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蒼銀の死神ーRapis Silver Jokerー  作者: 折鶴夏葵
間章 ある女の旅路
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師弟

寒空の下、金属音が響いた。

弟子の振るう、さして珍しくもない初心者用の刀を自分の刀で受け止める。


まだ軽い。重みがない。

だがそれも仕方のないこと。子供の体重などたかが知れている。

私でさえ、師である父上に初めて勝ったのは成人してからだ。


女はただでさえ筋力がつきにくく、また鍛練を怠ればすぐに鈍る。長い時間に積み重ねたものこそが実力そのもの。

近道はない。


「刀が軽い!踏み込みは深くだ!」

「っ、はい!」





「師匠は何でそんなに強いの?…もう二年も経つのに、まだ一本も取れないし」


私は弱いね、とラピスがため息を吐く。


「お前はまだまだ修行を始めたばかりだ。そう焦らなくてもいい。それにお前よりもずっと長く刀を握ってきたからには、そう簡単に負けられないさ」


刀の道は奥が深い。今までいくら器量のいい、天才と呼ばれるような人間でも達人と呼ばれるようになるには鍛練を続けていく力が必要だ。

そのうえ自分の流派を学び、そこから新しく自分の刀術を見つけ、磨く。

それを極めた時、人は初めて達人と呼ばれるに相応しい力を得ることができる。


「この鍛練も、絶対にお前の力になる。大切なのは怠らずに続けることだからな」

「…私もいつか、師匠みたいになれるかな?」


小首を傾げ、弟子は問う。

刀を扱うセンスはある。必要な筋肉としなやかな動きを手に入れれば、そこらの戦士にも負けない強さになるだろう。

そしてこの弟子には、見えないくらいの延び白がある。


「なれるさ、きっと」


それは、願望にも似た確信だった。


「そろそろ宿に戻ろう、腹がすいたしな」

「はい、師匠!」




この二年間、私はラピスを連れて南の国々を回っていた。

今はラピスと出会った西を離れておくべきだと考えていたからだ。今のところ追っ手が来ている様子はないが、用心しておいて損はない。

そんなことを考えながら眠るラピスの頭を撫でる。


『なーに考えてるの?』

「シュリ、驚かさないでくれ」

『対して驚いてもいない癖にー』

「はは、バレたか」

『バレバレですよーだ』


そして、変わったことがもうひとつ。

精霊という知り合いが増えた事だ。目の前でくるくると回りながら喋る精霊シュリは、昔からラピスの一族であるシェイリルの民と密接に関わってきたらしい。

小さな精霊は私たちよりも永い時間を生きている。

最初は到底信じられなかったが、その博識振りは永く生きているからこそのものだった。


『アリィナは、ヴィオレッタに…ラピスの母親にどこか似てる気がするの』

「私が、か?」

『何て言うんだろう…鍛練中の時の雰囲気が似てるって言うのかな。教え方とか、ヴィオレッタによく似てる』


それからシュリは、ラピスの母親について教えてくれた。

昔からお転婆で周りの人たちに心配を掛けていたこと、社会勉強だと言って少しの間旅をしていたこと。


『あたしはヴィーの旅に着いていって、ときどき村の皆に近況報告的なものをしてたんだ。“シェイリルの民に姫が生まれる”っていう未来をルーディアの民が視てから村の皆は少しピリピリしてたし、何でこのタイミングで_って皆が言っても頑固なヴィーは聞かないし……って何で笑うの』

「いや、あまりにも嬉しそうにシュリが話しているなと思っただけだ」


私が言うとシュリはきょとんとしてから笑い出す。


『あははっ、そうかもね。あの時は楽しかったもの。今が楽しくない訳じゃないけど、色んな人の一生をたくさん見てきたのにあそこまで波瀾万丈なのは中々いなかったし』

「…シュリは、ヴィオレッタさんが大好きなんだな」

『あったりまえよ!』


自慢げに胸を張り、満面の笑みで答える。


『ヴィーもラピスも大切な人で、傍にいるだけで安心する。だからこそあたしは二人から離れたくないし、離れられない。あの子のことを放っておけないの』


ただの依存かもしれないし自己満足かもしれない。

それでもいいから、せめて来るべき時までは傍にいたい。


そう、どこか遠くを見ながらシュリは言った。


「ラピスは、自分のことについてどこまで知っているんだ?」

『…あの子はまだ、自分が姫だってことしか知らないよ。でもきっと、すぐに自分で気づいちゃう。聡い子だから』

「何で、この世界は優しくないんだろうか…」


この世界は本当の意味で平等ではない。

分かってるんだ、そんなことは。


『考えても、理由は分かんないよ。…あたし達精霊だってそう。人々から神聖視されてたって、あたし達は創世神じゃない。何にも分からないのに、今もこうやって存在してる。なのに、創世神はいなくなってしまってもこの世界は今も続いてる。でも___』



そこから先は聞きたくないことだらけだった。

現実味を感じない言葉の羅列の海に、自分が投げ出されたように感じた。溺れて、沈んで、底は暗い。


何て理不尽なんだろうか。

世界にとっての新しい始まりが、弟子にとっての……







最期おわりだなんて。

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