重なる姿
何故忘れていたのか。
母上について話してくれた事を、そのルーツの事を。
“姐さんはいづれ、道標になるんだ。…大切な存在の”
唐突に出逢った一人の男と、私にそう告げた精霊の事を。
たった一年前の出来事を。
あの時、私は確かに二人に出逢った。話を聞いた。
これは間違いない。
今まで全く忘れていたのに倒れている少女の蒼銀の髪を見た瞬間痛みと共に思い出した。
「精、霊」
そうだ、目の前にいる小さな人形は精霊だ。
一年前に出逢った精霊、ライと似た気配を感じる。
『お前はまさか…道標なのか?』
目を見開いた精霊の口から紡がれた言葉はライに告げられた物と同じで。
…私が“道標”というのなら、“大切な存在”とは何者を指しているのか。今この場で当てはまるのは一人しかいない。
「ライが言っていた…大切な存在というのは、この子なのか?」
『……この子は我らが姫、最大にして最悪の宿命を背負いし者』
精霊が目を閉じ、少しすると新たな精霊が現れ少女に魔術を掛けている。柔らかな光から察するに、治癒魔術だろうか。
少女の顔色も良くなってきた。
『道標となるお前には、全てを伝えておこう。姫が辿るであろう道程を』
告げられた事柄は、少女にとって残酷なものだった。力を授かった四つの民が神から受けた予言の為に生きているということは、私も例外ではないのだろう。
その証拠として“道標”という役割を与えられているのだろうから。
役割に対して使命感を燃やしているのは私自身なのか、それとも私に流れるフェルマータの民の血なのかはよく分からない。
それでも生きる目的が見つかったのが嬉しかった。
手当てが終わると、あどけない顔で眠っていた少女が目を覚ました。周りの精霊たちに何かを問い、精霊たちがそれに首を振ると少女の表情が消えた。
狼狽して泣き叫ぶ少女を精霊たちが宥めようとしても、その行為は意味を成さなかった。
私に気づいたのか、少女は後退りをしながら遠ざかる。
その瞳は絶望を写し出していた。
…大切な人を守れなかった、あの時の私のように。
「いや、こな…で」
震える少女の懇願を無視して、私は少女を抱き締めた。
意識的ではない。体が勝手に動いたように思えた。
この少女は、昔の自分だ。
大切なあいつを喪って全てに絶望していた時の私が、今目の前にいる。
「……」
掛けられる言葉は見つからない。けれど放っておけなかった。




