく、逆にバウンドする距離が延び一気にロキ達に迫る。
ロキ達は余りの出来事に驚き、その場から動け図にいた。ナポレオンの腹が手下を潰し、バウンドする勢いは衰えるところが、バウンド力は増して一気に距離を縮める。
ロキ達は驚愕の声を出す。
「「なっ!」」
ロキ達にナポレオンの丸まると太った凶悪な腹が光と共に襲い掛かろうとしていた。




