それはきっと分かっていた
知っているつもりでいた。
けれど事実、私は何も知らなかった。
ラピスと出会ったあの日に聞いた『予言』の内容、それは全て語られた訳ではなかった。教えられたのは“姫”の役目だけ。
そもそも私が道標であろうと、姫の結末を知ってしまえば役割を投げ出しラピスを争いなどから遠ざけてしまう可能性がない訳ではない。万が一を考えて、教えなかったのかもしれない。
それに最初の一年は追っ手が来る可能性が高かったために、私は焦っていた。どこかの時点で私が信用されていたとしても、きっとそれを考慮した上で、今こうして知ることになってしまったのだろう。
ラピスがもし、今この事実を知ったならどう思うのだろうか?
自身の宿命を恨むのか、それともただ受け入れるのか。
終わりは誰にでも等しく訪れる。どれだけ拒否しても、それだけは変わらない。
けれど与えられる時間は等しくなどないのだ。
人が生きられる時間はそれぞれ違う。
世界と一人の人間を天秤にかけて釣り合うかと聞かれれば大多数がこう答えるのだろう。「世界と一人の人間を比べるまでもない。世界の方が重いのは当然だ」と。
判りきった答えだ。
…ただ、それはその一人の人間が他人であればの話。自分の大切な人を亡くしたくないのは皆同じで、仕方ないと済ませることなど出来ない。
たった一人の大切な弟子。ラピスは今の私の生きる意味だ。
私はラピスに依存して生きているのと変わらないんだ。
何で私は大切な人の身代わりになることすら出来ないのだろうか?
「今はまだ、このままでいさせてくれ」
喪いたくないんだ。
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「お客さん、お客さん」
コンコン、と滞在している部屋のドアがノックされた。扉を開くとそこにいたのは宿屋の女将さんで、私が出てきたとたんほっとしたように表情を緩めた。女将さんは私に手紙を渡すと「夕食まで暫く掛かる」と言い残して階下へ降りていった。
手渡された一通の手紙。質素なそれに書かれていた「愛娘へ」の文字には少なからず見覚えがあった。
それもそのはずだ。
「……父、上」
それは紛れもなく父上の字だったからだ。角張った癖字は懐かしく、もうあの日から五年が経ってしまったことを実感させられた。
何故手紙が私の下へ届いたのかも分からないままに封筒から手紙を取り出した。
兄弟子の一人がひと月前に私を見かけたこと、その兄弟子を通じて私の居場所を知ったことと私があの国から追放された時助けられなかったことを謝罪するというような内容で、また今の皇国の現状までもが書かれていた。
五年の月日の中で変わっていったことや変わっていないこと。
すべてが集まり、削られていった中で形成された国の在り方。
それは私が守りたいと願った国が事件を経て尚、歩み出していることを意味していた。




